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ストレイ・ワーカー 作者:新殿 翔
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5-9


「……少し席を外す」


 そう言って、臣護さんが立ち上がった。


「どちらに?」
「トイレだ」


 短く答えて、臣護さんはそのまま歩き出す。

 ……あら?

 あっちにお手洗いなんてあったかしら?



 天利が上げたボールに向かってジャンプ。

 高い位置から、ボールを隼斗に目がけて打ちおろした。

 ビニール製のボールはかなりの回転を持って、ブーメランのように斜め上から隼斗のこめかみへと叩き込まれる。


「ぐへぁっ!?」


 命中した隼斗は、そのまま膝上ほどまである水面に倒れた。


「天利ナイスパース」
「麻述もやるじゃない」


 天利とハイタッチ。


「……拝啓姉上。なんだか俺に集中砲火な気がするのですが気のせいでしょうか?」


 濡らした髪をかきあげながら、隼斗が雀芽に尋ねた。


「気のせいじゃないでしょうね」
「何故だっ!」


 何故……って。


「隼斗、隙だらけだし?」
「そうね。能村弟はかなり狙いやすいわ」
「うぉっしゃあならもう俺に隙はねげふっ!」


 勢いよく立ちあがった隼斗の後頭部にアイがいつのまにか手にしたボールを投げた。

 不意打ちの一撃に、隼斗が再び倒れる。


「……隙だらけなんだけど」


 ちょっと呆れ気味にアイが呟いた。

 ……今のは隼斗が隙だらけだったってよりもアイが気配消すの上手だったように思えるんだけど。まあ、いっか。


「アイ一ポイントー」
「ちょっと待てぇええええい!」


 再び隼斗が立ち上がる。


「これは、あれか!? 俺を虐めるゲームか!?」
「違うわよ。ただ、隼斗を仕留める度にポイントが増えて行くゲーム」
「虐めと何が違うのか俺には分からない!」


 ……そうまで言うのなら仕方ない。

 私達も鬼じゃない。ルールを変えよう。


「じゃあ、私達四人が隼斗を攻撃するから、隼斗はそれを頑張って避けるゲーム」
「へ、あ……ちょっ、待――それ今より酷――!」
「はいスタート」


 隼斗の言葉は無視して開始。

 まずは私から。


「ほら」
「げふっ」


 隼斗の眉間にボールを投げる。ボールはそのまま跳ねかえって空中に。


「っ、と」
「べぐっ」


 空中のボールを天利がキャッチして、そこから隼斗の右肩に。

 そのままボールは綺麗に雀芽の腕の中に治まった。狙いいいわね。


「まったく」
「きゃひっ」


 雀芽はボールを隼斗の右膝の裏に。俗にいう、膝カックンというやつで、隼斗が膝を吐く。

 そのままボールは水面を転がって――、


「えっと、はいっ」
「うぉっふ」


 またも気配を消した近づいたアイがそれを拾い上げ、まるで叩きつけるかのように隼斗の頭のてっぺんにボールを振り下ろした。地味に一番威力が高そうだ。

 どうやらここで隼斗のライフポイントがゼロになったらしい。


「もうやめてください。お願いします……」


 両膝と両手を地について、隼斗が涙ながらに言う。

 ……ちょっとやりすぎたかしら。

 まあ、いつものことだけど。


「仕方ないわね。じゃあ普通に遊びましょうか……っと、でも私はちょっと咽喉乾いたから飲みものとってくるわね。他に誰か飲みもの欲しい人いる?」


 尋ねるが、どうやら他は皆、まだまだ平気らしい。


「じゃあ先に遊んでて。私もすぐ戻ってくるから」



 お、あの子今ちょっと水着がズレて……ぐへへ。

 おぉおおおおお、あれは、あれはどこぞの誰かが夏のアバンチュールを先取りしてる!?

 くっそう、海を、オレは海を舐めていた!

 双眼鏡の向こうに広がる青春は、オレに夢と希望を与えてくれている。

 ――っと。

 いけねえいけねえ。

 今はそれよりも、シーマンだ、っと。

 双眼鏡をシーマンのいる方向に戻す。

 って、あれ。いなくね?

 パラソルの下にはリンリンが一人だけ。

 シーマンどこにいったんだ?

 いや、まて。それよりも重要なことがある。

 シーマンがリンリンを残して消えた。

 これは……つまり今シーマンは一人!

 であれば、すぐにでもアマリンを呼んでシーマンと合流させればオレの任務は終わりか……っ。


「くっ。シーマン、どこだ!?」


 オレは必死にシーマンの姿を探した。

 この任務が終わったら、オレ、青春を駆け抜けるんだ……!


「どこか、と聞かれれば、ここだがな」
「――……」


 ヤヴェ、死亡フラグった――!?

 その声は、真横から聞こえていた。

 双眼鏡を外し、横を見る。

 そこに、腕を組んだシーマンの姿。


「……よ、よぉ、シーマン」
「まったく、遠くから誰かがこっちを見てる気配がして来て見れば……」


 いやいや、普通は気配とかそう簡単に感じられるものじゃねーと思うんですが。

 シーマンはいつから超人になったんですか。

 すると、そっとシーマンが俺の肩を掴んだ。


「覗きは、犯罪だ」
「ま、待ってくれシーマン! これには理由が、深い理由が!」
「言い訳は警察にしてくれ」
「ちょっ、待って! お願い! これはアマリンから与えられた任務なんだって!」
「なんで天利がお前に覗きの任務を与えるんだよ。馬鹿かお前」


 嘘じゃない、嘘じゃないのにっ!

 やめてー!



