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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

シロエの流儀 「職質アレルギー」

ついカッとなって書いた。

(※本作は今井大輔先生の漫画『クロエの流儀』をディスる趣旨のものではございません)

 夜の舗道であった。

 そこで、違法入国中のアフリカ人、ヴァニメッサ・シロエは激怒した。

 自称・大和撫子とのたまうフランス人女子高生が、したり顔で警察官を侮辱していたからである。


 警察官は二人連れであった。

 近頃、自転車泥棒が相次いでいるので、注意喚起及び情報収集の目的で、件のフランス人に職務質問をしているらしい。そういった経緯から、フランス人が跨っている自転車の防犯登録確認を申し出た。

 そのとき、異常がおこった。


 フランス人は何を勘違いしたのか、警察官二人を理不尽に罵倒し始めたのである。


 なんでも、警察官たちの態度が気に喰わなかったらしい。それに腹を立てて、上記の登録確認を拒否し始めたのだ。彼女のやや常軌を逸した豹変ぶりに、幾ばくかの危機感を覚えた二人は、派出所での事情聴取を申し出た。すると、フランス人はますますヒートアップした。


曰く「この、虎の威を借るキツネめ!」

曰く「オロカモノ!」

曰く「任意同行を拒否しているだけで、ワタシの主張は正当だ!」 

曰く「不用意に権威を振り翳してみろ! 国際問題にしてやる! 

   私のバックにはオランドが居ることを忘れるな!」


 シロエは見ていられなかった。

 彼女の言い分は、滅茶苦茶だった。


 そもそも、警察行政における『任意』の意味を彼女ははき違えている恐れがある。ここでいう任意とは、いわば「強制ではない」というようなニュアンスが強い。必要性や緊急性が認められる場合には、有形力(※暴力を含む)の行使すら許容される。仮に「任意」を超えた疑いがあったとしても、それを「違法」と判断するのは裁判官であり、このフランス人ではない。

 

 権威の使い方を学ぶべきは、彼女の方だった。


(この薄識はくしきコーカソイドめ……許すマジ……。)


 そう思ったシロエは、下唇にハメた巨大な『ボンボエ』を取り外した。


 ボンボエとは、ケムチャッカ族に古くから伝わるアクセサリーである。15歳で成人の義を迎えるケムチャッカ族は、大人になった証として、下唇に穴をあけて、そこに象の頭蓋骨で出来た円盤をはめ込む。最初は1センチ程度の小さなものだが、1カ月ごとに大きなものに交換し、最終的には10センチ程度の大きさのものを装着する。そして、有事の際には、これを武器として戦うのだ。


 ケムチャッカ族のファイトスタイルは独創的だ。

 一言で言い表すならば、『口唇スリングショット』が適しているだろう。いわば、パチンコの要領で、ボンボエを射出し、攻撃するのである。


 シロエはダルンダルンに伸び切った下唇を引き伸ばし、張り詰めさせた。

 そこに、取り外したボンボエをあてがい、強く引っ張る。

 族長直伝、狩人の構えである。


「オーボロ、ホーホーホー!」


 ときの声をあげ、シロエは電柱の陰から躍り出た。本来は、敵対部族と交戦する際の掛け声であるが、シロエの正義の中では、件のフランス人は敵に他ならなかった。


 突如奇声を上げて出現したアフリカ人に、警官たちの注意が集まった。

 フランス人は、『有色人種に対する最大限の汚言』を仏語で吐きつつ絶叫した。そして、あろうことか、先程罵倒していた警官2人を盾にした。


「キチ○イよ! 

 はやくコウムシッコウボウガイで捕まえなさいよ! 

 このゼイキンドロボウ!」


 二人の背後で、フランス人は勝手なことを言った。


「ソイツ、バカナおんな! ポリスメン、ドキナ」


 シロエは警官に言った。しかし、二人はそれに従おうとしなかった。むしろ、なにか異形の化物に出くわした時のような、恐ろしげな顔をして、特殊警棒を構えたのであった。

 シロエは困惑した。


 そんなシロエを、男達はぶん殴った。


 まさか、攻撃されると思っていなかったシロエは左右のコメカミがきしむ音を聞きながら、後ろに倒れ込んだ。


「あばばばばば!」

「おぼぼぼぼぼ!」


 そう喚きながら、男達は、特殊警棒でシロエの頭部をを打ち据え続ける。

 攻撃は執拗で、いつまでも止まなかった。


 フランス人留学生は、背後から、

「OH……サムライスピリッツ。

 オンナには手をアゲず、アクトウには、タチムカウ……。

 見直した、やはり、オマエラはセイギのミカタ」

 などと、ますます勝手なことを言っている。


 殴られっぱなしのシロエは、

 自身も、

 サムライに守られるべき、

 婦女子であることを、

 訴えようと思ったが、


 それより、


 少しだけ早く、


 意識を失ってしまった。


 ……。



 ○ ○ ○ ○ ○



 目覚めると、シロエは亀裂の走ったアスファルトの上で横臥していた。

 周囲には倒壊した家屋や電信柱の残骸が転がっている。

 身を起こすと、件の警官のうちの一人が、フランス人女子高生の死体をレイプしているところだった。


(くそ。また、やってしまったか)


 どうやら『センテンススプリング』が発動したらしい。

 シャーマンの血を引くシロエは、自身の生命に危険が及ぶと、ケムチャッカ信仰における最強の邪神を召喚し、無差別攻撃を仕掛けてしまうという悪癖があった。彼女は、自身の奇癖を、戒めの念を込めて『センテンススプリング』と呼んでいる。


 この日もまた、やらかしてしまったらしい。


 シロエの傍らには、もう一人の警官が、死体となって転がっていた。

 その風体を見て、シロエはハッと気が付いた。 

 制服がニセモノだったのだ。 


 どうやら、警官だと思っていたのは間違いだったらしい。


 彼らはただの悪質なコスプレイヤーで、日本に不慣れそうな外国人女性を騙し、イテコマスことが当初からの目的だったのだ。


(やれやれ……。)


 シロエは呆れながらも、屍姦中の男を背後からボンボエで撲殺した。

 そして、死んでいるフランス人女子高生を、ケムチャッカの秘薬で蘇生させた。

 しかし、崩壊した建物や公共物はシロエには修復できなかった。

 なので、自衛隊が駆け付ける前に、彼女はスタコラサッサと逃げ帰った。


 シロエの行方は、誰も知らない。


 

 


『クロエの流儀』は面白い!

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