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第25話 嫉妬?
挿絵(By みてみん)

「あんっ……つ……かさ、手……放して……」
 
恵理が軽く喘ぎ、俺の舌先をカンジながら身体をくねらせた。
 
俺は恵理の切った指先を、左手で包み込むように圧迫止血をしたまま、無理な体勢で恵理の左腕に舌を這わせていた。
 
モチロン、恵理の血は全部キレイに舐め取った後……だ。
 
柔らかな二の腕の内側を、肩に向かって唇と舌先がじれじれと這い上がって行く。
 
脇の辺りまで顔を近づけてるのに、恵理からは微かな汗のニオイと(アナスイの)香水の甘い香りしかしなかった。
 
強烈なニオイは勘弁だが、恵理の身体からオンナのニオイを期待していただけに、チョット残念。

「ふぇ、や……いやだぁ、くっ、くすぐったい〜い……んあっつ?」
 
腕から唇を離すと、今度は恵理を後ろ向きにさせ、俺はウシロから右手でそっと抱き締めた。そして肩越しに鎖骨へとキスを落とす。
 
滑らかな恵理の肌の感触を唇と舌先にカンジ取りながら、その首筋を甘噛みした。

「んっ、ん……」
 
恵理は更に身体を捩じらせながら、俺のキスを受け容れてカンジてる?
 
声を出さないようにしているのか、右手の甲で軽く口元で押さえているみたいだった。
 
何度もクグモッタ声が、切ない溜め息みたいに漏れ聞こえる。

「んん〜〜〜課長〜〜〜」
 
ちゅ、ちゅ……
 
ハナシ掛けながら、俺はそれでもキスの愛撫を止めない。

「あん……なに?」

「課長の肌、オ〜イシ〜イ〜〜〜」

「馬鹿ぁ……」
 
フザケテいた俺に、恵理が恥ずかしそうに応えた。
 
俺の吐息がクスグッタイのか、恵理はくすくすと肩を揺らして笑う。
 
恵理のウェストに廻していた右腕を解くと、その手で軽く顎を掴んだ。
 
俺の唇が恵理の顎を伝い、果実みたいに美味そうな唇へ……

「う……ん……」
 
恵理が堪えられずに切ない溜め息を漏らす。
 
視界が閉ざされたせいか、恵理とこうしている間、俺は俺でなくなっていた。
 
今の俺は、望めば何でも願い事が叶えられる……恵理が望むなら、俺はナイトでも何にでもなれる気がしていた。

分の悪い貧乏なんてクソ喰らえだ。
 
俺は俺のなりたい自分に、恵理が望みさえすれば……

「あ……ん」
 
俺は恵理を振り向かせ、軽く開いて声が漏れている恵理の柔らかい唇を奪おうとしていた……
 
その時だった。

 
――恵理の部屋から携帯が鳴った。
 
恵理の身体がびくりと大きく跳ねて、次の瞬間フリーズする。

 
――以前、恵理が嫌がっていた、聴き覚えのある呼び出し音。
 
恵理には当然、ソレが誰からなのか判っている。
 
俺の知らない誰かさん……だ。

 
視覚を奪われている今の俺は、恵理の心の中をワケナク覗ける気がしていた。
 
携帯の呼び出し音は、恵理を無性に不安がらせていた。
 
まるで心の中へ投石したみたいに、その不安が波紋となってたちまち幾重にも大きく拡がっていくように感じられる……
 
忘れていたケド、俺は意識不明で爆睡をカマシていたにも関わらず、何度もその呼び出し音を聴いたような気がしていた。
 
それは夢の中だけでのハナシだったのかも知れない。
 
だけど、ナゼだか妙にリアルに聴こえていたのを、俺は不思議に思っていたんだ。

「課長?」

「あ? ああ……アリガト。も、もう傷口、塞がったみたい……」
 
緊張のせいか、事務的に喋り出した抑揚のナイ恵理の声が、俺にはナゼだか硬くとげとげしく聞えた。
 
ソワソワと落着かなくなった恵理は、手を振り払うようにして手首を引いて、俺から逃れた。

「どうし……?」
 
恵理の反応に驚いた俺は、掛けるべき言葉を失くしていた。

「ご……ゴメン……携帯……出なくちゃ……」
 
恵理はそう言って、するりと俺をかわして行った。
 
ぱたぱた……
 
スリッパの音が遠去る。
 
携帯に出ようとする恵理の逸る気持ちが、足早に俺から離れて行くみたいだった。

「……?」
 
一体、どうしちゃったんだよ?
 
