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その女 ★ 危険人物!!! SIDE−A
作:和 貴



第23話 救出?


「テメェ、ドコのモンだ!」

「とっととけえんな!」
 
凄んだ怒声と、乱れる靴音……
 
侵入者はすぐそこまで来ている。

「ナニすんのよッツ!」
 
鋭いオンナの声が飛んだ。

「売り飛ばすゾ!」

退いてッツ! これでも退かないの?」

「この女ァ! ……うぉあ?」
 
一瞬、ソコに居合わせた何人もがドヨメイた。
 
オンナの『何か』に息を飲んで退いたのが判る。
 
一体、ナニを持っているんだ?

「ココを通してッツ!」
 
何人ものガラの悪い連中に絡まれながら、追詰められた野獣のように、再びオンナが鋭く叫んだ。
 
カッカッカッ……
 
小走りに駆ける靴音がハッキリと聴き取れる。

通路に響くヒールの音は一人分。

って、まさか……たった独り?

 
「て……テメェ、ザケヤガってぇ!!!」
 
オンナが見せ付けたであろう『何か』に怯んだ連中が、慌てて我に返ったみたいだ。
 
遠巻きに何人もの靴音が入り乱れ、口々に汚くののしりながら、先を急いだオンナの後を追い掛ける。

「司ッツ! ドコなのッツ?」
 
俺ははっとして、俯いていた顔を上げた。
 
やっぱり……恵理だ!
 
まさか、俺を助けに……?


 
マンションを飛び出す前、俺は恵理にヒドイ言葉を投げ付けていた。
 
金をエサに俺を釣ろうとしていたが、それが恵理の焦りみたいなモンから来た単なる強がりで、本心から言った言葉じゃないってコト……俺はとっくに見破っていたんだ。
 
モチロン、金をチラつかせたコトに対して、貧乏人の俺は頭にキテいたさ。
 
けど、そうするコトしか出来なくなっていた、歪んでしまった恵理に対して、俺が素直にはなれなかったのも事実だ。
 
『馬鹿ッツ!』
 
テニスと武道で鍛え上げられた強烈な平手打ちが、俺の左頬に炸裂した。
 
溢れる涙を拭いもせずに……恵理は顔をクシャクシャにして、しゃくり上げながら泣いていた。
 
プライドの高いハズの恵理が、俺の目の前で大声で泣いたんだ。
 
もう、恵理は俺のコト、二度とゆるしてはくれないだろうと思っていた。
 
本当は……俺、それでも構わなかったんだ。
 
そうすれば、俺だって恵理のコト諦められたのに……

『処女は要らない』……

我ながら、ナニぶっコイテやがんだよ? 

その場の空気にガマンが出来なくなって、俺はワザとそう言った。

恵理は木村工業の社長令嬢であって俺の上司。

一方、元走り屋のこの俺は、どんなに背伸びしたってお嬢様である恵理とは釣り合わねーし。

この先、恵理との関係を、ずっと続けていけるとは思えなかった。

なのに恵理は勝手にドンドン突っ走って、挙句に金で俺を買おうとし、処女を棄てようと企てた。

俺だって、恵理が普通のオンナなら、金なんか頂かなくてもサッサと処女を頂いてたさ。

フツーのオンナ……ならな?

……お嬢様のするコトじゃねーだろよ?

このままだと、俺もいつタガが外れてしまうかもだ。

だから俺は自分から進んでこの関係を断ち切ろうとしたんだ。

結果、恵理を泣かせちまったが……俺のコト、サイテーなヤツだって……恵理が心底嫌ってくれて、それで終わってくれるんなら、その方がどんなにかマシだ……なんてね。

 
なのに……ナンで?
 
ココが成和会の事務所だってコト、マジで判ってないのか?
 
恵理みたいなお嬢様が来るようなトコロじゃねーんだ!
 
危険なんだ。アブねーよ!!!

「恵理ィ――ッ! 来るなあああ!!!」
 
ココに向かっている、まだ姿の見えない恵理に対して、俺は声を張り上げて怒鳴った。

「戻れ! 早く逃げろぉーっ!」

聞えたのなら、引き返せっ!!!

「テメェは黙ってろい!」
 
頭上から怒声が降った。
 
ガンッツ!

「あぅ……」
 
K−1な奴らの一人からいきなり胸倉を捕まれて、強烈なフックをお見舞いされた。

顎をシタタカに殴られる。
 
衝撃で首が折れそうに曲がり、再び俺の目の前で星が散った。
 
ふう〜っと視界が白み、脳が揺らされて意識が遠退く。


「司ああッツ!」
 
悲鳴に似た、恵理の声。

……必死に俺を捜してくれている。
 
その声で、俺は消えかけていた意識を『現実に』引き留める事が出来た。
 
つか、キゼツしている場合じゃねーだろ?

