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ストレイ・ワーカー 作者:新殿 翔
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7-45


 視界がぶれる。

 身体中を衝撃が駆け抜けて……気付けば俺は、砂の地面に沈んでいた。

 なにかに吹き飛ばされたのだと、遅れて認識する。

 口の中から、血があふれた。

 一体、何が……。

 軋む身体に無理を言わせて、立ち上がる。

 そして視界に飛び込んできたのは……緑色の、輝き。

 なんだ……あれ。

 視線の先。

 大樹の幹が、大きく割れていた。

 その割れ目の中に、緑色に光り輝く鉱石のようなもの。

 鉱石からは何本もの細い管が伸びており、なんとなくそれは、心臓とそこから伸びる血管を連想させた。

 その石が、一際強く光を放った。

 途端、衝撃波が辺りの砂を吹き飛ばし、俺の身体は危うく吹き飛ばされそうになる。

 俺の身体を吹き飛ばしたのは、あれか……?

 ……なんというか、いかにも、だな。

 大樹の中で輝く石は……なんとも怪しい・

 あれを破壊すれば、もしかしたら全てが終わるんじゃないのか。

 そんな考えが浮かぶ。

 あながちそんな安直な考えも、間違いではないのではないか。

 俺は剣を、ゆっくりと構えた。

 まあ、なんいせよそこにあるのだから、壊すだけだ。

 手当たりしだいにやっていくしかないのだから。

 駆けだす。

 石が輝き、衝撃波が目の前から迫る。

 俺は剣を掌握してあるうちのほんの僅かな魔力を込めると、それを薄く研いだ魔力刃として、放つ。

 衝撃波が裂かれる。

 その衝撃波の隙間を抜けて、俺は走り続けた。

 再度、衝撃波が放たれる。

 同じように薄い魔力刃でそれを裂く……ことに失敗した。

 俺が近づけば近づくほど、衝撃波の威力があがっているのか……。

 返す刃で、二発目の魔力刃を放ち、今度こそ衝撃波を斬る。

 両脇を過ぎる強風を感じながら、俺はさらに押し寄せてくる衝撃波に剣を振るう。今度の魔力刃は、少しばかり厚みを持っている。

 衝撃波が綺麗に真っ二つにされる。

 そうして、俺は徐々に大樹へと近づいて行った。

 しかし魔力は無限ではないのだ。

 出来ることなら、どうにか魔力に余裕を持って辿りつきたい。

 問題は、そんな悠長なことを敵が許してくれるか、ということだが……。

 あと五歩。

 それが石にたどり着くまでの距離だった。

 残り四歩。

 衝撃波を斬る。

 その向こうに、すぐさま新しい衝撃破が現れた。

 残り三歩。

 その衝撃波を斬り払う

 残り二歩。

 さらに衝撃波。

 魔力刃を放つ……が、魔力刃はそのまま衝撃波に掻き消された。

 衝撃波の威力が段違いに跳ね上がったのだ。

 剣を振るったのでは間に合わない。

 俺は咄嗟に、魔力の塊を思いきり加速させて衝撃波にぶつけ、それに穴を開けた。

 行動してから、しまったと後悔する。

 今のでかなりの魔力を消費してしまった。

 もう魔力は、最初の半分ほどしか残っていない。

 使ったものは仕方がない。割り切って、前を向く。

 残り一歩。

 もう、石はすぐそこにあった。

 ブッ壊す。

 剣尖を、その石に向ける。

 ――最後の一歩を踏む。

 同時、剣を全力で突き出した。

 光景がスローモーションで流れる。

 銀の刀身が、緑の石へと近づく。

 そして――溶けた。

 溶けたとしか形容出来ない。

 魔導水銀で作られた刀身が、剣尖から……石に触れる直前にどろりと溶け落ちたのだ。

 さらに溶け落ちた部分が、蒸発して気化する。

 剣の刀身が、まるまる消滅した。

 な、に……?

 柄だけになった自分の武器を見下ろして、愕然とする。

 こんなあっさり……!?

 剣を破壊されたことに目を見開く俺に、衝撃波が放たれる。

 俺はそれに対して、魔力をぶつけて威力を相殺する。

 それによって、残りの魔力波さらに半分以下になってしまった。


「っ……!」


 どうする?

 そう自問することすら、しなかった。

 使い物にならなくなった得物を捨てる。 



 右手を伸ばした。



 魔導水銀が一瞬で消滅したのを見た上で、それでも迷わずに、手を伸ばす。

 右手に、残り余った魔力全てを纏わせる。

 石に指先が近づいた瞬間……激痛が手を覆い包んだ。


「――っ!」


 神経を滅茶苦茶にされるような痛み。

 痛みのあまり、頭の中身が力づくで掻き混ぜられるかのようだった。

 手は、石に届くその直前で、見えない壁に阻まれるかのようにそれ以上動くことはなかった。


「ぐ、ぁ……!」


 皮膚が裂ける。

 吹き出す血が、そのはしから蒸発していく。

 奥歯を噛み締めて、俺はとにかく手を前に押した。

 ほんの僅かずつではあるが、指が前に進む。



 べりっ。



 そんな音がして、中指の爪が剥げる。


「っ……ぉ、がっ!」


 さらに続いて薬指、人差し指、小指と爪が飛ぶ。

 信じられないような痛み。

 まるで拷問だ。

 しかも最低なことに、その拷問を進行させるのは……この俺自身。

 腕に、更に力を込める。

 親指の爪が剥ける。

 一際強い痛みが、頭の真ん中を貫いた。


「――……ッ!」


 身体中ががくがくと痙攣する。

 皮膚は手から肘あたりまでが裂けている。

 指先の皮膚が、ふやけたトマトの皮が剥けるようにめくれ上がる。

 そのまま、皮膚が剥げていった。


「あ、ぁ……がぁっ!」


 皮膚の下から、グロテスクな内側が覗く。

 見える赤は、血まみれの筋肉に、白は脂肪だろうか。

 皮膚がそのまま肘まで剥がされる。

 痛みの中に、ひどい喪失感が混じる。

 それに……恐怖も。

 なんだ、これ。

 なんだよ、これは。

 あともう少しなのに。

 びびってる場合じゃないだろう。

 石まではほんの数センチ。

 それだけなんだ。

 なのに、どうして届かない。

 力を込めても、もうほとんど指が進まない。

 届け……。

 届け、届け、届け届け届け届け……!

 筋肉の繊維が一本ずつ引き千切れていく。

 痛みが痛みと認識できる域を抜けた。それがいいことなのか悪いことなのかは分からないけれど。

 裂傷が、俺の肘を越えて、一気に肩までのぼってくる。

 届け。

 届け。

 届け、届け、届け、届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け届け。



「届けぇええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」



 目の前が、真っ白に塗り潰される。



 ――あんたもしっかりやってるんでしょうね?



 ――ねえ、嶋搗……!

KIAIのシーマン。
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