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アイコン三国志 作者:小金沢

第六章 天下三分の計

59/125

〇五八   潼関の戦い

~~~関中かんちゅう 曹操軍~~~


挿絵(By みてみん)
杜畿とき
「米が足りない」


挿絵(By みてみん)
韓浩かんこう
「米が足りない。
どこかの誰かが牛馬もろとも兵糧を敵に与えてしまったからな」


挿絵(By みてみん)
丁斐ていひ
「へへっ。でもおかげで無事に逃げられたでしょう?」


挿絵(By みてみん)
婁圭ろうけい
「何を偉そうに……。
おかげで我が軍は、気を回さなくてよかったはずの
兵站にまで頭を悩ませるはめになったのだ。
お前がどさくさにまぎれて
牛を何頭か略奪したことも知っているのだぞ!」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「まあまあ、こうして愚痴を叩けるのも
丁斐君のおかげで逃げられたからだよ。大目に見てあげたまえ」


挿絵(By みてみん)
丁斐ていひ
「へへっ。毎度」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「それに褒美が牛を何頭かで済むなら助かるじゃないか。
もし官位を欲しがられたら、彼みたいないいかげんな男を
どの官職につければいいか悩むところだったよ」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「無駄話はそのくらいとして、敵の状況はどうなっている?」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「馬超、韓遂かんすいらは潼関にこもり、
城外には関中十部の大軍が布陣しています。
連携して朝な夕なに我が軍を挟撃し、休む間もありません」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「殿! 関中十部の野郎どもがまた攻めてきたぞ!
とりあえず俺が迎撃するぜ!」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「――ご覧のように、というわけだね。
ふむ。兵糧も心もとないし、
このまま持久戦になると困ったことになりそうだね」


挿絵(By みてみん)
婁圭ろうけい
「ワシの献策で砦の骨組みに水をかけ、
氷の砦を築いたのはいいが、それも春になれば溶けてしまうぞ」


挿絵(By みてみん)
鍾繇しょうよう
「早期に決着をつけなければいかんな……」


挿絵(By みてみん)
董昭とうしょう
「丞相! 別働隊の夏侯惇将軍から急報です。
漢中かんちゅう張魯ちょうろが派兵の準備を進めているとのこと。
我が軍の背後を狙う恐れもあります」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「ほう。馬超め、外交戦も仕掛けてきたか。
おそらく張魯に援助をして兵を出させたのだろう。
実際に張魯が攻撃を仕掛けてこなくとも、
我らは兵を割いて備えなければならんな」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「……嫌な予感がするね。
事態は張魯君が動くだけでは済まない気がするよ。
各方面に斥候を放って、警戒するんだ。
敵は只者ではない。あらゆる可能性を考えるとしよう」


~~~西羌せいきょう~~~


挿絵(By みてみん)
閻柔えんじゅう
「軻比能。考え直せ。曹操と戦う。利益ない」


挿絵(By みてみん)
軻比能かひのう
「――――――――」


挿絵(By みてみん)
閻柔えんじゅう
「また無言か。徹里吉。お前は何を考える」


挿絵(By みてみん)
徹里吉てつりきつ
「口から糞を垂れる前と後にサーと言え!
曹操が怖いのか? タマ落としたかこのウジ虫が!」


挿絵(By みてみん)
閻柔えんじゅう
「約束した。曹操と戦わない。お前の言うとおり。曹操。怖い」


挿絵(By みてみん)
徹里吉てつりきつ
「我々西羌の精鋭は曹操なんてカマ野郎は恐れるにも足りん。
首を切り落として頭蓋骨でファックしてやる!」


挿絵(By みてみん)
閻柔えんじゅう
「曹操。強い。お前。死ぬ。お前の兵。もっと死ぬ。やめろ」


挿絵(By みてみん)
徹里吉てつりきつ
「そうかわかった。家に帰ってママのおっぱいか、
曹操のアレをしゃぶって来いよケツ穴野郎。
脳味噌から糞をひねり出すような
俺のしごきに耐えた兵どもは負けん!
曹操の首を持ち帰ったら、貴様の首とすげ替えて、
残った貴様の首は豚に食わせてやる!」


