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第7話 ラッキー?
挿絵(By みてみん)

俺は課長のゲストルームで暫らく居候する事が出来るらしい。

その代わり、俺には食事・掃除等の家事一切と、会社の通勤運転手をすると言う条件が提示された。
 
……これって……主夫しゅふ? 

それとも召使……なのかよ?
 
最初この条件を課長が出して来た時、俺は猛烈に反発した。
 
で、結局、俺は課長から携帯をプレゼントされて『フィット、自由に遣って良いから』の一言でアッサリとOK。
 
俺は携帯と車があれば何とかなるってゆー人種だ。
 
俺って単純?


「出来ましたよ?」
 
俺は課長の言い付けで風呂の準備を終えたトコロだった。

あれから課長は、再びPCに向かって例の小説とやらを読み(ふけ)っていたが、すぐに俺の声に反応する。

「そっ? アリガト」
 
ナンなんだよ? 

その全くありがたみがコモってない返事はァ? 
 
でも俺を見てニッコリと笑ってる?
 
ナニ? そのハラグロそうな笑顔は。

普段業務中では絶対に見られねー、チョッとカワイイ課長の笑顔にドン退きする俺。

「一緒に入ろっか?」

「ええっつ?」
 
トタンに俺の心臓とコカンがドキンと脈打った。

ヤリィ! ……って思ったのも束の間。

「冗談よ」
 
課長は簡単に否定すると意地悪そうにベロを出した。

「く……」

やっぱし。

そう簡単にはサセテくんねーよな?
 
俺がムカついているのをワザと確認したりして、課長は悪戯を成功させた子供みたいだった。

満足そうにニコニコして、課長は後手に何かを隠し持ちながら俺においでおいでと手招きをする。

「日高クン、ちょっと……」

「? 何スか?」
 
俺は飼い犬のように課長に近寄った。

「お礼がしたいの……その……目を……閉じていて……くれる?」
 
思わせ振りにそう言って色っぽい流し目を俺に投掛け、課長は少し恥ずかしそうに身体をじらせた。
 
う〜わ〜〜〜、イイッツ!
 
胸がドキドキする。
 
やりィ!
 
俺は何の疑いも無く心の中でガッツポーズ。

有頂天になって喜んだ。
 
言われた通り、素直に目を閉じて『マテ』の態勢になった。
 
……って、やっぱり犬?

「う〜ん、少し……かがんでくれないと……」
 
課長は俺との身長差に爪先立った。
 
ココまで言ったらもぉ、後はアレっきゃねーよなー?

「いいッスよ?」
 
俺は課長がすぐ傍に来ている気配を全身で感じ取っていた。
 
課長の軽い息遣いさえも甘く俺の耳に届く――
 
……ってえ?
 
首筋にヒヤリと冷たいモノが当たった。
 
かちゃ☆
 
なに? 

……かちゃ……って???
 
ぱちっ! と目を開ける。

「……課長?」
 
俺は自分の目の前で、悪戯っ子のような顔をして俺を見詰めている課長と視線が合った。

「はい?」

「これ……ナニ?」
 
俺は自分の首に留められた金具とそれに(つな)げられた、太さ5ミリのワイヤを掴んで持ち上げる。
 
コレってひょっとして……首輪じゃねーのか?

「それ? 見れば判るでしょ?」
 
いや、ココからじゃ見えないです。

「〜〜〜」
 
必死で外そうとつなぎ目を手で探る。
 
??? ナイ?
 
首輪は表面がつるんとした金属製だった。

手懸かりになるような所がない。

「それね、お父様がNASAの知人から貰った試作品なの。このリモコンにパスワードを入れないとロックが開かない仕組み。よく出来ているでしょう?」
 
名刺サイズの小型リモコンを(かざ)して見せて、課長は嬉しそうにノタマワッタ。

「はあ?」

「アタシがお風呂に入っている間だけよ? 済んだらハズしてあげる」
 
なんだとおおお〜〜〜?

「そんなに俺が信用出来ねーのかっつ?」
 
遂に俺はキレて早口で捲し立てた。

「うん!」
 
課長は自信ありげに大きくうなずいた。
 
余りの言い様に俺は退く。

「マッパの課長なんか、頼まれても見たく……」

「ナニよ?」

「……」
 
猫の瞳がギロリと俺を睨んだ。
 
至近距離から俺を見上げている課長の襟元が覗けて、言い掛けていた言葉を俺は思わずゴクリと飲み下した。

シャツの襟からヌケルように白くて美味そうな鎖骨が、チラチラとのぞいている。

課長がシャワーを浴びて、キメの細かそうな白い肌からしたたらせている雫を、実際に眼で追っておがんでみたいと思ってしまった。
 
……やっぱし……見たい……かも……

う〜〜〜ん、やっぱ俺って覗くかも……だな?

