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脱ぎたてのパンティーでドリップしたコーヒーが飲みたい

作者:7GO
 女性用下着の事細かい歴史や成り立ちは、寡聞にして知らない。

 だが、相応の時間の積み重ねや、僕の敬愛するべき過去の下着職人の努力や苦悩が、パンティーと言う神器を作り出したことは疑いのない事実だ。



 僕は絶望していた。


 世の中には流行り廃りがあり、技術の発展や進化により、必要性が失われやがては消え去った様々な分野のツールがあることは、分かる。
 分かっている。理解は、していた。

 そして、今。
 フリルが着いたピンクのショーツ、幼児性が見え隠れする危ない色気を醸す縞々パンツ、際どいラインどりに作り手が命を燃やしたであろう紐パンも、なにもかもが。


 その価値をなくしていた。
 パンティーは、死んだのだ。



 理解は、していた。これも時代の流れだ。

 たとえ僕がどれだけ声荒らげようとも、瞳から涙のごとくなんかよくわからない物質の結晶を落とそうとも(そんな機能は搭載されていないが)。


 それは所詮男性である僕の意見だ。僕の考えだ。僕の性癖だ。


 結局のところ、女性用下着を身につけるのは女性なのだ。まぁ、あえて、ほとんどの場合は、と言っておく。
 ともかく。
 その世の女性たちが、十年幾らか前に開発されたより機能性が高く、より清潔で、より通気性がある、エクススパッツを履きだしたのは、当然の理だったのだろう。
 嘗てない程、装着の心地が良い、とのことだ。
 僕には何れ程の物か分からないし、分かっていたらそれはそれで拙いし、また分かりたくもないけれど。

 それが、絶望的な結論だった。世界は煌びやかなパンティーよりも、味気ないエクススパッツの方を選んだのだ。

 納得は、未だに出来ていない。



 なんやかんやで起こった世界規模の大戦争は、人々の生活を大いに変えた。

 機械工学、生態生物学、電子情報学、その他諸々の超進化。
 アポカリプスを切欠にした文化の異常発達は、ただ驚愕にして驚異だ。
 まるで、僕の幼少時はヒトがまだネズミの仲間だった頃にしか過ぎず、光の速さで突然氷河期を通過し、気づいたら皆がウホウホ言い出せるようにようになっていた、そんな感覚。


 僕はネズミだ。原始的な哺乳類だ。無論、矮小なそれは、ウホウホとナックルウォークをかます類人猿にはとても敵わない。
 そう言うことだ。

 置いてきぼりされた僕が悪いのだろう。進化論的に考えて、少数派な僕が淘汰されるべきなのだろう。
 ダーウィンもそう言うに違いない。パンティーは諦めろと、そう諭すだろう。ダーウィンは。


 納得など、出来ないに決まっている。
 僕はうるさく説教する脳内のダーウィンの口に、真ん中にリボンが付いた白いショーツをねじ込んだ。
 ダーウィンは窒息した。



 技術発展。素晴らしいことだ。
 戦争や武力が発端だとしても、結果的にそれらは市井の生活に多大な貢献を果たしている。
 無論僕だって、それらに恩恵を受けている。当たり前の様に。
 戦争の経路で超過に育ったサイバネティクスがなければ、僕は間違いなく死んでいた。

 体の93パーセントが機械で、肘や踵や背中やらほか多数の箇所にロケットブースターが付いていて、胸部には機銃が格納されていて、両腕から炸裂弾内蔵式シリンダーステークが飛び出し、その他諸々の兵装を抱え、口から超高圧縮タキオン粒子砲が出るが、僕は生きていた。僕は人間だ。
 いやこれ人間か? まぁ法的には人間だ。見た目は完全にロボットだ。
 ちなみに、超高圧縮タキオン粒子砲の発射にはお偉いさんの許可が居る。
 進んで使いたいものではないが。何かを消し飛ばすという作業は、流石に躊躇いを覚える。覚えるだけだ。



 そんなことはどうでもいいんだ。大事なのはパンティーのことだ。



 勝負下着、という言葉がある。
 ここで言う勝負とは、僕の専門である武力闘争的なものではない。下着からタキオン粒子は出ない。

 簡潔に言えば、女性が男性との性行為を行う際に着ける、とっておきの下着。
 それを着ける理由は……まぁそれぞれだろう。扇情したり、好意のアピールだったり、下着と自身の高級感を見せ付けたり。

 前時代の女性たちは、時たまその勝負下着で下腹部を覆い(あるいは胸部を覆い)、ことに挑んだ、とのこと。

 その魅力的な言霊が輝いていた時代には、僕はまだ子供だった。
 そしていい大人になった今、勝負下着は死語でしかない。
 世も末だ。まさしく。



 かつての同僚はそんな僕を変わり者だと言う。

 拘るところがおかしいと言う。
 あのスパッツの方がラインがくっきり見えていいだろと言う。
 そもそもお前サイボーグ……つーかほぼロボットじゃねぇかと言う。その他云々。

