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  The reason 作者:Liah
第三章 4  会いたくて
もしも何故彼女にメールしたのかと問われれば、美しい雪景色を真っ先に見せたかったから、としかいいようがない。

悪い予感はあたっていた。
朝目が覚めて最初に考えたのは彼女のことだった。今俺の頭にあるのは彼女の事ばかりだ。

カーテンのわずかな隙間からはキラキラとした陽光が差し込んでいた。
ベッドを下りてカーテンを開けると一気に部屋は明るくなり、思わず俺は手をかざして一瞬目をつむる。外は一面積もった雪が日の光を受けて、(まばゆ)く輝いている。
俺は何度も瞬きをしながら顔をやや横に向けて、目を細めてちらりと窓の向こうを見る。
昨日とは違いすっきりとした青空が広がっている。

しかし俺の中では、昨日も今日も胸の奥に何か詰まったような苦しい感覚が続いている。それは食欲さえも失せてしまうほどだ。
朝食もとる気にならず、コーヒーだけを胃に流し込んだ。

俺はどうかしている。彼女に恋をするなんて有り得ないことだ。

何度もそう自分の心を否定してはみるものの、ではそうでなければ今の気持ちは一体何なのだ、と思う。絶えず彼女との会話が蘇り、彼女の物憂げな顔を思い出し笑った顔が心に浮かび、気がつくと彼女の事を考えている。

蘭を好きなのは本当だ。
子供の頃からずっとそうだった。一人の女性として確かに好きだったのだ。
今でも蘭の事は変わりなく大事だし、好きだとも傷つけたくないとも思う。

しかし彼女に対する感情は、蘭への気持ちと同じではなかった。物心がついた頃から俺の一部分にずっと居続けた蘭とは違い、もっと刹那的に彼女は俺の心を支配した。

蘭を傷つけてしまったことで自分への嫌悪感が募る一方で、彼女は俺のことをどう思っているのだろう、などと考えている。
やはり今の俺は普通ではない。
あんなに不機嫌だったのは、もしかして蘭とのことを嫉妬したからではないか。俺の自惚れだろうか。他にも思い当たることはないだろうか。
そんなことばかり考えている自分を止める事はできなかった。

何度か彼女のことを頭から追い出そうと試みた。
今考えなくてはならないのは、彼女のことより蘭のことだからだ。

無論あの後蘭がどうしているのかは気にかかる。メールをしてみようかとも思ったが、結局はやめた。
蘭が待ち望んでいるのはたった一つの言葉だけだ。それ以外の言葉を何十、何百と並べたところで今の蘭には何の意味もないだろう。

俺は携帯を開いて手に持ったまま、まだ迷っている。
画面を眺めるうち、やがてそれは暗くなる。
適当なボタンを押すとまた画面は点灯し、彼女の名前と電話番号が表示される。

そこにある偽りの名は、数十時間前より遥かに特別な意味を持って俺を息苦しくさせる。

会えばまたケンカになってしまう気がした。
だがすぐに会える場所にいるのに、このままここでじっとしていることはできなかった。

さんざん悩んだ挙句、俺は発信ボタンを押した。
ただ電話をかけるだけだというのに胸の鼓動が速くなる。
俺の胸の内など知るはずもなく、彼女はあっさりと電話に出た。

「もしもし」

彼女らしい落ち着いた声だった。自分も普段通りに話せるだろうか。

「あ、俺だけど」
「着信画面を見た時から知ってるけど。何?」

相変わらずの棘のある言い方に苦笑する。

「えーと、実はちょっと話したいことがあって」
「だから何?」
「あのさ、昨日は悪かったな。朝飯準備してもらってたのに行けなくて」
「別にあなたの分まで作った覚えはないけど」

やはり彼女はいつものように強がりを言った。
だがいつもとは違って、今日はそんな彼女がどうしようもなくいじらしく思われた。
俺が気づいていたことを、彼女自身知っているはずだ。

「会いたい」

思わず口にしていた。

「い、いや会ってちゃんと謝りたいし」

慌てて付け加える。

「別に必要ないわ」

無愛想に答える彼女の声に、俺が期待するような気配を感じ取ることはできないか、緊張して彼女の言葉に集中する。

「言ったでしょ、あなたみたいに暇なわけじゃないって。それに今日は疲れているの」
「けど検査もした方がいいんだろ。残りの解毒剤も返さなくちゃいけないし。失くしたりしてあとでおまえに文句言われるのも嫌だからよ」

最後に彼女は大きな溜息をついてから言った。

「じゃあ好きにしたら。鍵は勝手に持っていったんでしょ。とりあえず窃盗罪で通報しておくから」
「おう、じゃあな」

彼女の気が変わらないうちにと思い、最後の皮肉には反応せずにそそくさと電話を切った。彼女が携帯を手に目を丸くしているさまが目に浮かんだ。






こんにちは。更新が遅れてしまいスミマセン。
次の話が先にできてしまったので、同時に更新します。
よろしければ続きもご覧になってみて下さい。
ここまで読んでくださってありがとうございます。


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