挿絵(By みてみん)
閻柔えんじゅう
「……。もういい。お前。知る。曹操の怖さ。強さ。
お前の兵。たくさん死なないこと。祈る」


挿絵(By みてみん)
軻比能かひのう
「――――――――」


~~~許昌きょしょうの都~~~


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「いったいなんの騒ぎだ」


挿絵(By みてみん)
王必おうひつ
「は、はい。何者かが反乱を起こし、南門に火を放ったようです」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「……私はいま南門から来たところだ。何も異変はなかったぞ。
情報が錯綜しているようだな。早く状況を調べ上げるんだ」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「北門だ。北門で火の手が上がっている」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「これは殿下。お騒がせしています」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「僕がさっき宮殿の上階から見てきた。
北門から西門へと松明を持った一団が移動している。
西門に兵を送りたまえ」


挿絵(By みてみん)
王必おうひつ
「はッ!」


挿絵(By みてみん)
呉質ごしつ
「……荀彧、殿下がなぜこんな時間に宮殿にいたか、
なんて野暮なことは聞くなよ!
殿下は女官と遊ばれていたわけでは――へぶあっ!!」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「君はいつも一言多い。舌を一本減らしてあげようか?」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「あはは。わかっていますよ。
陛下に嫁がれた妹君に会いに行っていたのでしょう?」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「さあね。――そんなことより、いったいどうなっているんだい。
ここのところ、小規模ながら反乱が相次いでいる。
父上が留守にしているからとはいえ、ちと多すぎはしないかい」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「……正直に申し上げますと、反乱を起こした者は口をそろえて、
殿の王への即位に異議を唱えるため、と言っています」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「ずいぶん気の早い話だね。
父上はまだ王になっていないというのに、
話が出ただけでその有様かい」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「単なる口実でしょう。
即位を阻止するため、つまり陛下のためと言えば、
大義名分が立つと思っているのです」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「なるほど。そういえば荀彧君も反対している一人だったっけ。
君が反対しているおかげで、彼らも心強いことだろうね」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「あはは。私は反対などしていませんよ」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「まだ具体的な話が出ていないからね。
でも、こたびの遠征から父上が凱旋すれば、
陛下は必ずや父上を王位に推すよ。
その時は君も明確に反対するのだろう?」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「……仮定の話をしてもしかたありません」


挿絵(By みてみん)
魏諷ぎふう
「申し上げます。荀彧殿、反乱の首謀者を捕らえました」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「ずいぶん早かったな」


挿絵(By みてみん)
魏諷ぎふう
「首謀者は前々から目を付けていた者でした。
他の反乱分子と連携すれば、
一網打尽にできると思い、泳がせていたのです。
あいにくと今回は単独で反乱を起こしたようですが」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「……感心しないやり方だな。
もし万一のことがあったらどうするつもりだ」


挿絵(By みてみん)
魏諷ぎふう
「万一のことなんてありませんよ。
私は都の周辺の反乱分子を全て把握しています。
彼らが不穏な動きを見せれば、即座に捕らえて見せます。
今夜のようにね」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
(……いつかこの男は、
自分自身がその反乱分子を束ね上げようとしているのではないか)


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「荀彧殿! 敵はどこだ!? いま駆けつけたぞ!」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「あはは。もう鎮圧しましたよ。ご苦労様です」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「終わった? そ、そうか。私が出張るまでもなかったな!
――あ、これは殿下! いらしたのですな。
ご安心ください! 都は私が守り通して見せます!」


挿絵(By みてみん)
曹丕そうひ
「安心したまえ。君には期待していない」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「は!? い、いや。ははは。こ、これはおたわむれを!」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「それでは私は、陛下も心配されているでしょうから
ご報告に上がります。魏諷、王必殿とともに後始末を頼む」


挿絵(By みてみん)
魏諷ぎふう
「お任せください」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「………………」


挿絵(By みてみん)
魏諷ぎふう
「なにか?」


挿絵(By みてみん)
荀彧じゅんいく
「いや、なんでもない」


