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アイコン三国志 作者:小金沢

第六章 天下三分の計

63/125

〇六二   濡須口の戦い

~~~濡須じゅしゅ北部 曹操軍~~~


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「馬超は予測通り関中で決起したものの、
楊阜らの反乱により撃退されました。
張魯のもとへ逃げ帰りましたが、
夏侯淵将軍らの追撃により大打撃を受け、
しばらくは再起もままならないでしょう」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「韋康君や人質に取られた者が何人も殺されてしまったが、
まずは首尾よく行ったね。
これで安心して東へ兵を向けられるよ」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「……今回の出兵の最大の目的は馬超を釣り出すことにあった。
その目的が果たされたいま、
孫権と戦う必要性はさほど無いと思うのだが?」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「赤壁の戦いにも劣らない大軍を率いておいて、
何もせずに帰れと言われるのか?」


挿絵(By みてみん)
蒋済しょうせい
「俺たちはともかく、将兵は
濡須口を攻めることこそが本命だと考えてます。
ここで撤退しろと言われても、
はいそうですか、とは行かないでしょうね」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「戦いもせずに兵を引けとまでは言わない。
だが最大の目的は達成している以上、
濡須口の攻略に執心する必要はない、と言っているんだ。
孫権との戦いは一定の戦果を得られればそれでいい。
丞相はその線引きをどう考えているのか伺いたい」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「そうだね。孫権君の顔を見られればいいと思っているよ」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「か、顔を?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「赤壁では奇襲を受けて大混乱に陥ってしまったからね。
孫権君の顔を見られなかった。
この戦が初対面だから楽しみにしているんだ。
聞けば彼はずいぶんと個性的な顔をしているらしい。
いったいどんな顔なんだろうね……」


~~~濡須口じゅしゅこう 孫権軍~~~


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「ちっきしょーめ! くしゃみが止まんねェぞ、おい!
オレの噂をしてやがんのは誰だ?
都に置いてきた張昭が悪口叩いてんのか?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「ははは。あるいは曹操が
艦長の噂をしているのかも知れませんよ」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「曹操のジジイか。
赤壁ん時はてんやわんやでツラを拝めなかったからな。
乱世の奸雄サマはどんなツラしてんのか楽しみだぜ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「張昭さんがいたら
『曹操に肉薄するほど前線に出るおつもりなのか! まったく!』
って言うところッスね」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おお、すげー似てるじゃねェか魯粛!」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「ウイッシュ。徹夜して練習した甲斐があったッス」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「……ええと、そろそろ陣立てを
説明したいのですがよろしいでしょうか?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おうよ。遠慮せずやってくんな」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「まず前衛として韓当、黄蓋、周泰が布陣しています。
遊撃隊として甘寧、蒋欽が後方に控え、
水軍は董襲と徐盛が率いています」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「対する曹操軍ですが、前衛に張遼、徐晃、臧覇。
遊撃隊には曹休、楽進。水軍は于禁と李典が率いてます。
つまり、あっしらと全く同じ布陣ですね。
同じ戦法をとれば、兵が多いほうが勝つ。
ま、理にかなった考えだ」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「正攻法ですか。それゆえに崩しづらいですな」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「で、どう対抗するんだ呂蒙軍師サマは。
今回の戦は全面的におめェに任せっから、好きにやってみろ」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「待ちましょう。
あっしらは曹操軍を殲滅する必要はないし、
そもそもそんなことはできやしません。
曹操だってこんな大軍をいつまでも遠征させることはできない。
あっしらは持久戦をとりつつ、反撃の機会をうかがいましょう」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「……昔の呂蒙からは考えられない言葉だな」


