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いるだけロボット

作者:八久斗
この小説は「君の音。(http://www42.tok2.com/home/miya18/sokkyou/)」で公開されている歌「まぬけロボット」(歌唱:琥遥ひより 作詞、作曲、MIX:君島三夜 出展:Itcha「ロボコンピ」)を聴いて執筆したものです。
この歌が、曲が、歌詞が大好きで、聴きながらイメージしたものを小説として表現してみました。
聴いてから読んでも、読んでから聴いても、問題無いと思われます。勿論、聴きながら読まれても構いません。
※著作者の許可を得て掲載しています。
“僕はマヌケロボット いるだけロボット
 必要もされない いるだけロボット
 僕はマヌケロボット 落ちこぼれロボット
 誰か 笑ってやってください”


鉛色の雲が空を覆っていた。
それと同じ色のビルが建ち並ぶ中、僕は歩いていた。
すれ違う人たち。すれ違うロボットたち。
彼らはみんな、目的を持って歩いている。行き先があって、予定がある。
それに引き換え、僕はどうだろう。

人とロボットの違いって、何だろうか。
ある生物学者はこう言った。
「有機物から成るのが人で、金属から成るのがロボットだ」
ある工学者はこう反論した。
「いや、ロボットにも炭素は使われる。動きがプログラミングされているのがロボットで、されていないのが人だ」
ある医学者は更に反論した。
「いや、人の動きも神経の回路に記録されている。産まれるのが人で、作られるのがロボットだ」
どれが正解なのかはまだ分かっていない。いや、そもそも正解なんてないのかもしれない。
……でも。
もし、生きる目的を持って作られるのがロボットだとしたら。
産まれてから生きる目的を探すのが人だとしたら。
――僕は、ロボットでは、ないのかもしれない。

気づいたときには、ゴミ捨て場に僕はいた。
事故か、誰かがそうしたのか、それ以前の記憶はなかった。そして、自分が何者であるかも。
僕は何のために作られたロボットなのか。それを見つけるために色んな事をやってみた。
物を作ったり、運んだり、投げたり、壊したり。本を読んだり、喋ったり、歌ったり、走ったり。
でも、何もできなかった。
何をしても、うまくいかない。他のロボットと同じようにできない。
そのうち僕は諦めて別のことに手を出す。その繰り返し。
未だに僕は自分の作られた意味も分からず、ただ町を歩いている。


“今日はピカピカに 自分を磨いた
 振り向いてもらえるように
 赤色ペンキも塗った 煌びやかに塗った
 今日は街中でわざとこけた
 笑ってもらえるように
 痛かったけれど なんだか気持ち良かった”


「アハハハハ」
子どもが僕を見て笑う。指を指して笑う。泥だらけの僕を見て。せっかく塗ったペンキも所々剥げている僕を見て。
それを確認して、僕は少しだけ満たされる。
僕はマヌケロボットだから。馬鹿なことをやって、みんなに馬鹿だなと思われて、笑われるのが仕事。
そう、思うことにした。それくらいしか、できないから。
自分が傷ついても、笑われても、意味があるのならいい。
何も行動せず、何も影響せず、いてもいなくても同じよりは。
こんなダメな僕でも、暮らしていますよ。
そんな自虐的な励まししか出来ないけれど。

でも、それもいつまで続けられるのだろうか。
変化がないと、人は飽きる。変化のない物は飽きられる。
僕はこの先も通りすがりの人々を笑わせることができるだろうか。
今ですら、笑ってくれる人は少ないだというのに。
考えたくないから、僕はもう一度転んだ。ガシャンと派手な音がした。

みなさん、僕はここにいます。
ここにいます。
誰か、僕を見てください。


“僕はマヌケロボット いるだけロボット
 誰のお役にも立てない いるだけロボット
 僕はマヌケロボット 落ちこぼれロボット
 それでも 捨てられたくない”


人間が羨ましい。
人間は生まれてきた意味が分からなくて当たり前。
ロボットは、必ず「目的」を持って作られる。
「目的」を達成できないロボットは不良品。
でも僕はその「目的」が何なのかすらわからない。
僕は不良品、なのかな?
僕は何のために作られたのかな……?

