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アイコン三国志 作者:小金沢

第五章 赤壁の戦い

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〇四三   名無しの軍師

~~~荊州けいしゅう 新野しんや~~~


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「劉備軍は包囲の輪に入ったぞ。今だ!」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「呂曠! 呂翔! 側面から攻撃を仕掛けろ!」


挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)
呂曠りょこう       呂翔りょしょう
『おう!!』


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「いかん! 退け! 退くんじゃ!」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「だから罠だって言ったじゃないのよ!!」


挿絵(By みてみん)
関羽かんう
「…………」


挿絵(By みてみん)
関平かんぺい
「ここは我らが抑えるゆえ、兄者は逃げられよ!
……と父は言いたそうにしています」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「言いなさいよ! 言えばいいじゃないの!」


挿絵(By みてみん)
趙雲ちょううん
「先輩! こっちッス! 自分の後をついてきてください!」


~~~新野城~~~


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「いやーこてんぱんにやられてしもうたな!」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「本当にもう……毎度毎度そうだけど死ぬかと思ったわ。
どうにか城に逃げ込んだけど、
曹仁はじきに城に迫ってくるわよ。どうすんのよ」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「そこでじゃ張さん。どうしてわしらは弱いんじゃと思う?」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「なぞなぞやってる暇はないわよ!」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「いやいや、これが大切なことなんじゃ。
いいか、わしらが弱いのはな……。軍師がいないからじゃ!」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「あっそう。それで?」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「軍師を探すんじゃ! 軍師を迎えればこれで勝つる!」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「いま? これから? 軍師を? この新野で?
はあ…………。いっそのこと誰かこのバカ殺してくんないかしら」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「? なんか言ったか?
ほれほれ張さん、さっそく探しに行くぞ」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「……マジでこれから探す気なのね」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「灯台下暗しと言うじゃろ。
探してみればこの新野にいるかもしれんぞ」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「はいはい、がんばってね。
アタイはちょっといま籠城戦のこととかで忙しいから、
代わりに関羽でもつれてきなさいな」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「そうか。じゃあ行くぞ関さん!」


挿絵(By みてみん)
関羽かんう
「…………」


~~~新野城~~~


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「うんうん、やっぱり半壊してる南門が狙われるわよね。
そこはアタイが守るとして――」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「ただいまー、張さん。ねんがんの軍師をてにいれたぞ!」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「マジで!?」


挿絵(By みてみん)
??
「……ども、軍師です」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「あー。ええと、誰だか知らないけど悪かったわね。
このアンポンタンは後でアタイが殴っておくから、帰っていいわよ」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「いや……俺は単福ぜんふくって者だが、
任せてくれれば、曹仁を撃退して見せるよ」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「聞いたか張さん! 頼もしいじゃろ!
単さんは水鏡先生の紹介で、わしを訪ねてきてくれたそうじゃ」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「噂の水鏡先生の? それなら少しは使えそうね。
ふーん。ガタイはまあまあじゃない」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「……剣の心得も多少はある」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「どうせ人手が足りないんだから、
手伝ってくれるなら歓迎するわよ。
で、曹仁を撃退する策とやら、いちおう聞いてやろうじゃないの」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「籠城してもジリ貧に陥るだけだ。
……野戦を挑み、打ち破るしかない」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「や、野戦? 5千ぽっちの兵で、10万の曹仁軍に?」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「曹仁もそう思っているだろう。
……その虚をつき、逆手にとって見せる」


~~~新野 北部~~~


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「は、八門金鎖はちもんきんさの陣だと? 劉備軍が?」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「なんだそのパチモンなんたらと言うのは!」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「休・生・傷・杜・景・死・驚・開……八つの門を陣に築き、
敵を迎撃する複雑きわまりない陣形だ。
劉備や張飛がそんな陣立てを知っているとは思えん」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「だが現にパツキンなんたらの陣を敷いてるのだろう!?」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「ああ、どうせただの悪あがきだ。
兵法書からそのまま引き写しただけの付け焼刃に違いない。
呂曠、呂翔。
八門金鎖の陣は生門から入り、景門へ抜ければたやすく破れる。
5万の兵を率いて切り裂いてやれ!」


挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)
呂曠りょこう       呂翔りょしょう
『おう!』


~~~新野 北部~~~


挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)
呂曠りょこう       呂翔りょしょう
『そ、そんな……5万の兵がなぜ5千ぽっちの兵の中で
散り散りになってしまうのだ!?』


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「敵将は迷子になって孤立したわよ! それッ!」


挿絵(By みてみん)
趙雲ちょううん
「隙ありッス!」


挿絵(By みてみん) 挿絵(By みてみん)
呂曠りょこう       呂翔りょしょう
『ぐわああああッッ!!』


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「……うまく行ったな」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「うまく行きすぎよ! 単福、アンタすごいじゃないの!」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「よーしよし!
この勢いで残る曹仁軍も蹴散らしてしまうんじゃ!」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「……その必要はない」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「へ?」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「もう済んでいる……」


~~~新野 北部~~~


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「ご、5万の兵が壊滅だと!?
陳矯! 何がどうなってんだ!?」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「わ、私にもわからぬ……。ただ一つ言えることは、
あの八門金鎖の陣は悪あがきどころか、
練りに練られた必勝の策だったということだ」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「く、くそ! こうなったら俺が自ら突撃して蹴散らしてやる!」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「し、将軍! あれを!」


挿絵(By みてみん)
関羽かんう
「…………」


挿絵(By みてみん)
関平かんぺい
「曹仁よ、逃げ出すなら今のうちだ!
三國無双の勇者・関羽ここにあり!」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「関羽が背後に現れただと!?」


挿絵(By みてみん)
周倉しゅうそう
「これは絶景かな。曹仁殿が泡を喰っていらっしゃる」


挿絵(By みてみん)
廖化りょうか
「単福殿の智謀はなんと見事なことであるか! 俺は感動したぞ!」


挿絵(By みてみん)
陳到ちんとう
「廖化殿、泣くのは曹仁の首を獲ってからにいたそう」


挿絵(By みてみん)
裴元紹はいげんしょう
「突っ込むぜ野郎ども!」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「将軍! ここは退くしかない!」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「劉備め……この屈辱、必ず晴らしてやるからな!!」


~~~新野 北部 曹操陣営~~~


挿絵(By みてみん)
李典りてん
「手酷くやられたようですね、はい。
予定を早めて助けに来てよかったです、はい」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「世話をかけたな李典! お前が来てくれなければ危なかったぞ!」


挿絵(By みてみん)
陳矯ちんきょう
「つい昨日まではいつもの劉備軍であった。
張飛、関羽らの武勇に任せた突撃をくり返すばかりで、
容易に我らの策にかかった。
だがさっきの劉備軍はまるで別物だ!」


挿絵(By みてみん)
李典りてん
「誰かが知恵を貸したのでしょうね、はい。
丞相(曹操)は長雨で到着の遅れている
第二陣の夏侯惇将軍が合流するまで、
進撃は控えるように、とのことです、はい」


挿絵(By みてみん)
曹仁そうじん
「くそ! 多くの兵を失っちまったからな!
無念だがそうするしかあるまい!
だが惇兄が加わったらこうはいかんぞ!
目にもの見せてやるからな!」


~~~許昌きょしょうの都~~~


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「ふむ。劉備君に軍師がついたと。
これまで彼に欠けていた要素をついに補ったのか。
それも曹仁君を破るなんてただ者ではない。
いったい誰を味方につけたのか興味深いね」


挿絵(By みてみん)
荀攸じゅんゆう
「名前だけはわかっています。単福という20代の若者だとか」


挿絵(By みてみん)
程昱ていいく
「単福? 何か引っかかるな……。
単という姓は仮名にもよく用いられる。
荊州で福という名の若者なら、徐福じょふくという者がおるな」


挿絵(By みてみん)
王朗おうろう
「徐福なら聞いたことがあるぞ。
友人の仇討ちに協力して投獄されたが、
助け出されて放浪しているヤツだ。
剣の使い手で頭も切れるという」


挿絵(By みてみん)
劉曄りゅうよう
「脱獄者なら仮名を使っているのもうなずけるな」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「なかなかの傑物のようだね。
劉備君に預けておくのはもったいないな……」


