67 聖戦の中で 前編
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~曹操~
城の外に、布陣する。
正々堂々、知を、武を、勇を、競いましょう。
最後の決戦。
それは、勝者と敗者を決めるだけではない。
己の理想をぶつけ合う、聖なる戦い。
勝つにしても、負けるにしても、乱世は終わる。
その先にあるモノは、私に何をもたらすのか…。
…しかし、今は考えても詮無き事。その先は、この目で見ましょう。
再び、本陣に集まる将を見やる。
誰もが真っ直ぐに私を見つめる。
愛しい、私の部下達。
「いよいよ最後の戦いよ。桂花、どう動く?」
「はっ、赤壁の戦いを鑑みるに、やはり韓当に何名かつけるべきかと…。見過ごすと、確実に手痛い打撃を受けます」
韓 義公。
最初に会った時を思い出す。
喰えない男、まさか私の誘いを断るどころか、逃げる。
そして、悉く私の前に立ちふさがった。
韓当が我が軍にいないのは、もはや天命か…。
「しかし、韓当だけに人手を裂くのも危険過ぎます。呂布、関羽、孫策、甘寧…上げ出せばキリがありませんが、他の将も放っておけません」
稟の言うことは最もだ。
「う〜ん、風は、韓当お兄さんには一人当てれば充分な気がしますね〜」
風が意外な事を言う。
「風、正気か?韓当には姉者と私、二人がかりでも歯が立たないのだぞ?」
「悔しいがあの男は、本物だ。一人では返り討ちが関の山だ」
姉妹揃って言う。
春蘭が男性を誉めるなんて…。また槍が降るのかしら?
「まぁ春蘭さんが言う位なら、間違いなくそうなんでしょうね〜。
風は文官ですし、戦う様を見た事はないのですが、それは韓当お兄さんが『本気』ならですよね?」
風がニヤリと笑う。
「風、それはどういう意味?」
「はいはい〜、私が思うに、韓当お兄さんは手加減しています。それも私達、将に対して」
「手加減?」
「定軍山のお話を聞いてから考えていたのですが、韓当お兄さんは何故、将を殺めたり捕虜にしないのでしょうか?」
流々に定軍山での話を聞いたことを思い出す。
韓当は早くに黄忠と合流できたはずだった。しかし流々に構ってそれをしなかった。
流々に至っては、戦場にありながら、まるで客人扱いだった。
「確信したのは、赤壁ですね〜。韓当お兄さんは、あえて将の旗が立たない所を狙って槍を放っていました。例外はありますが、大抵将は旗の近くにいますから〜」
確かに…。今、思うと韓当には不自然な行動が目立つ。
更に、有り余る力があるクセに、好んで力を振るわないと情報もある。
私達を舐めているのか…韓当にも貫く理想があるのか…。
まぁ後者でしょうね…。
恐らくは、バカみたいに優しいのが理由。
「……風の意見を採用するわ。春蘭…」
私が言い終わる前に
「ウチが良也とやる」
霞の表情からは、なにも伺えない。
いつもの笑顔でも、鬼気迫る表情でもない。
ただ、そうすることが当然。そう信じて疑わない表情。
「霞……いいでしょう。霞には遊撃隊として動いてもらうわ。アナタが狙うのは、漆黒の韓旗」
「ああ、分かった」
「ただし、凪をつけるわ。凪は、霞が韓当と戦っている間、遊撃隊の指揮をとりなさい」
「はっ!」
「ならば、後は予定通り、左翼に真桜、風、季衣。
右翼に沙和、稟、流々。
中央に春蘭、その後方に秋蘭と桂花。
本陣には私、一刀よ。本隊の指揮は私がとるわ」
近衛の季衣と流々を外してまでの、この布陣。
まさに総力戦。
「この隊形も、各自、機を見て変えなさい。私達の全てをぶつけるわよ」
「はっ!」
一同が返事して散って行く。
ここが、曹 孟徳の終わりの場所なのか、覇道の終わりの場所なのか…。
……覇王としてではない私なら、私はきっと愛するべき部下と長い平和を夢見ている。
……だが、今は曹 孟徳。覇王の衣は未だに脱げない。
