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アイコン三国志 作者:小金沢

第六章 天下三分の計

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〇五五   美周郎の夢

~~~江東こうとう 会稽かいけい~~~


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「劉備は曹操の南下に備えるため荊州に帰ったが、
尚香さんは早とちりで旦那を害されると思い、
兄上に厳重に抗議したため、それには加わらず。
――ってことになりました。
離縁ではなく、あくまでも婚姻関係は保ったままですし、
まあ結果的には良かったんじゃないッスか」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。気休めはやめてくれ。全ては私が至らなかっただけだ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「……そんな紙みたいに白い顔されてたら、
気休めくらい言いたくなるッスよ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「みすみす主君の妹君の縁談を壊し、妻には刃を向けられた。
フッ。顔色の一つも悪くなるさ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「精神面だけじゃなくて、身体も毒矢を浴びてガタガタなんでしょ?
ごまかしたって無駄ッスよ。少しは休んでください」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「休養ならたっぷりさせてもらったよ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「あれは療養ッス。
休んでたんじゃなくてえ、ガチで倒れてただけでしょ。
毒も抜け切ってないって医者から聞いてるんスよ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「我々は計画を次の段階に進めなくてはならん。
休んでいる暇なんてないさ。
うわべだけとはいえ、劉備との強固な同盟が成ったいま、
我々は西への進路を得たのだからな」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「……益州えきしゅうを獲り、
曹操と天下を二分する計略ッスね」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「だから落ち込んでいる暇はない。
益州攻めの総大将を務める孫瑜そんゆ殿と、
益州に生まれ土地勘のある甘寧を呼んでくれ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「…………止めても無駄みたいッスね。
ウイッシュ。わかりましたよ提督殿」


~~~荊州けいしゅう 江夏こうか~~~


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「荊州を通過して益州を攻めるから
通行許可をよこしなさいですって?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「ウィッシュ。
曹操は赤壁の敗戦で被った痛手から立ち直ってないッスから、
長江を越えて攻め寄せてくるとは考えられません。
今なら軍を二手に分けて、益州を攻められるッス」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「なるほど。天下二分の計か」


挿絵(By みてみん)
簡雍かんよう
「なんだいそりゃ?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「強大な曹操の勢力に対抗するため、
曹操の手の及びにくい南に版図を広げ、
いわば天下を二つに分かち曹操と鼎立する計略だ。
地力ではとうてい曹操に敵わぬ孫権が
採るべき策としては、定石と言えよう」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「話が早くて助かるッス。
さては諸葛亮センセも同じことを企んでたんスか?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「フン。策と呼ぶのもおこがましいくだらぬ考えだ。
漠然とした構想だけなら、そこの馬鹿でも抱いていた程度のな」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「………………」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「へええ。劉備さんも……」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「ふーん。まあ、アンタらが
変なことを考えてなければ別にいいんじゃないの?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「変なことってなんスか?」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「たとえば、荊州を通過するフリして、
油断したアタイたちを襲って荊州を乗っ取るとか」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「そんなあ。俺らと劉備さんとで潰し合ってたら、
それこそ曹操の思う壺じゃないッスか」


挿絵(By みてみん)
龐統ほうとう
「そのあたりは警戒しておけばいいんじゃないですかね。
攻め落とせるものなら攻め落としてみろって構えで」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「ウィッシュ。そっちの考えは
俺から口を出せることじゃないんでえ、お任せするッス」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「それにしてもアンタも
使いっ走りみたいなことばっかさせられて大変ねえ。
劉備担当の外交官にでもなったの?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「ぶっちゃけ、俺や周瑜以外のみんなは
劉備さんを敵視してるんでえ、俺が来るしかないッス」


挿絵(By みてみん)
孫乾そんけん
(江東の人はみんなぶっちゃけすぎだろ……)


挿絵(By みてみん)
糜竺びじく
「では劉備様もそれでよろしいですかな?」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「……………………尚香さん」


