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アイコン三国志 作者:小金沢

第五章 赤壁の戦い

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〇四七   柴桑会議

~~~荊州けいしゅう 襄陽じょうよう~~~


挿絵(By みてみん)
劉琮りゅうそう
「ほ、本日はお日柄もよく、あ、足元の悪い中……」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「君が劉表君の跡を継いだ劉琮君か。そう緊張するな。
おかしな噂が流れてるようだが、
君や荊州の人々をどうこうするつもりはない。
それどころか今後は君たちを
我が軍の主力にしたいと考えているんだよ」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「そ、それは光栄の極みです。
荊州の人馬はこぞって丞相のために尽くしましょう!」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「やあ蔡瑁君、久しぶりだね。君まで固くなっているようだ。
荊州水軍の精強さは聞いているよ。
水軍は君に任せるからよろしく頼む」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「あ、ありがたき幸せ!」


挿絵(By みてみん)
賈詡かく
(要するに今後は自分の軍を使わず、
荊州の兵を使い倒すと言われているのに、
なにが光栄で幸せなのだかな……)


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「劉琮君には……そうだね、青州せいしゅう刺史の座が空いていたから、
そこを任せよう。さっそくだけど明日にも赴任してくれるかな?」


挿絵(By みてみん)
劉琮りゅうそう
「こ、この私を刺史に……。あ、ありがとうございます!!」


挿絵(By みてみん)
程昱ていいく
(劉琮を荊州に残しておいたら、
どこかの馬鹿が担ぎ上げて問題を起こさんとも限らん。
イベントの終わった土地の見張りに送り込むのは常套手段じゃな)


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「さて、それじゃあ戦況を聞こうか。劉備君はどうしてるんだい?」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
江夏こうか劉琦りゅうきのもとへ逃れました。
長坂ちょうはんで多くの兵を失いましたが、
劉琦の兵や、例によって付近のゴロツキを加え、
一万近い兵力を保っています。
荊州を脱出した民の多くも次第に集まっているようです」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「叩いても叩いても息を吹き返す、つくづく厄介な男だ」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「だがあれだけ叩けばしばらくはおとなしくしているだろう。
一軍を向かわせて牽制させておけば十分だ」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
南郡なんぐんに曹仁君を入れておいた。それで押さえは利くだろう。
それより劉表君の旧臣でまだ抵抗している者がいるんだって?」


挿絵(By みてみん)
蒯越かいえつ
文聘ぶんぺいという将が小城に立てこもっております。
説得を続けていますが……」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「文聘君の名は聞いている。硬骨漢らしいね。
蒯越君はそのまま説得を続けてくれたまえ。
僕には戦う気はない。いずれわかってくれるだろう。
それじゃあ、張允君。水軍について聞きたいんだけど」


挿絵(By みてみん)
張允ちょういん
「お、おう」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
(名乗られずとも荊州の重臣を把握しているのか……。
さすが殿だ)


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「僕たちはいよいよ孫権君と戦うことになる。
孫家の水軍と戦って、勝つ自信はあるかい?
情けない話だが水上戦に関しては君たち頼りになってしまうからね」


挿絵(By みてみん)
張允ちょういん
「以前、江夏の戦いでは黄祖こうそが敗北したが、
あれは援軍も得られず、また水戦もごく局地的なものに限られていた。
水軍同士の戦いならば、孫権ごときにひけは取らん」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「そうか。頼りにさせてもらうよ。
僕らの自前の艦船や水軍もじきに到着する。
君と蔡瑁君で協力して、訓練してやってくれたまえ」


挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)

『はッ!』


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「孫権君が素直に降ってくれるとは思えないが、
いちおう降伏勧告もしておこう。
戦わずに済めば、それが一番楽だからね。
董昭君、行ってくれるかい」


挿絵(By みてみん)
董昭とうしょう
「はい、かしこまりました」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「それじゃあ孫権君の返事を待つ間に、荊州の人士と面会しよう。
これが楽しみで荊州を攻略したようなものだからね。
さあ、初めは誰を呼ぼうかな……」


