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ストレイ・ワーカー 作者:新殿 翔
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33/179

3-8

「どうだった?」


 私が病室に入ると、嶋搗は手元にある何かの紙から視線もあげずに私に尋ねた。


「……ま、そこそこかな」
「そうかい」


 嶋搗が肩をすくめる。

 私は嶋搗のベッドの横のパイプ椅子に腰を下ろした。


「なにその紙」
「手紙だ」


 言って、その紙を私に差し出す嶋搗。

 いいのかしら……?

 と思いながら、手紙を受け取った。

 ……読めない。

 何語かすらわからなかった。


「マギの文字だ」
「分かるわけないじゃないのよ」


 ていうか、こいつマギの文字読めるのね。

 手紙を嶋搗に返した。

 それを彼はサイドテーブルに無造作に置いた。


「それはそうと、どうだったよ。あの世界は」
「もう行きたくない」


 即答した。

 あんな眼球ともう一度戦えって言われても、私は絶対に断る。


「こんなありさまよ。お陰でSW復帰にまた時間がかかるわ」


 私は左腕をかかげて見せた。

 腕はギプスで固められ、包帯で首から吊るされている。

 見事なまでの複雑骨折、とかシスターの言葉だ。

 本来ならば後遺症が残るレベルの骨折だったが、シスターのお陰でなんとかなりそうだ。本当に助かる。


「情けないな。無傷で帰ってこいよ」
「無茶言うわ」


 苦笑する。


「私は本来は純粋な後衛なのよ? それなにのあんな世界の生物相手に前に出て戦ってこれだけで済むんだから……私、すごいわね?」
「自画自賛か……」


 呆れたように嶋搗が溜息を吐く。


「あんまり調子に乗るな」
「分かってるわよ」
「どうだかな……」


 私だって調子づいて下手打って死ぬ、とかいう間抜けなオチは嫌だ。


「で、黒部京子はどうなった?」
「黒部さんはあの世界から帰ってきたら、私に一言だけ言ってから帰ったわ」
「ふうん……」


 嶋搗はその一言がどんなものだったのか、尋ねてはこなかった。

 私も教えるつもりはない。

 あの言葉は……胸の奥にとどめておこうと思う。



 私は強くなる。だから天利さん、私が貴方よりも強くなったら――、



 ええ。

 心の中で頷く。

 その時を楽しみにまってるわ、黒部さん。


「ま、あれだ」
「ん?」
「俺の五千万の投資の価値はあったようでよかった。あのままお前が腐っても後味がわるいからな」


 当然じゃない。

 あんたがあそこまでやってくれたのに、それを裏切らないで済んでよかったわ。

 もしもこれで失敗してたら、何を言われたかもわからないし。


「一応、感謝してるわよ」
「一応かよ」


 いいじゃない、別に。

 素直に感謝したら、それはそれで感謝の言葉なんて受け取らないでしょうに。

 嶋搗は、全く持ってひねくれているから。

 こんな風に少し言葉にもひねりを加えないと受け取ってもくれないのだ。

 と――、不意に病室のドアが開いた。


「よーう、シーマン!」
「臣護、調子はどう」


 病室に入って来たのは、皆見とアイだった。


「お、アマリンじゃねえの……って、どうしたその腕」
「ゆゆゆ、悠希!? 大丈夫!?」


 私の姿を見て、皆見が目を丸め、アイが駆け寄ってきた。


「大丈夫よ。ちょっと複雑骨折しただから」
「それは大丈夫っていわないよね……」


 アイがどこかげんなりとした様子で私を見た。


「……大丈夫?」


 今度は、さっきとは違う意味合いでの問いかけだった。

 まったく……。

 皆見を見れば、彼も彼で私のことを窺うように見ている。

 心配性ね。


「大丈夫よ」


 言うと、アイの表情が和らぐ。


「そっか……ならよかった」
「ま、オレらにああまでお膳立てさせといで大丈夫じゃねーなんてことになったら、オシオキだったぜ」


 皆見のおしおき?

 なんか気色悪い響きだ。


「なんでそんな汚いようなものを見る眼でオレは見られてんだ?」
「気にしないで。汚いものを見ているだけだから」
「ああ、そっか――って、アマリン明らかにオレ見てるけどっ!?」
「気にしないで」
「いやいや気にするから!」