 臣護さんがいなくなって、数分後。

 佳耶がこちらに近づいてくるのが見えた。

 視線が合うと、佳耶はあからさまに不機嫌そうな顔をした。

 その顔に、ちょっと傷つく。

 ……私、本当になにをしてしまったのだろう。

 佳耶はそのまま無言で、クーラーボックスに手を伸ばした。

 だから、その手を横からそっと握る。


「……なに?」
「佳耶。私、なにかしてしまったかしら?」


 分からないから、尋ねた。


「別に。なにかって、なに?」
「それは……」


 それが、分からない。

 佳耶の辛辣な言葉に、語調が淀んでしまう。


「……佳耶。私は、自分がなにをしてしまったのか、正直分からない。だから、どうすればいいのかも分からない。けれど、謝らせて。ごめんなさい、と」
「……」


 すると、佳耶は視線を私から逸らして、こう言った。


「あの人は?」
「え……?」
「嶋搗って人」
「臣護さんなら、お手洗いに行ったわ」
「……そう」


 言うと、佳耶はそのままクーラボックスを開けて、中からオレンジジュースを取り出すと、それを手に私の横に腰を下ろした。

 許してくれたのだろうか……?

 なんて希望が生まれるけれど、佳耶は私に少しも視線を合わせようとしてくれなくて……どうやら、やっぱり駄目らしい。


「あの人って、リリーにとってなんなの?」


 何故、そんなことを……。

 佳耶が知りたいと言うのならば、もちろん答えるけれど。


「臣護さんは……尊敬する人」
「尊敬?」
「そう」


 そういえば、言っていなかったか。


「私の使う、あの魔術あるでしょう?」
「あの、って……大斬撃?」
「そう。臣護さんは、私にあれを教えてくれた人」


 と、佳耶の表情が驚きに変わる。


「あの人が……?」
「ええ。そして臣護さんは、私が足元に及ばないほどに、強い」


 私の知る中で、臣護さんは一番強い。

 深淵の翁ももちろん強いけれど、でも多分、本気で戦えば臣護さんは誰にも負けない。

 少なくとも、私はそう信じている。だからこそ、憧れるし、尊敬もする。


「……ふうん」


 何だか面白くなさそうに、佳耶はそんな気のない声を漏らす。


「リリーはさ、あの人のこと好きなの?」
「え……?」


 臣護さんを……?


「どうして、そんなことを?」
「だって、あの人と話してる時のリリー、なんだか女の子の顔してるんだもん」
「……」


 ここまで言われれば、いくらなんでも気付く。

 もしかして佳耶……。


「嫉妬、してくれたの?」
「ば――っ、な、何言ってんの!?」


 過剰なまでのその反応。

 答えとしては、十分すぎた。


「……」


 ちょっとだけ、呆然とする。

 まさか佳耶がそんな風に嫉妬していただなんて、欠片も想像しなかった。

 ――ああ。もう。

 また、佳耶をこれまでよりもさらに愛おしく感じる。

 佳耶が私に冷たかったのは辛かったけれど、それが嫉妬だというのなら、なんだかそれは、ちょっとだけ嬉しい。

 今すぐにでも佳耶を抱きしめたい衝動に駆られて、でも、我慢。

 それよりも先に、ちゃんと言うべきことがある。


「佳耶……私は、臣護さんの前では一人の少女になる。それは、純粋に彼に憧れているから。誰だって、自分のヒーローの前でははしゃいでしまうものでしょう?」


 そう。臣護さんは、私にとっては誰にも代えがたい英雄なのだ。


「でもね、佳耶。私は、佳耶の前では一人の女になる。貴方を愛してる、ただの女よ。貴方が好きだから、大好きだから、なんの飾りもない、一人の女としていられる」


 佳耶は、私にとって何者にも代えがたい女性なのだ。


「佳耶は、臣護さんと話している私が女の子の顔をしていると言ったけれど、なによりも佳耶。私は、貴方と話している時に一番、心が女の子になれるって、気付いている?」


 そう。

 臣護さんと話す時は、少し緊張して、顔も赤くなる。

 でも佳耶となら、そっと、胸の奥が暖かくなれるのだ。

 私のその曖昧な態度が、佳耶を誤解させてしまったらしい。


「……そう、なの?」
「ええ。そうなの」


 言葉だけでは、伝えきれないかもしれない。

 だから私は、そっと佳耶の肩を抱きしめた。

 いつもなら拒むところを、今だけは、佳耶は抵抗しない。


「信じては、くれない?」
「……信じないわけじゃないけど、さ」


 少しだけ恥ずかしそうに俯いて、佳耶がちらちらとこちらを伺い見る。


「ただ……うん。なんだろ。私、なんか馬鹿みたいだ」
「……馬鹿みたいだなんて。そんなことはないわ」


 佳耶の、その全てが、私にとっては愛おしい。だから、馬鹿みたいだなんてことは有り得ない。


「佳耶……ああ、佳耶。貴方は、素敵よ」


 思いっきり、佳耶の小さな身体を抱きしめる。



「――って、こんな公衆の場でいきなり抱きしめるな――!」



 そして佳耶は、私の腕を振りほどいた。


「それもりも、リリー!」


 勢いよく立ちあがって、佳耶が私を見る。

 そして、手を差し伸べて、


「向こうで一緒に、遊ぼうか!」
「――ええ。そうね」


 私はその手を、握り返した。




意外に早く仲直りしちゃった。
次はシーマンとアマリン。そっちはもうちょい時間かかるかな。

で、あとはいろんな組み合わせでの交流とか書きたいな。
とりあえず海のあとは旅館に行くとだけ予告。
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