初めてお越し下さった方へ
更新がとても滞っているのですが、どうぞよろしくお願いします。
CPは基本的に新志ですが、コ志・コ哀ぽい場面もあります。
また新蘭的な描写も一部あります。
それらが大丈夫な方はどうぞ本文へお進みください。
皆さまへ
気になる部分を順次訂正しています。ストーリー自体は変わっていませんのでスルーして下さって大丈夫です。
2011.8.30 Liah
プロローグ
西の空はもうすっかりオレンジ色に染まっていた。太陽は既に街並の向こうへ沈みかかっている。直に暗くなる。
暗くなればこんな身体で塾のバッグも持たずにうろついていては目立ってしまう。もっとも元の身体に戻ったところで一歩も外を歩けるはずはないのだが。
私はすれ違う人たちの間を縫うようにして足を速める。
車の列は信号が変わる度いくらかゆっくりと進む。半分ほどはもうライトをつけている。
通りは何処も彼処もクリスマスソングが流れ、ショウウインドウには暖かいファー付きのコートやパーティードレスが並んでいた。いたるところに赤や緑のリボンやリース、金色や銀色のベルやリンゴなどが飾られ、雪に見立てた大量のコットンがショウケースの淵を埋めている。
トナカイがサンタクロースを乗せた赤いそりを曳いていて、今にも空へ舞い上がるかのようなディスプレイだ。サンタが担ぐ白い大きな袋は、何が詰めてあるのかプレゼントでいっぱいのように見える。
この頃の時勢を思えば、行き交うひとたちの財布のひもは固いだろうが、それでも街全体が華やいだ雰囲気に包まれている。
恋人に贈るのか、雑貨屋で真剣なまなざしで何やら手に取り悩んでいるらしい女子高生。手のものを一度棚に戻し、別のものをとってまた考え込んでいる。
ビジネスマン風の男性が、両手で抱えてもまだあまるほどの大きなおもちゃの包みを持って足早に歩いていた。量販店のクリスマス用のラッピングが施されていて、明らかにわが子へのサンタのプレゼントであろうと思う。
まだイブには間があるのに、あんな大きな荷物を持ち帰り、今日は子に見つからずに隠すことができるのか。いらぬ心配をする自分に苦笑する。
皆、幸せそうに見える。この世にどんな不幸があるのかという顔をしている。
本当はそうでもないのが現実だ。誰でもいくつかは悩みを抱えているし、時にそれは非常に深刻な事態だったりする。しかし、人生には何度かそういうことが訪れるものだ。
けれども今ここにいる人たちの中に、私と同じ問題を抱えている人はひとりもいない。誰にも私の胸の内など想像できないのだ。
路地を一本入ればすぐ住宅街だ。途端に人の数は少なくなる。公園の脇を通るとまだ遊んでいる子供たちが見えた。
歩道に面して数メートルおきに植えられている銀杏の木は、少し前までは黄金の葉が空を覆うようにしていたのに、今は枝だけが幾本も天を仰ぎ寒々と感じられる。
歩道に伸びる私の影は長い。この季節この時間になると驚くほど長い。私はしばしばその影を見て錯覚をする。まるで子供と同じだ、と思う。
幼い子が母に手をひかれて家路につくとき、不意に自分の影がとてつもなく長くなっていることに気づく。しかし母親に指摘されてか自ら気づくのか、つながった母のそれは自分のものよりはるかに長いのだ。
なんだ。違った。おかあさんより大きくなれたと思ったのに。
ただの錯覚だ。
異様に長い影に気付いた時、一瞬脈絡もなく元の身体であるかのように感じることがある。しかし当然そんなことがあるはずもなく、子供のようにがっかりしてしまうのである。
いつかどこかで見た光景。手をつないで歩く親子。ともに続くふたつの影。ひとけのない公園。
ただの記憶違いかもしれないし、夢の中の出来事かもしれない。しかし私は錯覚する度にその二人連れを思い出す。
買い物に思った以上に時間がかかってしまった。ついソレに備えていろいろ買い込んでしまったからだ。まだ日にちには余裕があるのに。
今日学校で、吉田歩美が正月は家族で長野へスキーに行くのだと話していた。
これで探偵団の子供達が、年末年始不意に自宅を訪ねてくるような可能性はほぼなくなった。小嶋元太は母の実家に、円谷光彦は沖縄へそれぞれ家族と行くことになっている。
滅多にないチャンスに心は急いだ。
やはり一度自分で試してみなくては。
データが少なすぎるのだが彼にばかり負担はかけられない。なにしろ彼の身体には既に耐性ができつつある。
彼は非常に軽く考えているようだが実はそうではない。前回彼に言った事は脅しではなく本心だ。
「ただいま」
「おお、おかえり、哀君。遅かったの。えらい荷物じゃが」
「なんでもないわ。ちょっとまとめ買いしただけ」
住み慣れた家へあたりまえのように帰る。毎日帰る。しかも自分を待っていてくれるひとがいる。
この数ヶ月の日常は私には信じられないほどあたたかい。
なぜ博士が自分を匿ってくれることを決心したのか、本当のところはよくわからない。それがどれほど危険なことなのかは最初に何度も説明したのだ。
「哀君。正月の件じゃが……。やっぱり一緒に行かんか。ひとりおいていくのはどうしても心配なんじゃが……」
博士はこのクリスマスから正月にかけて、札幌のフサエ・キャンベルの実家に招待されている。
実家というのは少しニュアンスが違うかもしれない。彼女の両親はずっと前に離婚していて、母親についていった彼女はその母親の再婚相手の姓を名乗っている。
札幌の家は彼女が有名になってから、実の父親のために建てたものだ。そこまでにはおそらく紆余曲折あっただろうが、それについては私は知らない。
年に数回来日する彼女は、そのうち一度は年老いた父親に顔を見せに行くらしい。外国人スタッフなど仕事仲間を伴うこともよくあるのだとも聞いている。
普通は遠方の実家を訪ねるとなればそれなりの意味があるものだが、彼女は、軽い気持ちでいらして下さいと、私や探偵団の子供達まで誘ってくれたのだった。
降ってわいた魅力的な話に彼らは大いに色めき立った。だが彼らの両親たちは、さほど縁が深くもない人からの招きを極めて常識的に揃って辞退した。
「いいのよ。私はひとりでのんびりするから。
行けば気を遣うし。ひとりの方がいいの。
大丈夫よ。見た目はこんなでも子供じゃないんだから」
そんな処へついて行くほど神経は太くない。もちろん行かないほうがずっと楽ではあるのだが。そして万が一にも、自分のために博士が幸せを逃すようなことがあってはならないと思う。
「私の分のチケットとってあるならキャンセルしてよ、ムダになるんだから」
念を押して洗面所へ向かい話を切り上げる。
洗面台のスイッチを入れてから蛍光灯が寿命なのを思い出した。灯りはなかなか点かず、暗がりで手を洗い始める。
やがて鏡の中に浮かび上がった自分の顔を見ると思わず笑みがこぼれた。
あと十日もすれば、私はソレを決行する。
初めて投稿します。そこそこ書き進んでいるのですが手直ししながら順次upしていく予定です。よろしくお願いします。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。