 機械的な高速マルチタスクを用いて、38面の電子ホログラフィックにパンティーを着けた女性たちの映像を表示しながらコーヒーを飲んでいた僕に対し、同僚はそう言った。

 別にいいではないか。
 パンティーの浪曼に執着したって。
 ただ黒いだけのエクススパッツの良さが分からなくたって。
 特殊性的嗜好を持つサイボーグやロボットがいたって。 

 だから僕は、自室の至るところに非接触間接起動できるパンティーホログラムを設置しているのだ。
 僕にはその自由がある。誰にも止められはしない。タキオン粒子は出なくても、パンティー映像は出る。



 だけれども、それはただ虚しいだけだった。


 それはホログラムにしか過ぎない。虚像にしか過ぎない。古い資料映像なので、それほどの数がないことも虚しさを加速させた。

 実物もあるにはある。本物のパンティーはその存在さえなくなった訳ではない。
 僕も持っている。持っているだけだ。本当だ。嘘ついた。でも履いたりはしない。本当だってば! 僕ほぼロボだぜ!?

 話が逸れた。
 何はともあれ、保管してあるパンティーは、けれど、それは誰も履かない。履かられない。

 パンティーは女性が身に着けているからパンティーなのであり、ただ薄ら寒い床に広げられたパンティーを見ても、まぁ興奮はするけど、とにかく、僕にとって女性とパンティーはワンセットなのだ。
 女性=パンティーなのだ。







 と言うのを僕の上司(女性)に熱く語り、どうか紐パンを履いてくださいと頭を下げ、僕は左遷された。
 世知辛い世の中である。まさしく。










 昔の勤務場所だったメガロシティとはうって変わり、ここの空は澄んでいた。

 青い空。白い雲。風情がある。あっちの空は鉛色でしかなかった。
 ほとんどロボだこれ状態の僕でさえも風流景色を理解しているのに、都市部の人間(僕の同僚、後輩、上司)はそんなものはどうでもいいだろう、と言う。
 彼らは化学物質による天候の不安定化などには興味がなく、ノーエクススパッツ合成しゃぶしゃぶにしか目がいかないのだ。

 下に何も身に着けてない女性を視姦しながら合成肉をしゃぶしゃぶして、一体何が楽しいやら。
 僕には理解できない。多分、それは僕に搭載されている透視機能の所為だろう。中身はもう見飽きた。


 しゃぶしゃぶは割と好きだったけど。付き合いで行った店は、中々の高級店だった。
 これを言うと驚かれる場合が多い。どうやら体の93パーセントが機械のサイボーグは、一般的には味覚がなく、食べ物を消化出来ないらしい。


 何もかもが僕を改造した連中の所為だ。
 連中は死んだから、その意味不明なハイテック技術は世界に広まらなかった。今を持って、彼らの存在は謎に包まれている。
 僕には今でさえもオーバーテクノロジーな機能がいくつかある。その理由は闇のなかだ。


 戦闘用なのに、なぜか僕には無駄な機能が一杯だ。恐らく悪ふざけも混じっているのだろう。いや悪ふざけの塊か。
 透視機能(これはそこまで無駄じゃないが)。
 消化機能。
 味覚超過機能。
 お洒落なジャズが流れる機能。
 燃料がコーヒー。などなど。



 燃料がコーヒー。


 馬鹿か。これは世界的な規模で見ても馬鹿げている。悪夢みたいな存在だ。まさしく。

 以前僕を調査した別のロボット工学の権威的博士は、この所為で発狂寸前のところまでいってしまった。
 その博士のおかげで、キリマンジャロだとエネルギー効率が良いことが判明した。博士は出家した。僕は悪くない。


 でもそれでも僕は動いている。コーヒーで。怖いね、科学。


 脚部スラスターから煌く謎の光る煙(人体に害はない。多分)を出しつつ、僕は吸い込まれそうなほど青い空を駆けた。












 ただの戯れだった。


 ここには規模様々の工場がいくつもある。
 僕はそれらのことを何も把握していなかった。興味も特になかった。
 左遷、とは言え、異動は異動。
 表向きには有事の際の拠点防衛が、僕の仕事だ。つまり、この地域を守る仕事。

 重ねて言うが、それでも僕はここの地域のことを知らなかった。
 何かあったときに超高圧縮タキオン粒子砲をぶっぱなす、簡単なお仕事。こなすのは、こなすつもりだったのは、それだけ。
 ここがどの様なところでどの様なイデオロギーに溢れどの様な人たちが生活しているのか、僕は何も知らなかった。大体において、僕はパンティー案件以外の物事に関心がない。

 そしてここは平和だ。暴動の類は見えない。
 だからして僕は、青空を散歩しながらパンティーに想いを馳せる、ただそれだけの日々を幾日か過ごしていた。



 戯れ。
 意味はない。
 意味はなかったが、その日は、ただなんとなく、僕は自宅へ戻るルートをいつものとは変えて、人通りがある街の上の空を、悠然と泳いでいた。
 気分的な何かだ。なんとなく、なんとなく。機械が混じる脳神経の気まぐれ。それだけ。