覗かないってぇ誓っても、課長が風呂に入ったトタン、誓いは瞬殺で反故ほご……だろうな?

自分のコトなのに、我ながらカルイ奴だな? って思い知らされてしまう。
 
さては、俺がこうなるであろうコトを最初から計算していやがったな?

「……」

「ふふん」
 
課長は得意そうに鼻で笑うと、俺の横を颯爽と通り過ぎた。
 
くっそ〜〜〜、いつかコイツ、本当に犯してヤル!!!

擦れ違いざまの一瞬、俺の利き手が眼にも留まらぬ速さで動いた。

「……」
 
課長は何事も無かったように……つか、全く気付いていない。
 
さっきまで何も持っていなかった俺の左手が、何かをシッカリと握り締めている。
 
今度は俺が舌を出す番だった。
 
俺は通り過ぎて行った課長の後姿を横目でチラリと窺いながら、不敵にニヤリと笑った。
 
そして、ゆっくりと握ったてのひら)を目の前で拡げる――
 
手にしたものは、たった今まで課長の大きな胸を上げて寄せていたブラ。

 
間もなくして、脱衣所から悲鳴が聞えた。
 
ザマー見ろ……だ。


  *  * 

 
左頬に二度目の真っ赤な手形を貰った俺が風呂から出ると、課長はキッチンのカウンターテーブルに顎を乗っけて、アンニュイに何かを見詰めていた。

「ナニ見てんの?」
 
髪をガシガシと乱暴に拭きながら、俺は訝って課長を上から覗き込む。
 
課長の目の前には小振りの上品そうなアイスが二つ並べてあった。
 
ナニナニ? 『ハーゲンダッツ』? 
 
……ああ、あれか。

でもナンで二つを並べてるんだ?

よく見ると、同じハーゲンダッツでも種類が違っている。

「ねえ……」
 
課長はテーブルにあごを載せたまま、頭を少し寝かせて俺に話掛けて来た。

「ん?」

「どっちがいい?」

「え? 俺?」

「うん」

「……」

「新発売のティラミスとモンブラン。どっちがイイ?」

「……?」

ティラミスとモンブランって、ケーキの種類じゃなかったっけ?

アイスに在るのか? そんなのが???
 
答えに困っていると、課長は二つを手に取って、俺の顔の前に差し出した。

「ね? どっちがいい? アタシはどっちも初めてなんだけどぉ?」

ひょっとして、そのどちらかが……俺の分?

「どっちでもイイッスよ?」
 
食った事のナイ新製品だと言われても、別に甘党ってワケじゃないから答えに困った。
 
大体、その容器の大きさじゃ俺は足りねーな?

面倒だったら、両方貰ってもいいんだぜ?

「決めてよ?」

「じゃ、右に持ってるの」
 
別にどっちでも良かったから適当に答えた。

「ええ〜、こっちィ〜〜〜?」
 
その言い方で、俺の選択権は一瞬で却下された気がした。

課長は右が良かったのかっつ?

だったら自分でサッサと決めろよ?

「なら、左」

「えっつ、えっつ、チョッ、チョット待って……」

「……???」
 
課長は慌てて俺を止めた。 

そしてアイスを再びテーブルの上に置いて、今度は大袈裟に頭を抱え込む。

 
時々俺は『女』が解からねー。
 
アイス一つでナニ騒いでンの? これがパニくるコトかあ???  

新製品だっつっても、限定何個までって言うのじゃねーだろ? 

