最終話 その女★危険人物!!!
「何の事かしら?」
恵理はフワリと笑ってはぐらかす。
「あ〜、ホラ、恵理のカレシ……」
「は?」
って、俺ナニ言ってンだよ?
「あ〜……じゃなくって、その……ほ、ほらっ、よく親同士で結婚相手を勝手に決めて……」
グダ×2な俺の説明に、恵理は腕組みをしてカルク吹いた。
その余裕ありげな態度から、俺がナニを言いたいのか恵理はトックに知っていて、ワザと喋らせようとしているんだと気付いてしまった。
「……」
「良いわよ? 続けて?」
急に口を噤んだ俺に向かって、恵理は小首を傾げると、上目遣いで見詰めて来た。
「……あの……」
「どうしたの?」
「……」
こんな遣り取り、まるで部署での課長そのまんまだ。
まるで俺が言えない、言いたくない言葉をムリにでも言わせようとして面白がっているみたいだし。
パワハラかよ?
納得いかねー。
家にまで業務モードを持ち込むなっつ!
拗ねた俺は、恵理にくるりと背を向けた。
「もう……イイ」
俺は投遣りに言い放つ。
ココまで俺が言っても、恵理はそのコトに触れようとはしないんだよな?
「アタシは『続けて』と言ったのよ?」
「いいってば」
「続けて……」
意外とシツコイ恵理との遣り取りに、俺のイラ×2も限界になりそう。
「ン、だからイイって……ンむぅ?」
くるりと振り返った俺の首に、恵理はイキナリ抱き付いた。
不意を衝かれた俺は、無抵抗のまま唇を奪われてしまう。
ちょっつ、ん、待ったあああ〜〜〜!!!
「ん〜ん〜!」
サスガは有段者のお嬢様。
俺の『不意』を衝いて、マンマと罠に嵌めちまったのか?
「う……ん?」
慌ててジタバタした俺は、恵理の本気モードのキスで急にオトナシクなってしまう。
「今のは何点?」
恵理はシットリと濡れた長い睫毛を瞬かせながら、そっと唇を離して囁き掛けた。
「え? 難点?」
俺は真剣モードに切り替え損ねて、惚けて訊き返す。
「……馬鹿」
吐息のように言葉が漏れて、恵理がフワリと身体を寄せて来た。
トタンに俺の心臓と股間が大きく跳ね上がる。
「こんなに酷い目に遭って……」
恵理は俺の目元に、そっと触れた。
緊張しているのか、恵理の指先は冷たくってキモチイイ。
俺は眼を閉じて、恵理の触れる指先をカンジた。
「もう、見えてますから心配ないですよ?」
「……うん」
恵理の栗色ユルフワの前髪を片手で梳いて、ヤヤ広いお凸にキスをする。
恵理の吐息が首筋に掛かってクスグッタイ。
「司は助けてくれたもの」
「?」
「夏祭りの事よ?」
一瞬、俺は恵理がナニを言っているのかを思い出すのに間が要った。
「? ああ、あの、※−1)駐車場でのコトですか?」
恵理はこくんと頷いた。
「あ? でも、俺はナンにもしてませんよ?」
それが、どうして『助けた』コトになんの?
俺の怪訝そうな表情を読み取ってか、恵理は俺から気マズそうに視線を逸らせた。
「アタシ、あの時に司がアタシの事を放っぽって逃げ出すのかと思った……ずっと前……学生だった時にも、似たような事があったの。不良に絡まれて」
「……」
『スミマセン。俺も『不良』でした』……って言い出せる空気じゃねーし。
俺が黙って聴いていると、恵理は尚も続けた。
「怖かった。一緒に居た人が先に逃げちゃって……『オマエは武道してるだろ?』って言い捨てて、アタシを独りにして……」
「……」
そこまで言って、恵理は言葉を詰まらせた。
泣いてるのか?
俺には、恵理の細い肩が震えているように見える。
俺は以前、※−2)鈴木主任がそんな事を口にしていたのを思い出した。
恵理が極端に男勝りなのには、ワケがあるのだと。
「護身術なんて……自分が怖がりだから。怖さを克服するための手段で遣っていただけ。型だけで、実戦なんて遣ったことさえ無かったのに、『習っているから強いだろ?』って……違う。違うのよ? 本当は強くなる為に習っていたのじゃないのに。その人は判ってくれなくって……」
ぐす……
俺から顔を逸らせていた恵理が、そっと手の甲で目元を拭い、軽く鼻をススる。
「司は逃げなかった。それどころか、成和会の事務所で死にそうな眼に遭っていたのに、アタシに逃げろって……言ってくれたもの」
恵理はそっと俺に身体を預け、密着させて来る。
そんなコトで俺に感動しちまったのか?
つか、オンナを危ない目に遭わせるのは、俺としてはNGだった……だけだ。
「恵理……」
俺は恵理を抱き締める。
「でも、恵理にはその……居るんだろう?」
――白馬に乗った王子様が。
恵理は俺を見上げた。
「姉さん達とアタシは違うわ」
「姉さんって……?」
恵理には腹違いの二人の姉がいる。
長女の沙耶さんの旦那である城嶋副社長と、次女の香奈さんの旦那である持田専務。
恵理の言い方から推測すると、お見合いか政略結婚なんだろう。
俺の予測が当たってると言わんばかりに、恵理は俺の様子を窺いながら、フフッと笑った。
「アタシはお父様達の七光りは御免なの」
「……」
いや、七光りだろうが、コシヒカリだろうが、真面目に『処女』を棄てたいのなら、ナンでもいいから嫁に行け。
「親の言う事は素直に聴くモノですよ?」
「それ、司が言えるの?」
「……」
大型猫科の瞳がキッと俺を見据えた。
はい。俺、墓穴掘りました。
つか、業務モードヤメロ。
「俺のコトはいーんです……その言い方じゃあ、セッカク用意してくれてた彼氏を振りましたね?」
多分、あの時。
※−3)マンションに遅く帰って来たあの日、恵理はその彼氏に対して何らかの行動を起こして……
それでアザを両肩に付けていたんだ。
恵理はあの時、今にも泣き出しそうな顔をして、俺のトコロに戻って来た。
……俺のトコロっつっても、恵理の家なんだが……
「だって、厭だって断ったのに、イキナリ怖い顔して押さえ付けてくるんだもの」
「そりゃオイシイ餌から断られれば、ムキになって当然でしょ? どうしてモッタイナイコトしちゃったんです?」
もっとよく冷静になって状況を把握しろよ?