私は、この戦の先に何を見るのか。
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〜劉備〜
ついに、乱世が終わる。
この戦いの先に、必ず平和がやってくる。
…いや、違う。平和はやってくるんじゃなくて、私達で作る。
呉や魏の人と協力して作る平和。
天下三分。
みんなが手をとって協力し合えば、必ず平和になる。
民の笑顔、将の笑顔。全部が一つになる。
私が昔から夢見た国。
その為に、この戦い、勝たなければならない。
「桃香様。軍議が始まります」
「始まるのだ!鈴々の腕がなるのだ!」
愛紗ちゃんと、鈴々ちゃんが呼びにくる。
最初はこの三人だった。
桃園で義姉妹の誓いを立ててから、ずっと一緒。
私の大切な仲間。
「うん!頑張ろう!」
気合いを入れて立ち上がる。
ガッ
足が椅子に引っかかり、こけそうになる。
「ひゃわ!?」
ガシッ
「桃香様…、気合いを入れるのはいいですが、少し落ち着いてください」
「にゃはは、お姉ちゃんはこんな時でもお姉ちゃんなのだ」
二人が手を貸してくれる。
「えへへ…。ありがとう」
二人の手を借り、立ち上がる。
「では、行きましょう」
「うん!」
昔から変わらない三人で肩を並べ、本陣に赴く。
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〜孫策〜
「これで終わりだと思うと、なんか寂しいわね…」
「雪蓮、何を不穏な事を言っているのだ」
「儂は策殿の言うことも分からんでもないがなぁ」
呉の古株三人で話す。
「祭殿まで…。この戦が終わってからが始まりです」
「分かっているわよ。この戦いが終わったら今度は机仕事ばかりになるのがイヤなの」
もうこの戦いが終わったら、蓮華に王様譲っちゃおうかしら。
「ほぅ、二人とも、すでに勝った気でいるようじゃな」
祭は私達の口振りを指摘する。
「負けると思って戦う人はいませんよ」
「まぁそうじゃがな。ただ二人とも、何か確信があるのじゃろう?」
ニヤリと笑う祭。
そうね…
「例えどんなに厳しくても…」
「「「良也がいればなんとかなる」」」
三人が同時に同じ事をを言う。
なんだか可笑しくて、三人は一緒に笑い出す。
「きっとこの事を良也に話したら、良也はまた謙遜するだろうな」
「そうね〜、その光景が目に浮かぶわね」
「全く…揃いも揃って一人に頼りきり、とは儂らは随分弱くなったようじゃなぁ」
でも不思議と良也なら、どんな戦況でもなんとかしてくれる気がするのよね。
「そろそろ時間ね…。冥琳、祭、行くわよ」
「ああ」
「うむ」
三人で天幕を後にする。
さて、今度はどんなびっくりが飛び出してくるのかしら。
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〜韓当〜
機は熟した。遂に決戦が始まる。
将全員が集まり、軍議が行われる。
「下手に混合させるよりも、完全に分けた方がいいですね」
議題は配置について。
「ああ、では左翼は呉で固めよう。中央は完全に分ける事は難しい、そこはどうする?」
「それは、良也さんと恋さんを中央前局に配置しましょう。二人の隊ならば、いざこざは無いと思います」
俺と恋ちゃんの隊は、元々董卓軍の兵。古参の者は顔見知りが多い。
それを考慮したのだろう。
「ああ、異論ない。左翼は呉、右翼は蜀、中央は呂布と良也。その後方に本陣、中央は二人を起点に協力して固めよう」
「あと一つ、懸念している事があります…」
頷く冥琳さんと朱里ちゃんに、雛里ちゃんが口を挟む。
「恋さんと組むならば大きな心配はないのですが、恐らく魏は、良也さんに注力してくるでしょう」
え?なんで!?
「そうだな…。良也は良くも悪くも目立つ存在だ。それはあって然るべきだな」
同意する冥琳さん。
……まぢで?