挿絵(By みてみん)
蒋欽しょうきん
「おいどんらの知ってる呂蒙は誰よりも無鉄砲でごわしたからな」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「急にガリ勉になってさー。
付き合いが悪くなったなこいつと思ってたら、
軍師ヅラしてオレらを指図する立場になってんだもんなー」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「ガリ勉ばかりで剣の腕が衰えてんじゃねえだろうな。
ちょっと表に出ろ。試してやる」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「あっはは。こいつは手厳しい。
わかりました、お付き合いしましょ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「待ったッス。
呂蒙とはこれから細かい作戦を詰めていかなきゃなんないんでえ。
つれてかれたら困るッス」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「しかし、あっしから申し上げられることなんて、
別にありませんよ」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「とにかく待って、相手の隙をつく。
軍師殿が言えるのはそれだけなのですか?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「はっはっはっ。
文官と武官から板挟みにされて困ってるぜ呂蒙のヤツ」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「参りましたね……。
ひとつ言えることは、待てば必ず勝機は訪れます。
曹操軍は巨大な、それこそ海のような溜め池で
水軍を鍛えてきましたが、それでも長江とはわけが違います。
長江の機嫌までは、さすがの曹操も読めはしません。
波が荒れ、河が怒り狂ったその時こそ、あっしらの攻め時でしょう」


~~~濡須 孫権軍~~~


挿絵(By みてみん)
厳畯げんしゅん
「長江は荒れ狂い、敵味方問わず多くの艦船が被害を受けています!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「……呂蒙。おめェが待ってたのはこいつか?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「あっはは。ここまで激しいのはちょっと想定外ですね。
これじゃあ反撃どころの騒ぎじゃないでしょう」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「大変ッス! 水軍を率いていた徐盛の旗艦が、
曹操軍のまっただ中に流れ着いたそうッス!」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「この荒れ模様では曹操軍もすぐには包囲できません。
すぐに遊撃隊を救援に向かわせましょう」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「ついでに董襲にも、
徐盛の二の舞になる前に引き上げろって伝えてくんな」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「了解です。ただちに向かいます!」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「報告です。前線の韓当、黄蓋、周泰ら各将軍が
独断で兵を進めています。
『待ってたら好機が訪れたから予定通り攻める』、とのことでした」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「聞いたか呂蒙。おめェの思ってた通りに事は進んでるじゃねェか」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「……あっしも昔は似たようなものでしたが、
兵法を知った今となっちゃ怖くて真似できません。
将軍らはこの荒波の中でも自在に船を操れるでしょうが、
それでも心配ですね。あっしも後詰めに向かいましょう」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「駄目ッス。まだ昔の気質が抜けてないようッスね。
周瑜みたく軍師はどっしり構えてえ。後方にいるものッス」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「いや、何もかも周瑜にならうこたァねェよ。
周瑜は周瑜。おめェはおめェだ。呂蒙、おめェの好きにやんな」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「わかりました。それではひとつ前線に出て指揮をとります」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「……戦う軍師ッスか。頼れるけど危なっかしいッス」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「なーに。周瑜だって荒くれ者のあいつらには振り回されてたんだ。
周瑜のヤツは好き勝手に動き回るのをうまいこと予測して、
作戦に組み込んでやがった。
だが呂蒙はあいつらの中に入って、
内側から制御しようってんだろうよ。
荒くれ者の心をよく知ってる、呂蒙らしい軍師っぷりじゃねェか」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「なるほど……。さすが荒くれ仲間の艦長の言葉ッス。
心からガチで納得できるッス」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「だろ?
さて、お手並み拝見といこうじゃねェか。がんばれよ呂蒙……」


~~~濡須 曹操軍 前衛~~~


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「こんな荒波の中を突き進んでくるなんて、あいつら正気か!?」


挿絵(By みてみん)
徐晃じょこう
「さすがは長江と暮らし長江と育った江東の御仁よ!」


挿絵(By みてみん)
臧覇ぞうは
「か、感心してる場合じゃねえだろ……。
あいつら次々と上陸して来るぜ……」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「大丈夫か臧覇の旦那? 顔色が悪いぜ」


