第1話 砂漠のスナイパー
戦場:タクラマカンデザート
「グフカス2、ドム1、ザクスナ1」
僚機に向かい、敵の編成を知らせる。敵は愛機ジムスナイパーカスタムの射程にすべて入っている。
「ザクスナは、自分が抑えます」
「了解!」
インカムから次々返事が返ってきたが、半分は聞いていない。すでにロックオンした、ザクスナイパーの機動に注意を払っていたからだ。
ザクスナイパーは、高台に移動しようとジャンプを繰り返している。おそらくすでにロックオンされているとは夢にも思っていないだろう。
しかし、開けた砂漠で高台に上るとは……
「素人が」
つぶやいたあと、引き金を引いた。ザクスナイパーが転倒するのが見えたが、かまわず相手の射程距離外へと移動する。
スナイパーのR-4型のビームライフとはいえ、一撃でMSを落とすことは難しい。また、次弾を発射するまで少なくない時間が必要だからだ。
ザクスナイパーをレーダーで確認すると、信じられないことに高台の上から移動していなかった。
「……」
遮蔽物の陰か出て、ザクスナイパーを再度射程に収めロックオンする。
位置からして、ガンキャノンをロックオンしてタイミングを図っているようだ。容赦なく二撃目を叩き込む。と同時に狙われていたガンキャノンに警告を出す。
「軍曹。スナイパーの射程に入っているぞ」
今度は、相手の気を引くために射程外に出ず、その場でさらにザクスナイパーをロックオンする。
狙い通り、スコープで拡大されたザクスナイパーが、こちらをロックオンするのが見えた。
すぐさまロックをはずし、機体をジャンプさせると同時に、先ほどまで自機がいた場所にビームが突き刺さる。
そのままレバーを右に倒し、遮蔽物の陰に自機を移動させようとすると、ビームが何もない空間を薙いだ。
「速射型!?」
一発の威力は低いが、連射できる。問題は相手のセッティングが二連射なのか三連射なのか。
レーダーで確認すると、相手はまだ高台から動いていない。ライフルの充填もすでに終わり、発射可能な状態だ。
意を決し、自機を空に舞躍らせると空中でロックオン。ザクスナイパーもすでにロックオンしているのが見えたが、かまわずに引き金を引く。ジャンプスナイプと呼ばれる狙撃技術だ。
自機が遮蔽物の陰に着地すると同時に、ザクスナイパー撃墜の報がコックピット内流れる。
一息つくが、まだ戦闘が終了したわけではない。
新たな敵を求めて、ジムスナイパーカスタムを新たなスナイプポイントへ移動させた。
第1話 完
第2話 狙われるもの
戦場:ニューヤーク
ニューヤーク。この地獄に俺は帰ってきた。
味方機が次々と出撃していくのを見ながら、スナイプポイントに陣取り、敵機の進行状況を味方機に伝える。
初陣から10日ほどで、グランドキャニオンに移動になったが、ニューヤークは俺にとって特別な場所だ。
初めてスナイパーと会敵し、なにもできずに撃墜された苦い記憶の地。スナイパーを目指すきっかけとなった地だ。
その日、俺は支給されたばかりの近距離格闘戦に特化された陸戦型ジムに搭乗し、戦場に出た。
ジム・ライトアーマーを駆って、鬼神の如く戦場を行く、小隊長の大尉にあこがれていたこともあって俺は有頂天だった。地獄に突き落とされるとも知らずに……
「大尉、ザクキャノンを撃墜しました。今から援護に向かいます。」
「了解だ。早いところたのむぞ、二等兵。」
陸戦型ジムでの初めての戦果を報告し、俺は機体を大尉達が戦闘を行っているドームに向かう。最短距離を移動するために、ビルの上に飛び乗った時に、機体を衝撃が襲った。
「攻撃?いったいどこから……」
転倒した機体を立ち上がらせると、ビルの陰に機体を隠す。
「大尉。敵の攻撃を受けています。ですが敵機の姿を確認できません。応援お願いします」
「おそらくスナイパーだ。ビルや遮蔽物を利用して、逃げろ。」
「そんな……援護し」
再度、機体を衝撃が襲い、機体が警告を発する。あと一撃喰らったら終わりだ。
「大尉!大尉!助けてください!!誰か!誰かいないか!助けて!」
半狂乱になりながら、拠点に向かって逃げる。死にたくないという思いだけが俺の心を支配していた。
目の前に川が見えた。川を越えれば逃げ切れる!川さえ越えれば!三度、機体に衝撃が走りモニターがブラックアウトし、コックピットが暗闇に包まれた。
味方に救助されたときには、2時間ほど経過していた。
その時には、再び近距格闘機に搭乗する気は無くなっていた。いや、一方的なこちらの射程外からの攻撃に恐怖を感じて、もう乗りたくないというのが本音であった。
だから、その日からスナイパーを目指すことにしたのだ。その恐怖を乗り越えるために……
上層部に配置転換を願い出て、スナイパーに関する文献を読み漁り、先輩スナイパーを捉まえては、スナイパーに関する技術、心得を学んだ。
俺の希望が通り、ジム・スナイパーカスタムが支給されたのは、グランドキャニオンに移動したあとだった。
その後、タクラマカン砂漠へと転戦。スナイパーとして実力をつけてきたところに、ニューヤークへの移動を命じられた。
物思いにふけっていた俺に、前線から報告が来た。会敵したらしい。
