もしかして……ヤンデレ?
すぐ読めるヤンデレ。
「さくらちゃん、僕…“ヤンデレ”みたいなんだけど」
私の彼氏である、楓くんが泣きそうな顔をして言う。
手には私の愛読書の小説。その小説を読んで、そういう思いに至ったらしい。
「この中に出てくる、後藤っていう“ヤンデレ”の気持ちが…痛いほどわかるんだ」
ぐじぐじと落ち込んでいる、楓くんの前にコーヒーを置いて、私は隣に潜り込む。
一人暮らし用に買ったこたつなので並んで座るには狭いけど、不安に思っている楓くんを少しでも安心させてあげたいと思ってピタッとくっついた。
「ほら、コーヒー飲んで? 牛乳をたっぷりいれておいたから」
「…うん。 ありがとう」
楓くん専用マグカップは、だらけたネコのイラスト付きで間抜けなんだけど、イケメンの楓くんが持つとサマになる。中身はお子様仕様の牛乳コーヒーなんだけどね。
パラパラと小説をめくって、長い綺麗な指で「ほら、ここ」と気になったというセリフをなぞる楓くん。
『愛子、愛している。君が近くにいないと不安なんだ』
「ね?」
「……うーん」
私のレスポンスの悪さに納得いかない楓くんは、さらなるページをめくる。
『私の届くところにいてほしい嗚呼…君をいっそ、閉じ込めてしまいたい』
『愛子が他の男…いや、私以外と話していると思うだけで、嫉妬で狂いそうだ』
『愛している……愛している……死んでも…愛している』
小説での“ヤンデレキャラの後藤”はどんどん過激になって、最後には主人公を鎖につないでいた。
「…さくらちゃん、どうしよう。僕、自分が怖い」
「……うーん。それってさー、何か悪いこと?」
「え?」
「これだけ、この後藤っていう人は、主人公を愛しているってことでしょ?」
「そうなのかな?」
「そうだよ」
私は、まだぼんやりと考え事をしている楓くんに、ギュッと抱きつき頭をグリグリと胸に押し付けた。
「……でも…嬉しい」
「ん?」
「楓くん、私を閉じ込めたいとおもってくれているんだ」
「ぶふーーーーーー!!」
盛大に、牛乳コーヒーを吹き出した楓くんは涙目で。汚れたこたつ布団を見て、ごめんなさい、ごめんなさい。と何度も謝る。
僕がやると言って立ち上がろうとする楓くんを制し、私は濡れ布巾を取りに立ち上がった。
トントントン
「んん…すぐに拭いたから、シミにはならないと思うけど…カバーは洗わないといけないな」
「…ごめんなさい」
こたつで、大きな身体を小さくしている楓くん。可愛い。
トントントン
ぼんやりと、私がこたつ布団を布巾でたたいているのを見ているのか見ていないのか、焦点のあっていないぼんやりとした表情で、楓くんは、ボソボソと呟く。
「最近、さくらちゃん…帰るのが遅いから…不安になって」
「……ごめんね。バイトのシフトが増えて…一緒の時間が減っちゃったね」
「う…ん。わかっているけど…僕がそばにいない時に、他のやつと話していると思うと…他のやつを殺したくなる……」
「……」
こういうのって、気持ち悪いでしょ? と 顔をこたつ布団にうずめて更に小さくなる楓くん。
私は、布巾を机に置いて小さくなった楓くんを包み込むように抱きしめた。
「全然、気持ち悪くない」
「……ホント?」
「うん。それに、私も同じ気持ちだから」
嬉しいの。 そう言って、背中をポンポンとたたくと、楓くんは顔をあげてまだ…不安…そうだけど、柔らかく微笑んでくれて、今度は私が強く抱きしめられた。
チャラリ
――楓くんの足からする鎖の音。
ああ。嬉しいな。
やっと、楓くんが私のところまで堕ちてくれた。
嬉しいな嬉しいな嬉しいな嬉しいな嬉
しいな嬉しいな嬉しいな嬉しいな嬉し
いな嬉しいな嬉しいな嬉しいな嬉しい
な嬉しいな嬉しいな嬉しいな嬉しいな
ウ レ シ イ
ズット、イッショダヨ?
月夜の闇猫様の企画作品 & リクエスト作品…?(ヤンデレ彼女×ヤンデレ彼氏)
さくらちゃん
実は、彼女こそヤンデレ。
モテモテの楓くんを部屋で鎖で繋いで監禁中。
ふたり暮らしの為にバイト頑張り中。
楓くん
さくらちゃんの彼氏。
モテモテなので嫉妬したさくらちゃんに監禁され中。
最初の方は、正気を保っていたが…異質な空間にだんだん精神を病む。
さくらちゃんが近くにいないと落ち着かなくなる。
牛乳コーヒーをこぼして、何度も謝ってしまうのは、さくらちゃんの躾の後遺症。彼女は暴力でも楓くんを支配していた。