しっかりしろ!
 
俺は自分に喝を入れ、苦痛に顔を歪めながら頭を左右に振って意識を無理矢理引き戻す。

そして声のしたドアの方へと顔を向けた。


「司ッツ!!!」

部屋の前で、ヒールの靴音がピタリと止まった。

「テメェ……」
 
言い掛けたK−1なヤツラが、恵理の姿に鼻白んで口篭る。
 
……???
 
俺はボコられて腫上がった顔を、顰めるようにして眼を細める……

 
――見間違えたりなんかしない……開いたドアには、確かに恵理の姿があった。

 
襟を立てた黒いシャツに、動き易そうな黒いパンツスタイル。
 
腰の張りがイマイチの細身の恵理が、ナオのコトすらりとして見えた。
 
ただ、相変わらず、胸だけはデカかったが……
 
俺は視線をサマヨワせ、恵理を見てK−1なヤツラが退いた理由を捜した。

「その手を放しなさいッツ!」
 
恵理はK−1なヤツラに対しても、全くおくする事無く強い口調で言い放った。
 
そして、今まで履いていたシルバーの華奢きゃしゃなミュールを脱ぎ捨てて、素足になる。

うるせぇ! て、テメェ、ダレの許しでココまで来やがっ……」
 
再びK−1なヤツラが退き、言葉を飲んだ。
 
恵理から放たれる強烈なオーラに圧倒されていたんだ。
 
現役のオッサンが退く……って、マジかよ?
 
……ぞく……
 
俺の身体に悪寒が奔った。
 
つか、コレって……『殺気』?

「なっつ……? え、恵理っ……???」

俺は『殺気』の発生元を見付けてドン退きする。
 
静かに右足を一歩ナナメ前に擦り出して半身はんみに構えると、恵理は持っていたモノを横にして、自分の目線にまで持ち上げた。
 
右手にしていた黒い漆塗りの七十センチ程度の棒は、手元に『つば』らしいものがあり、全体にわずかなりがある。

「え……理?」
 
俺は恵理を見詰めて固まった。
 
ナニ? その手に持っているモノは……?
 
差し出した棒を左手に持ち替えると、流れるような動きで腰の辺りに固定した。
 
ウソ、それってもしかして日本刀???
 
帯刀し、腰を低く落としながら軽く上体を左に捻る――
 
肩越しに相手を見据えているその姿は、どう見てもこれから抜刀をする構えの、臨戦態勢だった。
 
しかも一分の隙も無く、無駄な動きさえぎ落とされ、淘汰されたキレイな構え……

こんなモン、見様見真似で会得出来るモノじゃないってコトぐらい、俺にだって判る。


「来るのなら……覚悟なさい」

ネコの瞳が細くなり、妖しく光った。
 
――そして眼で射殺す……今の恵理の視線は、見るもの総てを瞬殺出来そうなほどの強い殺気を帯びていた。
 
その表情は、今まで俺がコワイと思っていた恵理の表情なんかよりもケタ違い。
 
遥かにイッちゃってる。
 
俺には、『殺気』で包まれた眼に見えない結界が、恵理を包む空間に張巡らされたように思えた。
 
不用意に恵理の『間合い』に飛び込めば、俺ですらどうなるか判らねーヤバイ雰囲気。
 
恵理は、まるで獲物を狙うドーモーな肉食獣――


「な……なにおぅ……こ、この……」
 
K−1なヤツラは完全に気圧されていた。
 
コイツラ、完全に恵理の殺気に飲まれてる。
 
……ソレって、まさか真剣モノホン……なのかぁ? 
 
つか、それなら銃剣等不法所持だろ?
 
一触即発――

状況を見守っている俺の喉が、ゴクリと音をたてた。


「くくっ……」
 
部屋の外……通路から、声を押し殺しても自然と漏れてしまう男の笑いが、殺気に包まれたケンアクな雰囲気をぶち壊した。

「……」
 
集中力を欠いた恵理が、顔をしかめて構えを解いた。

 
恵理の周囲から、ピリピリとした殺気がコツゼンと消える――

 
はぁ〜〜〜ビックリしたぁ。
 
恵理はと言えば、ナンだかキマリが悪そうに、口を尖らせている。

気持ち、頬を赤くして。

「……もぉ〜、アンタってば……どーしてソウなのよ?」
 
困った顔をして、恵理は後ろを振り返った。
 
え??? 俺のコトじゃ……ねーのか?
 