 とは、思えなかった。これは、運命だ。まさしく。








 ふと、外下を見下ろす。
 建物に囲まれた大通りが見える。豆粒大の人々が、交差していく。
 それは、いい。そこまでの時点では、僕の頭はパンティーしかなかった。

 高速マルチタスク機能に感謝した。僕はパンティーのことを考えながら、パンティーのことを考えることが出来る。


 マスゲームのように、人はただ歩く。止まらない。豆粒は流動的に動いている。僕はそれを意味なく見ている。

 その動きが、鈍った。


 おや、と思う。スラスター制御。速度を更に落とす。
 これもまた気まぐれで、もしくは運命だった。ディスティニー。


 豆粒の塊が円を作った。円は中が空洞で、その穴に極小の豆粒があった。先ず見えたのはこれだ。

 人々が人を囲んでいる。人々は大勢で、人は一人だった。


 視覚超過。望遠鏡を覗く様に、僕は豆粒たちの様子を見ることにした。
 ほら、一応暴動的な争いなら拙いし。個人的な諍いだったら無視していたけど。

 ズーム。ズーム。ズーム。

 中央に、少女がいた。
 ワンピース状の見窄らしい服の少女が、地べたにへたり込んでいた。
 痩せていて、血色もよくなく、無造作に伸びた黒髪はぼさぼさだ。
 その少女が『四層市民』であろうことは、見て取れた。
 表情が見える。怯えがあった。瞳には涙が溢れている。


 囲む人々を見る。前列に立っている男が見えた。見覚えがある男だった。

 ここの自警団の長だ。何日か前、着任した僕に挨拶に来た。
 その時はへこへこしていたが、今の男は下劣な顔で、ニヤニヤと笑い、少女を見ている。

 よくみれば、前列で囲いを作っている男連中は、皆自警団の格好をしており、そして笑っている。
 囲みの後方には、中流の市民だろうか、物見遊山のごとく、興味津々と成り行きを見ている。



 下らない。


 思ったのは、それだけだ。
 恐らく、あの四層市民の少女が、犯罪か、もしくは何らかの不興を買う行為を起こしたのだ。
 多分、たいしたことのない理由だ。下手したら理由などないまである。
 ここは娯楽もそれほど多くない、辺境の地。
 囲んでいる連中と見物人たちはここでは強者。少女は弱者。
 そして上から弱者を甚振るのは、それを第三者的に見るのは、とても楽しいことなのだろう。
 きっと、この地では、オリエンテーションみたいなものなのだ。
 全時代に流行っていたと言う兎狩りの如く、半ばスポーツじみた行為。生産性がない、ただの気晴らしだ。




 僕は、別に止めようだとかなんだとかは考えていなかった。
 無視するつもりだった。帰るつもりだった。


 関わるのは面倒くさいし、規模的な観点からで言えば、僕の仕事ではない(本来ならそれは囲んでいる自警団の仕事である。世も末)
 正義感なんて、大戦争時に口から超高圧縮タキオン粒子砲と共にすっとんで行った。


 よくあることなのだろう、ここでは。だから、関わらない。



 ため息の様に、各部スラスターから謎光煙がいっそう吹き出る。帰るか。
 そう思った、その時。



 自警団の長の男が、一歩、力強く、権威を見せ付けるように、だん、と少女に向かい地面を踏んだ。
 それを恐れるように、尻や手足を地面につきながら、少女は後ずさった。
 長は更に近づいた。少女は座ったまままた後ろへ。小さい背中が他の自警団の男にぶつかる。
 その男は嬲るように笑い、ぐい、と少女の腕を掴んで、無理やり立ち上がらせた。





 少女のワンピースが捲れた。
 白と青の縞模様のパンティーが見えた。













 なんだと。
















 なんだと。







 カシャッカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ。
 内容を保存しますか? Y/N 
 イエス。





 パンティー? パンティー?
 ストライプのパンツだって? 古き良き縞パンだって?
 なんだって? 

 今時? パンティー? ワッツ? ホワァイ?
 なぜだ。どうしてだ。やったぜ。分からない。

 いや。

 まて、まてよ。

 そこで、電撃的な神経伝達速度を用いて、天啓が僕に舞い降りた。


 エクススパッツ。
 発達した技術をふんだんに使った、悪魔の衣服だ。特殊繊維を使った、ただ黒いだけのスパッツ。健康維持も保障している。なんて性能だ。

 それはもう、今では常識のように、女性たちは身に着けている。その年齢にかかわらず、だ。
 当然僕は、それは全世界的にそうだと思っていた。思い込んでいた。



 ――違うのではないか?
 職業柄関わりがなかったから(プライベートでもそうだが)知らなかったが――


 四層市民は、エクススパッツを買えないのではないか? 


 あれは、誰もが履いている割には、そこそこ高価な筈だ。
 もしや、それらを買う余力は、彼らにはないのではないだろうか?