~~~関中かんちゅう 曹操軍~~~


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「南の張魯に連動するように、西羌族が兵を挙げました!
さらに東では孫権が大軍を催し、合肥がっぴに迫っています!
また小規模なものに留まってはいますが、
都では反乱が相次いでいるという情報も入っています」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「馬超君が仕掛けてきたようだね。
東西南北、四方からの一斉蜂起とはやるじゃないか。
張魯君や孫権君はまだしも、
羌族や都の反乱までは予期していなかった。不意をつかれたね」


挿絵(By みてみん)
鍾繇しょうよう
「感心している場合ではないぞ!
下手をすればワシら遠征軍は敵中で孤立してしまう!」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「というか、すでに孤立しているな。
どうする? 今ならまだ長安ちょうあんへ引き上げることはできるぞ。
いったん退いて出直すか?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「ここまでたどり着くだけでも一万の兵を失ったんだ。
逃げるとなれば一万じゃ済まないだろうね。
それに逃げている間に羌族や張魯君が勢力を延ばせば、
西方は手が付けられなくなってしまう恐れがある」


挿絵(By みてみん)
婁圭ろうけい
「ならば戦うしかあるまい!
もともと短期決戦を挑むしかないとわかっていたんじゃ」


挿絵(By みてみん)
夏侯淵かこうえん
「そうとなれば前方の馬超か後方の関中十部か、
どちらかの敵は俺に任せろ!
五千もあれば打ち破ってやる!」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「待たれよ諸君。早期決着を狙うことに異議はないが、
無為無策で挑んでもしかたあるまい。
小生に策がある。まずはそれを聞きたまえ」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「そういえば君は、張繍ちょうしゅう君に仕えていた頃に、
馬超君と戦っているんだったね。
その策というのを聞かせてもらおうか」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「取るに足らない簡単な策だ。
だが実行するためには多少の損害は覚悟していただきたい。
その代わり、効力のほどは保証いたそう……」


~~~潼関どうかん~~~


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「曹操のほうから仕掛けてきたか。
四方から囲まれて尻に火がついたようだね」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「都の反乱こそ何者かの介入によって不発に終わりましたが、
それ以外の策はまずまず成功しました。
曹操はこのままでは押しつぶされると判断し、
決着を急いでいるのでしょう」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「曹操が来たか! じゃあ馬超が早速迎え撃ってくるよ!」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「待ちなさい。総大将がのこのこ出ていって、
もしものことがあったらどうすんのよ。
アンタはおとなしく潼関の中に残ってなさい」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「それじゃあ誰が曹操と戦うんだ!?」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「……私が行こう。馬岱と龐徳を借りていくぞ」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「すぐに曹操軍の背後を、城外に布陣した関中十部が襲うわ。
それまで防戦すれば十分よ」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「わかっている。どうせ奴らは持久戦に持ち込めば、
なす術もないんだ。無理はせんよ」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「……それにしても臭うわね。
たしかに曹操は決着を急がなくてはいけない。
でもこの潼関は、強引に落とせる代物ではないわ。
なにか策があるのかしら」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「いかな曹操といえども――ああ、申し訳ありません!
発言を求められていないのに、
先走ってしゃべり出してしまいました。
二度とお耳汚しをしないよう、
今すぐこの舌を引っこ抜いて見せます!」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「うっさい。発言を許してあげるからさっさとしゃべんなさいよ」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「奥様の蒼天よりも広き度量に感謝いたします!
――いかな曹操といえども、戦場にあっては打てる手は限られます。
我々は急がずあわてず、落ち着いて対処すれば問題ないでしょう」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「……そんだけ? だったらやっぱり一生黙ってなさい」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「黙ります!
山奥に人知れず飾られた木彫りの像よりも
静かな一生を送るとここに誓いを立てます!」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「あら? ち、ちょっと司馬懿。うちのヤドロクはどこ行ったのよ」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「………………」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「黙ってんじゃないわよ!
またあのバカ、勝手に出撃したんじゃないの!?」


挿絵(By みてみん)
司馬懿しばい
「………………私は木彫り、私は木彫り……」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「ああもう、どいつもこいつも!!」


