第四章 8 迷い込んだ場所
彼が自宅へ帰ると言い出したのは突然だった。
一度発作が起こった後であったから当然経過が気にかかる。
しかし彼はあっというまに帰り支度をするとダウンジャケットを着てしまい、足早に裏口へ向かった。
私は急いで彼の後を追いつつ、体調が悪くなった時はすぐに連絡するよう早口で念を押した。
彼は適当に相槌を打ちながら自分が倒れていた場所まで来ると、「じゃあな」と言い残して私の返事も待たずに行ってしまったのだった。
部屋へ戻ってくるとテーブルの上に博士のアルバムが置いたままなのが目に入り、彼が気を遣って帰ったのだと初めて気がついた。自分がいない方がしやすい話もあるとでも思ったのだろう。
実際博士と私は深夜まで話し込んだ。
博士が話してくれた父の学生時代のエピソードは、どれも初めて聞くもので私には新鮮だった。
その頃作った発明品で二人で仕掛けたちょっとした悪戯や、学食での好物や思いを寄せていた女性のことや。
やがては組織から目をつけられ、マッドサイエンティストと呼ばれることになる父のイメージからは想像もつかない事ばかりだった。
今から思うと、博士はそういう話だけを選んで聞かせてくれたのかもしれない。
父の写真を見たのはもちろん初めてではない。お姉ちゃんが何枚か持っていたからだ。
けれども私の方から、見せてほしいとか何枚か分けてほしいとかいう事を頼んだことはなかった。
私の中には常に二つの気持ちが同居していたのだ。
写真を見たくない私とペンダントを肌身離さず持っていた私。
お姉ちゃんと私を組織に置き去りにして死んでしまった両親への苦い思いと、何度打ち消しても募る恋しい気持ち。
きっと彼にはわからないだろう。
私が生まれた時からいた場所のことも。
生きているのに理由を求められる人間の気持ちも、そんな自分の運命を呪う気持ちも。
何度思ったか知れない。
この異常な毎日がすべて夢であれば。
この救いようのない状況から抜け出すことさえできれば。
そしてあれほど逃げ出したいと思っていた悪夢のような日々は本当に消えてしまったというのに。
私が背負う現実は変わらなかった。
なぜ私は生き残ってしまったのだろう。なぜ家族の許へ行くことができなかったのだろう。
その答えを持っていたのは世界中で彼一人だった。
APTX4869の解毒剤の開発。
皮肉にもそれは長い間私がすべてを捧げてきた事とは全く逆の事だったのだが。
彼に会って私はまだ生きていていいのだと思った。解毒剤を作れる人間は私しかいないのだから。
彼からまたメールが届き私は我に返る。
帰り際の彼は意外に私の話を聞いていたらしく、昨夜も今も体調を報告してきている。
どうやら身体の方は心配ないらしい。
今朝はのんびりと起きた私は彼に遅めの朝食を誘うメールを送り返した。彼からはすぐに「朝はいいから昼飯はよろしく」と返信されてくる。
もう九時近くになっていたから、済ませてしまったのかもしれない。
彼がやって来たら昨日彼女からの電話に出たことを話さなくては。昨夜は言いそびれてしまった。
彼が意識を失くしている間、江戸川コナンの携帯が何度も鳴っていたのだ。
電話の向こうで彼女が(彼女自身そうとは知らずに)彼を心から心配してることを感じ、胸がキリリと痛んだ。
「なんだかいつものコナン君とは違う人みたい」と彼女が可笑しげに言った言葉が耳に残る。
あれこれ考えるうち、家の前に車が停まる気配がした。
エンジン音が止まり、ここには来客などあるはずがないのに、と思わず耳をすませる。
私は開いた携帯を手にしたまま門が見える窓に近づき、レースのカーテン越しに外を見た。
見覚えのある人物が車から降り立ったところだった。
こんにちは。ここまで読んでくださっているみなさんありがとうございます<m(__)m>
今回ちょっと更新早くないですか!?
(↑いや、そんなことないです^^;)
このあとラストまでの流れもはっきり決めました。
まああらすじは前から決めていたんですけど…。
第何章何話が誰視点でエピソードはここからここまで、みたいな感じで。
文章自体はまだ1/3ぐらいしか書いてないですけど。
というわけでやっと私にもラストが見えてきました(#^.^#)
年内完結を目指して…はいるけどムリかな…。
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