俺は恵理をもう一度抱き締めようと、腕を伸ばし掛けていたままの状態で固まっていた。
 
余所々しくなった恵理に、俺は恵理の中にもう一人のオトコの存在があるのだと確信してしまったんだ。
 
……恵……理?

「……痛っつ!」
 
包帯をしている眼の奥がズキリと疼き、俺は顔を顰めた。

 
――俺が眠っている間に、ソイツと急接近したって言うのかよ?

 
頭の中で、恵理の身体に刻み付けられていた痣が、何度もフラッシュバックする。
 
恐らく、それは携帯のヤツが遣ったんだと俺は睨んでいる。
 
痣が残るホド強引に……恵理を……
 
でも、あの時俺はソイツに『遣ってしまえばイイ』と思っていた。
 
恵理が処女を棄てたいと思って焦っているのなら、望み通りにヤッテ遣ればイイじゃないか。

ナニを躊躇ってるんだよ? ……って。
 
俺だって、あの時点で恵理がそうなっていたのなら……俺だって諦めも付くし、傷は浅かったハズだったんだ。
 
確かに俺は恵理を拒否したさ。
 
ワザと酷いコト言って、憎まれ口叩いて、恵理を……
 
だけど……だけど心底からの俺の意思じゃなかったよ。
 
……今更な言い訳だけど。
 
結局、恵理は携帯のヤツと俺とを、フタマタ掛けてたってコトじゃねーのか?
 
……汚ねーよ!!!

「……」
 
俺はこの瞬間に、恵理に出会う以前のダラシナイオンナ関係や、過去の自分の遣った『汚い部分』――握り潰そうと思えば出来る、警察沙汰にならない程度のチョットした恐喝や暴行さえもタナに上げてしまっていた。
 
無意識に両手を握り締めていた。
 
堪らない不快感が後から後からこみ上げて来て、俺をガンジガラメに捉えていた。

 
ダシ汁が沸騰し過ぎて蒸発してしまい、なべ底ヒタヒタになった。
 
煮えタギッテいる鍋に、IH(電磁調理器)ヒータが危険を察知して自動的にスイッチを消した。

「……」
 
俺は立ち尽くしたまま、まだその場から動く事が出来なかった。


 
恵理の部屋から、バタバタと慌しくクローゼットの扉を開閉する音が聞える。
 
今からドコカに出掛けて行くのか?
 
携帯の相手に……呼び出されて?
 
一緒に恵理の夕飯メシ作るんじゃなかったのかよ?
 
……俺は留守番で置いてきぼり……か?



恵理が息を切らせて足早に部屋から出て来た。

「ゴメン、司」
 
それだけ言って、俺の目の前を素通りしようとする。

「いっ、今から外出? ……ドコに行くんです?」
 
俺は頬がチリチリと熱くなって来ているのを感じていた。
 
……こんなの、お預け喰らったワンコロ……みたいだ。
 
俺の掛けた言葉に、恵理の足音がピタリと停まった。
 
そして、二、三歩バックで戻って来る足音と気配がした。

「……あれぇ?」
 
赤面して不満そうな俺の顔を見たのか、恵理はふふっとカルク笑った。
 
むかっつ☆
 
まるで、困ったコドモをこれから宥めようかといった恵理の雰囲気が窺えて、俺は更に頭に血が昇る。
 
まあ、その通ーりなんだけど。

「司ぁ、ひょっとして、ヤ・キ・モ・チ?」
 
俺には、恵理の声がチョット意地悪く聞えた。
 
ナニ能〜天気なコト言ってンだよ?

「おっつ? 俺が?」
 
ヤキモチだってぇ〜〜〜???

「うん」
 
恵理はコトも無げに言い放った。
 
その言い方にカチンと来る。

「んなっ、ナニ言ってるんスかぁ! ちっつ、ちがっつ……」
 
がああ〜〜〜っつ!!!

口がマトモに動かねぇ〜〜〜。
 
この俺がナンでヤキモチなんか妬くんだよっつ!!!