挿絵(By みてみん)
臧覇ぞうは
「大丈夫なものか……。俺はもともと山賊だぞ……。
山の物なら虎でも熊でも恐れんが、水だけは不得手だ……」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「あんたほどじゃねーが、オレたちだって満足に戦えそうにねえ。
ここは退くしかねえか……」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「ダンナ方! 曹操のダンナから撤退命令が下ったぜ。
殿軍はおれっちの水軍が引き受けるから早いとこ逃げちまいな!」


挿絵(By みてみん)
徐晃じょこう
「かたじけない。負傷兵を急ぎ収容し引き上げようぞ!」


~~~濡須 呂蒙軍~~~


挿絵(By みてみん)
駱統らくとう
「曹操軍の前衛は総崩れです!
韓当将軍らは逃げる敵軍に猛追をかけています!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「さすがは韓当さんらだ。
だが曹操相手に深追いはちょっといただけない。
遊撃隊の甘寧さんを敵の背後に回して、撹乱してもらいましょうか」


挿絵(By みてみん)
駱統らくとう
「そ、その甘寧将軍ですが、
すでに決死隊を募って敵の本陣に切り込んでいるそうです」


挿絵(By みてみん)
凌統りょうとう
「あいつ毎度毎度、命令無視すんなよな!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「ま、それが甘寧さんのお人柄ですからね。
こうなったらあっしが敵の背後に回るとしますか。
凌統は駱統さんと一緒にこのまま進み、韓当さんらの援護をしてくれ」


挿絵(By みてみん)
凌統りょうとう
「わかった! この命に代えてもやってみせるよ!」


~~~濡須 孫権軍 水軍~~~


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「わしは退かぬ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「し、しかし将軍! このまま暴風にさらされていては危険です!
転覆の恐れもあります!」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「水軍を任されているのはわしだ。
わしが退けば、せっかく追撃にかかっている前衛は
退路を気にして勢いを失う。
前衛が崩れれば後方の本陣も危機にさらされる。
ここで水軍を下げるわけにはいかぬ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「……船と運命をともにするつもりですか」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「船ではない。わしは孫権艦長と運命をともにするつもりだ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「……わかりました」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「……何をしている。座り込んでなんのつもりだ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「わ、私は将軍と運命をともにさせていただきます!」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「お前はまだ若い。死に急ぐな」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「死ぬと決まったわけではありません!
たとえ船が沈んでも、荒波の中に投げ出されても
死ぬと決まったわけではない!
ここで待ちましょう! 我らの勝利を!」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「フン。わかっているではないか」


~~~濡須 曹操軍 本陣近く~~~


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「やべー。囲まれたんじゃねーのこれ」


挿絵(By みてみん)
曹休そうきゅう
「ふっ……。本陣の危機を感じて戻ってきて正解でしたね。
我ながらエクセレントな判断でした」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「は? アンタがしゃべってるのは何語デスカ?
オレ、頭がわりーから中国語でしゃべってくんねーかな」


挿絵(By みてみん)
曹休そうきゅう
「あいにく教養のない方とトークするつもりはありません。
そろそろ死んでもらいましょう」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「あぁん? やれんのか? マジでオレをやれんのか?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「やらなくていいですよ甘寧さん」


挿絵(By みてみん)
曹休そうきゅう
「ホワット!? さらに敵が現れただと!?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「いいえ、とんでもない。あっしは一人ですよ。敵はあちらです」


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「曹休様! 本陣の背後に伏兵の蒋欽が現れました!
早く逃げないと包囲されつつあります!」


挿絵(By みてみん)
曹休そうきゅう
「わ、わかりました。みなさん、至急エスケープしなさい!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「おや、これは懐かしいお顔だ」


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「……呂蒙か。孫権軍を率いているのはお前なのか?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「さあ、ご想像にお任せしますよ」


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「……士、三日会わざればなんとやら、だな。
次はこうは行かない。退却するぞ!」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「おーっと。退却なんてさせねーけど?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「待った待った。……あそこをご覧なさい。
敵の伏兵がいますよ。華歆さんは無防備に出てきたりしません。
追撃したらあっしらをはめるおつもりだ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「チッ。マジで伏兵がいやがんな。じゃあどうすんよ呂蒙?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「敵は逃げながらも反撃の態勢を整えつあります。
韓当さんらもぼちぼち危険でしょう。
戦果は十分だから、あっしらも引き上げるのが上策です」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「……呂蒙の読みは当たりまくってもんな。わかったよ。帰るとすっか」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「ちょうど帰り道になりますから、
ついでに韓当さんらがぶつかってる
于禁軍の中を通っていきましょうか」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「ははっ。なんつーか、呂蒙。
アンタ、頭は良くなったけど中身はあんま変わってねーのな」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「あっはは。褒め言葉として受け取っておきますよ」