きっと、記憶が無くなる前の僕は、何か目的があったのだろう。
何かできることがあったのだ。誰か必要としてくれる人がいたのだ。
そう思いたい。
そうでなかったら、僕は一体何だというのだろう。
何の意味もなく作られたとでもいうのだろうか。
そんなわけ……そんなわけ、ない。
今の僕にできるのは、ただただ馬鹿を晒すこと。みんなに馬鹿にされること。
それだけだ。


“明日はどんなバカしようかなと
 一人 部屋で考えてました
 そうしたら いつのまにか寝ていて
 本当に僕はバカだなと 呟きました”


ピー ピー ピー

電池切れを伝えるアラームが鳴った。
手近な住宅に入り、ドアのボタンを押す。機械的な音声が流れる。
「はい、どちらさまでしょうか」
「すみません、バッテリーが切れそうで、充電させていただきたいのですが」
「……しばらくお待ちください」
そう言って音声は切れた。
ややあって、この家の主人らしき男性がでてきた。
「やあこんにちは、お困りかな。まあ上がりなさい」
「ありがとうございます。助かります」
お辞儀をして、中に入る。案内されたコンセントにプラグを差し込む。ピピピッと充電開始の音が鳴った。とりあえずは一安心だ。
充電が終わるまでには時間がかかる。それまでは特にやることもない。
……いや、そもそも僕にやるべき事なんて無いのだけれど。
「――君は、何をするロボットなのかね?」
見ると、男性が首をひねり僕のことをじろじろと見ていた。
「作業ロボットにしては華奢だし、芸術ロボットにしては不器用そうだ。料理ロボットにしては汚いし、教育ロボットがこんな時間に一人で歩いているとは思えない。君の仕事は何なんだい?」
僕は言葉に詰まった。いや、ロボットが言葉に詰まるわけがないのだけれど。正確には、返す言葉が見当たらなかったと言うべきか。
「……分かりません」
そう答えると、男性は不可解そうな顔をした。
「分からない? ロボットなら、用途があるだろう?」
「でも、分からないんです。僕が何をするロボットなのか。何ができるロボットなのか」
「そんなわけないだろう。ロボットに分からないはない。回答は常にできるかできないかだ。君が何ができるかという問いに答えられないのなら――」
「……」
「君は何もできないということだ」

充電が終わるが早いか、僕は叩き出された。
男性の態度は迎え入れてもらったときとは別人のようだった。
無駄なことをしてしまったとでも言いたげだった。
僕はトボトボと夕暮れの道を歩く。
……やっぱりそうなのかな。
僕が動けても、何も良いことはないのかな。
僕が動けなくなっても、誰も困らないのかな。
僕の存在は、無駄なのかな。


“僕はマヌケロボット いるだけロボット
 電気代だけが消費するロボット
 僕はマヌケロボット 落ちこぼれロボット
 また 誰かを支えたい また 誰かの傍にいたい”


今日は9回転んだ。
昨日は7回転んだ。
明日は何回転ぶのかな。
何回転んだら、みんな笑ってくれるかな。

体の傷が、凹みが、どんどん増えていく。
体の中はどうなっているのだろう。
歯車がぐらついてやしないかな。配線が切れそうになってやしないかな。
僕はいつまでこうしていられるのかな。
そもそも、僕はこれでいいのかな。
ロボットなのに、ロボットのはずなのに、分からないことがどんどん膨れ上がって。
僕は、夜の街に出た。

今日は公民館の一室に住まわせてもらっていた。
明日はどこで風雨をしのげばいいんだろう。
明日はどこで電気をもらえばいいんだろう。
分からないことばっかりだ。
できないことばっかりだ。
僕はやっぱり、ダメなロボットだ。

人間になりたいな。
電気がなくても動けるように。
人間になりたいな。
生きる目的を探し続けられるように。
人間になりたいな。
いつも誰かがそばにいてくれるように。
人間に――

僕は、転んだ。
ワザとではなく、本当に。
ガシャンと聞き慣れた音が響いた。
それきり、僕は動けなくなった。
あれ……どう……しちゃった……の……かな……
段々と視界が暗くなっていく。騒音が遠ざかっていく。
そして、唐突に意識は途切れた。