 その神がかった閃きは、僕のなんかよく分からない機構を含め、とにかくすみずみまで全身を駆け抜けた。 

 即座に電脳空間へアクセス。
 めちゃくちゃな数の違法プロキシを経由、障壁全展開、電子デコイ設置。パスワードハック。その他非合法的な手段をコンマ以下の速度で処理。

 軍本部のマザーコンピューター、アダムを呼び出す。

「あろーあろー。ごきげんようアダム。今から送る周辺座標地域の、平均的な四層市民が、エクススパッツを購入できる余力があるか調べてくれ」
『エクススパッツ:候補78件。選択』
「一番安いやつで照会」


 刹那。返答。


『生活重点時購入可能確率、7パーセント』

 わお、僕の生身と同じ! 

「周辺座標地域に、何か廃棄場はないか? 例えば、使われなくなった衣服とかの」
『存在。座標送信』

 網膜的なモニターに映し出される、ここいらの地図と赤く光るマーク。
 間違いない。
 パンティーは、生きていた!


 おいおいおいおいおいおい! 
 マジか。マジなのか、おい。

 思ってもみなかった。
 絶滅したと思っていた。パンティーを履く人々は。
 しかし、違ったのだ。
 いるのだ。存在しているのだ。



 エクススパッツを買えない四層市民が、捨てられた時代遅れの衣服、主にパンティーを、廃棄場から拾って来ているのだ!



 履いているのだ!




 迂闊……!
 なぜ今まで調べなかったのか。
 あ。

 そういえば、一度、調べはした。

 しかし以前僕がアダムに聞いたときは「パンティー履いてる人いねーの?」と言う知能指数2ぐらいの問いかけだった。
 アダムには『情報不足。断定不可』と冷たくあしらわれ、僕の電子障壁ファイアウォールが16層破られた。
 馬鹿だ。間抜けだった。



 世界に絶望する前にもっと視野を広げるべきだったのだ。
 一つ、真理を見た。砂漠にだって、探せば水はある。



 ネットワークアクセスを遮断。
 多分アダムのセキュリティレベルが上がったのだろう、ファイアウォールが57層ぶち抜かれていた。問題ない。些事だ些事。


 僕は即座に着陸に向け、天使が祝福のラッパを吹くように、スラスターから謎光煙を高らかと噴射させる。
 目標は、あの少女だ。
 少女と関わることで、同じ四層市民の人々に会う為だ。僕の夢の為だ!



 頭の片隅で「地元自警団と面倒を起こすのか?」と脳内の同僚が囁いた。
 うるせぇ。お前はしゃぶしゃぶでも食ってろ。
 そこで脳内のダーウィンが、脳内の同僚を華麗な右フックで仕留めた。
 ダーウィンはサムズアップした。いい笑顔だった。

 サンキュー、ダーウィン。


 加速、後、減速。
 ぼぼぼぼぼぼぼぼ、と噴射音を携え、ブースターを制御しつつ僕は地に降りたとうとした。
 誰かが空を見上げ、指差し、叫んだ。悲鳴が聞こえる。散り散りと見物人達が逃げていった。

 ぽっかりと空いた囲いの穴に、ずしん、と大地を揺らして、僕は着地した。
 搭載されているロケットブースターから、ブシュウ、と残煙が出て、周囲が粒子で煌めいた(それらは人体において直ちに健康被害はでないと証明されている)
 よく分からないレベルで高機能の光学式網膜モニターは、明らかに網膜では追えない範囲の視界、360度全てを映している(視野が広いのはいいことだ)


 逃げなかったのか、逃げそびれたのか、自警団たちはあんぐりと間抜けに口を開け、少女を吊り上げていた男は呆然としながら握っていた細腕を放した。
 声もなく、少女はまた地べたへ。
 幼いパンティー……じゃない、幼い少女は、今度は僕に対し、怯えの目を向けている。


「何をしている」

 僕はなるべく威圧的に聞こえるように心がけて、自警団の長へと言った。

「え? え? え? あの、え、ええ、あの、なんで、あの、なんで、あなたさまが、あの、あの」
「私は何をしている、と聞いているのだが」

 やだ、僕軍人っぽい。軍人だけど。
 長の男は僕を畏れる様に見上げた。
 顔にあるは混乱と恐怖。そりゃ、体長2m半を超えた決戦兵器が空から降ってきたら、そうなるか。
 お楽しみの最中、悪いね。だが容赦はしない。

 長は、汗を滝のように流している。

「い、いや、あのですね、あの、その、こ、この四層市民がですね、ほほほ、本来ならですね、その、四層市民にはですね、その、入れないですね。と、ところにですね。その、こ、ここのことなんですけね、あの、入って来てですね」
「……市民階層ごとの特定地域立ち入り区別法は、二年前に撤廃された筈だが」
「あのあのあのあのあのあのあのあのあのあのあのですね」


