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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第二章 カレイドスコープ

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リオナとボール遊び

 今日は朝から大雨だった。この街に来て初めての雨の日であった。
 僕とリオナは狩りを早々にあきらめ休日にすることにした。獣たちもこの天気では巣穴から出てこないだろうと理由を付けてサボることに決めた。
 姉さんたちも、朝方、姉とエンリエッタさんが数回ゲートを利用した以外は皆家のなかでおとなしくしている。
 この家の暖炉に初めて火が入り、ヴァレンティーナ様は自室で書類整理、姉さんは書庫にこもり、エンリエッタさんたちは雑事のあと、地下で射撃練習を行っている。
 リオナは温室の天井の雲母ガラスに雨が当たるのを楽しそうに眺めながら、大理石のガゼボでお茶をすすってはクッキーをバリバリ頬張っていた。
 僕はリオナとお茶をしながら未だに制御できない魔法の訓練を片手間にしていた。しばらくしてクッキーの袋が空になると、リオナは途端に手持ち無沙汰になって「退屈だーっ」を連発し始めた。
 どうしたものかと考えていたらエンリエッタさんたちが地下から上がってきたので、お茶会の席を譲り、代わりに地下の革細工の部屋を利用することにした。
『異世界召喚物語』でいうところのボールという玩具を作って見ようと思い立ったのだ。
 極秘メモで子細を確認した後、マギーさんに「羊毛や綿のような緩衝材と革の切れ端でも余っていたら分けてほしい」と願い出た。防具の修理用の革の切れ端と古くなったクッションを分けてもらった。
 材料を手に入れた僕とリオナは地下に籠もり、ボール作りを始めた。僕は完成予想図を絵にして見せた。
「このひょうたんみたいなのを二つ合わせると球になるの?」
 リオナは首を傾げた。
「とりあえず型紙で試そう。まずはクッションの中身を取り出して丸くして」
 リオナはなかの綿を取り出して丸め始めた。型崩れしないように糸で巻き付け、球を完成させた。
 完成した鞠に型紙を合わせると何とか形になったので、革張りの準備を始めた。
 まず型紙通りに革を加工してひょうたん型のパーツを二つ作った。そして用意した革に目打ちをして、糸に蝋を引き縫い始める。
 自分の鎧を作るときにさんざん繰り返した行程だ。
 ボール一号は一時ほどでなんとか完成した。歪になってまん丸にはならなかったが、後から風魔法で空気を注入して形を矯正した。
 行き当たりばったりで作った型紙と柔らかすぎた中身のせいもあるし、作業を急いだ分縫い目も粗くなって、いい出来とは言えなかったが、それでも遊ぶには十分だった。


 僕たちは練習場に行き、ボール遊びを始めた。ボールを投げ合っていたはずが、いつしかリオナの曲芸に変わっていた。
「これでどうだ!」
「ふぎゅ」
 僕が遠投した山なりのボールをリオナが空中で一回転して捕まえる。
「余裕です」
 リオナのほっぺが上気してかわいい。かわいいのだが……
「こっちが限界だよ」
 すっかり投げ疲れてしまった。降参である。
 丁度お昼ご飯の知らせが来たので、僕はこれ幸いにと逃げ出した。


 昼食後、僕は姉さんのいる書庫のドアを叩いた。
 ずっと聞きそびれていたあの件について聞いておきたいことがあったからだ。
「僕をもう一度あそこに閉じ込められる?」
「あそこ?」
「『お仕置き部屋』」
「あら? 以前入ったことあったかしら? よくわかったわね、あれが『牢獄』だって」
 自分で言ったろ、『牢獄』だって。もう忘れたのか? 突っ込むとすねるのでスルーする。
「じいちゃんのユニークスキルだろ、あれ」
「答えられないわね。察しなさいとしか言えないわ」
 他家のユニークスキルだもんね。そりゃ言えないわ。
「あれって何か発動条件があるの?」
「その口ぶりだと、あんたも手に入れたのね?」
 僕はうなずいた。
 僕の『牢獄』は取得以来うんともすんとも反応がなかった。しかも名前が『楽園』に変わっていた。確かに快適だったが…… なんだかじいちゃんに済まない気がする。
 それはさておき、必要条件があるなら知っておきたかった。それに僕の手に入れた『楽園』についても話し合いたかった。
「まずいかな?」
「気にすることないわ。一応私たちの血にはルノアール家の血統も混ざってるんだし。発動できたって不思議じゃないわ。ただ血筋的には遠いから発動させるのも大変だけどね。あんたを閉じ込めるためにわたしはアクセサリーで魔力を増幅して全力のほぼ三倍の魔力を消費したわ。使い捨てのアクセサリーは壊れちゃったけど、聞きたかったのはそういうことでしょ?」
 僕はうなずいた。


「『楽園』?」
「そうなんだ。『牢獄』じゃないんだよね」
「わたしの愛の力ね、きっと」
 あながち否定できないから困ってしまう。ここはスルーで。
「本見ていい? あっちにあった本があるかもしれない」
「好きになさい」
 僕は隅から順に本棚を確認した。
 何列目かの中棚に『魔法陣大全』を見つけた。あの異空間にもあった本だった。魔法陣の一覧が解説付きで詳しく載っているはずだ。
 僕は恐る恐るページをめくった。
 そこには以前見たものと寸分変わらぬ内容が記されていた。
 僕はさらに別の本を探った。
『魔法陣の構造』その他、魔法関連書籍の希少本の多くがこの部屋の本棚に網羅されていた。
「この部屋の本以外の本はどうしてるの? 王都にあるの?」
「ここにあるのがだいたいわたしのお気に入りの全てよ」
「銃関係の書籍は……」
「あるわけないでしょ」
 あの空間にあった知識は姉さんのものだけではないと言うことか…… 
 僕は「愛の力」に遅まきながら感謝して、暖炉の前で本を開いている姉の頬にキスをして部屋を出た。


 書庫を出ると一階がやけに騒がしかった。僕は手すりから階下を見下ろすと、エンリエッタさんを筆頭に分隊のみんなが居間のソファーで伸びていた。
 サリーさんが僕を見つけると叫んだ。
「エルネスト・ヴィオネッティー! あんた、なんてモノ作ってくれたのよ!」
 ええ? 何か作りましたっけ? 思い当たることがない。
「何かありました?」
「ボールよ。革の丸いの」
 マギーさんまで。
「それが何か?」
「リオナ様にせがまれて、今の今までボール遊びしてたのよ」
 エンリエッタも息が絶え絶えだった。
 ボール一個に騎士団が何やってんだか。
 汗だくで今にも死にそうな形相をしている。
「お風呂にでも入ったら?」
「そうさせてもらうわ」
 と言いつつ、動けずにいるサリーさん。
「なんで休日にこんなに疲れなきゃいけないのかしら」
 エンリエッタさんも動こうとしない。
「ご愁傷様。回復薬飲みます?」


 結局この日、姉さんとリオナだけがとても幸せそうにしていた。
 ヴァレンティーナ様は夕飯の間、明暗の分かれた住人たちを見ながら、わけもわからず目を白黒させていた。
 僕は早々に自室に逃げ込み、ヴァレンティーナ様はリオナに捕まった。
 翌日、僕はヴァレンティーナ様から呼び出され、特訓を受ける羽目になり、遅ればせながら死にそうな目に遭った。
 以来、リオナのボール遊びは一日一時間に制限されることとなった。それはルールを決めた競技として定着するそのときまで続いた。
 結局一番割を食ったのは、特訓という名の制裁を受けた僕だった。
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