~~~江州こうしゅう 柴桑さいそう~~~


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「――常識的に考えれば降伏するしかあるまい」


挿絵(By みてみん)
虞翻ぐほん
「そうでゲス。袁紹の勢力をことごとく吸収した曹操軍は、
いまや百万の大軍を擁してるでゲス。
対する我々はせいぜい十万が関の山。勝負にならないでゲスよ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「なんと弱気な……。張紘殿!
あなたは都で曹操軍の内情をつぶさに観察してきたでしょう。
あなたはどう思われるのですか」


挿絵(By みてみん)
張紘ちょうこう
「張昭や虞翻の言うとおりだと思うぞ。
常識的に考えれば、勝負にならないぞ」


挿絵(By みてみん)
吾粲ごさん
「これは剛直の士で知られる張紘殿の言葉とも思われぬ。
都に残り曹操に寝返った華歆かきんのように、
張紘殿も曹操に魅了されたのではありませんかな?」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「くだらない当てこすりをしている場合か!
孫権殿! 孫権殿はいったいどうお考えなんじゃ!?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「……………………ん?
ああ、そうだな。いいんじゃねェか」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「……………………いま、寝ていられませんでしたか?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「いやいやいやいや、こんな大事な軍議中に寝るわけねェだろ。
で、いったい何をオレに聞きてェんだ?
ちょっと目をつぶって考え事してたから聞いてなかったんだ」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「まったく! あなたという人はまったく!」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「――つまりみんなはあ、ぶっちゃけると降伏か死かあ、
どっちにするか聞いてるんスよ」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「なんだそりゃ。オレは曹操に降るか、それとも死ぬしかねェのかよ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「ウィッシュ。みんなそう思ってるみたいッス」


挿絵(By みてみん)
陸績りくせき
「口が過ぎるぞ魯粛!」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「でも戦う前からあ、戦ったら死ぬって決めつけてるのは
みなさんのほうじゃないッスか?」


挿絵(By みてみん)
陸績りくせき
「う…………」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「なんでェ。よく聞いてみりゃ、
前と同じことであーだこーだ騒いでんのかよ」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「前と同じと言われますと?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「張紘たちを都に向かわせた時と同じだってんだよ。
聞いてくりゃいいじゃねェか。
実際に曹操と戦った劉備と、あと実際に曹操と戦うことになる周瑜によ。
おめェらから見て、オレたちに勝ち目はあんのかって」


~~~柴桑~~~


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「っつーことで、連れてきたッス」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「余が劉備に力を貸してやっている諸葛亮だ。
多忙な余をこんな磯臭い田舎まで呼びつけたのだ。
それ相応の話があるのだろうな」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「お前らそれ相応の話が無かったら覚悟するです」


挿絵(By みてみん)
厳畯げんしゅん
「そ、その小娘――いや女性は奥方ですかな?
いきなり暴言を吐いた気がするのですが……」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「ああ、これはたまにしゃべる小銭入れだ。気にするな」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。高名な諸葛亮先生は愉快な方のようだ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「貴様は何者だ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「申し遅れた。私は孫家の軍権を任されている周瑜という者だ。
このたびは曹操と刃を交えた先生のご意見を伺いたいと思っている」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「ほう。我らの十倍の兵力を持ちながら、
降伏か死しか選択肢を見出だせない無能が何を聞きたいのだ」


挿絵(By みてみん)
厳畯げんしゅん
「んぐっ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「これは手厳しい……。
しかし、私はここにいるお歴々とはすこし別の意見を持っている。
曹操と戦っても勝つ自信がある、という意見をね」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「なるほど。要するに余は貴様とだけ話せばよいのだな。続けろ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「江南は中央と比べれば別天地だ。
船を使わなければ身動きもままならず、風土もまったく異なる。
また曹操の水軍は実戦経験に乏しく、荊州の水軍が頼りだ」


挿絵(By みてみん)
程秉ていへい
「し、しかし兵力差は圧倒的に――」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「黙れ脇役。数ではなく質を見ろとこの男は言っているのだ」


挿絵(By みてみん)
程秉ていへい
「ぐぬぬ……」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「慣れない風土から主力を占める曹操軍の間には疫病が流行っている。
許都きょとから荊州を経由する補給線は伸び切っており、
軍需物資も決して豊富とは言えない」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「クックックッ。
つまり孫家の連中は、江南に育ち、船を意のままに操れ、
実戦経験の豊富な水軍を持ち、疫病に悩まされることもなく、
補給にも不安のない十万の大軍を擁しながら、
降伏か死しか考えられないのか。実に興味深い生態だな」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「ぬ……ぬ……ぬ……」


挿絵(By みてみん)
虞翻ぐほん
「な、なんという無礼な発言でゲスか!
こ、この男をつまみ出すでゲス!」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「貴様の顔ほど無礼ではないと思うがな」


挿絵(By みてみん)
虞翻ぐほん
「なっ…………! し、諸葛瑾! こいつはお前の弟でゲしょう?
なんとか言ってやるでゲス!」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「ふふふふふ。いや失礼、久々に弟の暴言が聞けて、
なつかしくて笑ってしまいました。
あなたの無礼な顔面を笑ったわけではありませんよ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「お兄ちゃんの天然の毒舌が炸裂です。なつかしいです」


挿絵(By みてみん)
虞翻ぐほん
「こ、こ、この兄弟は…………ッ!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「がたがたうるせェなあ! おちおち昼寝もできやしねェぜ」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「こ、この期に及んでまた昼寝しておったのか!?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「言葉の綾だ。半分は聞いてたから安心しろ。
で、結論は出たのか?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「孫権殿、結論を下すのはあなたの仕事ですよ」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「ははっ、違えねェや。じゃあ、オレの結論は三つ目だ」


挿絵(By みてみん)
陸績りくせき
「三つ目?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「降伏でも死でもねェ三つ目の選択肢、曹操を叩きつぶす、だ。
曹操ばかりか、そこの諸葛センセにさんざん舐められて、
黙ってられるかってんだよ!」