 目が泳ぎまくってることですね。

 さておき。
 なるほどな、と僕はこの辺境の地における社会性を一端ではあるだろうが、掴んだ。


 社会保障やらなんやかんやを分かりやすく管理するため、人間は一律、その職業や資産状況に応じて階層ごとに分けられている。


 トップクラスの上流階級、頭抜けた金持ち、一層。
 それより少し落ちるが、それでも湯水のように金を使える、二層。
 一番数が多く、一番ピンキリである、所謂一般人の、三層。  
 そして切迫した生活を送っている、貧乏人。これが四層だ。



 これらは別に人間的優劣を表しているのではなく、ただの管理区分だ。意味はない。
 人は、みな平等なのである。


 無論、綺麗事だ。建前の話だ。


 今はもうなくなったが、かつては『四層市民はあそことかこことかそことか、とにかくこの辺に足を踏み入れたら即逮捕』、なんて法律もあったぐらいだ(安全保障上の理由だとかの、屁理屈を捏ねくり回した悪法だった)
 少なくとも僕がいたメガロシティでは、そんな差別は時代遅れなものになっていたが。
 まぁそれでも尚、下の階層を見下ろす人間はいるけれど。


 ここでは、それがより露骨に行われている、そう言うことなのだろう。


 僕は少女を見た。やはり怯えている。震えている。
 まぁ見た目ロボットだしな。怖いだろうな。黒光りしてるもんな。めっちゃ機械の塊だもんな。
 ただ僕の存在抜きにしても、少女は恐怖に染め上げらていただろう。先ほどまでは確かに、粘ついた悪意が彼女に向けられていたのだから。


 まぁ何はともかく、だ
 今更青臭い正義を振りかざし、渦巻く差別をなくす、なんてことは考えてはいないが……


 今後の状況にもよるが、とりあえず今、僕は四層市民の味方になることにした。
 だってパンティー履いているんだぜ?



 となると、囲んでいる自警団の男たちは、僕の敵になる。

 僕はパンティーの味方。四層市民は(恐らく)パンティーを履いている。
 四層市民=パンティー。大事にすべきだな、うん。
 そして、自警団の連中は、四層市民への対応が明らかによろしくない。
 つまり、自警団=四層市民の敵。

 ということは、自警団=パンティーの敵なのだ。
 そしてパンティーの守護天使であるこの僕の敵なのである。

 あまりにも完璧なロジックに、僕は惚れ惚れした。


 となれば、善は急げ。
 僕は光った。


「……この少女は、何か法に触れる、もしくは秩序を乱す行為をしたのか?」
「あのあのあのああああああああ、あの、あの」
「したのか?」

 ガショオン。キュィイイイイイン、ブシュ、シュコー、タッタラタッタトゥットゥーシャバドゥバダバドゥバドゥビドゥビ、ブブブブブブ、ガギン、ガゴ、ゥオオオオオオオオオオオン、ギャリッギャリギャリギャリ、シュビドゥバドゥビドゥバ。

 僕は機構の起動音をどっさりと鳴らして、数々の内蔵兵器を展開した。
 説明が面倒臭いので詳細は省く。それだけの大盤振る舞いだ。無論、展開するだけだ。何もしない。
 これは威嚇である。動物的な自然本能に訴える作戦だ。
 まぁ自然界にこんな禍々しい威嚇をする生物がいたら堪ったものじゃないが。ダーウィンもうんざりだろう。


「したのか?」
「あの」

 僕は頭を少し下げ、顎(的な部分)を、大きく開ける。がしょこん。
 ギュルルルルルルッルルルルルルルルルルルル、と高らかに口内の奥が唸った。
 僕を見上げている長は、そこで狂気的な虹色光の回転を見た筈だ。

 超高圧縮されたタキオン粒子。

 勿論撃たない。威嚇だよ威嚇。
 タキオン粒子砲発射には許可がいる。まぁ許可だけだけど。撃とうと思えばいつでも撃てる。

 僕はまた問うた。

「この少女は何か、したのか」
「してしてしてません」
「何もしてないのだな?」
「はい、しょうじょはなにもしておりません」
「それで? お前たちは? 何をしている?」
「あの」
「なるほど。市民の生活を守る為、パトロールに勤しんでいるのだな? そこで、たまたま迷子の少女を見つけたのだな? ん?」
「はい」
「うむ。しかしそちらは忙しいだろう。この少女は私が家へと送る。諸君は街の平和維持に努めてくれたまえ」
「はいがんばります」
「よろしい………………分かっているな? 二度はないぞ?」

 兵装展開終了。ひっこめタキオン。顎も戻る。
 止めに、僕の光学ディスプレイの双眸を赤く光らせる(これだけの機能だ)
 地獄の紅蓮灯が、長の全身を血塗れの如く赤く染めた。


「はぃ……」


 長はもう、泣き出しそうになっていた。
 しかしまぁ、この男を少しだけ褒めてあげてもいいだろう。
 なんたって、囲んでいた彼の部下たちの何人かは、直接僕と相対していないのに関わらず、失禁や失神状態にあった。
 そんな中、タキオン粒子の超高圧縮回転までも見て泣く程度で済むとは、なかなかだ。仮にも長なだけはある。