挿絵(By みてみん)
程昱ていいく
「そうじゃ!
たしか徐福の母親は荊州ではなく都の近くに住んでおる。
母親を人質に取れば、きっと寝返るじゃろう」


挿絵(By みてみん)
曹操そうそう
「おいおい、人質だなんて乱暴なことはやめたまえ。
しかし、徐福君の御母堂が近くにいると聞いては黙っていられないね。
都にお迎えして、もてなして差し上げるんだ」


~~~新野城~~~


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「なに、表さんが倒れたじゃと?」


挿絵(By みてみん)
孫乾そんけん
「はい、襄陽じょうよう伊籍いせき殿から連絡がありました。
曹操軍の侵攻や、兼ねてから頭を悩ませていた
後継者問題で心労が重なったようです。
持病もおありだったとか」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「そういえば長男と次男の取り巻きが激しく争ってたわよね。
殺しても死なないようなジジイだったけど、ああ見えて弱ってたのね」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「先日には重臣の黄祖こうそさんも
孫権に討ち取られちまったからな。悪いことが続いとるわ。
お見舞いに行きたいところじゃが、
曹さんの軍がすぐそこにいるから離れられんのう」


挿絵(By みてみん)
趙雲ちょううん
「いや、それ以前に見舞いに行ったら
蔡瑁に殺されると思うッスよ……」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「…………ども」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「うん? どうした単さん、青い顔しとるけど大丈夫か?」


挿絵(By みてみん)
単福ぜんふく
「お別れに来ました……」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「お別れ? 急になに言ってんのよアンタ。
なにこの手紙? 読めっての?
ふんふん。あちゃー……。こりゃお別れだわ……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「なんじゃなんじゃ。わしにも手紙を見せい。
ふんふん。曹さんが単さんの母ちゃんをもてなしとるのか。
良かったな単さん! 母ちゃんは単さんに
わざわざ手紙を送ってくるほど喜んどるじゃないか。
――で、これの何がお別れなんじゃ?」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「………………」


挿絵(By みてみん)
簡雍かんよう
「張飛は呆れて物が言えんようだな。
つまりな劉ちゃん、これは脅迫状だ。
単福の母上は預かっとるから、おとなしく寝返れってこった」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「あーあー、言われてみればそういう見方もあるのう」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「そういう見方しかないのよ!」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「……実は俺は脱獄者です。
単福というのも偽名で、本名は徐福と言います。
母には迷惑をかけてきました。
これ以上、苦労をかけたくありません……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「おうおう、母ちゃんは大事にせんといかんもんな。
すぐに会ってくるんじゃ」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「短い間でしたがお世話になりました……」


挿絵(By みてみん)
張飛ちょうひ
「こっちこそ。アンタがいなかったら、
今頃アタイたちは曹仁の捕虜になってたわ」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「……俺なりに軍を指揮するための兵法をまとめて来ました。
よかったら参考にしてください。
でも、なるべく早く代わりの軍師を探すことをおすすめします……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「じゃが単さんの、おっと徐さんの代わりになるほどの
軍師なんてそうは見つからんからな~」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「……俺くらいの才能なんて掃いて捨てるほどいますよ。
たとえば伏龍と呼ばれるあいつとか……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「なに!? いま伏龍と言ったか?
その名は水鏡先生からも聞いとるぞ。すげえヤツなんじゃろ?」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「……たしかにすごいヤツですが、別の意味でもすごいヤツです。
でもあいつが人に仕えるなんてことありえるのかな……」


挿絵(By みてみん)
劉備りゅうび
「よくわからんが、とにかく徐さんは
伏龍の居場所を知っとるのか? 教えとくれ!」


挿絵(By みてみん)
徐福じょふく
「……できれば俺から聞いたとは言わないでください。
あとでどんな仕返しをされることか……。
……あいつの名は諸葛亮しょかつりょうあざな孔明こうめい
もしあいつを軍師に迎えられれば、間違いなく天下が獲れますよ……」


~~~~~~~~~


かくして名無しの軍師は母のもとへ帰り、劉備はまたも軍師を失った。
はたして劉備は"伏龍"と呼ばれる男を迎えられるのか?
そして"伏龍"は窮地を脱する策を胸に秘めているのか?

次回 〇四四   三顧の礼
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