~~~潼関前 韓遂軍~~~


挿絵(By みてみん)
馬岱ばたい
「曹操軍め、ずいぶん強引に攻めて来てへんか?」


挿絵(By みてみん)
龐徳ほうとく
「たしかに。この戦が乾坤一擲と言わんばかりの猛攻だな」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「多少の犠牲は無視して、
なんとかして潼関に取りつこうという構えのようだな。
ならば我らは兵を三つに分けて、迎撃するぞ。
私が城門前を守るから、馬岱と龐徳は左右から曹操軍を押し包め」


挿絵(By みてみん)
馬岱ばたい
「はいな。じきに関中十部も駆けつけまっから。無理せんといてな」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「ああ。防戦に努めれば心配はあるまい」


挿絵(By みてみん)
龐徳ほうとく
「それでは参ろう」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「中央突破だ! 中央を突き崩せ!」


挿絵(By みてみん)
徐晃じょこう
「道を阻まばこの徐晃が押し通る!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「この曹操軍の遮二無二な突撃。
まるで潼関の城門にさえ取りつけば、
どうにかなると思っているようではないか。
いったいなにを考えておるのだ」


挿絵(By みてみん)
夏侯淵かこうえん
「韓遂! 韓遂はどこだ!」


挿絵(By みてみん)
成公英せいこうえい
「韓遂殿、狙われているようです。後ろにお下がりください」


挿絵(By みてみん)
閻行えんこう
「止まれ! 韓遂殿の代わりに私が相手になろう」


挿絵(By みてみん)
夏侯淵かこうえん
「おお、そこにいらしたか韓遂殿!
丞相からよろしく伝えてくれと言われて、参った次第だ。
たしかに伝えたぞ。それではさらばだ!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「…………は?」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「目的は果たした! 引き上げるぞ!!」


挿絵(By みてみん)
徐晃じょこう
「馬岱と龐徳の追撃は拙者が防ぐ!
関中十部に背後を襲われる前に逃げられよ!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「な、なんだ今のは。
この強引な突撃はまさか、私に会うことだけが目的だったのか?」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「…………韓遂、今のはなんだ」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「ば、馬超。城を守っているはずのお前がなぜここにいる。
さてはまた抜け駆けを――」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「そんなことはどうでもいい!
質問に答えろ! お前は曹操と内通しているのか!?」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「バカなことを言うな。私とて戸惑っているのだ。
いいか、これは私とお前の仲を裂こうとする曹操の計略だ。
以前、董卓と戦った時にもこんなことがあっただろう」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「…………馬超もいったんは父ちゃんと仰いだお前を疑いたくない。
だが覚えておくがいい。もし馬超や同志を裏切ることがあれば、
この正義の槍がお前を貫くと!」


~~~潼関どうかん~~~


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「曹操軍はこの無謀な突撃で多大な損害を出してるわ。
韓遂、そうまでして曹操はあなたに何を伝えたかったのかしら?」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「……私によろしく伝えてくれ、と」


挿絵(By みてみん)
馬岱ばたい
「ただの挨拶だけ? あんさん、そないアホな話がありまっか」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「私も驚いている。だがこれは事実だ」


挿絵(By みてみん)
成公英せいこうえい
「韓遂殿の言葉に間違いはありません」


挿絵(By みてみん)
龐徳ほうとく
「……腹心の言葉だけではとうてい信じられんな」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「追い詰められた曹操が望んでいるのは、
我々が仲違いをし、内部分裂を起こすことだ。
多少の犠牲を払ってでも、
揺さぶりを掛ける価値があると踏んだのだろう」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「……一理あるわね。
でも、もともとアンタとは敵同士だったし、
アンタと曹操は旧知の仲だって聞くわ。
どうしても疑いは捨て切れない。
同じ屋根の下で暮らすのは御免こうむりたいわ」


挿絵(By みてみん)
成公英せいこうえい
「我々が曹操と内通し、敵を導き入れるとでも?
曹操に反旗を翻した時から、我々は一蓮托生の身だ。
濡れ衣を着せるのはやめていただきたい!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「やめろ成公英。味方同士で言い合ってもしかたない。
……我々の軍は城外に布陣しよう。それなら心配なかろう」


挿絵(By みてみん)
馬岱ばたい
「………………」


挿絵(By みてみん)
閻行えんこう
「か、韓遂殿。曹操の使者から書状が届きました」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「なんだと。馬超に見せてみろ!
こ、これは……ッ!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
(む……。この展開には見覚えがある)


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「韓遂! やはりお前は裏切っていたんだな!
この手紙を見ろ! 一見ただの挨拶に見えるが、
ところどころ塗りつぶされているじゃないか!
都合の悪いところを消したんだろ!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「やはりそうか……。馬超、思いだせ。
お前の父とともに董卓と戦った時も、同じことがあった。
これは敵の罠だ」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「同じこと? あったような無かったような……。
とにかくこれは曹操と内通している証拠だ!
韓遂、そこに直れ! 馬超が成敗してやる!」


挿絵(By みてみん)
閻行えんこう
「待て。この書状を受け取ったのはついさっきのことだ。
韓遂殿が添削する時間などなかっただろう」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「……腹心のアンタが気を利かせて消したんじゃないの?」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「そんなことを言い出したら切りがない。
だいたいこれが内通の証拠だったとして、
なぜわざわざお前たちに見せる必要がある?
曹操から書状が来たことなど黙っていればよいではないか」


挿絵(By みてみん)
馬岱ばたい
「ちょいと待った。
前にも敵からの手紙が塗りつぶされることがあったってホンマか?
それはおかしな話やな。
前回ん時の相手は董卓で、今回は曹操が相手なんやで。
敵が変わってるのに同じ策を使ってくるなんて、ありえへんやろ」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「……曹操軍に、以前の時と同じ策士がいるのかもしれん」


挿絵(By みてみん)
董夫人とうふじん
「ずいぶん都合のいい解釈ね。
でも万が一、同じ策士がいたとして、
わざわざ同じ離間の策を仕掛けてきたりするかしら?」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「……もういい。我々の軍が外に出ればいいだけの話だ。
私を疑いたければ勝手にしろ。私は潼関の外で独自に兵を動かす。
お前たちは私を無視して戦えば良かろう」


挿絵(By みてみん)
龐徳ほうとく
「韓遂殿の軍だけではたちまち曹操軍に撃破されよう。
我も一軍を率いて城外に布陣し、
韓遂殿を監視しつつ、潼関内の軍との連携を図ろう」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「感謝するぞ、龐徳。
――馬超、これだけは覚えておけ。我々が戦うべき相手は曹操だ。
曹操の首を挙げることだけを考えろ!」


挿絵(By みてみん)
馬超ばちょう
「韓遂、これだけは覚えておけ!
馬超の槍は常に正義の旗のもとにあると!」


挿絵(By みてみん)
韓遂かんすい
「………………」