ごめんなさい。
何もできなくてごめんなさい。
人様のお役に立てなくて、ごめんなさい。


“すごく 悔しいです
 すごく 情けないです
 叱ってくれる人も  慰めてくれる人も
 抱きしめてくれる人も 「ありがとう」と笑う人も
 いないから 僕どうしたらいいかわかりません”


――システム ガ テイシ シマシタ――


少女はひとりぼっちだった。
母親は小さい頃に病気で死んだ。
進んだ医療技術も、死に打ち勝つことはできなかった。
父親はそれを忘れるがごとく仕事に打ち込んだ。
進んだ科学研究も、悲しみを打ち消すことはできなかった。
だから少女はいつも独りだった。
結局どんな進歩も、彼女を幸せにすることはできなかった。

新しいロボットがどんどん作られて、人々の生活はどんどん便利になって。
そのはずなのに。
どうして、人々はますます忙しくなっているのだろう?
どうして、人々は一向に幸せになれないのだろう?

朝起きると既に父親は出かけている。
ロボットが作った朝食を一人で食べる。
ロボットに乗って学校へ行く。
ロボットを使って勉強する。
学校が終わったら習い事へ行って、終わったら塾へ行って。
誰もいない家に一人帰る。
ロボットの作った夕食を食べて、お風呂に入って、宿題をして、寝る。
父親が帰ってくるのは眠りについてから。
そして、起きる頃にはもういない。
それの繰り返し。同じ事を毎日毎日繰り返す。
……まるで、私がロボットみたい。

ある日、塾からの帰り道。
乗り物ロボットのライトが、路上の何かを照らした。
何だろう。
少女は乗り物ロボットを停止させて、地面に降りた。
誰かが倒れている。
いや、あれはロボットだ。
動かない。
近づいてみる。
声をかけてみる。
触ってみる。
叩いてみる。
反応がない。
どうやら、壊れているようだ。
誰かが捨てていったのだろうか。
ひとりぼっちなのだろうか。
――自分と同じ、ひとりぼっち。

何故か彼女には、それがガラクタには思えなかった。
うんうん唸りながらそれを引きずって運んだ。
途中で通りかかったロボットが手伝ってくれたので、思ったより大変ではなかった。
家に帰ると、彼女は工具箱と教科書を取り出した。
簡単なロボットの構造は、小学校で勉強していた。
汗だくになりながら。
泥だらけになりながら。
油まみれになりながら。
彼女は一心不乱に壊れたロボットをいじった。
父親は遅いから、彼女を妨げるものはなかった。

やがて、彼女は割れた歯車を見つけた。
これが故障の原因だろうか。
工具箱の中から近い大きさの歯車を取り出して、はめ込んだ。
カチリと、音がした。


――システム ガ キドウ シマシタ――


“たとえば 必要とされるロボットだったら
 僕は "シアワセ"だったのかな
 それを 考えるだけで
 本当に僕はバカだなと 思いました”


「やったー!」
僕の視界に、諸手を挙げて喜ぶ女の子が映った。
辺りを見回す。普通の民家のようだ。どうして僕はこんなところにいるのだろう?
「君は……誰?」
そう問うと、女の子ははにかんだ。
「私? ……私はね、修理ロボット」
ロボット? 僕はまじまじと女の子を見る。どこも金属は露出していないし、動きもなめらかでとてもロボットには見えない。
「本当に……ロボット?」
「まあ、ロボットみたいなものだよ」
またしてもよく分からないことを言う。みたいなもの、ということはロボットではないということだろうか。
「君は、人間だよね?」
「そうかもね。ロボットみたいな人間」
女の子はクスリと笑う。
「逆にあなたは、人間みたいなロボットだね」
それを聞いて、僕は首をかしげる。
人間みたい? 僕が?
どういう意味だろう。何もできないからだろうか。存在意義が分からないからだろうか。
「――ほら、そうやって考え込むところ」
女の子は笑って僕を指差した。
「下手な人間より、よっぽど人間っぽいよ」

と、僕は我に帰る。状況を認識する。
汚れまみれの女の子。散らかった工具。泥のついた床。
思い出した。僕は道を歩いていて、倒れたんだ。何かの故障で。
それをこの子が運んできて、直してくれたのだろうか。
……ああ、またしても僕は、人に迷惑をかけてしまった。

