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  The reason 作者:Liah
第四章 1  休息
「とりあえず横になった方がいいんじゃないか」

彼女を抱き起し身体を支えるようにしてベッドまで連れて行ったが、足取りがおぼつかない。

「本当に副作用ってことはないんだな」

ベッドに横たわった彼女に毛布をかけてやりながら尋ねた。たとえそうだとしても俺には成す(すべ)がない。しかし血液検査の結果から、可能性は限りなくゼロに近いと聞いて安堵した。風邪ならば休養と栄養を十分にとればすぐによくなるはずだ。
俺は博士が持って来た体温計を渡してからもう一度彼女の額に手を当てる。

「喉も痛いし、ただの風邪よ」
「この季節ならインフルエンザってこともあるじゃろ。それじゃったら医者に行った方が……」
「ずっと引き籠ってたんなら違うだろ。俺は全然そんな症状ないし」
「それもそうじゃな。他には誰にも会っとらんのじゃろう」

俺はあっと思い出し、蘭もここへ来ていたことを博士に話した。
すると博士は蘭に電話で聞いてみてはどうかと言う。

「じゃあ博士かけてみてくれよ。ほら、コナンの近況報告がてら元気か、とかなんとか」
「それじゃったら新一君が自分でかければいいじゃろ」
「い、いや俺はいいよ」
「ははーん、やっぱり喧嘩したんじゃな」
「んなことねーって」

俺は慌てて否定してから彼女の方を見てみた。彼女は寝返りを打って俺たちに背を向ける。なんとなく何か誤解されたような気がした。

「こんなことで彼女に電話するなんて、どうかしてるんじゃない。どっちにしても、抗インフルエンザ薬は使えないから」

横になったことで、息切れは治まってきたようだ。

「使うと副作用が起こるって事か」

俺がベッドの反対側に回り込むと、彼女はまた身体の向きを変える。俺に顔を見られまいとしているかのようだ。

「可能性がないとは言えないわ。手に入らなくて、マウスでの実験はできなかったから」

いつも使っている市販の風邪薬と解熱剤は問題なかったのでそれを服用する、と彼女は言う。

俺はパソコンデスクの椅子を押してきて、彼女のベッドの脇に陣取った。
博士は、氷枕はどこだったかなどと呟きながらリビングを出て行く。

「落ち着かないから向こうへ行っててくれない」

彼女はほとんど顔が隠れるほどに布団を引きあげ、相変わらず俺の視線から逃れようとしている。

「さっきの話だけど、別に蘭と喧嘩したからとか、そういうんじゃないから」
「何の話」
「とにかく本気だから、俺は」

彼女は(そむ)けていた顔をこちらに向けた。

「つい昨日かおとといまでは、彼女一筋だったのに?」

本当の事なので何も言い返せない。

「それなのに、あなたは明日もあさっても今と同じ気持ちでいられると思うの?」

博士が氷枕を見つけ出したらしくキッチンへ戻ってきた。
ガラガラと氷をすくう音がしてくる。

「俺はそう思ってる」

カウンターの向こうで博士が手招きしている。その顔を見ると何やら問題が発生したらしかった。仕方なく博士のところへ行くと、声を落して薬を持ってきてほしいと言う。
彼女が言っていた『いつも使っている風邪薬と解熱剤』は、博士が北海道へ行く時に荷物に入れ、そのまま忘れてきてしまったらしい。

「何しろ慌てて帰ってきたからの。
買いに行ってもいいんじゃが、外に出て蘭君に出くわしてもまずいんじゃろ。君ももちろん出かけられんし」

そこで以前俺が博士からもらった同じ薬を持ってきてほしいということだった。

考えてみると博士にはとんでもない迷惑をかけてしまった。いつも協力してくれるのを当たり前のように思っていたが、博士もこの先ずっと独身というわけでもなさそうだ。無茶を言うのは控えなければならないかもしれない。

「悪かったな。せっかくのフサエさんとの休暇だったのに」
「なあに。君に心配してもらわんでも、わしは哀君のために帰って来たんじゃからな」

博士の言葉で俺は昨日の電話で感じた違和感の理由を思い出していた。

「なんじゃ。どうかしたのか」
「いや、何でもねーよ」


自宅へ戻ると風邪薬と解熱剤は救急箱に残っていた。誰もいない家の静けさは、俺に幾分落ち着きを取り戻してくれた。
早く届けなければと思いつつ、頭を整理したくてソファに座る。
部屋は既に冷え切っていた。この部屋を出た時と今とでは、自分と彼女の関係は違うのだと思った。
そして今は他にも気がかりがある。

