彼女の妹とその語り
「好きです!」
「嫌いです」
…ったく、いつまでやってるんだろ、あの二人。
あ、ども、はじめまして。
あたしは春日井 実々。
ここの学校ではある意味有名なあの春日井奈々の実の妹。
で、お決まりのこの場面はうちのクラスメイトの天使くんがお姉ちゃんに告ってるとこね。
いい加減にしてよーと思ってるんだけど、お姉ちゃんも頑固なんだから。ったく。
この告白シーン、私が見た回数だけでも30は越えてる。
異常すぎない?この回数。
お姉ちゃんも折れてしまえばいいのに、断ってしまうのは、…やっぱりあのトラウマなのかなぁ。
うちのお姉ちゃん、あの容貌で学校では超無口で無表情だから学校では結構恐れられてるみたいなんだけど、家では別人みたいに話してくれる。
お姉ちゃんは極度の人見知りさん。
姉妹とは思えないくらいの美貌を持ちながら自信を持てないらしく消極的だし、話し下手だから他人に誤解をされやすい。
ちなみにあたしは平々凡々な顔立ちで、割と社交的な性分。
ここまで似てない姉妹も珍しいとは思うけれど。
だから、『鉄の仮面を持つ女』と言われ始めてから一層そのイメージを崩さないようにしてる。
お姉ちゃん、可憐な少女趣味を持っているのを知られたら、また何か言われそうだと思ってるみたいで、あえてその呼び名に合わせて行動してるみたい。まぁ、大半は素だろうけど。
あたしが入学した頃にはものすごく有名な呼び名になってたから、よっぽど徹底してたんだなぁ。
あたしから見れば以外な趣味の一つや二つくらい、どうってことないと思ってるんだよね。
頑固なんだか臆病なんだかわけわかんない。でも、そんな風にギャップのあるお姉ちゃんは嫌いじゃない。むしろ超可愛いのよねぇ。
で、そんなお姉ちゃんの極秘趣味を偶然目撃した天使くん。
次の日に告白をしたみたいなんだけど、それをすぐ「イタズラだ!」と受け取っちゃうのはどうかと思うのよね。
確かに、告白だなんてイキナリすぎてびっくりしちゃうのはわかるけど。
でもでも、相手が天使くんなら、イタズラなんてありえない。
天使くんと少しでも話してればわかるもん。
彼、あの超〜〜〜〜〜可愛い顔を持ってるのにひけらかさないし、消極的でおどおどしてたりするけど、それでも話してればすごく良い奴だなって思う。
ほわわんと暖かいキモチになれるんだ。
それに、天使くんって人当たりは良いけれど、何かに執着を持ってないカンジがするの。
だから、彼にアタックしてきたあたしの友達や先輩のお姉さま方は全て玉砕とのこと。
ちなみにあたしはもっさり30代のダンディしか受け付けないので天使くんは対象外。
そんな天使くんが30回も粘って粘って粘りまくってアタックし続けている。
いくら、最初はイタズラだと受け取ってたお姉ちゃんでもいい加減気づくと思うのよね。
彼が本気だってこと。
そうそう。
あまりにも撃沈する天使くんの姿が哀れなもんだから、応援しようじゃないかと思って恋のキューピッドの役割をしようと度々天使くんの話を振ってみてるの。彼こんなとこが良いよー素敵だよー落ちちゃえよー、みたいな感じで。
たいていは一蹴されるんだけどね。
この日も、ソファでだらけているお姉ちゃんに似たような言葉を投げかけたあたし。
天使くんを応援したいのはやまやまだけど、ほんとに、いい加減決着ついてほしいし。
当初はピリピリしてる雰囲気だったお姉ちゃんも最近はそんな気配納まってきてるし。
だからちょっとカマかけてみたんだ。
「お姉ちゃんさぁ、毎回天使くんの告白断ってるけど、ホントは結構まんざらでもないんでしょー?」
本気半分、冗談半分。
もしお姉ちゃんも天使くんのことを憎からず思っているのに断り続けてるのなら、きっと後に引けない頑固さが出てるのかもしんないしね。
そしたらさ、どうだったと思う?
お姉ちゃん、飲んでた牛乳一気に吹き出してむせてやんの。
ちょっ、こっちに牛乳吹きかけないでよー!と怒鳴ってるのに、お姉ちゃん、あたしの声も聞こえないカンジで茫然自失状態。おまけに顔は急に真っ赤っか。
え、なにこの反応。結構いい感じなんじゃん。
お姉ちゃん、それを否定するかのように「ち、違うのだぞ我が妹。こ、こここれは…これは、そう、鼻のなかに牛乳が入ってきてだな、私の生命の危機のためあえて見境なく吐き出し生命活動に必要な酸素を沢山取り入れようとして生命活動のために血圧が急上昇してだな…」とものすごーく分かりやすい反応をした姉ちゃん。や、さすがにその説明はキツいよ。しかも言ってること支離滅裂だよ?
…なぁんだ。
この鈍感な姉でも30回越えればようやく彼の恋心も本気だと気づき始めたのね…というか、昨日とは全く違ったこの反応…何かあったのかな?
ともあれ、よかったじゃん天使くん。彼の努力も報われそうで何よりだね。
お姉ちゃんも素直じゃないなーとニヤニヤしていたらばれたらしく、「違うと言っとるんじゃボケー!」と、酢だこのような顔のまま、あぐあぁぁぁと奇声を発しながら走り去ってしまった。牛乳を手にしたまま。
こーの恥ずかしがりやめ。
んー、これじゃあお姉ちゃんが落ちる日も遠くないかもなぁ。
紅茶に映った自分のにやけ顔を見ながらそう思いつつ、優雅にそれを飲み干した。
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