 騒ぐ皆見から視線を外して、私はアイに微笑んだ。


「アイ。今回はありがと。助けられたわ」
「それならよかった」
「今度、なにかお礼しなくちゃね」
「そんなのいいよ」


 アイが少し言い淀んでから、少しだけ恥ずかしそうに口を開く。


「だって私達、友達、だよね? なら、助けて当然でしょ?」
「……そうね」


 なら、改めてこれだけは言っておこう。

 今回、あのまま黒部さんから逃げていたら私はきっと駄目になっていた。

 だから――……、



「ありがと」



 三人が、それぞれ違う笑みで私に頷いた。




 あの三人がすこし騒いだ後、病室から出て行ってから数分。

 また来客があった。

 その人の姿に、少しだけ驚く。


「どうしたんですか……ヴェスカーさん。こんなところに来るなんて」


 ヴェスカー=ケシュト=アルケイン。

 俺がブラックカードを申請したときに推薦を用意してくれた人だ。

 数少ない、俺が敬語を使う相手の一人でもある。


「なに。風の噂に君がブラックカードを他人に渡したと聞いてね。その人の顔が見たくなってしまった」
「どこで聞きつけたんですか、そんなこと……」


 というか見たくなってしまったって……あなた、そんな暇な身分でもないでしょうが。


「それで、なら天利とは会ったんですか?」
「そこの廊下ですれ違ったよ。なるほど、いい顔をした少女だった」


 そうかねえ。

 俺からしたら、能天気そうな顔だが。


「君は相変わらず身内に厳しいようだね」
「そうですか?」


 自分としてはそんなつもりはないけれど。


「しかし、どうなんだね?」
「どう、とは?」
「彼女……天利さん、だったか? もう唾はつけたのかい?」


 ……この人は。

 初めて会った時からこうだ。

 ことあるごとに俺に色恋沙汰の質問をぶつけてくる。

 理由は分かっていた。

 ヴェスカーさんの娘のことだ。彼は自分の娘をどうやら俺とくっつけたいらしい。


「俺はあなたの義理の息子になるつもりは欠片もないって言ってるでしょう。いつになったら諦めてくれるんですか」
「いやなに、君と一緒になればあの子も幸せになれるだろうという確信があるからね」


 それに、と。

 若干ヴェスカーさんの表情が引き攣った。


「最近、あの子ときたらとある女の子に夢中のようなんだ……父としては、娘の花嫁姿が見たいと言うのに……女の子同士ではその希望はどうなるのだい?」


 ……そういや、あいつ自分で自分のことをバイとか言ってたな。

 本気だったのか……。


「ご愁傷さまです」
「まあ見合いの席は今度用意するとして」
「ぶった切りますよ」


 見合いなんて死んでもするか。


「まったく……とにかく今度、父子でしっかり話し合わなくては」


 肩を落としながら呟いて、ヴェスカーさんがサイドテーブルの上に置いてあった手紙に気付く。


「おや……姫君からの見舞いの手紙かい?」
「ええ。俺が入院して面白がってるみたいですね」
「それはそれは……あの姫らしい」


 手紙を手にとって、ヴェスカーさんがそれを読む。


「ほう……新しい姫の《黒》候補が見つかったか」
「じじいが中東の方で見つけたって言ってましたよ」
「深淵翁が見つけたというならハズレはないな。これで姫の手元にある《黒》は三人、か……そろそろかな?」


 どこか弾んだ声でヴェスカーさんが言う。


「さあ、それは彼女の気分次第でしょう? きまぐれですからね」
「そうだな。我らが姫は気まぐれ猫のようにお転婆だ。だからこそ、私も君も彼女について行こうと思ったんだろう?」
「俺はじじいに魔術を教えてもらった義理で付き合うだけですよ」
「それは残念。彼女は人生をかけて従う価値のある人物だと私は思うのだが」
「誰かに従うとか、趣味じゃないですしね」
「そうだった。君も、自由を愛する猫だったのだね。だからこそ姫と気が合う」


 気が合うというか、単に向こうからちょっかいをかけてくるのが多いだけなんだが。


「君には感謝しているよ。君が――君という大いなる可能性の極地がいたから、姫君は希望を失わないでここまでこれたのだから」



「――……マギの再興、ですか」



「そう」


 ヴェスカーさんが強く頷いた。


「けれどヴェスカーさんはもうマギを見限ったんじゃないんですか?」
「古い魔術師達の世界ならば、そうだったろう。だが、姫の目指す新しい魔術師の世界なら話は別さ。アースという可能性に満ちた世界に、マギはもっと感化されて然るべきだ。凝り固まった盲信など、縋る価値もないというのに」


 つくづく、この人は理想主義者なんだと認識する。


「楽しみだね……もうすぐマギは変わる。それが、楽しみでしかたない」


 笑い、ヴェスカーさんは窓の外を見た。

 広がる、アースという世界を。


「魔術師にとってアースとは……救いの地だよ」


 は……。

 こんなしがらみだらけの世界が救いだなんて。

 マギってやつは、ほんとの底辺だよな。






「それで、いつになったら娘をもらって――」
「いいから黙れ? 本気でぶった切りますよ?」
「娘とくっついてくれるなら私の命の一つや二つ……っ!」
「そこまでですか……そして命は一人一つが絶対ですよ」

オワタ。いろんな意味で。

変なフラグがたちましたね。
なんかスケールが大きくなりすぎて怖い。
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