俺なりに目立たないように頑張っているんだけど…。
「しかし、良也さんに注力して来たとしても、他の場所が手薄になる事を考えると、やはりこちらに分があります」
「ああ。それに良也ならなんとかしてくれるだろう」
ああ…その信頼が今は痛い…。
「それでは、このままでいきましょう」
それで軍議は終わる。
あ〜。まぢか…。
絶賛不安爆発している俺の所に
「りょーや」
「良也!」
「ああ、恋ちゃん、ねねちゃん」
仲良し二人がくる。
「……恋に任せて」
恋ちゃんから頼もしいお言葉。
「ありがと。頼りにしているよ」
「ねねもいるのです!大船に乗ったつもりでいるのです!」
「うん。ねねちゃんも頼りにしてる」
二人の頭を交互に撫でる。
二人は、俺に挨拶して隊の最終チェックに向かう。
呉蜀魏の将全員、簡単に死ぬような玉じゃない。
それは分かっている。
誰もが名のある将。
でも不安は拭えない。
未来は、変わる。
良い方にも悪い方にも。
……だから、俺は俺の理想を貫く。誰も死なせる事はしない。
例え俺の全てを賭けても。
改めて決意を固める
あ〜、でもまた夏候姉妹+霞さんとか来たらマジで死ぬかも。
ウダウダしながら隊のもとへ、トボトボ歩いていると
「良也様!」
わお、この声は…
「麗羽も来てたのか」
「はい!私は名誉ある輜重隊を指揮しておりますわ!」
あー、それはある意味素晴らしい配置。
「麗羽!あんまりウロウロしないでくれ!私も隊の布陣しなきゃならないんだから!」
「麗羽様〜大人しく戻りましょうよ〜」
白蓮さんに斗詩さん。
「あれ、アニキじゃん。久しぶり〜」
猪々子も。
「あなた方!私と良也様の感動の再会を邪魔するのですか!?」
「はぁ…良也なんとか言ってくれ…」
白蓮さん、お疲れっす。
「麗羽、輜重隊の指揮は大変だと思うが、頑張ってくれ。頑張ってる姿が俺はいいと思う」
「そ、そうですか?ならばこうしてはいられませんわ!斗詩、猪々子、行きますわよ!」
意気揚々と後方の輜重隊の元へ歩き出す麗羽。
「斗詩、後は頼んだ…。あの調子じゃ輜重隊で突っ込み始めそうだ…」
白蓮さんが斗詩さんに言う。
確かにそれは笑えないなぁ…。
「……はい、できる限り頑張ります……」
「じゃアニキ、終わったら飲みに行こうな〜」
二人は麗羽の後を追って行く。
「あの三人は相変わらずだねぇ」
「…ああ、本当に……」
肩を落とす白蓮さん。
「まぁ輜重隊を本当に指揮してるのは、月だからな。多分大丈夫だろ」
月ちゃんがやってるなら大丈夫だろ。
「それじゃ私も行くな。良也、武運を」
「はい、白蓮さんもご武運を」
手を振って別れる。
俺も配置につく。
中央の最前線。言わずもがな激戦になる。
対面した魏の軍は、戦いの始まりを今か今かと待つように猛っている。
俺たちの方も、後は始まるのを待つだけ。
舌戦はしない。
お互いの理想は既に理解している。
交わすのは、宿る意識だけ。
決戦。その名の通り、決める為の戦い。
〜王〜
「魏の将兵よ!」
「呉の同胞よ!」
「蜀のみんな!」
王は今、我が国の全てを賭けて。
「愛しき者達の未来を!」
「散っていった者の為!」
「みんなの平和の為に!」
理想、答えをぶつけ合う。
そのどれもが正義。
正義の反対は、別な正義だっただけ。
「乱世の全てに終止符を打とう!」
「血を流す時代はこれで終わる!」
「戦いは、これで最後にします!」
その証拠に、行き着く先は、皆同じ。
「「「全軍……」」」
今、戦いの火蓋が
「「「突撃!!!」」」
切って落とされた。
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