第二章 5 タクシー
タクシーが拾える通りまで送ってくれるのでは、と内心期待していたが、新一は玄関先で「気をつけて帰れよ」と言ってくれただけだった。
手を振って応えてから、とぼとぼゆっくりと歩きだす。
外に出ると風は弱まっていたが、空気は冷たく頬をさすようだった。天気予報で、今夜は冷え込むと言っていたのを思い出す。
角を曲がる前に一度立ち止まり振り返ってみたが、誰もいない路地が見通せるだけだ。
博士の家は巨大な窓から灯りが洩れていて、二人が地下室からリビングへ移ったのだとわかる。
闇に白いコンクリートの建物が全体的にぼんやりと浮かび上がって見える。
あの中に新一とあのひとがいるのだ。
新一と他の誰かを二人きりで残してくることがこんなにも苦しいことだなんて。
もう混乱して何が何だかわからなかった。
園子から電話をもらった時は、あんなにも舞い上がっていたのに。
たった今新一に会ったばかりとは思えないほど、気持ちはどん底といっていいところまで沈んでいた。
タクシーに乗った時、やはり新一は追って来なかったのだと思うと泣き出しそうになり、行き先を告げるのがやっとだった。
あの灰原という女性はいったい何者なのだろう。
哀ちゃんの姉と言っていたがそんな話は聞いたことがない。
あのひとも博士の家にいっしょに暮らしているのだろうか。
新一の依頼人というのはなんだか本当の事とは思えない。
二人を取り巻く空気は、気のおけない友人か、そうでなければそれ以上の関係のものに思えた。
打ち合わせはこれからなんて言ってたけど、それならあの時何を言い争っていたというのだ。話は少し聞こえてしまったが、何の話なのかわからない。
少なくとも探偵と依頼人の会話には聞こえなかった。
それに新一は私と会う約束をするのさえ、お伺いを立てるようにいちいち彼女の反応を気にしていた。
二人は付き合っているのだろうか。
そうではないと思いたい。
でも私の心は警告音を鳴らしている。これはかなりまずい事態だと。
ずっと会いたくて、確かめたくて、でも会えなくて。
それは辛くて苦しい時間だったけれど、新一が帰ってさえ来れば何もかもうまくいく、そんな予感が私を支えてきたのだ。でもそれは私の思い込みだった。
タクシーの窓に水滴が幾つもついて横へ流れていく。道を行く人は傘をさす。
外を流れる景色はいつもと少し違う。
初売りの旗を掲げて大々的にセールをしているところもあるが、シャッターを閉じてしめ飾りを飾っただけの店も多い。開いている店もこの時間はもう客が少なく、早々に片づけをしていたりする。人通りもまばらだ。
やがてみぞれも混じり始めて、気のせいかタクシーの中も少し温度が下がった気がする。
膝の上においたバッグの中で携帯がメールの着信を知らせている。取り出して見るとコナン君からだった。
こんにちは。ここまで読んで下さりありがとうございますm(__)m
はじめはかなり短かったのですが、蘭ちゃんの気持ちを考えるうち長くなってしまいました^^;
感想などいただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
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