 どうでもいいけどね。まさしく。






 僕は少女を両腕で抱き抱えた。所謂お姫様だっこと言うやつだ。
 少女は動かず、小さく悲鳴を上げた後、機械の揺りかごでただ震えている。
 無理もないだろうが。

 人の囲いは既に割れていた。
 僕は少しだけブースターを吹かし、僅かに脚部を浮かすだけの超低空飛行で、空いた通りを抜けた。
 空を飛んでもいいのだが、少女はこれ以上なく瞳を恐怖に彩らせている。
 気を使うように、僕はゆっくりと、少女を抱えて宙を滑る。



 道が分かんねぇことには、わりとすぐに気づいた。



 通りを抜け、建物郡を抜け、殺風景な、ただ乾いた土だけしかない広大な荒野じみた場所に出る。枯れた木。転がる石。罅割れた岩。
 アダムが示した衣類廃棄場はこの近くだ。だからして、少女もこの辺りに住んでいるのではないかと考えたのだ。
 なにせ、少女は未だ、喋らず、蹲り、体を震わせている。
 碌に話も聞けてない。家もわからない。焦るな。パンティーは逃げない。
 集落座標もアダムに聞いておけばよかったと、少し後悔。しかしこんな短期間にまたアクセスしたら、間違いなく捕捉されてしまう。
 鍵を握っているのは、やはり少女だ。パンティーエデンの扉。その鍵。



 少女はただ僕の腕で横たわっている。
 屈強な男たちに囲まれ怖い思いをしたのだから、しょうがないか、と思ったが。
 よくよく考えれば、現在進行形で少女に恐怖を与えているのは僕である。

 少女を恐怖に陥れた自警団たち……を、数々の兵装展開で脅しつけた、僕。
 僕は恐らく、少女にとって恐怖ヒエラルキーの頂点に君臨していた。

 分かってしまうからしょうがない、と前置きする。
 透視機能。少女の下腹部。下着。ストライプのパンティー。
 少しだけある、真新しい黄色い染み。

 カシャシャシャシャシャシャシャシャ!
 内容を保存しまイエス。

 僕は紳士的に見ないことにした。透視オフ。
 ジェントル。


 と、そこで。

「え? ここ……」

 少女は蚊が鳴く様なか細い声で呟いた。
 ブースターを止め、速度を落とし、一度立ち止まる。
 プシュ、と短い排気音を出して、僕は少女を見下ろす。

「大丈夫かい」
「ひっ……!」
「心配いらない。私はパン、私は君の味方だ」

 ノイズが混じった。

「君が住んでいるところは、ここから近いね? 出来れば、道を教えて欲しいのだが」
「っ…………」
「……私はこんな見た目で、見た目通り、兵器を搭載している。無害な存在とは言えない。だが」

 少女の瞳はなお、僕を怯えた視線で捉えている。目尻には雫が溜まっている。
 下層市民は主に集落を形成していて、多人数共同生活を送っているのがほとんどだ。

 これは僕の電子的高度情報を元にした勘だが――
 少女は、恐れているのだ。もしかして、自分の仲間を、この悪魔的戦闘機械は、滅しに来たのではないか、と。
 案じているのだろう、自分の身だけでなく、集落の家族友人のことを。
 だから、少女は黙す。僕に場所を教えない。


 僕は一度、少女を片腕持ちに替える。一本の丸太の様な腕上に、少女が横たわる。
 空いた片腕を動かして、僕は腹部のハッチを開けた。

 ジョボボボボボッボボボボボ……

 乾燥した荒野に響く場違いな音。
 腹部に内蔵されたコーヒーメーカーが起動、おもてなし用の白いカップに黒水が満ちていく。
 ミルクを入れる。砂糖は多めがいいか。
 香ばしい匂いが僕の機械超過嗅覚を刺激した。
 その間に、今度は脚部の横ハッチを開ける。ばさりと出てきたのは四角いテーブルクロス。
 僕は汚れた大地に、それをふわりと被せた。


 多機能だろ?

 


 神聖なものを扱うかの如く慎重な動きで、僕はクロスの上にゆっくりと、繊細に少女を降ろした。
 困惑した瞳で少女は僕を見上げている。

 僕は機械的精密動作で腹部のカップを取り出し、少女に渡した。
 少女は白い湯気が出るそれを、恐る恐る受け取った。

「私は、君の、君たちの味方だ」

 飲み給え、と大仰に僕は言う。
 少女は暫し逡巡し、芳しい匂いに鼻を動かして、戸惑うようにゆっくりと両手持ちで、カップを傾けた。

 少女の目が大きく開かれた。
 コーヒーは、今や高級品の一つだ。四層市民なら、飲んだことすらないのだろう。
 少女は熱い液体をゆっくり、ゆっくりと飲んでいる。

 そして、ため息と、涙が零れた。

「温かい……」


 軍部をクビになったら子守にでもなろうかな、と思った。
 僕は会心の手応えに満足しながら、保存したあれを眺めていた。マーベラス。




 都合三杯、少女はコーヒーをお代わりした。
 僕はまるで甲斐甲斐しい忠実な執事のごとく、少女に恭しく接した。
 その間に、自己紹介。

 僕は軍本部所属で、最近ここに着任したこと。
 安全パトロール中(嘘だ)、偶然、少女と囲む男たちを見つけたこと。
 正義感に突き動かされ(嘘だ)、少女を助けたこと。

