席に着いた俺は、PCから届いた各所属部署からの業連(業務連絡)やメーカー、業者からのヤマほどのメールが入っていたのを確認して、ウンザリした。
社内のメールには、当然送った相手の名前とメール内容が表示されている。
……はぁ?
……柴崎睦美? 足立桃香? 江藤真由?
……ナニ? この女性名は?
メーカーや業者からのメールに混じって、女性名が二十件近くも入っていた。
業務よりも女性メールを優先する俺ってどうよ?
それも全員がココの従業員、若しくはパートや派遣の人もいる。
どれもが俺への『元気出せよメッセージ』だった。
中には、『彼女になってもイイよ?』ってぇメールもあったが、俺の守備範囲外のお姉様方からだったので、快く遠慮させてもらうコトにする。
ドッサリあった業務上のメールを内容確認するだけで、半日ドコロか一日以上も掛かりそう。
面倒になった俺は、不本意ではあるけども仕方なく……そのメールの一切を無視をして、広報部の三浦さんにメールを送っていた。
……って、それがホントの目的だったんだけどね?
彼女が社外に出て行ったコトは知っていたから、返事は当然帰社後。
早くてもお昼過ぎかな?
お茶じゃなくって、食事……ってぇのも……アリか?
……とも思ったが、俺はカワイソウな囚われの身だから自由になる時間は十時以降。
飲みには行けても、とても食事に誘える時間じゃない……か。
うん? ……待てよ?
こんな時、俺の悪知恵が働いた。
彼女は俺と同じ会社だ。
出社時間も同じなら、帰社時間もタテマエ上は当然同じ。
まあ、広報部なら営業が絡んで来るから、設計部の俺とは時間の誤差はあり得るが……
一緒に帰ればイイじゃんよ?
一日くらい家事サボったって、課長は許してくれる……だろう?
……でも、デートでメシが作れませんでしたぁ〜って、バレたらブン殴られるかな?
バレなきゃいいんだ。
バレなきゃ……
俺は課長のお世話係を条件にされているコトも忘れて、勝手に三浦さんをカノジョのツモリにしていたし。
俺の勘からして、三浦さんはとっくにオンナになっている。
同じ容姿なら、オモ過ぎる課長より、三浦さんの方が気が楽だ。
彼女に鞍替えすれば、えっちなオトナの付き合いもソレナリに出来そうだし……少なくとも課長よりも場数踏んでいそうな彼女の方がオイシソウだった。
やっぱ、俺ってサイテーかな?
* *
「う……ん?」
彼女の熱く火照った唇が、俺の唇の上下を代わる々挟み込み、
弄んでいた。
細い身体がゆっくりと
撓り、シートベルトで固定され身動き出来ない俺の身体に
纏い付く……
まるで蛇みたいだと思った。
俺は彼女に浅く応えながら、逃げ出す方法を考えていた。
いかん!
ナントカこの事態を早く収めないと……俺、マジでヤバイかも……
単にキスしただけなのに、頭の芯が
痺れて来る。
もしかして媚薬でも一服盛られちゃったのか?
こんなオンナ、初めてだった。
今まで俺が付き合っていたオンナとは比べようがナイ。
……重ね合わせる度に、接触した肌の部分から、徐々に俺の魂が抜き取られてフヌケになって行くみたいだった。
彼女は妖怪か?
そんなバカな?
俺ともあろうモノが……オンナに襲われて……いる?