挿絵(By みてみん)
糜竺びじく
「はい?」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「尚香さんに会いたい。
おーいおいおいおいおい。わしは尚香さんに会いたいんじゃあ……」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「は、はあ。い、いちおう孫権にも伝えておくッス。
この前の騒ぎで尚香さん蟄居させられてるんで、
期待はしないで欲しいッスけど……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「…………できれば二喬さんにも会いたい」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「そっちは人妻よバカ!
どさくさにまぎれてなに言ってんのよ!」


~~~回想~~~


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「このまま許都きょとに攻め込むか、
それとも荊州を抜いて益州を落とすか。
二つに一つだ。どっちかを選べ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。あいかわらず急な話だな。少し整理させてくれ。
曹操はいま、袁紹と対峙していて容易に身動きが取れない。
留守にしている許都を急襲し、献帝陛下を奪取する。
――最初の計略はそういうことだな」


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「おうよ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「そしてもう一つが、劉表の荊州を落とし、
さらに西の益州にまで勢力を伸ばす。
そうして曹操と正面からぶつかり合える力を蓄え、堂々と対決する。
そういう考えか」


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「どうでェ、どっちも面白そうだろ!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「しかし二つ目の計略は、お前にしては迂遠な策だな。
誰かに入れ知恵されたか?」


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「ははっ。おめェにはお見通しか。
益州を獲るってなァ、この前紹介してくれた魯粛のヤローの考えなんだ。
たしかにまだるっこしいけどよォ、
曹操と正々堂々戦えるってのは面白そうじゃねェか!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「それに堅実な策だな。
お前に天下を獲らせるためには、最も現実味のある手段だろう」


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「だが、今すぐ許都に殴り込んで、
一か八かの戦いをするってのも、それはそれで楽しそうだ。
だからおめェに選んで欲しいんだ。
おめェが選んだ方にオレは乗るぜ!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「藪から棒に責任重大な話だな。
フッ。だが迷うことはない。私の選択は二つ目だ。
まずは荊州を、しかるのちに益州を落とす」


挿絵(By みてみん)
孫策そんさく
「なら決まりだな! 周瑜!
さっそく荊州と益州を落とす作戦を考えろ!
先陣はもちろんオレ、軍師はおめェだ。
へへっ、楽しくなってきたぜ!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「任せろ孫策。必ずや君にこの中原の覇権を握らせてみせるよ」


~~~江夏 孫権軍~~~


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「…………ここは?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「江夏の近郊、孫権さんの従兄の孫瑜そんゆさんの陣中ッス。
急にぶっ倒れたんスよ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……倒れた? 私がか?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「動かないで! 馬から落ちて激しく頭を打ってるッス。
ガチで絶対安静なんで」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……すこし記憶が混濁している。私はどこに向かっていたのだ」


挿絵(By みてみん)
孫瑜そんゆ
「荊州を通り抜け、益州の攻略に向かっていた途中だ。
……だから動くなと言っている。礼儀など気にしている場合か」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「………………」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「どうした魯粛。震えているのか? 君らしくもない」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「こ、この顔はなんなんスか!
顔だけじゃない、手も! 足も! 体全体が変色してる!
毒矢の傷が完治してなかったんスね!
それを白塗りしてごまかしてたんスか……」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。化けの皮がはがれてしまったか。
もともと色が白かったおかげで気づかなかったろう?」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「あんたは馬鹿ッス! ガチで大馬鹿者ッスよ!
こんな身体で、なにが益州攻略ッスか!?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「…………孫策と約束したんだ。
私は行かなければならない。なぜなら私が選んだのだから……」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「無理だ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。これは諸葛亮先生、いらしたのですか。
お見苦しい姿を見せたこと、お詫びしよう」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「まったくだ。わざわざ見舞いに来てやったのに弔問になりそうだ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「では見舞金を香典に書き換えるです」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……あいかわらず先生は愉快な方だ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「慈悲深い余が香典代わりに手を貸してやる。
だから貴様は安心して死ね」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「と言うと?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「益州は余が落としてやろう。もっとも、益州は余の物になるがな」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「なっ……!?
し、周瑜が病みついてる間になんて図々しい話ッスか!」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「しかし周瑜亡き後に遠征軍を率いられる人材がいるのか?
魯粛、貴様か?
このぽっと出の誰だかわからない孫瑜とかいう男がやるのか?
それとも孫権が江東を空にして自ら赴くか?」