 四層市民の待遇の悪さを目撃した正義の使徒(大嘘だ)である僕は、是非君たちの味方でありたいと告げた。

 少女は、僕に心開いた。やったね。  
 カップを傾けつつ、たどたどしく、己の境遇を語った。

 貧乏集落。工場勤務。劣悪な環境。大通りへの憧れ。蔑む上層市民。
 少女は、一度大通りを見て歩きたかったと言う。好奇心に突き動かされたと言う。
 その後は、まぁお察しだ。

 少女は恐怖と屈辱を思い出したのか、言葉を切って、嗚咽を流した。
 僕は気が済むまで少女に付き合い、保存したあれを凝視しつつ、彼女の話を聞いた。マルチタクス万歳。


 ちなみに、僕に抱えられた時、少女は最初、僕のアジト的なとこへ連れて行かれ、恐るべき拷問を受けるのだと思っていたと言う。
 それが、見覚えのある荒野にたどり着いたので、少女は『え? ここ……』と呟いたのだ。僕のログにも残っている。

 少女は僕に助けへの礼と、コーヒーの礼、そして非礼を詫びた。無闇に怯えたことの謝罪。僕は気にしないでいいと言った。
 いや、マジで気にしないでいい。マルチタスク使用で会話中に染み付き縞パン写真を眺めている僕は、地球上で一番失礼な存在だろうから。


 軽いピクニックは終わり、僕と少女はまだ荒野を浅く飛んだ。
 少女が住む集落は、思いの他近くにあった。
 熱源探知機能は故障してるため、僕はそういうサーチは不得手だ。
 早く直してほしいものなのだが、前述の通り僕はブラックボックスだらけなので、迂闊に手出しできないらしい。


「もう少しだよ」

 と少女が言った。今や怯えはなく、ボサボサの髪を風で揺らしながら、笑って僕に語りかける。
 少女らしい笑顔だ。無邪気な笑顔。多分、これが彼女の本質なのだろう。
 涙よりも、笑顔がより似合う。縞パンも似合っている。ちょっと粗相してまったのもグッド。ふと気づいたが、僕って結構クズだ。




「あ! あれ! あれだよ!」

 少女が指差す。
 荒野に聳える、四角い箱じみた建物。
 灰色の壁は見るからに擦り切れていて、寒々しい印象を受ける。

 あれ、一時防衛用即製戦闘拠点じゃねぇか。
 戦争時の遺物。とりあえずなにかあった時に対処できる様に作られた、杜撰な軍事基地、その廃棄物。

 ぶっちゃけ、あれはただの箱だ。デカイだけの箱。雨風を凌ぎ、一時的に人や兵器を置いておくための箱。
 それを家にしているのか、彼らは。
 いくら四層市民とは言え、ここまでの劣性境遇は珍しい。エクススパッツを買えない程困窮している訳だ。


 ぎゅいん、と少し加速して姿勢制御、減速。彼らの家の前に着く。
 ブースターは緩やかに停止。機械腕で抱いていた少女を丁寧に降ろす。

「ありがとう!」

 少女はぺこりと僕にお辞儀をして、家へ振り返り、小走りに走り出した。
 同時に、決して静かとは言えないロケットブースターの音を聞いたのだろう、箱からわらわらと汚れた服の人々が出てきた。男性と女性が半々か。
 彼らは一様に痩せていて、不健康に見えて、そして若かった。あの少女と同じくらいの年の子供が多い。大人も居るが、精精二十代半ばほどだ。

「ロ、ロボット!?」
「いや、パワードスーツか!?」
「なんだ、上の連中か!?」
「畜生! なんだってわざわざ寝床までこんな……!」

 住民の絶望的な悲鳴が聞こえる。
 僕は落ちついて周囲を見渡し、透視機能をオンにした。あ、男はいいです。

 女。

 見る。
 視る。
 服を透かし、その中を。

 おっほぉ……


 カッカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカシャッ!
 内容をイエス。
 イエス。

 イエアッ! ヒュー!
 僕の脳内のダーウィンが、僕の代わりに口笛を吹いた。

 思ったとおりだ。全員、全員だぜ!?
 全員、パンティーを履いている!

 なんと言うことだ。こんな僻地の。こんな荒野に。
 僕の楽園があったとは。

 幼い少女。白いパンティー。飾り気がなく、色気もない。だが、その白い布は、混じりけない透明な少女性を表しているかの様だ。
 ミドルティーンの少女。薄いピンクのパンティー。だがサイズが少し合ってないと見える。少しずり落ちている様は、まるで性に目覚めかけたいじらしい背伸びに見える。
 ハイティーンの女。緑と白の縞パンだと!? 逆に!? 逆にちょっと大人びた女性が!? 縞パン!? 脳内のダーウィンがいいね! と言ってます。
 二十代半ばの女。む、紫の薄いパンティー……なんだこれは、色気しかないじゃないか、けしからん、まさしく!