射程ギリギリに、ザクスナイパーの姿が見えた。ロックオンすると、相手もこちらに気がついたのかロックオンするのが見えた。間髪いれずに射撃し、ザクスナイパーが転倒している間に遮蔽物の影に機体を隠す。レーダーを見ながらザクスナイパーの行動を監視する。
あの頃のように、無様な行動を取るわけにはいかないのだ。
俺は、あのスナイパーを超えるためにスナイパーを目指したのだから。
いつかまた会敵し、あの時の借りを返すために……
第2話 完
第3話 単独任務
戦場:ニューヤーク
「やわらか戦車の心は一つ 生き延びたい♪ 生き延び」
「中尉!その気の抜ける歌は、やめてください!」
通信機から女性オペレーターの怒った声が響く。
「やあ、伍長。怒った声もかわいいぞ。それにしても、ミノフスキー粒子散布下なのに、通信生きていたのな」
通信機の向こうで、伍長があきれたのがわかった。
「3日前に中継機を設置したのは、中尉達ではないですか」
そういえば、そんな任務もあったなぁと思い出す。
「私、中尉はもっとストイックな人だと思っていました。スナイプしている時には、クールでかっこいいって、ファンの娘も多いのに……」
伍長のふくれっ面が目に浮かんだ。意外とかわいらしいな。今度、実際にお目にかかりたいところだ。
「まあ、意外性はあっただろう?」
確かに、いつもとテンションが違うのは、俺も認める。なれないガンタンクで海中を単機進行中という状態に、半ばやけくそ気味なのは否定しない。しかし、正直な所あの歌は本心だ。絶対に生き延びてやる。
「こりゃダメだな」
整備班長が難しい顔をして俺の愛機、ジムスナイパーカスタムを見上げる。
「何がダメなんです?」
俺が聞き返すと、班長は難しい顔のまま向き直る。
「この機体での出撃は許可できない。オーバーホールが終わるまで出撃禁止だ」
そのあとは、泣いてもおだてても、無理だった。
出撃したいなら予備機を使えとのことだったが、あいにく予備機は戦車に毛が生えたようなガンタンクのみ。量産型でないだけマシという状態。
ガンタンクを押し付けて、新兵からジムを強奪してやろうともしたが、整備班長に見つかってしまい。しかも、ガンタンクで敵拠点を落として来いと命令された。落としてこなければ、こいつ(ジムスナイパーカスタム)はスクラップだという、ありがたい言葉とともに……
「拠点が攻撃を受けています!」
敵拠点の砲撃ポイントまであと少しというところで、通信機より伍長の悲鳴が聞こえてきた。このままでは、帰るところがなくなってしまう。
「伍長。陽動と足止めは、もう要らん。部隊をビッグトレーの防衛に回せ」
「それでは、中尉が……」
口ごもる伍長。
「構わん。それに、そこには俺のジムスナイパーカスタムもあるんだ。壊されてはたまらん。どうしても、気が引けるというのなら帰ったら食事にでも付き合え。伍長のおごりでも良いぞ」
「嫌です。各モビルスーツは拠点防衛に回ってください」
「はっきり言うねぇ」
苦笑する。
「中尉のおごりならお供します」
「なら、それで手を打とう。これより、敵拠点攻撃に入る」
砲撃ポイントに到着した俺は、砲撃を開始した。
「まずいな」
レーダーをにらみながら呟く。
レーダーには、こちらに向かってくる敵機の反応が現れたり消えたりしている。ミノフスキー粒子の影響だ。
こちらに向かってくるのは2機。このままでは拠点を落とす前に会敵してしまう。拠点を落としても海中でスクラップという落ちになりかねない。
だがここで、任務を断念するのも情けない。
俺は腹を決め、レーダーを見ながら砲撃を再開した。
敵拠点が大爆発を起こすと同時に、機体に衝撃が走る。
「ゲルググ!?」
迎撃に来た敵は、ゲルググが2機しかも1機は、ビームライフルを装備している。絶望的な状態だが、俺は必死にタンクを操り逃げ回る。
拠点まで800mというところまで逃げてきたところで、何度目かの衝撃を受け機体が耳障りな警告を上げる。
これは逃げ切れないな。
まだ、何か手はないかな…… レーダーでは追撃してきたゲルググが、そろそろ格闘間合いに入るところだ。
ここで、このガンタンクに装備されているあるシステムを思い出した。
気分は、天からたらされたクモの糸を見つけた罪人の気分だ。生き延びるためにはこれしかない。
俺はガンタンクのジャンプペダルを思いっきり踏みつけた。
海面を割り、ガンタンクが水しぶきを上げながら青空に向けて飛翔する。ブーストが切れたところで、無限軌道になってきる下半身が海中にいたゲルググに向かい落ちていく。数瞬送れて砲弾をまだ半分ほど搭載した上半身も……
「ふぅー、助かった」
敵からの追撃はなかった。俺は目の前に広がる青空に眼を向けた。
コアブロックシステム。一部の連邦モビルスーツに採用されているシステムで、コックピットブロックが変形可能な戦闘機で構成されており、モビルスーツのパーツを分離することで脱出も可能だ。
このシステムのことを思い出さなければ、今頃海中に沈んでいただろう。
「中尉。応答お願いします」
通信機から伍長の声が聞こえてきた。どうやらビッグトレーも無事のようだ。拠点が落ちた以上、敵も撤退するだろう。
「伍長。約束は守ってもらうぞ」
それが生還した俺の第一声だった。
第3話 完
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