~~~柴桑~~~


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「うまく孫権様を焚きつけられたんでえ、よかったッス。
さすが諸葛亮センセ、見事なお手並みでしたあ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「何の話をしている。余はその色男と世間話をしていただけだ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。あなたにとってはそうだろうな。
だがただ世間話をしただけで、降伏派は一掃された。
見事なお手並みでしたよ」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「くだらぬ。もっと余の興味を引ける話をしろ」


挿絵(By みてみん)
黄月英こうげつえい
「御主人様の興味を引けなかったら覚悟するです雰囲気イケメン」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「それなら、こんな話はどうだ。
たとえば――たった一艘の船で、曹操の軍船を残らず焼き払う話などは」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「ほう、大きく出たな」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「だがこの話をするには、三つの条件が必要だ。
そのためにあなたの知恵を借りたいのだが――
その前に三つの条件とはなにかおわかりかな?」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「風、毒、嘘だ。愚か者が賢しらに余を試すな」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「……あなたはすばらしい」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「……ちんぷんかんぷんなんでえ、
俺にもわかる言葉を使ってもらえないスかあ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「水軍に限って言えば互角以上とはいえ、
やはり曹操軍の兵力は圧倒的だ。
それを打ち破るには、火計を用いるしかない。
だがそのためには三つの障壁がある。
火計を仕掛けるための風向き、実行部隊、
そして火計を悟らせない情報操作だ」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「なるほどお。でも曹操を騙すのは骨が折れるっしょ。
それにたしかこの時期は曹操軍じゃなくて、
俺たちのほうに風が吹いてるんじゃないスかあ。
だいたい曹操も火計くらい気づいてるスよ。
ぜんぜん無理じゃないスかねえ」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「それは百も承知だ。
それでもなお火計を仕掛け、罠にはめねばならん」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「クックックッ。すこし食指が動いたぞ。
よかろう、余の知恵を貸してやる。
代わりに暗殺者と、最も口下手な男を貸せ。それで嘘は片付く」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「口下手な男スか? 口達者な男ならたくさんいますけどお」


挿絵(By みてみん)
諸葛亮しょかつりょう
「口下手な男ほど、時として誰よりも能弁なものだ。
――今日の余は機嫌が良い。風も引き受けてやろう。
貴様らは毒だけを、せいぜいつたない脳髄を絞って用意するがいい」


~~~~~~~~~


かくして孫権は曹操軍百万に対して抗戦を決意した。
迎え撃つは当代随一の二大軍師、周瑜と諸葛亮。
不敵に笑う彼らは雲霞の如き大軍を退けられるのか?

次回 〇四八   風と毒と嘘
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