表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

代用

作者: 東堂柳

 今日も妻は調子がすぐれないようで、朝からずっと寝たままでいる。

 仕方がないので、妻の代わりにまだ幼い娘のために夕食を作ることにした。カレーだ。

 料理はそれほど得意と言うわけではないので、時間がかかったし、味にも自信はない。その上、材料も少し足りず、ジャガイモを入れることができなかった。仕方なく、代わりに夏野菜をいくつか入れた。

 しかし、なんとか夕食の時間には間に合った。その間、テレビを見ながら娘は静かに待っていた。

「そら、出来たぞ。先に食べてなさい。今、ママを呼んでくるからね」

 優しくそう言って、私は妻を連れてきた。3人で食卓を囲み、食事を始めるが、妻はまだ体調が悪いのか、まるで食べようとしないし、娘も食欲がないのか、テレビを見たままでカレーに手をつけようとしない。

「おい、一体どうしたんだ? 大好きなカレーだろ? ほら、食べなさい」

 そう言って、スプーンを娘の口に持っていくが、やはり食べようとしないで、泣き出してしまった。それを見て、黙っていた妻がついに怒った。

「やめなさい! 夏実! 泣いてもどうにもなりませんよ!」

 その時、玄関のインターホンが鳴った。急いで向かいドアを開けると、宅配業者らしき格好をした男が荷物を片手に立っていた。

「冴木陽二さん宛ての荷物をお持ちしました。こちらに判子をお願いします」

「はいはい」

 判子を押して、荷物を受け取ると、男は

「大丈夫ですか?」

 と心配そうに訊いてきた。

「え?」

「いや……、なんか顔色が悪いので……」

「ああ、……娘の事でちょっとね……。妻も調子が悪くてイライラしてるみたいで……」

 そう言うと、男は

「はあ……」

 と怪訝そうに首をかしげて、

「あ、時間もないので、これで」

 と会釈すると立ち去った。

 何だあれは……。失礼な人だな。まあいい。早く食卓に戻って夕食を再開しよう。

 俺はドアを閉めて、急いでリビングに戻った。



 荷物を渡し終えて、トラックに戻ると運転席でカーラジオを聴いている先輩の田島に俺は訊いた。

「冴木さん家って3人家族でしたっけ?」

「最近までそうだったんだけど、旅行先の事故で2人亡くなって、今は1人のはずだが……どうした?」

「いえ、ただ……妻と娘がどうこうって言ってて……変だなって」

「事故のあとから、どうも様子が変だからな。きっと2人を一度に亡くして、おかしくなっちまったんじゃないのか?」

「やっぱそうなんですかね? なんか、可哀想っすね」

 冴木家の話はそれで終わり、田島がトラックを走らせた。

 ラジオからはニュースが流れていた。

『失踪からは、すでに丸二週間が経過しています。こちらでも、目撃情報を受け付けています。失踪したのは、友永夕紀さん、32歳とその娘の友永夏実ちゃん、5歳です。……』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 怖いわ! [気になる点] ないです。 [一言] 予想外でした。怖いっす!
[一言] はじめまして。ツイッターで流れてきた宣伝からお邪魔しました。 短い作品ながらキレがよく、オチに唸らされました。タイトルと繋がってうまいと思います。 主人公にとっては、妻も子もその「役割」を…
[良い点] オチの意味が理解できた時、「おおっ」となりました。
2015/07/11 20:09 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