助けに来てくれたハズじゃなかったの?
 
俺はこの時恵理からシカトされて、チョット複雑な気分になった。

「くすすす……強引。相変わらずだなぁ、恵理姫は」
 
笑いながら出て来たのは、さっき奥に引っ込んでいた刃物傷の水守だった。
 
今、恵理のコト『姫』って……呼んだ?

「ソッチこそ、こんな夜中にアタシを呼び付けておいて、このお出迎えはナニ?」
 
出たッツ! 恵理の高ビ〜〜〜!
 
こういう態度を取るのって、俺にだけじゃなかったのか。
 
ってゆーか、この二人の関係って……ナニ?
 
俺は二人の遣り取りをアッケにとられて見守った。

「もしかしたら、久し振りに※−1)蒼月そうげつ流を拝めるかなと思ってさ」

「……」
 
恵理は無言のまま、手にしていた日本刀をスラリと鞘走らせた。

「うわわっつ?」
 
その場に居合わせた俺達は焦った。
 
驚かなかったのはあの水守だけだ。
 
……一点の曇りも無い蒼白の見事な抜身が現れた。
 
その妖しい輝きは、トーシロの俺が見たってレプリカじゃないのが判る。
 
手に馴染んだ感のあるやいばの切っ先を、恵理は水守にひょいと突き付けた。

「冗談にもホドってものがあるわ。司にナニすんのよ? 事と次第に因っては、この『霧雨きりさめ』のさびにするわよ?」
 
ややトゲトゲしく苛立った恵理の声。
 
しかし、ナンてぇ古風な言い回しだよ。恵理は時代劇ヲタクなのか?


「俺は恵理の車がこの男に盗まれたのかと心配して遣っただけだ……この男の言う通り、どうやら本当に盗んだ訳ではなかったようだが……となると、この男は恵理の何なんだ?」
 
サスガの水守も、真剣を突き付けられれば慌てるか?
 
って、あんまし慌ててねぇし。
 
水守は甘いマスクを崩しながら、両手を軽く挙げて冗談っぽく降参しただけだった。

「よっつ……余計なお世話だわ」
 
核心を突かれ、恵理は赤面してウロタエた。

「カレシ? へぇ、まさか恵理が『こういうの』が趣味だとはね」
 
水守は、俺のブサイクに腫上がった顔をジロジロと観察した。

あの……ナンか俺、メチャクチャ不愉快なコト言われてね???

ボコられて、俺の顔は至る所が紫や青い内出血で腫れ上がり、眼もマトモに視界が確保出来ない状態だった。

つか、完全に人相が変わっちまってるし。

こんなの、俺じゃねーよっつ!

「ンな、ナニよ?」

「いいや? 『こういうの』より、やっぱり俺にしておけば?」
 
水守は、『勝った!』とばかり嬉しそうに爽やかに笑うと、親指を立ててソレを自分に向けた。
 
ナンだ? この二人の組み合わせは?
 
……あれ?
 
俺は鼻の下から顎に伝ってしたたっている生暖かいモノの不快感に、今頃になって気が付いた。
 
うう〜〜〜、まだ鼻血が止まってねぇ〜。


「結構よ。『みもりん』にアレコレ言われたくはないわ」
 
水守のコビを含んだ言い方さえ、恵理は無下に却下する。
 
ぷっつ……
 
俺は思わず吹いていた。
 
『みもりん』ってぇナニ? 

ひょっとしてコイツのニックネーム? 
 
って、確か『ミカミ』って言われてたよな?

「オイ……」
 
思わず吹いた俺は、水守にスゴんで睨まれる。
 
ウシロに居たK−1なヤツラが、トッサに姿勢を正して萎縮するのが気配で判った。
 
サスガはその道のプロ?

恵理に負けず劣らずの眼光だったが、ザンネンながら俺の中では、スデにコイツの威光は地に堕ちてしまっている。

「……恵理」

「なあに?『みもりん』」
 
恵理は悪気が全く無いような、ワザとらしい笑顔を作った。
 
コイツが困ってるの、知っててワザと遣ってる……確信犯。

「その言い方……止めろ」

「あら、幼稚園の頃から『みもりん』は『みもりん』でしょう?」

「……だから、止めろって」
 
え? コイツと恵理が幼馴染の同級生???



