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  The reason 作者:Liah
第二章 10  思い出すのは…
この季節、朝の訪れは遅い。

さほど早く起きたわけではないのに、朝食の準備を始めようとキッチンへ立った時には外はまだ薄暗いようだった。
はっきり何時にとは決めなかったが、朝目が覚めたら検査のついでに朝食はうちで一緒に、ということになっていた。

もともと超がつくほど夜型の私は、朝は苦手で5分でも長く寝ていたいタイプだ。
当然朝食も至極シンプルで、普段はトーストとコーヒーだけで済ませることも多い。

今朝は寝不足のはずなのに、ひさしぶりに元の身体でいられるせいか気分がよかった。だから私はいつもよりほんの少しだけ頑張ることにする。

人参、玉葱、じゃがいもの皮をむき刻んで茹で、缶詰のクリームコーンと牛乳を加え味を調える。栄養のバランスと彩りのために軽く塩茹でしたブロッコリーを細かくして、あとで加えるため皿に取り置きラップをかける。
サラダがわりにフルーツを添えることにする。
キーウイは皮を剥いてスライスし、オレンジは1/6にカットし皮を剥くように半分切れ目を入れる。リンゴは簡単な飾り切りをして色が変わらぬようレモンを搾ってふっておく。
卵もあるしハムもウインナーも冷食のハッシュドポテトもある。
それらは彼の希望を聞いてから調理すればよい。
あとは焼きたてのトーストにバターをのせれば、手間はかけずとも見栄えはそれほど悪くないはずだ。

彼が和食派だった場合については考えないことにする。何も食べないよりはマシだろう。

下準備を終えて手を洗っているとカウンターに置かれた彼の腕時計が目に入った。昨日私を手伝おうとしてはずしたあと、そのまま彼が忘れていったものだ。
自然に昨夜の他愛もない出来事が思い出される。


玉葱の皮を剥くという重要だが幼児にもできる平易な作業を命じられた彼は、ふてくされた顔をして何か文句を言いたげだった。
さすがに今度は難なくこなしたが、あとは出来上がったものをテーブルに運んで並べるぐらいしか、彼にできそうなことは思いつかなかった。

私がそれをやんわり伝えると、彼は私とカップボードの間をすり抜け、カウンターの向こう側のスツールに腰をかけた。幾分拗ねているようにも見える。
彼はカウンターにぺたんと両腕をついて重ねた手の甲に顔をのせると、私がオムライスを作る過程をずっと見ていた。

「ちょっと、工藤君」
「ん?」
「じろじろ見られると、やりにくいんだけど。向こうでテレビでも見ててくれない」
「嫌だ」

邪険にされて意地になっていたらしく、彼はそのまま見物を決め込んだ。
フライパンいっぱいに拡がる半熟状の卵に、できたばかりのチキンライスを片側に寄せるようにのせる。皿の上でフライパンを傾けると、反対側の卵を菜箸で被せる。形を整えながら滑らせるように反転させ皿に盛り付けた。
ふと顔を上げると、彼は身を乗り出すようにして見ている。

「あら、珍しい?彼女だって作ってくれるでしょ」
「作ってるとこなんかいちいち見ねーよ」

私が湯気の上がるオムライスやスープをカウンター越しに彼に渡し、彼はそれらをテーブルに運んだ。既にサラダやお茶、スプーンやフォークは彼が並べ終えている。
彼は先に座って私を待っていた。


まだ彼が来る知らせもないので一度ソファで横になる。するとやはりすぐに(まぶた)が重くなってきた。
昨夜は相当遅くまで善後策を話し合っていたからだ。しかし思い返すと無駄話も長かった気がする。
夜更かし自体は慣れていたが、さすがに昨日のような怒濤(どとう)の一日のあとは、まだ2、3時間は眠りたいところだ。

彼は今日一日彼女と二人きりでいろいろなことをうまくごまかせるだろうか。
昨日の彼は、おそらく突然彼女が現れたせいでしどろもどろになってしまい、話の辻褄を合わせるのに苦労した。
あまりの動揺ぶりに、浮気してもすぐにバレるタイプ、とからかったのだが、彼はついに意味が分からず終いのようだった。

少しなら眠っても良いと思い眼を閉じた。


彼は帰り際になってから、窓やドアの施錠をすべて確認すると言いだした。私が玄関以外は開けていないから大丈夫と言っても聞かない。
彼は自分で見た方が安心できると、リビングの窓から鍵を一つ一つチェックし始める。

「ちょっと」

私は壁にもたれて腕を組み、目を細めてその背中に声をかけた。

「そんなこと言ってどこか鍵を開けておいて、また不法侵入するつもりじゃないでしょうね」
「んなわけねーだろ」

彼は振り向きながら言い返す。
私がくすくす笑うと彼は聞こえよがしに、ったく誰のためだと思ってんだよ、とか、一言の礼もなしに出てきたセリフがそれかよ、などとブツブツ言っている。

やがてその確認作業も終わり、裏口で彼を見送りドアもロックしたというのに、私はそこから離れる事ができないでいた。
彼が言った些細な冗談が、私の心を揺さぶっていた。そしてまだ彼が帰って行く足音さえしない事が、一層その場を去ることを躊躇(ためら)わせている。

私は不意に息苦しくなり、心が押し流されてしまいそうな感覚に陥った。
そんなはずはないのに彼の温もりが伝わるような気がして、私はただ冷たいだけのドアに額を押し当てていた。


テーブルに置いた携帯が震動している。電話ではなくメールだ。彼にはうちへ来る時は必ず10分前までには電話をいれるよう言ってあるのだが、メールとは。

開いてみるとやはり彼からで、慌てていたらしく全て平仮名のまま打たれている。そこには検査にも朝食にも来られなくなったことが、誤字混じりで表示されていた。






こんにちは。お読み下さったみなさんありがとうございます。
ちょっと更新が遅れました。私以外の家族が全員風邪(症状はバラバラ)で会社や学校を休んだりしまして^^;

みなさんは大丈夫ですか。学校や職場へ行っても家に帰ってもウイルスの巣窟なんてことになっていませんか。
お互い気をつけましょう。

近いうちに、アニメネタバレ云々の前書きを削除します。目次にはまるで書き直したかのように表示されますが、本文は変わっていませんのでスルーでお願いします。



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