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アイコン三国志 作者:小金沢

第五章 赤壁の戦い

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〇四八   風と毒と嘘

~~~荊州けいしゅう 襄陽じょうよう~~~


挿絵(By みてみん)
蔡和さいか
「止まれそこの船! 何者だ!」


挿絵(By みてみん)
闞沢かんたく
「えーと。わ、私は……」


挿絵(By みてみん)
蔡中さいちゅう
「怪しいヤツめ。ここは曹操丞相の陣営であるぞ!」


挿絵(By みてみん)
闞沢かんたく
「そ、その、実は、そ、孫権の……」


挿絵(By みてみん)
蔡和さいか
「孫権の手の者か?
それにしては一人だし、武器も持っていないようだな」


挿絵(By みてみん)
闞沢かんたく
「孫権の、いや、孫権を裏切りたいという、ある人がいまして……。
わ、私は、その人からの使者として、その……」


挿絵(By みてみん)
蔡中さいちゅう
「孫権を裏切りたいというヤツからの使者だと?
お、おい蔡和! こいつはおおごとだぞ!」


挿絵(By みてみん)
蔡和さいか
「お、おう! すぐに蔡瑁様に知らせよう!」


~~~襄陽~~~


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「孫権軍は軍を率いる周瑜と程普ていふが相争っています。
指揮系統は乱れ、周瑜ら若手と、程普ら老臣との間は険悪で、
ろくに進軍もできない様相です」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「ふむ。世代間闘争とは向こうも苦労しているようだね。
蔡瑁君、水軍の様子はどうかな?」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「は、はい。お預かりした水軍の鍛錬は進んでいますが、
慣れない気候からか疫病が蔓延し、多くの兵が倒れています。
また水路を用いた補給も滞りがちで、
その、や、やはり進軍はすこし難しいかと……」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「奇遇なことに敵味方そろってともに動けない、というわけか」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「なにを悠長なことをぬかしているか!
すくなくとも荊州水軍は戦えるのだろう?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「悠長にしていてすまないね王朗君」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「じ、丞相に言ったわけではありません!」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「張允君、君たちがのんびりしているから
僕が怒られてしまったじゃないか」


挿絵(By みてみん)
張允ちょういん
「し、正直スマンカッタ。
め、命令とあらば我ら荊州水軍だけでもすぐに――」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「やめたまえ。貴殿らが戦いを急ぎ、もし敗れたら、
いよいよ我々の進退がきわまってしまう」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「じ、実は……水軍の鍛錬の遅れの代わりというわけではないですが、
耳寄りな話を仕入れました。
孫権を裏切りたいという重臣からの使者が来ているのです」


挿絵(By みてみん)
程昱ていいく
「なんじゃと。そういうことは早く言わんか!」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「ま、まだ真偽の程が定かではないものですから」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「とにかく連れてきなさい。真贋は我々が見極める」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「それと孫権君のところにいた華歆かきん君を呼びたまえ。
すこし面白くなってきたじゃないか」


~~~襄陽~~~


挿絵(By みてみん)
闞沢かんたく
「――というわけで、こ、黄蓋将軍は
孫権や周瑜に反発し、謀叛を決意されました。
お、お許しをいただければ、重臣の首や兵糧を手土産に、
こ、降伏いたします」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「ふむ。興味深い話だね。華歆君はどう思うかな」


挿絵(By みてみん)
華歆かきん
「黄蓋や程普ら旧臣と、周喩ら新参の間に
確執があるのは御存知の通りです。
そして闞沢は、このように口下手な男。
弁の立つ者ではなく彼を使者としなければいけなかったことからも、
黄蓋の苦労がしのばれますな」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「しかし、もしこれが周瑜の仕掛けた罠であれば、一大事です」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「だが罠だったとして、
我々の懐に入ってくるのは黄蓋の船が一艘きりだ。
それで何ができる? とりあえず話に乗ってみて損はないぞ」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「……我が水軍は軍船が河を埋め尽くすようにひしめき合っている。
そこに火薬を満載した船が突っ込めば、
ただの一艘でも十分に脅威となるだろう」


挿絵(By みてみん)
程昱ていいく
「おやおや皇族サマは屋根の下にばかりいるから、
気候のことを御存知ないようじゃ。
この時季の風向きは常に孫権軍にとっての逆風。
すなわち火を放てば焼け死ぬのは孫権軍のほうじゃ」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
「降伏か、罠か、どちらに転んでも
小生らが大打撃を被ることはあるまい」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
(……戯志才ぎしさいや郭嘉なら、
いや、都に残した荀彧君がいればなんと言っただろう)


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「丞相?」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「……決まりだね。どうせ戦線は膠着しているんだ。
このままにらみ合っていてもらちが明かない。
黄蓋君の降伏が真贋どちらであれ、これで戦況は動く。
それなら乗らない手はないだろう」


挿絵(By みてみん)
闞沢かんたく
「………………」