この場合、『オイシイ餌』は勿論恵理。
お相手は、恵理の父親――木村工業株式会社代表取締役社長が用意してくれていた、どこぞのハイレベルな御曹司。
多分総てに於いて、俺と比べようとしてもハナシにもならない、恵まれた環境下でのセレブな御坊ちゃまだろうに。
「……そうかしら?」
「はぁ?」
恵理は俺の言葉に、不思議そうな顔をする……ってえ、恵理って天然っつ???
「何もかもが総て整えられているのって、それなりに見栄えは良いけれど、それだけなの。判る?」
「な、ナンのコトっすか?」
いきなりナニを言い出すんだ?
「例えると、宝石――ダイヤを手にするのに、人に依っては手っ取り早くティファニーやブルガリのお店で、綺麗に磨かれてディスプレイされている完成品を購入する人っているでしょう?」
「? フツー、そうじゃないンすか?」
ダイヤなら、宝飾店に行くだろう?
つか、俺にとっては別次元のハナシだ。
しかも有名ブランド名出すな。
肝心な恵理の言わんとしているトコロに気付けずに、俺は恵理から再び睨まれる。
「まあ、それは勿論ありだけど、鉱山に登って原石を自分から探し出すのって、ロマンチックじゃない?」
「はぁあ? 豪い目に遭って、サンザン苦労して……山登りなんて蚊やムシが一杯湧いて出て来ますよ? んで、結局宝石出ませんでしたぁ〜ってのもありはしますが?」
ロマンチックもクソもねーだろよ?
「馬鹿っ!」
ぱちん☆
「いたた……???」
俺は恵理の微妙に手加減された平手を左頬に喰らった。
「例え話よ。実際のとは違うのっ!」
「はぁ……」
「だからぁ、アタシは自分よりも完璧な人が苦手なのっつ! 判った?」
急に声を張り上げて、恵理は力説。
おお〜、コメカミに血管浮いてるぞ?
「で? ナニ持論展開してンです?」
こんな状況下で。
「っあ?」
いつの間にか、恵理は水着姿のままでベッドの上に寝かされている……
って、気付けよ?
「だっ、だって司が判らないフリ……フリ? してたの?」
猫の瞳が大きくなって、俺を見上げる。
にやり☆
俺は不敵に恵理を見返した。
あっつ、もぉダメ。
クスクス……
「だったらナニ? 俺、そこまで鈍くないよ?」
俺は笑いを噛み殺しながら、恵理の身体に覆い被さる。
風呂から直行している俺は、相棒もスタンバッテいるし。
これ以上のお膳立ては不要……だろっつ☆
「あん……」
水着をずらせて、恵理のキュウクツそうだった胸を解放してやった。
ツイデに肩や首筋に音を立てながらキスを落とす。
恵理の身体は火を点けられたみたいに、タチマチ熱くなって来る。
キスを落として滑らかな肌に触れる度に、恵理はくぐもった声をあげて身体を撓らせた。
水守やアブのオヤジから、俺は恵理とのコトを応援されていた。
水守はチョッと……不本意っぽかったが。
だけど、イマイチ積極的になれなかったのは、恵理の婚約者殿の存在だった。
恵理の言い様から判断すると、恵理の勝手な婚約破棄?
将来を約束されているだろう、理想を絵に描いたようなお相手を、恵理は拒否してしまったのか???
俺にとっては信じられねーコトを、恵理は平気で遣っちまうお嬢様。
だけど……
俺と言う原石を、恵理は見付けてくれたってーのか?
そう思うと、ナンだか照れる。
つか、俺って『石』っつ?
「んあッツ! ちょ、痛ッツ!」
恵理は顔を顰めて俺から逃げ出そうとする。
体育会系の恵理は見掛け以上に怪力で、スゲー力で俺を押し退けようとモガいて、ベッドの上へ×2と上がろうとする。
「恵理……」
俺は痛がる恵理の耳元で、そっと名前を囁いた――
手を伸ばせば、恵理の温もりがスグそこにあった。
俺は気を失うようにして眠ってしまった恵理の頬にキスを落とし、そっとタオルケットを掛けてやる。
「……」
シーツに付けてしまった恵理の『シルシ』を見付けてしまい、俺はナンだか気恥ずかしくなってしまった。
ナニ照れてンだ?
ガラじゃねーのに。
『課長の処女は要りません』ってタンカ切ってたワリには……ココまで来るのに早かった?
いや、俺としては逆に『よく持ち堪えた』って感が拭えねーし。
で、俺ってホントは……
恵理と知り合ってから、俺は命の危機に何度も晒された。
ツイデに俺が建前だけで生きて来たってコトを恵理から気付かされ、無意識に隠し通していた俺の本音を、洗い浚い暴き立てられ、『素』に還らされてしまった特別なオンナ。
だが……
ひょっとしたら、そんなのは単なる序章に過ぎないの……かも?
――その女 ☆ 危険人物!!!
俺にとっては、恵理が一番危険な存在……なんだ☆
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