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  The reason 作者:Liah
第二章 3  侵入者
彼女に指示されたとおり、腕時計をはずしてテーブルに置き、秒針を睨みながら心拍と脈拍を測った。しかし脈が途中でわからなくなり、またやり直すはめになってしまった。

灰原はそんな俺を見て笑うでもなく苛立つでもなく、一言も発しなかった。却ってそれが彼女の憤りの大きさを顕しているように思えてきた。

検査の最後には、無表情なままいきなり採血キットをパックごと放り投げてきた。それを片手でキャッチしながら、とりあえず謝っておくべきだと悟ったのだった。

「悪かったよ。別にふざけて飲んだわけじゃねーんだ」
「あたりまえでしょ。死ぬ可能性だってあるんだから」

彼女は、これまでやつらに見つからなかったのはただ運が良かっただけだとか、あなたの軽率な行動が周りの人たちを破滅させることになるだとか、まるでこれまでの鬱憤を晴らすかのように話し出すと止まらず、どんどん声も高くなっていった。

「べつに俺だって悪気があったわけじゃねーだろ」

どう言い訳したものか考えていたのだが、彼女の高飛車な態度にむっとして、逆ギレと知りつつ反論した。

「だいたい、もとはと言えばおまえがあんな薬作ったから、俺はこうやって解毒剤飲まなきゃ元の身体でいられないんだろ」

相当ひどいことを言ったわけだが、彼女は怯むどころか薄ら笑いさえ浮かべて近づいてきて、すぐ傍から俺を見上げる。

「ずるいひとね。それを言えば私が何も言えなくなると思って。
でも、それとこれとは別の問題でしょ」

非は自分にあるのだから当然言い負かされる。
いや、灰原相手ならこちらが百二十パーセント悪くなくても勝ち目はないが。

「あなたには東奥穂村の事件の後にも警告したはずよ。本当にわかっているの」

灰原の俺への攻撃が止みそうにないので、ついらしくない事を言ってしまった。
照れくさいので向き合ったまま視線だけは外す。

「俺も協力したかったっていうか…。ほら、おまえさっき苦しいって言ってたろ、元に戻る時。
俺もそれ、わかるからさ。なんていうか…おまえひとりだけに押しつけるのは悪いっていうか」

ちらりと彼女の顔を見ると、ややゆっくりと瞬きをしてじっと俺を見ている。

言った事は嘘ではない。実際そう感じたからこそ薬を飲んだのだ。

しかしそれだけではない。というよりはむしろ、本当はただ元の身体を取り戻したかっただけなのではないのか。
高校生の自分に戻った時はいつも、やつらに見つかるかもしれないという不安よりも解放感でいっぱいで、灰原の忠告もすぐにどこ吹く風となってしまうではないか。

彼女は少しトーンダウンしながらも言い返す。

「そんなの全然ありがたくなんかな……」

だが途中で大きく眼を見開いて口をつぐんだ。背後でひとの気配がする。

振り向くと蘭が立っている。
泣き出しそうなのに必死に笑おうとしている。そんな顔をしていた。

どういう流れで蘭がそこにいるのか、混乱していて全く推理できなかったが、浮かれてこの家へやって来た時、俺も灰原も鍵をかけなかったことだけは思い出していた。







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