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マイバイブルは『異世界召喚物語』 作者:ポモドーロ

第二章 カレイドスコープ

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熱すぎる職人魂

 予てよりの懸案であった『熱すぎる湯船』の問題は、驚くべき手腕で解決されていた。
 全容が知らされたのはリオナが長湯でのぼせて一騒動あった次の日だった。
 まず温泉の配管を裏手にある畑の地下に引き込んだと姉さんの説明があった。
「裏手に畑?」
 そんなものあったっけ? と尋ねると「裏手の空き地を買収した」と答えが返ってきた。
 僕の言葉を真に受けた姉たちは、なんと、裏の空き地に巨大な温室を作ってしまったのだ。
 僕は中庭の一角にこぢんまりとしたものを想定していたのだけれど。どこまでもぶっ飛んだ人たちである。
 中庭とほぼ同じ大きさの裏庭の周りを石煉瓦の高い壁が覆っていた。
 そこには風通しがいいように縦にスリットを入れるという珍しい施工が施されていた。スリットは壁面に対し斜めに切られていて、開閉用の扉が開いていても外からのぞかれる心配がなかった。
 そして連結として中庭に抜ける地下トンネルと使用人部屋への勝手口が新たに屋敷側に増設されていた。
 がら空きの屋根には魔法で強化された巨大な雲母ガラスが何十枚も急な傾斜に合わせてはめ込まれていた。
「雪に耐えられるのか?」という素朴な問いに姉さんは「この地方の雪程度なら温室の熱で溶けるから積もることはないでしょ」と答えた。板で覆うこともできるように設計してあるから心配するなと言われた。
 中央には洗い場を兼ねた噴水が置かれた。
「水路から引き込んだ流水のなかを管が通ることで温度を下げることに成功したんだ。これはついでだ」
 どうよ、と姉さんがふんぞり返る。
 なるほど、噴水からこぼれる水が側溝に流れ込み、なかを這っている温泉の管を冷やしている。
 こういう努力は厭わないんだよな、姉さんは。
 そして余り水は用が済んだら水路に戻しているから問題ないだろうと宣った。まさかその道理で料金を踏み倒してるんじゃ。
「この辺りは税金に水道代も含まれてるから、遠慮は無用よ。下流に面倒かけない限り問題はないわ。噴水の水も一度沈殿させてから別系統で下流の運河に流してるからそっちの方も気にしなくて大丈夫よ」
 王女様は簡潔に答えた。
「上水が使えるのは山岳地帯の強みですね。平地は井戸だけですから、なかなかこうはいきません」
 中庭で洗濯物を干しているエンリエッタさんもご満悦である。その分中庭の井戸が悲しそうではあるが。

 かくして風呂場ではなく、噴水付き巨大温室が完成した。
 わずか二日、正味一日の早業である。
 どんな魔法を使ったのやら。もしかしてこの自由度の高さが姉さんの『魔弾』の使い方なのかもしれない。まるで『お仕置き部屋』のなかにいたときの僕である。恐るべし『魔弾』、恐るべし我が姉である。
 そして無事温度を適温まで下げることに成功した温泉はお風呂場に引き込まれることになった。
 二槽あった浴槽も今は一槽につながり、まさに掛け流し大浴場、当初のもくろみ通りのものが完成したのである。
「一体ここは何なのか?」
 町の人たちの質問攻めに窮した王女様が、やがて通りに面した壁になかをのぞける程度の雲母ガラスの窓をひとつ作ることになるのだが、それはまた別の話。


 それと、脱衣所の中庭側の壁にも扉が付いた。
 転移ゲートを中庭に設置したことにより動線を改めたせいだが、これにより汚れた格好のまま正面玄関や裏口から家のなかに入る必要がなくなったのである。
「早速『銀花の紋章団』に入会した恩恵があったわね」と姉さんが言った。
 僕とリオナの指には『銀花の紋章団』の花の紋章入りの銀の指輪が光っている。男には辛いデザインだが、この指輪が転移ゲートの鍵になっているのだ。
 一般的に転移ゲートは城壁内では使えない。そもそも障壁が城壁に沿って張られているので転移することができないのだ。冒険者御用達の解体屋なども一時保管スペースは大概壁の外にある。全ては城壁を転移で越えてくる外敵に備えたものだが、我が家は領主に賄賂を渡してとりあえず設置させてもらったのだ。
 どうせ使えまいと高を括っている領主を横目に、王室権限のある高位の転移システムと同等のものを姉は簡単に構築してしまったのである。もちろん『銀花の紋章団』の構成員のみが利用できるよう足枷はしてあるので、セキュリティー上は問題ないらしい。
 そんなわけで僕は姉さんから転移魔法を教わることになった。魔力をごっそり持っていかれてげっそりした僕をケラケラ笑いながら、「帰還用の転移結晶あげようか? 使い回しできるやつ」と結晶をちらつかせてからかった。そんな物があるならはじめからよこせよ。
「設置したゲートを利用できるのは団員のみだ。指輪を持たない者は使えないからな。出歩くときは忘れないように、というか固定の魔法かけてやろうか? なくすといけないから。外したいときは解除魔法をかければとれるから心配しなくていいぞ。解除コードは『お姉ちゃん大好き、愛してる』だ。覚えておいて」
 絶対嘘だろ!
 行きは表玄関から、帰りは中庭のゲートから。中庭から脱衣所を通り、人は風呂場へ、汚れ物は洗い場行きのかごのなかへ。かごは使用人部屋に運ばれ洗濯され、装備は地下に運ばれ、手入れを施されることになる。
 だんだん家が迷路と化していく気がするのは僕の気のせいだろうか?
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