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  The reason 作者:Liah
第二章 13  決裂
彼はまた私との約束を破っている。
何の用か知らないが電話に出なかった事で、私が無視するつもりだと理解したらしい。

渋々玄関のドアを開けた。
白いダウンのコートと黒のダウンジャケットが目に飛び込んでくる。
それらは生地の光沢もデザインもまるで違うのに、ベージュとブラウンが混ざったファーだけは、同じような色合いとボリュームでフードにぐるりとついている。

彼はしてやったりという顔をしていて、対照的に彼女はぎこちない笑みを浮かべ、こんにちはと会釈をする。
その両手にはピンクの包みがある。

昨日はすみませんでした、と彼女がもう一度頭を下げた。

「これ、おせち料理なんです。私が作ったんですけど…あ、いえ、買ったものもあるんですけど。よかったら灰原さんもどうぞ」

彼女はピンクの包みを私に差し出しつつ、私と包みを交互に見ながら言った。
私は彼女の顔を見て、次に彼に視線を移した。

「せっかくだから貰っとけよ。おまえ正月っぽいこと何もしてなかったろ」

わかっていない。
やはりこのひとは何もわかっていないのだと思うと、不意に沸き上がった苛立ちを隠す事ができなかった。
私は露骨に顔を逸らした。

「悪いけど持って帰って。こういうこと、したことないから」

二人は瞬時に凍り付いたが、私にはまだそれを見届ける余裕があった。そのまま彼らを玄関に置き去りにして、足早にリビングへ戻って来る。

テレビをつけてソファに座るが、無論見たい番組があるわけではない。
見覚えのあるタレントたちが晴れ着を着て、何列もあるクイズの回答席に納まっている。恐ろしくくだらないやりとりが観客の笑いを誘っている。
私がいる場所とは別世界で、今の私の何もかもが果たして本当に現実なのかわからなくなるほどだ。

彼がどういうつもりなのか全く理解できなかった。
私が暇を持て余しているとでも思ったのだろうか。

彼らは二言三言何か言葉を交わしていたようだったが、やがて彼だけが私を追ってきた。彼女は玄関で待っているらしい。

彼はずかずかと近づいてきてテレビ本体の電源を切り、私を見下ろした。本当に怒っているようにも見えた。

「謝りたいってわざわざ来てんのに、何なんだよ」

彼が彼女に聞こえないよう声をひそめるので、私もつられて小声になる。

「私がこの非常時におせち料理を喜ぶとでも思ったの?」
「確かに、どうかな、とは思ったけどよ。
蘭だって良かれと思って持って来たんだし、ウソでも一言ありがとうって言えばすむことだろ。
何怒ってるのか知らねーけど八つ当たりすんなよ」

あまりの言い草に思わず目を(しばたた)いた。今朝彼からメールを受け取った時のやるせない感情が蘇る。

私は怒りにまかせて口走っていた。

「あなたが愛しの彼女に気を遣うのは勝手だけど私を巻き込まないで。
おせち料理なんて貰ったって、私には一緒に囲んで過ごす家族もいないのよ。この世には一人もね。
私はあなたや彼女とは違うの」

彼はおそらく話が飛躍しすぎとでも思っているのだろう。唖然としている。

「大体あなた、私が何のために薬を飲んだと思ってるの。
あなたみたいに暇なわけじゃないの。いろいろあるのよ、やらなくちゃいけないことが。
それなのにどうして彼女にまで気を遣わなくちゃいけないの」

彼はまだ沈黙している。

「私はこうしている時間も惜しいの。どうしてそんなこともわからないのよ。
これ以上邪魔しないでくれる」

気がつくと彼の視線は私からそれて、カウンターの奥へ注がれている。
今朝作ったスープの鍋は、手付かずのままコンロに置かれていた。
調理台にはカップボードから出しておいた食器類が、二組ずつそのままになっている。
どうしても片付ける気にならなかったのだ。

彼がそれらを見ているとわかった瞬間、血が逆流したような気がした。

「帰って、工藤君」

私は立ち上がって、彼の視界を遮るように詰め寄った。彼が後ずさるまま私はもう一歩踏み出す。

「帰って」

すると彼は無言でいきなり私の片手を取った。

「な、何?」

咄嗟に振りほどこうとすると、彼はジャケットのポケットから小指の長さほどのボトルを取り出す。彼の血液と思われる赤黒い液体が僅かに入ったそれを、私の掌におくと包むようにして握らせる。

どうやら採血キットまで勝手に持ち出していたらしい。

「わかったって。帰るから」

まるで私をなだめるように言うのが余計に勘に触った。
しかしそれよりも、これ以上彼の前にいることは耐えられない。私は彼と視線を合わせられず、今彼が触れたばかりの自分の手を見つめているしかなかった。

やっと彼は背を向けて、部屋を出ようとドアを開けてから立ち止まる。

「俺が帰ったら、ちゃんと玄関ロックしとけよ」

昨夜の別れ際と同じ息苦しさで胸がいっぱいになった。

私が俯いたまま何も答えられないでいると、彼は後ろ手にドアを閉めて出て行く。
また玄関から二人の話し声が聞こえたが、ガチャンとドアの音がしてそれも途絶えた。

早くひとりになりたいと思っていたのに、自分だけが静寂の中に取り残されたかのようだった。

息苦しさがどんどん募っていくのと同時に、私は自分がひどく惨めに思われることを認めるのが嫌でたまらなかった。








また更新が滞ってしまいすみません<m(__)m>

話が進まない上に日にちもあいてしまい、皆さん灰原さんが朝ごはんすっぽかされたこととか前日の別れ際の事とか覚えていらっしゃいますかね^^;
???の方はお時間あれば第二章9、10あたりを見ていただくとわかります。
ここまで付いてきて下さっている皆さま、本当にありがとうございます。次もがんばります。


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