~~~濡須 曹操軍 前衛~~~


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「背後から呂蒙に甘寧が攻めてきたって?
そろそろおれっちもやばくなってきたかな……」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「敵は焦りの色が見えるぞ! 一気に突き崩せ!」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「へへっ。まだまだ御老体には負けませんよっと!」


挿絵(By みてみん)
黄蓋こうがい
「引っ込め韓当! この若僧はワシが倒す!」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「死にぞこないはどいてろ! 俺がやってやる!」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「ち、ちょい待てよ! さ、三人がかりは卑怯だろダンナ方!」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「知るか! こいつらは無視して俺とだけ戦えばいいだろ!」


挿絵(By みてみん)
黄蓋こうがい
「邪魔だ韓当周泰! お前らは寝てろ!」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「俺の刃の巻き添えになっても知らんぞ老いぼれども!」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「じ、冗談じゃねえよ!」


挿絵(By みてみん)
李典りてん
「……于禁。楽しそうですね、はい」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「り、李典か! ちょうどいいとこに来た。手を貸せ!」


挿絵(By みてみん)
李典りてん
「貸しません。
向こうに船を着けましたからそこまで逃げましょう、はい」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「了解! おれっちもこんな連中は相手にしてらんねえよ!」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「がっはっはっ! どうやって逃げる気だ愚か者め!
貴様らの船はこの徐盛が乗っ取ってやったわ!」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「徐盛!?
てめえ、敵のまっただ中に漂着して死んだんじゃなかったのか?」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「ワシがあの程度で死ぬものか!
助けが来ないから暇つぶしに付近の雑魚どもを蹴散らしてたら、
おあつらえ向きに船が捨ててあったんじゃ!」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「むちゃくちゃだこいつら……」


挿絵(By みてみん)
李典りてん
「呆れてる暇はないですよ、はい。
困りました。別の逃げ道を探しましょう」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「生きてるか于禁! 李典!」


挿絵(By みてみん)
于禁うきん
「張遼のダンナ! 逃げてなかったんですかい」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「兵は徐晃と臧覇に任せて、
オレの手勢だけで戻ってきてやったんだよ。
曹操の旦那も反撃に移っている。もう少し持ちこたえろ!」


挿絵(By みてみん)
黄蓋こうがい
「こしゃくな! 一人や二人増えたところで問題ないわ!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「曹操の本隊は一人や二人じゃありませんよ。
早いとこあっしらのほうが逃げましょう」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「呂蒙! なぜ敵の背後を襲っていたお前がここにいる?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「韓当さんらが無茶しないよう、
ちょいと敵中を突破して止めに来ました」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「……単身でか? お前のほうがよっぽど無茶ではないか!」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「安心したぞ呂蒙。お前はなんにも変わってない」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「あっはは。まあ固いことは言いっこなしで。
それよりほら、急いで逃げますよ」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「面白そうなヤツが出てきやがったな!
待て! オレと勝負しろ!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「それはまたの機会にお願いします」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「呂蒙! 韓当!
こっちだこっちだ! ワシの奪った船に来い!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「こいつは助かります。
――徐盛さん、まさか右腕が……」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「がっはっはっ。片腕を持っていかれたわ!
なあに、かすり傷だ。つばでもつけとけば治るわい」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「……みなさんにはかないませんよ」


