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ストレイ・ワーカー 作者:新殿 翔
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間章 SWの夏祭り!・二

「佳耶……可愛い」
「うわぁっ!?」


 抱きつかれた!

 だから引きはがす!

 ……本当にこの動作、身体に染み付いてきたなあ。


「おい、今の見えたか雀芽?」
「一瞬の出来事、というやつね」


 能村姉弟が感心していた。

 他人事だと思って……。


「もう、リリー! いっつもいってるけど、いきなり抱きつかないでよ!」
「いいじゃない。佳耶が可愛らしいんだもの」
「ぐぅ……っ」


 だからそう何度も可愛い可愛い連呼しないでよ。

 恥ずかしいなぁ。


「浴衣姿の佳耶もいいわね」


 くぅ……お母さん、やっぱり浴衣は着せてくれなくてもよかったよ。

 リリーも能村姉弟も普通に普段着だし、なんか私だけ気合い入ってるみたいじゃん。

 あ、でもリリーは普段と違って髪をおろしている。それは、ちょっと新鮮だ。


「まあ佳耶を愛でるのはそのくらいにして、さっさと行こうぜ。時間は有限だぞ」


 珍しく隼斗がまともなことを言った。


「俺は常にまともだ!」
「思考を読むな」
「はうぁ!?」


 隼斗の脛を蹴る。


「っ……ちくしょう、いつも人の脛を蹴りやがって」


 涙目で訴えてくる馬鹿は無視して、私達はとりあえず歩き出した。


「なにかお目当てのものとか、ある?」


 雀芽の問いかけに、私は即答していた。


「肉」
「……」
「……」
「……」


 え、なにこの沈黙。

 私なにかおかしなこと言った?


「……まあ、いいわ。それじゃあ佳耶がご要望の肉を探しつつ、適当に行きましょう」
「そうだな」
「ええ」


 ……なんだろう、ちょっと馬鹿にされた気分だ。

 この三人の「分かってるから。ちゃんと分かってるから」みたいな視線がむかつく。

 いいじゃん肉!

 私は病院にいたころは流動食とか点滴ばっかりだったんだよ!?

 肉が食えるって幸せなことなんだからね!?

 まったく分かってないな皆は!


「……あら。あれは……?」


 リリーが何かを見つけたらしい。

 それにつられて、私達もリリーの視線の先を見た。

 ……なんだろ、あれ。


「……積み木?」


 雀芽がその単語を口にする。

 ああ……確かに、積み木と言えば、まあ積み木かも。

 ただ、積むのは金塊なんだけどねっ!

 その出店では、金塊を積み木のように積み上げて、どれだけ高い位置まで積めるかを店主と競い、勝利したら賞品を受け取れるというシステムになっているらしい。

 ……なんで金塊でやるのだろう。

 アホなのだろうか。


「なんだろう、凄く興味ある!」


 ああ……なるほど。

 隼斗みたいな馬鹿を釣るためにあんな無駄な眩しさを演出しているのか。

 確かに、馬鹿は単純だから、ああいうのあったら思わずやっちゃうかもいしれない。

 うん。馬鹿だ。

 ちなみに、勝負に参加するには五十万。賞品は……黄金の家具一式。

 ――いらねー。

 純金で出来た家具って……また、無駄な。そんなの置いても目が痛くなるし、それに金だから馬鹿みたいに重いから気軽に模様替えも出来なるなるじゃない。

 分かってたけど、やっぱりアホだ。馬鹿だ。


「行こ……」
「ええ」
「そうね」
「え、やらないの!?」
「やってれば?」
「ま、待てよう! 置いて行くなよう!」


 慌てて隼斗が後をついてきた。



「おい、見ろよシーマン」
「なんだよ?」
「あれすげえな」


 ……。

 ああ、確かに凄いな。

 かなり遠くの方で、それはやっていた。

 でかいトカゲ――っていうか竜だ――が口から尻尾まで、家を支える大黒柱のような巨大な金属の杭に貫かれ、それを支えに、火あぶりにされていた。

 全長十メートルはあろうかというものが丸焼きにされているのだから、遠くからでもその様子はうかがえた。

 火が均等に通る様に巨大な機械でぐるぐると竜は回転させられているのだが……あの機械を造るだけで軽く数千万はいくだろう。

 改めてこの祭りのおかしさを痛感した。なんて金の無駄遣いだ。

 ……まあ、いいか。


「それより、天利達に置いて行かれる。さっさと行くぞ」
「お? おーう。そうだな、急いで追いつかねえと」



「よっしゃこういうのを待っていた!」


 叫んで、竜の丸焼きのところに佳耶が飛んで行った。

 ……まったく。本当に好きなのね、肉。

 私と能村姉弟も、その後に続いた。

 そして竜の丸焼きの会場につくと……そこで、肉を次々に口に放り込む佳耶の姿があった。

 周りから、どよめきがあがる。


「なんだあの女の子……小学生?」
「っていうか食いすぎだろ」
「うわぁ……胸焼けしそう」
「いやいやいや、どう考えても食べる量と身体の大きさが……」
「胃袋がブラックホールなんですね、分かります」