だったらまた買えば良いじゃん。

「う〜〜〜ん」

「面倒くせぇーなぁー」
 
グズグズ言ってなかなか決められない課長を無視して、俺は手前に置いてあった方をかすめるようにして取り上げた。

「あッ!」

「もおー、早く食っちまわねーと、溶けちゃうじゃないッスか」
 
課長のヒメイのような声を無視すると、俺はさっさと蓋を開けてスプーンも無しにぺろっと舐めた。
 
おっつ? これイケる。

クドクない甘さが微妙に旨い。

俺は『ティラミス』と書かれたアイスのカップの側面を、鑑賞するようにぐるりと廻して眺める。

じゃ、課長の目の前にある、残った一つが『モンブラン』かぁ〜。

「ああ〜っつ!」
 
課長のとがめる視線もシカトして、テーブルに置いてあったスプーンを掴むと、あっという間に掻き込んで完食した。

「あ〜っつ!」
 
課長は口を半開きにしたまま、俺が(むさぼ)り食ってる様子を羨ましそうに見守った。
 
……コドモみたいだ。
 
だけど、風呂上りの艶やかなピンクの唇と生乾きの髪が、妙に色っぽくて印象的だった。
 
課長の『女の子』と『女』の両面を同時に見せられて、俺は内心ドキッとする。
 
きっと、俺しか見た事ねーんじゃねーか? こんな課長。

「え? 一つは俺にくれるんでしょう?」

「うー」
 
返事……しろよ。

「俺にくれたのじゃなかったんスか?」

「あ? う……ん」

「もー……ドッチなんスか?」
 
だあああ〜〜〜コッチが欲しかったのなら、そうだとサッサと言えよお〜〜〜
 
もう食っちまったし。
 
どうするよ?
 
俺は半ばイライラすると、イキナリ課長のうなじに指を滑らせて乱暴に唇を重ねる。

「むぐぐッツ?」
 
驚いた課長が唇を俺に奪われたまま、目をシロクロさせた。
 
モチロン、三度目の平手は遠慮したいので、俺は空いたもう片方の手で課長の両手を掴んでガードする。
 
俺にとってはコレがキス……って言えるのだか疑わしい、アイサツ程度のソフトタッチ。
 
それに、また噛まれるのもイヤだし。

「うン!」
 
課長が感じてしまいそうになったから、俺は課長からパッと離れた。

「旨かったでしょ?」

「……」
 
課長は真っ赤になって固まっている。

「あれ? 味、解かんなかった?」

「……」

「……課長?」
 
課長は頬を赤らめて、トロンとした眼をして俺を見た。
 
つか、何て言ったらいいんだろ……魂が抜けてる……って言うか……

ナンだ? このフヌケた表情は?
 
見た事ねーぞ? こんな課長。
 
???
 
俺は一つの予想を見い出して、ソレを試しにもう一度課長と唇を重ねた。
 
今度は今のよりも少し深い目。

「うん……」
 
課長は俺との接近に、そっと目を閉じちゃっているし。
 
……やっぱり……反応……してるよ。

「うう……」
 
しっかり息まで止めちゃって……
 
課長の息が続きそうになかったから、俺は合わせた唇をそっと離した。

「んっ、つ……司……?」
 
色っぽい潤んだ瞳で見上げて来る。

ナニ? 『まだ物足りないわ?』 的なその表情は?

「んあ? 課長、俺の事呼び捨て?」
 
俺は一本取ったぞと嬉しそうな顔をした。

「……」
 
耳朶みみたぶまで真っ赤になって、課長が俯く。
 
そしてそっと俺に身体を預けて来た。
 
お互い、パジャマだと体温が伝わり易い。
 
確信。
 
ミャク有り……だよな?
 
けど、残念。俺はナンだか急に眠気が……
 
やっと人並みの生活に……戻れたのか? 

この状態が? 

これで暫らくは大丈夫? 

……なのかな?
 
安心したら、全身の力が抜けた。
 
俺って自分でも気付かないうちに、相当ムリしてたんだなぁ。


俺の身体がぐらり☆ と崩折れる。

「えっつ? 司? ち、ちょっとぉお! 起きなさいよぉ! こらぁ! 寝るなあぁ〜、ウンもおぉお〜〜〜」
 
遠くで、少し怒った課長の声が聞こえた。

もしかして、期待してたのに俺に裏切られちゃった???
 
課長、ゴメン。
※ご訪問、ありがとうございます。 数少ないありがたいコメントから、作品で「っつ」の書き方に疑問やご不快を感じられていらっしゃる読者様の報告を頂いております。 小説作法を無視しているのかとお叱り、ご尤もでございます。 ですが、誠に以って申し訳ございません。 作者独自の強調方法としての「一種の仕様」 (=個性)だとご理解して頂き、お見捨て置きくださいますようお願い申し上げます。
※年齢制限作在り。作品閲覧はご自分の責任にてお願いします。
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