挿絵(By みてみん)
張遼ちょうりょう
「逃がすかてめーら!」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「じきに甘寧さんと凌統も駆けつけます。
さあ、もうひと踏ん張りですよ!」


~~~濡須 孫権軍~~~


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「……そうか、董襲は最期まで隊列を守って、
船とともに沈んじまったか」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「私だけは運良く岸に流れ着くことができました。
おめおめと逃げ帰って申し訳ありません……」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「いや、責任を問われるべきは策を立てたあっしです」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「その論でいきゃあ、
最終的に悪ィのは主君のオレになっちまうわな」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「……そいつは困ります」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「オレも困る。なあ呂蒙。
この戦に勝てたのはおめェのおかげだ。
おめェがいなけりゃ、勝手に突っ走ってた韓当や甘寧も
生きては帰れなかったろうよ。
しかも天候が味方したとはいえ、
曹操の水軍にも大打撃を与えて追い返しちまった。
これ以上、何を望むってんだ?」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「……しかし、策を立てたのが周瑜さんだったら、
もっと味方に被害を出さずに、もっと楽に勝っていたでしょう」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おめェは周瑜じゃねェだろうが。
鏡でも見てこいよ。周瑜と比べたらたいした色男じゃねェぞ。
おめェはおめェにできることをやった。オレらはそれに満足してる。
――なあ、そうだろてめェら?」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「俺は認めるぞ! 呂蒙は俺たちの軍師だ!」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「ああ、ワシらとともに戦う軍師だ!」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「オレは難しいことはよくわかんねーけど、
オレの部下がみんな無事だったのは呂蒙のおかげっしょ」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「みなさん方……」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「つーこった。呂蒙、今後もよろしく頼むぜ」


挿絵(By みてみん)
呂蒙りょもう
「…………はッ!」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「それにしても成長したものッスね。ガチで驚きました」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おう、周瑜や張紘は死んじまったが、
オレらにゃあ魯粛や呂蒙がいる。なんも心配してねェよ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
(……いや。俺が驚いたのは孫権さん、あなたの成長ぶりッスよ。
あなたこそ、俺らがガチで誇れる主君ッス……)


~~~濡須 曹操軍~~~


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「呂蒙の成長ぶり、
あの荒天の中でも抜群の働きを見せた孫権の水軍。
全て私の認識不足でした」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「いや、君の責任じゃないよ。
僕だってあんな嵐の中でも戦えるとまでは想像できなかった。
水軍だけじゃない。陸戦の指揮も見事なものだった。
呂蒙君か。江東にはまだまだ隠れた人材がいるようだね」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「だがこれでまた水軍の編成は振り出しに戻った。
沈められた船も十や二十ではきかないぞ」


挿絵(By みてみん)
蒋済しょうせい
「やはり江東を攻めるには、いや、
孫権と戦うにはまだまだ準備が足りませんでしたね」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「だがこの戦いの最大の目的は二つとも果たせた。
それに満足するとしよう」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「二つ? 馬超を誘い出したことと……もう一つはなんですかな?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「孫権君の顔を見られたじゃないか。
無名の呂蒙君を抜擢した眼力。
董襲君に死をもいとわせなかった人望。
あれだけの個性的な面々をまとめる統率。
すべて戦でしか見られない、孫権君の顔さ」


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「……たしかに。孫権こそ、江東で最も頭角を現した男でしょう」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「こんなことを言ったら曹丕君たちに悪いから内緒だけど、
孫権君のような息子がいたら、さぞかし頼もしいだろうね……」


~~~~~~~~~


かくして濡須の戦いは呂蒙の果敢な戦術により孫権の勝利に終わった。
――舞台は移り、益州の地。
長き雌伏の時を経て、ついに劉備は夢の第一歩に挑もうとしていた。

次回 〇六三   益州奪取
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