――昔々……というても、この世界の話ぢゃぁない。何処か遠い世界のお話だ。その世界での遠い昔の話。
その世界の住人はな、全て豚のなりをしとるそうだ。そんで豚のなりで、決して被る事の無ぇ名前を、一匹いっぴき持っとるそうだ。ある豚の名前は猫。ある豚の名前は犬。そんな具合にな。
その豚の世界ってぇのは、見事なくれぇ平和だったそうだ。誰も喧嘩なんぞせんで、仲良う手なんか取り合って生きとったそうだ。
そんな世界に、ある時一風変わった豚が現れたそうだ。
その豚は異様な程、他の豚に媚びったり、物を集ったりしていたそうだ。そんでその豚は、他の豚にはビタ一文渡したりせんかったそうだ。
そんでも他の豚達は、その豚を咎めたりせんかった。というよりも、他の豚達はその豚に何をされとるか判らんかったそうだ。ぢゃからその豚も、何度も何度も他の豚達から物を集ったそうだ。
そして何時しかその豚は、物は何でも持っとるようになったそうだ。
ぢゃが他の豚達はそんな事を気にもせんかったそうだ。元々他の豚には、物欲ってぇもんが無かったそうだ。ぢゃからその豚がどんだけ物を集ろうと、他の豚達は平気な顔して渡しとったそうだ。
そして何時しかその豚は、物は何でも持っとるようになったそうだ。
ぢゃが他の豚達はそんな事を気にもせんかったそうだ。元々他の豚には、物欲ってぇもんが無かったそうだ。ぢゃからその豚がどんだけ物を集ろうと、他の豚達は平気な顔して渡しとったそうだ。
その豚は何時しか裕福になっとったそうだ。そんで物をやっとった他の豚達は、何時しか貧乏になっとったそうだ。
他の豚達は、さすがに『このままぢゃ餓死する』と悟り、その豚に会いに行ったそうだ。
ぢゃがその豚は……性格がその言葉を云わせたんぢゃ。『儂が貰ったもんぢゃ、主らに返す道理は無い』とな。
他の豚達はその言葉を聞いて、かつて無い程激怒したそうだ。というても、元々平和な世界ぢゃったから、誰も怒りという感情を知らんかったそうだ。ぢゃからそれに流される事が、とんでもなく危ねぇってぇ事も知らんかったそうだ。
他の豚達は決起して、その豚を殺したそうだ。皆で……その豚に罵声を浴びせ……その豚の眼球をえぐり……その豚の頭蓋を砕き……その豚の臓物を引き裂き……皆その豚を殺す事に躍起になったそうだ。
その豚が死んだ後、他の豚達の中で暗黙のルールが出来たそうだ。
『他の豚に物を集らない』
『ルールを破った者はあの豚と同じ末路を辿る』
その後豚の世界は、その暗黙のルールに従い、一生を終える様になったそうだ。
めでたしめでたし――
――そうぢゃそうぢゃ、一つ云い忘れとった。あの豚にもな、名前があるんぢゃ。
その名前は……人間。
|