~~~柴桑さいそう 孫権軍~~~


挿絵(By みてみん)
程普ていふ
「ですから、この戦はわたくしめや韓当様ら、
古参の者に任せてください。
周瑜様には後詰めをお願いいたします」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「あなたも頑固な人だ。
歩調を合わせて攻めなければ、曹操軍を破ることなどできはしない」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「だから俺たちが突破口を開いてやるから、
その後から斬り込んでこいって言ってんだよ。
協力しないわけじゃねえ。
死地に挑むのは俺たちだけで十分だと言ってんだ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「とかなんとか言ってさー。
要するにオレらを信用してねえだけじゃないデスかー?
ジジイはすっ込んでろよ。もう若者の時代なんだよ」


挿絵(By みてみん)
黄蓋こうがい
「……そこまで言われてはわしも黙ってはいられん。
我々は亡き孫堅艦長の時代からの老臣だ!
その覚悟の程がわからんのか!」


挿絵(By みてみん)
朱治しゅち
「みなさん落ち着かれよ。
怒鳴り合っていても議論は収束しません」


挿絵(By みてみん)
孫静そんせい
「甘寧、お前が口を出すと話がややこしくなる。下がっていろ」


挿絵(By みてみん)
蒋欽しょうきん
「……いつもながら、おいどんらは孫策どんの代から仕えたから、
どっちに肩入れすればいいかわからんでごわす。なあ周泰どん」


挿絵(By みてみん)
周泰しゅうたい
「ああ……」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
(程普も周瑜もたがいを認め合ってるし、
たがいを死なせたくないと思ってるから始末が悪ウィッシュ。
まあぶっちゃけ実際に仲が悪いんだからあ、
黄蓋の寝返りに説得力が増して結果オーライなんスけども)


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「こうして味方同士で罵り合っていてもしかたあるまい。
張紘ちょうこう殿の意見を聞こうではないか!」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「張紘なら視察に出ておる」


挿絵(By みてみん)
徐盛じょせい
「そ、そうであったか……」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「……なんじゃなんじゃお前たちは!
張紘には意見を求めるのに、ワシの意見は必要ないのか!?」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「け、決してそういうわけでは――」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「だいたいお前たちはじゃな!
さっきから聞いておればくどくどくどくどくどくどくどくど――」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
(これだから張昭に誰も聞かねェんだよ……)


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「孫権殿! こっそりどこに行かれるつもりですか!?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「便所だよ」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「…………ちゃんと手は洗うのですぞ!」


~~~柴桑 厠~~~


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「で、手はずは整ったんか?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「ええ。真実であれ罠であれ、
曹操は黄蓋殿の降伏を受け入れる気になりました」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「あとは風ッスね。ぶっちゃけどうするつもりスか諸葛亮さんは。
ガチで東南の風を吹かせられるんスか?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「余に不可能はない」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……あと十日もすれば、この時季でも東南の風が吹くことがある。
だが十日も待つ余裕はない。
一両日中には作戦を決行せねばならん。できるのか?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「二度は言わぬ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「お前ら御主人様を信用するです」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「……その前にどうしてご婦人が男便所に平然といるんスかね」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「お前らを信用してないからです」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「信用してないのに信用を求めるんスかあ?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「ともかくやれるっつーんだから、任せるしかねェだろ。
やれなかったら、雁首そろえて討ち死にするだけだ。
なあ諸葛亮センセ?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「貴様らを道連れにあの世へ行くのは御免だ。
望むときに望むだけの東南の風をくれてやろう……」


~~~~~~~~~


かくして全ての条件は整った。
黄蓋の埋伏の毒、闞沢の嘘、そして諸葛亮の東南の風。
いよいよ孫権軍の逆襲が始まるのか?

次回 〇四九   赤壁の戦い
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