そんなに経験豊富……とまでは豪語出来はしなかったが、カノジョと呼べる何人ものオンナから始まり、ソープ嬢、デリヘル嬢からナース、飲み屋のお姉さん……自分的にも一応、場数は踏んでいるツモリだった。
このオンナ……
三浦有紀に出逢うまでは……
彼女は俺からのメールに快くOKして、帰りに裏門で待ち合わせてくれた。
モチロン自分の車が無い俺は、課長のフィットでお迎えだ。
俺は、誘いにカンタンに乗って来た彼女に対して調子づいた。
取り敢えずはぶつかった時のお詫びから始まり、お互いの部署内での仕事や、部署内に居るヘンな
社員達、食堂のメニュー等……同じ社内だが滅多には出逢えないくらい広くて大きな会社だ。
共通の話題には事欠かなかった。
お互い好意を持っていたせいもあって、車内はあっという間に盛り上がる。
暫らくは雑談で適当に車を転がしていた俺に、彼女はお気に入りの店があるからと言って、ナビゲートして来た。
ところがだ、彼女の指示通りに走らせていると、いつの間にか車は俺の知らない山奥に入ってしまっていた。
俺は車を停めて、道を間違えたのじゃないのかと問い質すと、彼女はイキナリ俺を襲って来たんだ。
妖しい
艶やかな視線が、俺の思考回路の一つ一つを、をまるで蜘蛛の糸か何かのようにじんわりと緩やかに絡め取って行く。
甘い吐息で俺の頬をクスグり、澄んだ瞳が俺の反応を窺った。
そして、弾力のあるピンク色の唇をハシタナク大きく開いたかと思ったら、イキナリ俺の唇を果実かナニかを貪るようにして強引に求めて来たし。
「あぐっ……」
思わず声が漏れた。
洗練されたファッションの課長に比べて、化粧や私服……見た目はホント地味系なのに、遣るコトは大胆だよな?
「どうしたの? ふふっ、手が停まっているわよ?」
「……う……」
彼女は意味深に含み笑いをすると、俺の頬にチュッと音を立ててキスをした。
白くて細い指先が俺の手を取り、ワザと自分の大きくハダケたシャツの隙間へと導いて行く。
そして、彼女の空いたもう片方の右手は、俺の股間をズボンの上から微妙な力加減で
弄んで来た。
熱っつ!
彼女の
掌の熱さに、俺の身体がビクンと反応した。
う……あ……マジ、感じる……
俺の額に薄っすらと汗が噴出し、その一つがスジを引いてコメカミに、つ……と流れた。
ぞくりと背中に冷たいモノが奔る。
オンナ泣かせの……と、自分で勝手に思っているこの俺が、このまま押されていてナルモノカ……ってぇ、ナケナシのプライドみたいなモノが、俺を奮い立たせた。
彼女の胸元に触れている俺の利き手は、いつの間にか石膏みたいにキメ細やかで柔らかな肌の感触を愉しんでいた。
大きくハダケた胸元から、谷間が媚びるように見え隠れしている。
……コイツ、相当遊んでる……
彼女は潜在的に持っているモノと、実践で身体が覚えた後天的なモノの両方を持っている。
どうやら俺の勘は間違ってナイみたいだ。
軽く触れた胸は……
オクテの課長と違って、スッゲー反応早ッツ!!!
彼女はこみ上げて来る快感に身をユダネルように、細い眉を寄せて眼を閉じると、そっと額を俺の肩口に
凭れ掛けて来た。
「お、お茶……するって……くっ……言いません……でしたっけ?」
「……そんな意地悪言わないの……こうしたかったから、私に声を掛けたのでしょう?」
蕩けるような甘い吐息で囁いた。
膝丈のタイトスカートを、素早く自分で乱暴に引き上げると、運転席に居る俺の上に、大きく足を広げて圧し掛かる。
手馴れてる……!
ソレナリニ嬉しいが、内心退きギミの俺。
……俺、彼女に喰われそう……
「べ、別に……っあっつ、ぶ、ぶつかった……お詫びが言いたか……つった、ダケですよ?」
彼女の細い肩と、チラチラと見える白い胸が揺れて、俺はくすくすと笑われた。
生暖かい吐息が俺をクスグル。
「ウソ……日高君、そんな眼で私を見ていなかったわ」
「へ、へぇ?……『そんな眼』って、どんな?」
挑むような、
媚びるようなどちらにも取れそうな妖しい視線を俺に投掛けて、
艶やかな唇を軽く
綻ばせる。
「う……」
なんてぇ表情するんだよ?
妖しい余裕の微笑が、俺の心臓をズキュンとばかりに貫いた。
ひえぇ〜〜〜!
さっきのナケナシのプライドはドコへやら……たちまち『攻めモードの俺』はナリを潜めてしまってる。
彼女に主導権を握られたまま、俺は今のトコロなすスベ無し。
完全にお手上げだ。
もお、スキにしてっつ!
だけど、頭のドコカでこの三浦有紀のコトが引っ掛って仕方なかった。
課長によく似ているから……?
いや、それもあるけど……違う?
どうしたんだろう?
