第二章 1 どういうつもり
博士と旅行ということになっているので、家に人の気配があるとまずいと思いほとんど地下に引き籠っていた。
ただ、半分は謎の隣人への警戒心だ。
本当は昼間ちゃんと陽があたる場所で過ごすべきかもしれないと思う。
彼はそういう生活をしているのだから、その方がより近い条件でのデータが得られるというものだ。
またインタ-ホンが鳴った。ちょうどコーヒーをいれに地下から上がってきたところだった。
元日からやってくる新聞の勧誘や怪しげな宗教団体はまずいない。宅配便が届く予定もなく、うちへ訪ねて来そうなひとたちは、皆留守だと思っているはずだ。
そうなると思い当たる人物はひとりしかいなかった。
わざわざコーヒーをいれさせておいて、半分ほど飲んでそそくさと帰って行ったのがほんの2時間ほど前のことだ。
そんなに暇なのだろうか。
放っておこうかとも思ったが、とりあえずモニターを見てみる。
街灯に照らされた彼が、何事もなかったかのように満面の笑みを浮かべて映っている。
「ウソでしょう」
思わず口に出た。やはり私は舞い上がっていたのか。それとも疲れていたのか。
疑ってもいたのに、そこで考えるのをやめてしまっていたのだ。
そんな私の心中を知ってか知らずか、彼はカメラ越しにVサインまでしている。
躊躇ったのち応答はせずに玄関へ直行した。
ドアを開けると、彼は外は冷え込んできたとか言いながら入ってきて、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま靴を脱いでスリッパを履く。
冷え冷えとしたリビングは通り過ぎ、迷わず地下へと下りて行く。
私は呆気にとられながらも彼の後を追いかけた。
「どういうつもりなの。あなた自分が何をしたかわかっているの」
彼は私の部屋へ入り、手はポケットに入れたまま作業テーブルの上の医療器具やファイルを見て回る。
「なんかデータとるんだろ。俺も手伝うからさ。
血中濃度?成分?さっきおまえがやったとか言ってたやつ」
「私の話聞いてなかったの」
怒りで身体が震えだしそうだった。
今回の私の計画はなんのためだったのか。
彼は私が言うことは右から左という感じで、採血キットを手にとって、これか、と尋ねるように翳してみせる。
「とりあえず話はあとでもいいだろ。こいつを先に終わらせようぜ」
私はしばらくじっと彼を見ていた。腹立ちが収まるはずもなかったが、何もしないよりは彼の言うとおりにすべきだと自分ではわかっている。
彼には何も答えずにパソコンの前に立って屈み、予定にはなかった彼の検査時の条件を入力し始める。彼がすぐ後ろに来て画面を覗き込んだ。
私は横を向いて彼、工藤新一を見上げて言い放つ。
「心拍と脈拍ぐらい自分で測定できるわよね」
やっと新志のふたりが揃いほっとしています。新志を読みたくて来てくださっていた皆さま遅くなってスミマセン。
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