第四章 9 悲しい予感
今日はずっとはっきりしない天気だ。降りそうで降らない。
念のため持って出た傘はこのまま使わずにすみそうだった。
日が射していないので気温はとても低い。
時折吹きぬける冷たい風は、ひゅうと音をたてて私の髪を舞い上げる。
出かける時一度通った道を今は反対の方向から歩いている。それ自体はいつものことだが私の胸は騒いだ。
朝あのひとを見てしまったからだ、この場所で。
私は冷たくなった手をマフラーの結び目にやると見慣れた洋館を見上げた。
ニ階の大きな窓に今朝はなかった人影があった。思わずあっと言って立ち止まる。
新一はたまたま外を見ていたらしくすぐに私に気がついた。
指で窓をつつくようにしながら私に何か呼びかけている。
「今下りるから待ってろ」と新一の唇が動いたように見えて、姿はすぐに部屋の奥へ消えた。
どうしよう。
知らないうちに私は後ずさっている。
何か決定的なことを言われてしまうのでは、という気持ちが身をすくませている。
けれども何もかも元通りになっているかもしれないという淡い期待も心の隅にはあった。
迷っているうちに新一は玄関から出てくる。
薄手のグレーのセーターの上に何も着ていないところをみると、込み入った話ではなさそうだ。少しほっとした。
「部活の帰り?」
「うん。テストが近いから今日は午前中だけ。新一は……まだこっちにいたんだ」
「ああ、まあな。いろいろ面倒なことがあって」
新一は曖昧に答えてから手刀を切った。
「悪い……コナンに電話させるって言ったのに……」
「ああ、コナン君なら昨日あのあと話したよ」
「ええっ?」
私の方がびっくりするぐらい驚いている。
「一回かかってきたんだけどね、出る前に切れちゃって。何回かかけ直したらやっとつながったの」
「へ、へえー。な、なんか言ってたか」
妙にたどたどしく聞いてきた。
「別にたいした話はしてないよ。でもコナン君、なんだかいつもと違う感じだった……。ごめんねって謝ってばっかりで……」
「そうか……」
新一は一度目を伏せてからまた私を見る。
「他には?」
「ううん、特には何も。あと少しだから、とか、もうすぐ帰る、とか。そんな感じの事言ってたような……。
ああそう、必ず帰るからなんて言うから、ちょっと変だなって思ったの。コナン君、何かあったのかな……」
ゆうべも感じた不安がまた胸によみがえってきた。
「いや、たぶん何でもないだろ」
新一は笑い飛ばすように言った。
「大丈夫だって。あとニ、三日もすりゃあ戻ってくるんだろ。学校だって始まるんだし」
「そうだよね。博士や哀ちゃんも一緒だし。哀ちゃんのお姉さんだってこっちで待ってるんでしょ。今日は出かけたみたいだけど」
新一の顔色がすっと変わったのが、私にははっきりとわかった。
「出かけた?灰原が?」
大声で聞き返され私はびくりとなりながらも、もう一度今朝ここで見た光景を思い起こす。
あのひともジャケットやコートなどは持たずに出てきた。門の前に黒い車が横づけされていて、中から誰かに手を引かれて乗ったように見えたのだ。
それを話すと新一はいきなり眉を吊り上げて、私の両肩をつかんだ。
「それってまさかポルシェ356Aじゃないだろうな」
新一の形相に思わず言葉に詰まる。
また風が吹いて通り抜け、私は片方の手で髪を抑えた。凍りつくようなその風は、一瞬で新一の心までもどこかへ運んでいってしまったような気がした。
こんにちは。
ここまでお読みの皆さん、いつもありがとうございます!!
久々に蘭ちゃんに登場してもらいました。
今日は冬のような天気で…。
寒ーい風が吹いてるシーンをチェックしながら、書き始めから季節が一巡しようとしている事を実感(>_<)
次もがんばります。
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