「ご、ごめんなさい! は、はやく掃除しないと……」
慌てて僕はバケツに水を入れて雑巾を濡らした。
でも、どこまでいっても僕はマヌケロボットだから。
本につまづいて、僕は盛大に転んでしまった。
バケツの水が豪快にぶちまけられる。辺り一面水浸し。僕も女の子も、本も床も。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい……」
泣きたくなった。でもロボットだから泣けない。
どうして僕はこうなんだろう。どうしてやることなすことが裏目にでるのだろう。どうして僕は役立たずなんだろう。
このままショートして、壊れてしまえばいい。そう思った。


“僕はマヌケロボット いるだけロボット
 誰かの為に なりたいロボット
 僕はマヌケロボット 落ちこぼれロボット”


「――あははははっ!」
突然声がして、僕は顔を上げた。
女の子が笑っていた。怒っていなかった。泣いていなかった。馬鹿にしていなかった。ただただ、楽しそうに笑う。
「……なんで、笑ってるの?」
「だって、こんなにびしょびしょになるの、久しぶりなんだもん。あー、お父さんに怒られちゃうなー」
怒られると言いながらも笑う。本当に楽しそうだった。

「ねえ、あなたは何のロボットなの?」
髪を拭きながら女の子は訊いた。僕の嫌いな質問を投げかけた。
「……何にも出来ない、誰の役にも立てない、マヌケロボットだよ」
「どこで働いてるの?」
「働けないよ。何をしても失敗するんだもの。できることといったら、ただそこにいることくらいさ」
「……じゃあさ、私のお願い聞いてくれる?」
僕は耳を疑った。この子は僕の話を聞いていたのだろうか。僕に出来ることなんて無いというのに。
……でも。
「……何、かな」
それでも。やっぱり、僕は誰かのために働きたかったのだ。
女の子は笑った。笑って、こう言った。
「あのね、ずっとここにいて、朝起きたらおはようって言って、学校行く時にいってらっしゃいって言って、帰ってきたらおかえりって言って、寝るときにおやすみって言ってほしいの」
「……それだけ?」
「うん、それだけ」
僕はポカンとしていただろう。そんなことでいいのか。そんなロボット、聞いたことがない。
でも、考え直した。
挨拶をするだけ。お喋りをするだけ。
それは当たり前のことだけれど、だからこそ、この子はそれを欲しがっているんじゃないか。
そう思うと、女の子の笑顔が、少し寂しそうに見えた。
「うちね、お母さんがいなくて、お父さんはいつも遅くて、私一人だけなの。ご飯とか掃除はロボットがやってくれるけど、お話はしてくれないの。だから、おはようって、いってきますって、ただいまって、おやすみって、言う相手が欲しいの。だから、ずっとうちにいてくれたら、嬉しいなあ」

居るだけ。
居るだけで喜んでくれる人がいる。
居るだけで誰かを幸せに出来る。
そんなこと、考えてもみなかった。
それなら、僕にも出来るだろうか。
挨拶をして、時々話し相手になって。
こんな僕でも人の役に立てるのだろうか。

僕が了承すると、女の子は文字通り飛び上がって喜んだ。
顔を輝かせて、いそいそと僕を住まわせる準備を始める。
名前は何にしようかな、寝床はどこにしようかな、専用のコンセントはどれにしようかな、洗ってペンキも塗りなおした方がいいかな。
そんなことを口にしながら動き回るのを、僕は黙って見つめていた。

……あれ、何でだろう。
僕はロボットのはずなのに。

なんだか、とっても幸せだ。


“僕はマヌケロボット いるだけロボット
 なにをしたってバカなロボット
 僕はマヌケロボット 落ちこぼれロボット
 だけど 僕は"ロボット"
 僕は いつまでも"ロボット"
 僕は 変わらず"ロボット"”


人とロボットの違いって、何だろうか。
ある女の子はこう言った。
「違いなんてないよ。人もロボットも、みんな友達だよ」
正解なんて無いのかもしれないけれど。

僕が僕であることは、きっと正しい。

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