~~~関中かんちゅう 曹操軍~~~


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「董卓君のもとにいた時と同じ策を仕掛ける、か。
大胆不敵な策だったね、賈詡君」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「小生は馬超の性情を熟知しておる。
あえて同じ策を試みることで、疑心暗鬼を誘ったのだ」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「だがこれだけでは不十分だ。韓遂の軍を城外へ出させたが、
それでもなお潼関の守りは堅い」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「内通していると疑わせている以上、
韓遂の軍を叩くこともできませんしな」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「無論、小生の策はこれだけでは終わらぬ。
韓遂と馬超の仲を決定的に裂き、
彼奴らを同士討ちさせる所まで持って行こう」


挿絵(By みてみん)
婁圭ろうけい
「そ、それは何をどうするのじゃ?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「……僕はすでに賈詡君から次の手を聞いている。
正直言って、あまり気は進まないんだけどね」


挿絵(By みてみん)
鍾繇しょうよう
「なんじゃその策とは? もったいぶらずに言いなされ」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「それは――」


挿絵(By みてみん)
董昭とうしょう
「軍議中に失礼いたします! 都の曹丕様から急報です!」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「……いや、その報告は聞くまでもない。
どうやら、僕らより先に曹丕君が気を回してくれたようだ。
これで馬超君と韓遂君の、いや関中十部の命運は終わりだろう」


~~~~~~~~~


かくして関中十部の諸侯の間には大きな亀裂が入った。
さらなる賈詡の策謀とは? それに先んじて曹丕はいかなる手を打ったのか?
馬超の正義の槍は、曹操の喉元にまでは届かないのか?

次回 〇五九   折れた槍
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