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オクリモノ。 作者:aza/あざ(筒示明日香)
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05.happening not assumed.

 


 思いも寄らないことは起こるもので。僕たちの住むこの場所には、誰も僕たちに馴染みの在る人はいない。それは圭が細心の注意を払ったから。
 万が一、圭を知る人にも、僕を知られたくなかったからだ。そうだろう、と思う。
 引っ越す前のようなことも在るし……ああ。

 うん。こんなことが在ったんだよ。






   【05.happening not assumed.】






 圭がまだ施設に勤めていて、結局『マインドプログラマー』としてでなく『プログラムコンディショナー』として働いていた時代。
 僕は施設から圭の居住スペースで生活していた。後にも先にも、圭が『マインドプログラマー』として携わった『ドール』は僕だけだった。腕を試したいと言う理由と、試験的に自分で造ってみたいと言う口実を加えて。
 つまり、僕は実験の大義名分の元造り出された。圭は優秀な人材だから、ゆるされた横暴。
 あとはそう、血筋とかね。初期『ドール』開発メンバーにいた『プログラムコンディショナー』で『マインドプログラマー』翅白光輪。……圭の父親だった。

 もっとも当時の僕はそんなこと、気にもしていなかった。圭は(マスター)で、僕は彼女に創造された『ドール』。
 彼女に尽くすのが絶対で、僕は、僕と彼女を取り巻く環境とかどう在るか考えたことも無かったんだ。
 ただ。生まれてすぐの圭の表情は脳裏に灼き付いていても。

 ……どうして。
 どうして、彼女が僕を造ったかさえ。

 あのころは。



 いつものように、圭が前日は遅い出勤で、翌日の昼に帰る、と言う些か体に良くないシフトだったとき。
“その人”、は来た。

 当時の圭は、厳しくドアを開けるなと言った。僕は圭の言い付けを破るまでには成長していなかった。未だ判断能力は在ろうとハプニングには弱く、慌ててしまうから。圭の手を煩わせることを酷く病む僕は従っていたんだ。
 配達物が届けられる場合も、他の職員が何らかの理由から訪ねてくる場合も、事前に圭へすべて通知が行く。全部、圭が付いていた。この時分は。
 なので、正直このときも無視しようと思っていた。チャイムが鳴ってモニターを確認して、圭じゃなかったから。……思っていたのに。
 モニターに映っていたのは、華美な女性だった。圭と違い、圭みたいな清楚な感じじゃなくて、少女みたいな感じじゃなくて、本当に華やかで本当に女性と言う風貌で。
 誰だろう、と思った。職員の誰か、でないことは間違いなく、ゆえに僕は首を傾げた。
 と言うか、どうやって入ったんだろうね。今も謎だ。施設はその存在意義から常に守られている。不審者はおろか、一般人だって許可無く入ることが出来ない。多分、この疑義が僕を混乱させた一つだったんだ。
 誰かわからない進入経路謎な女性は、外からじゃ声を発さない限り作動しているなんて判然としないインターフォンに向かってまくし立て出した。まさにまくし立てたんだよ、“あの人”は。
「圭ーぃ! 来ちゃったぁー! いないのぉっ? いるんでしょ! わかってるんだぞー! この雪菜さんをやり過ごそうなんてチビッ子圭にはまだ早いんだからねぇ!」
 ……うん。衝撃だよね……。これを、大声で喚く訳だよ。びっくりするよ。僕は初めて彼女を見たんだしさ。
 慌てて圭に連絡入れようとした。入れようとして。
 操作を間違えたんだ。うっかり、押してしまったんだ。こちらからの、通話ボタン。
 インターフォンの。
「あっ、」
 これが殊更僕の取り乱した状態に拍車を掛けて。つい声が出てしまった。そうして。
「あら?」
 相手も耳聡く僕の声を拾ったんだ。いや、拡声器の性能の良さがいけなかったのかもしれないけれど。
「なぁんだー。誰かいるんじゃなーい。てっきり、いないかと思っちゃったぁ」
 思ってあれだけ騒げるのは今でも凄いと思う。冷静になれなかったこのときの僕もこれは思った訳で。
 僕はしかし、この時代の僕にしては頑張ったんだ。
「あ、あの!」
「なぁにぃ? あなた圭じゃないわよねぇ? 男の子、でしょ? 圭に兄弟はいないはずだし……もしかしてー、」
 防犯上モニターは室内側の付いていない。声質で判断された……のは良かったんだけど。
「あのっ。……圭、今いないんです」
「まぁ! そうなの? 嫌だわどうしましょーう」
「……圭と、お約束でも?」
「ううん。思い立ったから来ちゃったぁ」
 あっけらかんと、言い放ったのに唖然としたのを覚えている。“あの人”────雪菜さんは出会ったときからそうだった。

 こうして押し問答の末僕は圭の言い付けを初めて破った。今考えても、雪菜さんの口車に乗せられたんだ。だけど、今は感謝してる。

 あのときドアを開けたから、今の僕がいるんだ。

 今の、圭を心から愛する僕が。

 ドアを開けた瞬間。困惑顔の僕を見て雪菜さんが凝視して固まった。そうしてから、零したんだ。ぽつ、と雨が降り出すときの一粒みたいに。

「“侑生”……どうして」

 真意で僕に投じられた、一粒だった訳だけど。





   【Fin.】






 僕の自我。
 僕の人格形成。



 僕が、『僕』になった、行程(工程?)。



2010.09.12(執筆公開)

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