「いいの、いいの、ムリしなくっても」
 
恵理は思わせ振りな含み笑いをしてそう言った。
 
俺の反応を面白がっているのか?
 
けどその恵理の一言が、俺のオトコとしてのプライドみたいなものを奮い立たせるキッカケを作ってしまったんだ。 
 
そもそも意地っ張りのこの俺が、スナオになれるワキャねーっての。
 
俺は一呼吸、息を大きく吸い込むと……ニヤッと口角を歪めてフテキに笑った。
 
そして、カワイゲのナイ俺が現れる――

 
俺は包帯で目隠しされている状態のまま、睨み付けるように顎をシャクッた。

「はあぁ? ナンで俺が課長のカレシに嫉妬しなくちゃならないンっすか?」
 
自分でもハッとするくらい、俺のコトバは冷やかだった。
 
恵理から好いようにアシラワレている今の状況から、逃げ出そうと反発する思い……いや、この場合、本能って言ってイイのかも知れない……『尻に敷かれたくナイ』ってゆー本能が、強がろうとする勇気を呼び覚まして俺を口達者にさせていた。

「……」
 
恵理は何も喋らない。
 
俺の変わりように息を呑み、怯んでいるみたいだった。
 
さらに俺は調子をコイテ言い放つ。

「ドコに行くのかって聞いたダケっしょ? デートならハッキリそう言えばいいじゃないッスか。課長がドコの誰とエッチしようと、イチイチ俺に断りなんか要らないっしょ? つか、俺だってそんなコトしませんよ?」

「……」
 
恵理の方から、軽く空気が震えた感じがした。
 
俺、また『あの時』と同じコト言ってる。
 
つい軽口叩いて恵理をタキツケようとしてる……

 
ナニ遣ってんだよ……俺……

 
黙っていた恵理はカルク溜め息を漏らした。
 
気を取り直すように、自分の頬に掛かった髪をウシロへ流す仕草をする気配。
 
また殴られるか?
 
身構えた俺の様子に、恵理がプッと吹き出した。

「全く……司ってば……いいわ、ご忠告アリガト。アタシも冗談が過ぎたようね?」
 
はいいぃ? ジョウダン???
 
おっ、怒ってナイのかよ? ぼ、暴力じゃなくって、マトモに返事で返せてるじゃん?
 
いっ、いや待てよ? 安心するのはまだ早い。

今のは、俺が怪我人だからなのかも知れねーよなっ???

「今のは、会社からの召集よ?」

「え?」
 
会……社???

「だ、だって、今からって……もう就業時間トックでしょ?」

「監査役から召集が掛かったの。で、これから会社」
 
恵理は半ば面倒くさそうにボヤイタ。
 
空気が動いて、軽い衣擦きぬずれの音が聞えた。
 
恵理が付けている甘いアナスイの香りがワンテンポ遅れて俺の鼻に届く。手にしていただろうジャケットを羽織ったんだ。

「監査役?」

「ええ。司が眠っている間にね、社員の個人情報が流出したの」

「個人……情報?」

「そ。全社で約二千三百件。ネット上で公開直前にシステム部が気付いて抑えたのだけど、数百人の情報が手遅れだったわ。その情報を最高値でウチが買戻したの。で、これからその後始末――」

「会社……って……」
 
じゃあナニか? 恵理は今まで会社からの連絡に不機嫌になっていたってゆーのかよ……???
 
俺は、携帯のその呼び出し音にビクついていた今までの恵理の表情を思い出していた。
 
相手が会社なら、そこまでオオゲサに反応していた恵理の態度は不自然だ……
 
……違うな。
 
勘だが、そう思った。
 
恵理は今、俺にウソを吐いてる。
※ご訪問、ありがとうございます。 数少ないありがたいコメントから、作品で「っつ」の書き方に疑問やご不快を感じられていらっしゃる読者様の報告を頂いております。 小説作法を無視しているのかとお叱り、ご尤もでございます。 ですが、誠に以って申し訳ございません。 作者独自の強調方法としての「一種の仕様」 (=個性)だとご理解して頂き、お見捨て置きくださいますようお願い申し上げます。
※年齢制限作在り。作品閲覧はご自分の責任にてお願いします。
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