いつもなら通りすがりのオンナだと見切って、アッサリとラッキーに預かっているこの俺なのに。
ナゼだか有紀のコトが気になって仕方がない。
……ナンでだ?
えっちだけ……ってゆーのとも、スコシ違っているみたいだが……???
あうう〜〜〜ナニか大切なコトを思い出せないような……思い出さなきゃなんねーような……モドカシイ感じ……
ナンだよ?
俺、どうかしちゃったのかぁ???
彼女の視線に射抜かれて、俺、やっぱしオカシクなっちゃったのかぁ?
「あぅ?」
彼女が舌先を尖らせて、俺の首筋から耳へゆっくりと焦らすように這わせ、
耳朶を少しキツク噛んだ。
俺の顎が仰け反る。
いかん。
背筋がゾクゾクして、今度は俺の相棒がドンドン熱くなって来た。
俺、彼女に好いようにされてるよ。
こうなると、シートベルトが邪魔だ。
セッカクのお膳立てを頂かないワケには……
ピピピ……
ってぇ☆?
「……」
携帯の呼び出し音に、お互いがハッとなる。
表示は課長からだった。
出ないワケにはいかないし。
でも、これでマジ助かったのかも……?
このままだと、俺、彼女に喰われてたし。
俺は大きく溜め息を吐いた。
いかにも、途中で携帯にジャマされてしまって、ザンネンだって顔をして。
「……ゴメン。携帯」
目の前で、呼び出し音が鳴っている携帯を軽く持ち上げて見せる。
「判ってるわよ」
彼女は俺の上で、ムッとして口を尖らせた。
……ザンネンでした〜。
アリアリと悔しがっている彼女の表情に、俺はココロの中で舌を出す。
気分を切り替え、俺は努めて明るく携帯に出る。
「はい?」
−「山奥だなんて……一体、ドコに行ってるのよぉ? 司の馬鹿あっ!」
「……」
課長の拗ねた怒鳴り声が聞えた。
……ナンだよ? 今の。
……らしくない。
つか、俺的にはチョット……可愛かったぞ?
携帯から漏れる課長の罵声に、彼女も気マズくなったのか、圧し掛かって絡めていた身体を俺からそそくさと退けた。
どう考えても携帯の声の持ち主は、俺の彼女だなって判るシチュエーションだ。
ご馳走を取り下げられたような悔しそうな顔をして、彼女は渋々助手席に座り直す。
俺はそんな彼女の様子を眼で追いながら、課長の相手をする。
「はあ……友達を送ってて……迷っちゃいました」
−「もぉ……帰るわ。早く迎えに来て?」
「了解」
GPS?
……だな?
正直、中断されて「惜しい」と思う自分と、「助かったぁ」と思う自分が二人居て、自分のコトなのに妙にオカシかった。
一体、本当はドッチなんだぁ?
……って。
「三浦さん、あの……」
俺はすまなさそうな顔をして、彼女を振り返る。
「言い訳なら結構よ? 残念だけど……いいわ。そう言うコトなら」
はだけた胸元を整えながら、彼女はぴしゃりと言った。
スコシ怒っているみたいだ。
怖ぇ……彼女も課長と同類かぁ?
気、強そう……
「……ゴメン」
「次は彼女からのアポが無い時にしてね?」
「ああ……そうする」
って……マジで?
俺は改めて有紀を見詰めた。
有紀は白い
項に掛かった黒髪をファサリと片手で払い、首を横に振った。
俺のトコにまで、有紀が愛用しているらしいシャンプーのイイニオイが漂って来る。
『次は』……って?
それって、俺には『次も在る』ってコトなの……か?
リベンジ出来るってコトだよな?
光栄? それとも恐怖?
ふふっ、今のトコロ『光栄』だと受け止めておくべき……だよな?
お陰で課長との中途半端なえっちで、悶々とするコトがなくなりそうな気配。
見通し明るいっつ???
彼女がシートベルトを着用したのを確認すると、俺はアクセルを強く踏み込んで数回大きく空ブカシをする。
そして例によって乱暴な切り返しで三百六十度のスピンターンを披露した。
カーブに差し掛かる度に、ワザとリアを滑らせてドリフトを掛ける。
フィットはタイヤから白煙を上げ、その都度彼女のヒメイを曳きながら、
人気の無い山道を駆け降りて行った。