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ストレイ・ワーカー 作者:新殿 翔
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7-41


 剣戟の音が虚空を震わせた。

 二つの刃が弧を描いて、ぶつかり合う。

 それは、鏡写しのようだった。

 込められた力も。

 斬線の見極めも。

 威力の逃がし方も。

 あるいは……剣を握る癖の一つに至るところまでも。

 一際強く剣を撃ちつけて、その勢いで後ろに下がる。

 それに合わせてあちらも、後ろに。

 それを見て、さっきからしている頭痛がひどくなる。

 ……俺の偽物、か。

 緑色をした、俺の偽物を見る。

 見れば見るほど、俺にそっくりだ。というか、そのままだな。

 それに加えて動きまで、だなんて。

 どういう原理だよ……なんて今更問うのも馬鹿馬鹿しいな。

 世界なんてのは理解されているものより理解されていないものの方が圧倒的に多いんだ。

 これもまた、理解されていないものの内の一つということだろう。

 剣を身体の正面に構える。

 偽物も、同じような構えをとった。

 いいだろう。

 偽物風情が、どこまでついてこれるか……試してやる。


「ふ……っ!」


 飛び出す。

 剣を振るう。

 正反対に振るわれた剣をぶつかり、弾かれた。

 腕の筋肉を思いっきり使って、弾かれた衝撃を無視して素早く剣を振るう。

 剣と剣の衝突。

 それは、幾度も繰り返される。

 上、下、右、上、上、右、左、突き、下、上、右、左。

 数秒という短い間隔の中に、それだけのぶつかり合いがあった。

 どこまでもついてくるな。

 本当に、鏡を相手にしてるみたいだ。

 でも、そんなわけがない。

 相手は、実際にここに形を持っている存在だ。

 なら……勝つ方法がないわけがない。

 幻でもなんでもない。形をもって存在しているということは、つまり、倒せるということなのだから。

 だが、どうすればいい?

 こうして真正面から戦ってるだけじゃ、埒があかない。

 とは言え、それ以外の手段がそんなすぐに思いつくわけじゃない。

 ――考えながら、剣を振るっていたからだろうか。

 少しだけ、狙った線を剣が逸れてしまった。


「しまっ……!」


 二つの剣がすれ違う。

 そして俺の剣が偽物の腕を、偽物の剣が俺の腕を、浅く切り裂いた。

 決して深い傷ではなかったのは、不幸中の幸いか。

 とりあえず距離をとって、傷口を確認。

 問題ないな。

 やれやれ……考え事なんてするんじゃなかった。

 でも……やっぱりこの方法なら、偽物を傷つけられるんだな。

 気付いてはいた。

 別に何も剣と剣をぶつける必要はないのだ。

 向こうが俺と鏡写しに動くというのなら、普通に俺はあいつの首を刈り落としてしまえばいいのだ。

 その代償は……俺の首になるわけだが。

 別に命が惜しいわけじゃない。

 それでことが解決するって言うなら、まあ覚悟を決めて……やるだろう。

 でも、こいつを倒して、それで全部が解決するのか?

 まだまだ、やらなくちゃならないことはあるかもしれないのに。

 だから、まだこんなところで命を捨てるわけにはいかない。

 生きたままこいつを倒す。

 それに、他にも気になることがあった。

 偽物を見る。

 その傷口は……あっというまに塞がっていた。

 ……そうくるか。

 なんとなく、そうじゃないかな、とは思っていたが。

 なにせあの変な樹の中から出て来たんだ。身体の構造まで俺と同じということはあるまい。

 異生物みたいにとんでもない再生能力を持っていても、不思議ではない。

 ……反則じゃねえか。

 思わず毒づく。

 でも、これで確信した。

 やはりこいつは、どうにかして俺の命を賭けない形で倒すしかない。

 何故なら……例え俺が自分の首を犠牲にあいつの首を落としたとしても……それであの偽物が倒れるとは限らないからだ。

 自分の命まで賭けたのに倒せませんでした、なんて結果になったら、救いようもない。

 剣を構える。

 合わせて、偽物も剣を構えた。

 ……不意に思いつく。

 構えを解く。

 偽物も同じようにした。

 これなら……やれるんじゃないか?

 俺は懐から、ナイフを一本取り出した。

 偽物も、どこからかナイフを手に握る。

 俺はそのナイフの腹に……思いきり剣を叩き込んだ。

 ぱきん、と。

 ナイフの刀身が根元から折れる。

 偽物のナイフもまた、根元から折れて……けれど、すぐに刀身が再生する。

 やった……。

 思わず、笑みが浮かぶ。

 思った通りだ。

 あいつが持っている武器もまた、再生能力の対象。

 であれば……これで決まる。

 俺は折れたナイフを……咽喉に当てた。

 それを真似て、偽物もナイフを首にもっていく。

 そしてその首に、刃が突き刺さった。

 当然だ。

 俺のは、折れている。

 あいつのは、折れていない。

 自分の笑みが鋭さを増したのが分かった。

 俺はそのままナイフを横に引いた。

 偽物のナイフがその首元を裂く。

 緑色の液体が、咽喉の裂け目から大量に溢れだした。

 そのまま、偽物の身体が崩れ落ちる。

 俺は折れたナイフを投げ捨てると、地面に臥した偽物を見下ろして……溜息。

 さて……。

 じゃあ、あの樹をどうにかする――前に。


「まだ、終わりじゃないんだろ?」


 剣を構えた。

 剣尖は、倒れた偽物に向ける。

 びくり、と。

 倒れた偽物の身体が、痙攣するように動いた。

 そのまま、偽物が立ちあがる。

 次の瞬間。


「――!」


 俺の身体が吹き飛んだ。

 何をされたのか、理解する間もない。

 宙に投げ出されて、そのまま俺は放射線を描いて砂の上に落ちた。

 全身に受けた鈍い痛みに耐えながら立ちあがって、偽物を睨みつける。

 偽物は静かに俺の事を見つめていた。

 その動きは、既に俺と鏡写しではない。


「もの真似はもう止めか?」


 轟、と。

 偽物を包むように、強い風がおきる。


「でも……こりゃ、どういうことだ?」


 偽物の剣が振り挙げられた。

 風はその剣の刀身へと集まっていく。

 俺は慌てて横に跳んだ。

 偽物が剣を振り下ろす。

 放たれる。

 それは……巨大な斬撃。

 砂を切り裂き、空気を切り裂き……大斬撃が、俺の真横を抜けた。

 冷たいものが背中を突き刺した。

 魔力。

 間違いない。

 今偽物が放ったのは魔力であり……つまりあいつは、魔術を行使したのだ。


「なんでだ……」


 意味が分からない。


「どうしてお前だけ……こんな魔力のないところで魔力を使えるんだ!」


 叫ぶ。

 いくらなんでもこれは……滅茶苦茶すぎる。

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