しばらく考え込んでいたが、手足が冷たくなってきた事に気がつき立ち上がった。

ここ数日は毎日出入りしている裏口から博士の家へ入る。泊まり込むかもしれないと着替えも持ってきた。

リビングの入口に立つと無意識に彼女を探して部屋を見渡している。

テーブルには三人分の飲みかけのコーヒーと土産のクッキーがそのままになっていた。
カウンターの隅に立てられた電話の子機は充電中のランプが点灯している。
博士はそこら中に旅行の荷物を広げ、遅かったの、と顔を上げる。
彼女のベッドは空になっていた。

「薬がなかなか見つからなくてさ。灰原は?」

彼女はリビングは落ち着かないと地下へ移動したという。

地下室のソファは背もたれを倒すとベッドとしても使えるが、リビングのものより寝心地は悪そうだ。それでも自分の部屋がいいと言ったらしい。

薬と水を持って階段を下りて行った。ドアをノックしたが返事はなく、音がしないよう静かに開けてみる。
彼女はベッドで頭の下に氷枕をあてがい、眠っているように見えた。
棚の上にグラスと薬を置きそっと近づいたが、彼女が起きる気配はない。

俺はベッドの端に腰を下ろして、彼女の顔を覗き込んだ。

目はかたく閉じられ、長いまつげが呼吸に合わせて微妙に揺れている。
手をのばしてやや赤い頬に触れると、まるで熱が下がっていないことがわかる。
そのまま髪に指を滑らせて顔を近づけた。

すると彼女は突然ぱちりと目を開いた。
俺は声にならない声をあげて、飛び退()くようにして彼女から離れる。

「びっくりさせんなよ」
「ねえ、今何か変な事考えてた?」
「か…考えてねーよ、何も」

俺はむっとして問いただす。

「いつから起きてたんだよ」
「ノックの音で目が覚めたけど」
「寝たふりなんかすんなよ…。返事ぐらいすればいいだろ」
「でも……」

彼女は眉をひそめてこめかみに手をやる。

「熱で辛くて……」
「おまえなー」

あきれて言葉が続かなかったが、彼女がいつもと同じ調子なのにほっとした。
すると不意に笑いがこみあげてくる。

「何よ、気持ち悪いわね」
「そういえば薬、持ってきてやったんだぜ、わざわざ」

彼女が肘をついて身体を起こそうとするが、その動きはあまりに緩やかで、思わず手を差しのべる。博士が北海道に薬を忘れてきた話をしながら、水の入ったグラスと薬を手渡した。
彼女は怪訝な顔で、薬はあったはずだと言う。

「そうなのか?」

彼女は薬を飲み干すと俺にグラスを返した。俺はそれをパソコンデスクに置いて、彼女の身体を抱えるようにしながら横たわらせる。

そして彼女の足許に座り息をついた。話したいことはいくらでもあったが、今は彼女を休ませるべきだと思った。

「余計なこと考えないで寝とけよ。寝るまでここにいてやるからさ」
「かえって心配事が増えて眠れないと思うんだけど」

(なか)ば予想した答えだった。

「じゃあ具合悪くなったら呼べよ。また様子見に来るけど」

俺は立ち上がってドアを開けた。

「だってうつるでしょ」
「へ?」

振り向くと彼女は既に俺に背を向けてまた眠ったふりをしている。
今聞こえたのは空耳だろうか。いや、そうではない。

部屋を出てからその言葉の意味に思い当たるまで、俺はしばらくドアの前で思い悩むことになった。






昨夜のうちに更新するつもりでしたが、眠くて挫折しました^^;
今回かなり長くなってしまってだいぶ削ったのですが(T_T)結局また書き足してしまい長くなりました(*_*;

前に削ったせいで意味わかりにくくなってるかな〜と、ちょっと心配です(>_<)

長らくお付き合いのみなさん、本当にありがとうございます。
PVが123000アクセス、ユニークで31000アクセス突破しました。
感想と合わせて大きな励みになっています。みなさんがいらっしゃらなかったら、たぶん蘭ちゃんが新一の家でピンポーンしたあたりで、挫折していたと思います^_^;

このあとも事態は動いていきます。頑張りますのでよろしくお願いします(*^_^*)


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