「はい」

「ムリだ。そんなモン入んねーし」
 
恵理の差し出した『ソレ』を見て、俺はオオゲサに首を振って怯んだ。

「大丈夫よ。ちょとくらい大きくったって……」
 
言うなり恵理が俺の顔を無理矢理押さえ付ける。

「ナニがチョットだよ? デカ過ぎるってぇあっづ!!! いだだだ!!!」

「ガマン、ガマン」

「出来るかあああ!!! ぎゃあああ!!!」
 
大粒の涙を溢しながら、俺は必死に恵理の手を振り解いた。
 
恵理は俺の止まらなくなっていた鼻血を「止めてあげる」とか言っておいて、テッシュを何重にもマトメテでかいコヨリを作っていた。
 
それ、俺の鼻の穴よりもデカイ。
 
どー見たって鼻には入んねーだろが。
 
しかも花粉症のヤツ用に作られたデリケートタイプなんかじゃナイ。

フツーのティッシュなんだぞ?
 
コイツをイキナリ捩じ込まれてミロ! 鼻血が止まるドコロかその逆だっつーの。

「……っせえな。オトコだったら、多少のコトは我慢しろ」
 
恵理に手痛くフラレタ『みもりん』もとい『水守』が、不機嫌かつ鬱陶しそうに俺を見た。
 
『こんなブサイクに俺は負けたのか?』ってぇ未だに不満タラタラの表情だ。

「アンタならこれがガマン出来るのかよ?」

「……」
 
俺のスルドイ突っ込みに水守はダンマリを決め付ける。

「……っつ!」
 
俺は眼の奥にスルドイ痛みがハシったのをカンジて、顔を顰めた。
 
アレ? 虫?
 
痛みはホンの一瞬だったが、今度は目の前で、黒くて光っている虫みたいなのがイッパイ飛んでいた。
 
俺はソレを捕まえようとして、何度も手を振る。

「司?」

「はっ、はい?」

「ナニやってるの?」
 
恵理が不思議そうな……いや、心配そうな顔で俺を覗き込んだ。
 
その距離ワズカ数センチ。
 
だけど、その間にも虫は増え続けてイッパイ飛んでいる。
 
恵理の愛用している※−2)アナスイの甘い香りが、俺のマヒした鼻をクスグッタ。
 
しかも俺の目線からは、恵理のくつろげた黒いシャツから、柔らかそーな胸の谷間がマル見えだった。
 
ごく……
 
視線が離れない〜〜〜思わずナマツバを飲み込んだ。
 
つか、このムシみたいなの、ジャマだ。

「いっつ、いやぁ、べっつ、別に……」
 
チョット焦る俺。
 
俺の視線を覚った恵理から、今にも殴られそうな危険をカンジて、俺は退いた。

「うん?」
 
水守はイキナリ片手で俺の額をがしっと片手で鷲掴みにする。
 
ひぃ?
 
コイツには俺の下心がバレちゃったのかぁああ?
 
じたばたする俺を無視して、素早く内ポケットからペンライトを取り出すと、俺の眼に片方ずつ当てている。
 
どうやら俺の取った奇妙な行動に心当たりがあったらしい。

「……早く病院に行った方がいい」

「え?」

「軽度の※−3)網膜剥離だ。連中、加減が無いからな」
 
それが、殴られたのが原因だったってのも、コイツはスデに判っていたみたいだった。
 
水守は、かなり俺のコトを気遣っているみたいな言い方をしたが、その表情は相変わらずの無表情だった。
 
まあ、アンタからすれば他人事なのかもな……けどよ、俺がココまでボコられたのは、恵理のフィットを俺が盗んだってゆー、アンタのミョーな勘繰りのオカゲじゃねーのかよ?
 
ナンか納得イカねーぞ?


※−1) 蒼月流そうげつりゅう:抜刀重視の剣術。コレは設定上のフィクションです。
※−2) アナスイ:シークレットウィッシュマジックロマンス。フローラル系の香水。
※−3) 網膜剥離:眼球の奥にある薄い膜が網膜。カメラで言えばフィルムの役割をしているこの膜が、剥離はくりする。この症状には以下のようなものがある。虫が飛んで見えたり(飛蚊症(ひぶんしょう))、光がチカチカして見えたり(光視症(こうししょう))、その部分だけが見えなくなったり(視野欠損(しやけっそん))、視力低下(しりょくていか)。適切な処置を怠ると失明する。司の場合、外部からの強い衝撃でこの膜が損傷してしまった状態です。






※年齢制限作在り。作品閲覧はご自分の責任にてお願いします。
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