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6-9


「ガレオ……?」


 その姿に、目を疑った。

 円卓賢人第九席……そして、私が一度、撃ち砕いた敵。

 そのガレオが、目の前にいた。


「貴方……なぜ、こんなところに」


 確か、私が倒した後は、父さんに身柄を渡して……その後の事は知らないけれど……どうしてここに?

 まさか、逃げて――?


「第九席が……ふむ。消息不明、と聞いていたが生きていたか」
「んだよ。口うるせえ堅物が一人減ったと思ったら、帰って来やがった」


 第六席と第七席が、態度はそれぞれ違う物の、しかし彼を――仲間として迎え入れていた。


「ふむ……少しばかり、手間取ることがあってな」


 ガレオはそう言うと、私を見下ろした。


「さて、小娘」
「ガレオ……貴方、どうやってここに……!」


 敵が一人増えたとすれば、厄介だ。

 ただえさえ、円卓賢人が二人いるのに、それが三人?

 流石に……それは勝率なんて数えるのも馬鹿らしくなってくる。


「私は一度、貴様の剣に斬り伏せられた」
「……だから?」


 逆恨みでもしているのだろうか。

 は……先に攻撃してきたのは、そっちのくせに。


「だから……言うことは一つ」


 ガレオが、私の腕を掴んだ。

 そしてそのまま、私を引き上げるように、立たせる。


「貴様は第六。私は一つ下の第七をやる」
「――」


 ……は?

 即座に反応できないのは、私だけではなかった。

 第六席と第七席も、一瞬呆然としたような顔を見せる。


「……おいおい、オッサン。あんた何言って――っ!?」


 軽口をたたこうとした第七席の頬を、魔力弾が掠める。


「……外したか。ふむ、惜しいな。当たれば一撃でことは済んだものを」


 その魔力弾を放った張本人……ガレオが舌打ちをこぼす。

 手加減などない一撃だった。

 ガレオの本分は結界魔術。守りである。

 しかしそれでも、今の魔力弾には、無防備な人間の頭一つ破壊するくらいならば余裕の威力が籠もっていた。


「っ……てめぇ、なにとち狂ってんだよ!」


 第七席が咆哮する。


「吠えるな、小僧。ふん、丁度いいといえば丁度いい。私はな、前々から貴様が気に食わなかったのだ。どうせだ、一度躾をしてやろう」
「っざけんな!」


 第七席から無数の魔力弾が放たれる。

 それをガレオの前に現れた障壁があっさりと弾いた。

 当然だ。

 第九席とはいえ、ガレオの結界魔術は、同じ円卓賢人――例え上位席であっても簡単には破れないだろう。

 けれど、分からなかった。


「ガレオ……貴方、どうして……?」


 敵ではなかったのか。


「己からも問おう。第九席よ……これは、なんのつもりだ?」
「ふん」


 私と第六席に問われ、ガレオは鼻を鳴らす。


「別に、滑稽な話だ」


 第六席から依然として大量に放たれる攻撃を防ぎながら、ガレオは言う。


「ある方と出会った。そしてその方にマギという世界の本当の姿を見せられた。魔術とは人を導くもの。だが、実際はどうだ……なんとも下らん。そんなもの、私達魔術師の思い込みでしかなかった。人など導けてはいない。目をくらまされただけではないか」


 それで、分かった。

 ある方、というのは多分、ルミニア様。父さん繋がりで、第九席は捕まった後にルミニア様に会ったのだろう。

 そしてそこで、全てを教えられた。この世界のことを。

 たとえば、魔術師でない人間が、どれほど非人道的な扱いをされるのか……、


「だからこそ、私はあの方の理想にお力添えをする。少し前まで目も見えぬ幼子のように幼稚であった私などが今更おこがましいかもしれんが、な」
「どういう、意味だ?」


 第六席にはガレオの言葉が分からないらしい。

 なるほど。彼も、温室育ちの魔術師か。

 だから、何も知れない。マギのことを、なにも。


「これ以上敵と言葉を交わすつもりはない。知りたいのであれば敗北したのち、自らの目で知ることだな」


 ガレオの冷たい一言。

 第六席の瞳が、鋭くなる。


「……いいだろう。だが、残念だったな」


 彼が、ガレオに魔力刃を放つ。


「――己が敗北することはない!」
「いいえ……」


 第六席とガレオの間に飛び込んで、その魔力刃を、刀で真っ二つに裂く。


「貴方は負けるわ。第六席」


 そう。

 勝つのは、私だ。


「小娘。二度は無様な姿を晒すなよ」
「安心しなさい。私も、帰って佳耶に、自分の活躍した話を聞かせたいもの」
「……ならば、それなりの戦いを見せろ」
「言われるまでもないわ」


 そして、私は第六席に。ガレオは第七席に向き合った。



 下らん……。

 ああ、まったくもって、下らんな……。


「愚かなことだ」


 そこは、火の海。

 城砦都市を含めた、広大な大地が隙間なく紅蓮に照らされている。


「よかったのですか? 城砦都市ごと壊してしまって」
「構わぬ」


 都市など作り直せばいい。

 そこにいる魔術師共も、この程度で死ぬのであれば不要。数だけなら自然と増える。


「それよりも、情報をよこさぬか」
「は……どうやら、他の大陸でも暴動が。すでに三つ、大陸の城塞都市が落とされたようです。王宮もどうやら戦闘状態に入ったらしいのですが、情報が混乱していて、詳細までは――」


 ふん……使えんな。

 戦闘状態だと?

 やるのであれば殲滅戦であろうに……対等な戦闘など、そんなものをしているとは。


「いかがいたしましょう?」
「王宮に戻る。大陸は今は勝手にさせておけ。後で奪い返せばいいだけの話だ」
「はっ……」


 さて……。

 この件、やはり首謀者は……ふん。

 下らんな。


「少し、暑い。火を消せ」
「はっ……」


 我の言葉に、後ろに控えていた者の一人が空に手を掲げた。

 そこに、魔力が集う。集う。集う。

 そして現れる、黒色。

 空を覆うような黒。

 それが一度脈動したかと思った、次の瞬間――。



 黒い雷が、紅蓮の炎を蹂躙した。



「それでは参りましょう――我が王」


 頷き、我は炎の消えた大地を歩き始めた。






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