 突如、戦時中に劣化ウラン弾をしこたま撃ち込まれた事を思い出した。走馬灯だこれ。


 いやいやいや!
 こんなところで僕死ぬの!? 小型核爆弾にも耐えたのに!? 


 あやうくパンティーで死ぬところだった僕は、一旦意識を切り替えた。マルチタスクも止める。
 ここは、あまりにも刺激的過ぎる。


 と、そこで一人の女性が僕の前に出た。
 二十そこらか、ご他聞に漏れずに痩せているが、顔立ちは整っていて、黒曜石の様な瞳は、油断なく僕を見ている。
 長い黒髪を後ろに詰めていて、それが軽やかに揺れている。
 肌は白いが、瞳も、髪も、服装もただ黒い。まるでカラスのような女だった。

「話は聞いたわ。あの子を……助けてくれたと」

 カラスの女は低い声でそう言った。
 光学網膜モニターが周囲の人々を捉えた。警戒はしているが、恐慌などは起こしていない。
 あの少女が説明してくれただろう。僕が夢中になっている間に。

「あなたは、ここの……四層市民の味方だと、あの子は言った」

 女は、ほとんど睨み付ける様に僕を見上げていた。
 多分、ここのリーダー格なのだろう。こんな化物を見ても、物怖じしていない。
 美しく輝く黒曜石の瞳が、僕の黒いヘルム頭部を映している。

「……その通りだ。私は、君たちの味方でありたいと思っている」
「信用できない」

 バッサリと、カラスの女。まぁそうだよな。
 僕はあの少女に軍属だと語った。
 少女がそれをそのまま彼女たちに伝えたのなら、そりゃこう言う反応を取る。
 軍の人間は大体が上層市民だ。僕なんか、これでも一層市民である。これでも。こんなんが。世も末だね。
 そんな『上』が、普段『下』にどう言う扱いをしているのか、まぁ考えるまでもない。

 僕は、敵なのだ。少なくとも、彼女たちの視点から見れば。

「……遠隔操作の戦闘機体? それとも大型のパワードスーツ? なんにしても、顔を隠して、いきなり現れて、信用なんて出来やしない」

 違うんですよ、僕サイボーグなんですよ。オペレーターもいないし、このロボットみたいな頭部が素顔なんですよ。
 とは、言わなかった。今その必要はない。
 大事なのは、もっと先だ。


 僕は気づいた。

 カラスの女は、若干擦り切れた黒いレースのパンティーを履いている……!

 それはまるで戦い傷つくバルキリーの如く、色あせながらも確かな存在感を放っている。
 瞳も髪も服もパンティーでさえも黒で覆う彼女は、鋭い戦意と鈍く光る色気を携えた、地を飛ぶカラスなのだ!
 ジーザス……
 いや深いな……これ程のパンティー哲学がこの地にあるとは。今日は人生で一番有意義な日だ。まさしく。


 僕の思考と、超速連写保存されるパンティー画像の存在に気づかず、女は顔を強張らせながら問う。

「あの子を助けてくれたのは、感謝する。ありがとう。だけど、下に味方する目的は? 理由は? ……明確な意義を示さなければ、私たちは上を信用しない」
「……そうだな。確かにその通りだ。君たちに味方をするのは本当だ。嘘偽りない。誓う。しかし、目的、もっと言えば、条件が、私にはある。味方をする、条件が」
「……それは、なに?」

 カラスの女が身構えた。
 周囲を見れば、年進んだ女性たちが、幼い少女たちを庇う様に前に立っている。
 男連中は、角材やスパナなどを手に持ち、僕を睨んでいた。
 いやいや、性行為とか望んでないよ、僕は。そもそも出来ない。

 しかし、そう思うことも仕方ないのだろう。
 碌に資産ない彼ら彼女らにとって、提供できるのは己の身体だけなのだから。

 だけれど、見当違いだ。そんなもの、僕は必要ない。

 要るのは。
 必要なのは。

 僕が。絶望の。乾いた世界で。
 ただ、夢見た物は。叶いたい、夢は。





「脱ぎたてのパンティーでドリップしたコーヒーが飲みたい」



 世界が凍った。

 タッタラタッタトゥットゥーシャバドゥバダバドゥバドゥビドゥビシュビドゥバ。

 お洒落なジャズを流しながら、僕は右脇腹のハッチを開け、コーヒーの豆が入った袋を取り出した。

「飲みたい」

 タッタラタッタトゥットゥーシャバドゥバダバドゥバドゥビドゥビシュビドゥバ。

 ジャズが響く。女は止まっている。他の住民も同様だ。

「脱いで」

 軽快なバックミュージックと共に、僕は光った。

















サイバーパンクを書こうとしたらサイバーパンツになった(最高のギャグ)
続きはない。

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