 などという感じの声だ。

 それを気にせずに、佳耶は黙々と竜から削ぎ落される肉を食していく。 

 確かに……凄い食べっぷりだった。


「佳耶……もしかして食べた物をゴーストで即座に消化してるんじゃ……」
「ああ、なるほど。道理で」


 確かにそれはありそうだ。

 雀芽の推測に頷きつつも、私達は佳耶の、もはや吸引の域に達している食事を眺めていた。

 どうやら、これは何か、大食いのイベントらしい。

 佳耶の他にも何人かの参加者がいて、その横に置かれたモニターにその人が現在食べた肉の総重量が表示される仕組みかしら。

 ……佳耶は、現状一位を抜いてあっというまにトップに躍り出た。

 周囲の参加者が、佳耶に敵わないと悟ったか、あるいは純粋な満腹か、次々にリタイアしていく。


「いい食べっぷりだなあ」
「そうね」
「本当によく食べるわね」


 ……それから、十数分後。



「満腹!」

 ――うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!



 ガッツポーズの佳耶の姿と、それに沸き上がる観衆がそこにはいた。

 ちなみに大食いで勝利したので佳耶には米俵が五十俵が贈られた。

 ……佳耶はきっとしばらく米には困らない。

 竜の肉はまだまだ残っていたので二戦目が行われるらしいが、流石にそれにはもう佳耶も参加しないようだ。



 ……もう駄目だ。


「ほら、佳耶。そんなに落ちこまないで?」


 うぅ……肉をたくさん食べてテンションあがったせいで、あんな沢山の人の前でガッツポーズとか、恥ずかしすぎる。

 というか普通に大食いするとか……女の子なのに……。


「大丈夫よ。可愛かったわよ?」
「嘘だっ!」


 大食いする人間の姿は絶対に可愛いものじゃない!

 慰めなんているもんか!


「本当に食べてる時の満足そうな佳耶の表情は可愛らしかったのだけれど……」
「それ以上言われると自分が情けないからやめて」


 もう大食いなんてやめてやる。

 ……いやまあでも、同じような場面に直面したらやっぱり食うと思うけど。

 仕方ないじゃん、三大欲求の一つなんだもの!


「……あ」


 不意に、雀芽が声をあげた。


「ん、どうかしたか?」
「あれ……」


 隼斗が尋ねると、雀芽がとある方向を示した。

 そこには……なんだろ、あれ。

 変な広場みたいのがあった。そこに、沢山の人があつまっている。 

 しばらく見ていると、



 ヴォオオオオオオン!



 重低音と共に、数台の車が横切っていった。

 って、え?

 今の、車っていうか……F1とか、そんな感じの……。


「まさか、レースやってるの?」


 こんなところで?


「そのまさか、みたいね」


 リリーが言いながら、それを見た。

 看板だ。

 そこには「SW、F1選手権!」と書かれていた。

 よくよく見れば、広場はぐねぐねとしたコースになっていることも分かる。

 ……うわぁ。

 なんだこの夏祭り。なんでもありだな。


「よし」


 雀芽が腕まくりした。

 え……ま、まさか。

 恐る恐る、尋ねる。


「雀芽……参加する気?」
「もちろんよ?」


 にっこりと。

 闘志漲る目で、雀芽が頷いた。



「な、なんだあのカーブは!?」
「馬鹿な、あのコーナーで速度を、落とさない……!?」
「くっ、誰だあいつは! プロか!?」
「間違いねえ、あいつは……悪魔だ!」
「いやむしろ神だ!」
「二位との距離がはんぱねえぜ!」
「そこに痺れる憧れるぅっ!」
「うぉおおおおおおお! 今のスリップしそうじゃなかったか?」
「むしろわざとスリップしそうになった、と見せかけた演出じゃないか?」
「くっ……なんてこった! 速ぇだけじゃねえ、サービス精神も旺盛だと!?」
「いったぁあああああああああああ!」
「ゴールだ!」
「神!」
「神!」
「かーみ! かーみ! かーみ!」



「なんだかちょっと怖いよこれ!」


 神という単語を連呼する周囲の熱気に押されて、私はすっかり身を縮めていた。


「……雀芽って、凄いのね」
「あいつは……なんでか車関係だと化物になるんだよなあ……」


 雀芽は表彰台の一番高いところでにこやかに手を振っていた。

 賞品は黒塗りの車だった。

 なんでも大統領専用車両を真似て作ったらしい。


連続ー。
書いててたのしーわ。これ。
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