挿絵(By みてみん)
孫瑜そんゆ
「そ、それは……」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「無理だ。
よしんば益州を攻略できたとして、
得体のしれない劉備の率いる荊州をはさみ、
誰が遠く離れた西の果てで益州を統治できる?
劉備と摩擦を起こさずに交渉できる?
もし一人だけいるとしたら、
それはここで死相を浮かべている男をおいて他にあるまい」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「…………」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「いや、そもそもが無理な話なのだ。
周瑜、貴様一人では益州を落とせぬ。統治もできぬ。
貴様と孫策、どちらが欠けても不可能なのだ。
貴様とて、そんなことはわかっていただろうに」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……あなたは優しい方だ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「なに?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「私の、孫策の夢を継いでくれるのだろう?
もちろんあなたや劉備にとって得になる話だから、
代わりにやるというだけなのだろう。
だが死に瀕した私に、あえて夢を継いでくれると言う。
あなたは優しい方だ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「やめろ。虫酸が走る」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。あなたもそんな顔をするのだな。
それだけでも倒れた甲斐がある。
……ああ、そうだ。これも孫策の言葉だったか。
私はどこまで行っても、
孫策の、小覇王と呼ばれた男の真似に過ぎないのかな」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「し、周瑜。しっかりするッス!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「私の後は魯粛に任せる。
諸葛先生が益州を落とせば、曹操と江東と益州で三国鼎立の形となる。
天下三分の計だ。
私と孫策の夢は、孫家と劉備との間で続いていくんだ……」


挿絵(By みてみん)
孫瑜そんゆ
「周瑜! お前はまだまだ孫家に必要な人間なんだぞ!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「諸葛亮先生……あなたとはもっと話したかった」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「余は貴様ごときに話すことなどない」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。天はどうして私とあなたを、同じ時に産んだのだろうか……。
あなたの後に産まれていれば、書を通じてでも
もっとあなたの言葉を聞くことができたのに」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「もう一度言う。やめろ。虫酸が走る」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「益州攻略は孫権の夢でもあった……。
彼もまた孫策に憧れ、孫策の後を追っていたのだからな……。
孫権に、すまないと言ってくれ……」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「周瑜ーーーーーっ!!」


挿絵(By みてみん)
孫瑜そんゆ
「周瑜…………」


~~~江夏~~~


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「戻ったらすぐに諸葛均しょかつきん馬謖ばしょくを呼べ。
あいつらに仕事をさせる」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「はいです。
……周瑜が死んで残念です。
御主人様を歴史上初めて慕ってくれた友人だったです」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「余に友人などおらぬ。もとい、いらぬ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「龐統と馬良ばりょうがいるです」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「あれは知人だ。あんな趣味の悪い友人は必要ない」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「…………」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「黙れ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「何も言ってないです」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「いま思ったことを黙れ。死ね」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「嫌です」


挿絵(By みてみん)
諸葛均しょかつきん
「お呼びですか兄上」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「これから呼ぶところだ。……やけに手際がいいな」


挿絵(By みてみん)
諸葛均しょかつきん
「周瑜様が亡くなれば、兄はすぐに私に仕事を命じるだろうと
龐統様がおっしゃられました」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「フン。あいかわらず小ざかしい男だ。
……貴様はすぐに益州と関中かんちゅうに飛べ」


挿絵(By みてみん)
諸葛均しょかつきん
「わかりました」


挿絵(By みてみん)
馬謖ばしょく
「お呼びですか御主人様」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「……貴様も龐統の指示で来たか。まったく忌々しい」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「つまり御主人様は自分の考えを読まれるのが嫌なのです」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「誰に向けた説明だ。
……馬謖、貴様は馬良をつれてこい。
そろそろあのものぐさ者にも手伝わせてやる」


挿絵(By みてみん)
馬謖ばしょく
「うっ。……あ、兄を呼ぶのですか。
御主人様の命令とはいえ気が進まないな……」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「ごちゃごちゃ言わずにさっさと行くです」


挿絵(By みてみん)
馬謖ばしょく
「チッ。いつか半殺しにしてやるからな小娘」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「返り討ちで全殺しにしてやるです長っ鼻」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「黙れ。さっさと行け」


~~~~~~~~~

かくして龍鳳にも比肩し得た俊英、周瑜は没した。
龍鳳の力を得た劉備の目は益州へと注がれていたが、
さらに西の彼方、関中ではついにあの男が立ち上がろうとしていた。

次回 〇五六   馬超、起つ
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