空転する換気扇がカタカタと音を立てている。
冷蔵庫のファンが唸っている。
私は、それらの音が耳に入るのを恐れて両手で耳を塞いだ。
お玉などはまだ良いが、鋭利な包丁や、フォークなどの食器が飛んでくるのではないかと恐れた。
夜になると、闇という闇が私の心の弱い部分をむさぼった。
特に、私の家はトイレに行くためには、どうしても台所を通らなければならない構造になっていたため、私はいつも明るい内に、特に寝る前にはトイレに行くことにしていた。
今日も、間違いなくトイレに行ったのだが、昼間食べたスイカのせいか、またトイレに行きたくなったのだ。
なぜか、台所には電灯がなかった。昔はあったのだろうが、今は名残なのか押しても引いても灯もらない裸電球のソケットがあるだけだ。
なぜ、台所にだけ電灯がないのかを母に聞いたが、いくら電球を取り換えても電気がつかないのだといっていた。
配線の問題なのだろうか。
隣りの寝室の電気を全てつけてみても、入り口付近が少し明るくなるくらいで、真ん中まで行くと、もう真っ暗だ。
そして、台所には窓がない。料理をするときは換気扇を回さなければ煙が籠るし、何よりも外の月明かりが一切入らない。
なぜ、窓がないのだろうということは母に尋ねたことはない。
朝まで、もたないということは分かっていたので、私は決心して布団から這い出た。
父は単身赴任で家にいない。母を起こさないように、半ば起きてくることを願いながら……
不意に、台所の電気がついた。
さっき食べたばかりのカレーがテーブルの上に置いてあり、軽くラップがかかっている。
一昨日、溢したばかりの醤油の染みがくっきりしている。
私は安堵して、怖がらずにトイレに行けた。
手を洗って、布団に戻ると台所の電気は消えていた。
私は、そのまま眠った。
その日のことは良く覚えている。
あれは、父の幽霊のせいかもしれないし、夢だったのかもしれない。
父が死んだと知ったのは、一人でトイレに行けるようになってすぐの頃だった。
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