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アイコン三国志 作者:小金沢

第四章 官渡の戦い

39/125

〇三八   孫権の船出

~~~荊州けいしゅう~~~


挿絵(By みてみん)
劉表りゅうひょう
「はあ、孫権さんがお父上と兄上の仇だとして、
黄祖こうそさんの首を要求していると?」


挿絵(By みてみん)
蒯越かいえつ
「はい。断れば一戦交えることも辞さないと言っております」


挿絵(By みてみん)
劉表りゅうひょう
「兄上の孫策さんが亡くなったばかりだというのに、
喪にも服さずに合戦とは。
孫権さんという方はずいぶんと粗暴な性格のようですね」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「それにしても妙だな。
あの黄祖が孫堅、孫策を殺したとなぜばれたのだ。
あいつが尻尾をつかまれるとは考えられん」


挿絵(By みてみん)
劉表りゅうひょう
「黄祖さんも長年、裏の仕事をしてきてお疲れだったのでしょう。
黄祖さんはこのあたりで江夏こうかの太守に栄転させて、
骨休めしていただきましょう」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「劉表……まさか孫権に黄祖の犯行を教えたのはお前か?
しかも黄祖を前線の江夏に出して、孫権に首を取らせ、
事を穏便に済ませるつもりか」


挿絵(By みてみん)
劉表りゅうひょう
「はて、蔡瑁さんが何をおっしゃっているのか
私にはとんとわかりませんね」


挿絵(By みてみん)
蒯越かいえつ
「黄祖は知りすぎたのだ。
あとは言わぬが花というものだ、蔡瑁よ」


挿絵(By みてみん)
蔡瑁さいぼう
「劉表、恐ろしい男だよお前は……」


~~~~~~


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「兄君の喪にも服さず合戦とは……
まったく我が殿はなにを考えておいでなのでしょうかな!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「兄貴とオヤジの仇を取るのが、オレ流の服喪ってヤツだ。
部屋に閉じこもってウダウダしてるより、
兄貴らも喜んでくれるだろうよ」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「孫策殿も大概だったが、弟君はそれ以上じゃ!
第一、江夏を攻めている間に
曹操に背後を衝かれたらどうするのだ!」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「そのあたりは都に上がっている張紘ちょうこう殿や
華歆かきん殿がうまくやってくれるだろう」


挿絵(By みてみん)
呂範りょはん
「だが軍資金はどうするのだ?
大々的な遠征は久しぶりだから、多少の蓄えはあると思うが、
反乱の鎮圧でだいぶ出費がかさんでいるのだろう?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「フッ。それも心配ない。出資者がついてくれた」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「うちに二つある蔵の一つをあげるんでえ、それで十分っしょ。
ガチで」


挿絵(By みてみん)
呂範りょはん
「そ、そのチャラい若者は誰だ?」


挿絵(By みてみん)
周瑜しゅうゆ
「江東にその人ありと言われた魯粛だ。
このたび私の招きに応じて力を貸してくれることになった。
大富豪なだけではなく、頭も切れる男だ。頼りにしてくれていい」


挿絵(By みてみん)
魯粛ろしゅく
「よろしくウイッシュ」


挿絵(By みてみん)
朱治しゅち
「な、名前は聞いたことがあるが……」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
(また頭痛の種が増えそうじゃ……)


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「そんなことよりよォ、さっさと遠征軍の陣容を決めちまおうぜ。
早くしねェと程普ていふ韓当かんとうが抜け駆けしちまうぞ」


挿絵(By みてみん)
凌操りょうそう
「先鋒は俺に任せてくれ。
先代、先々代の仇討ちと聞いて黙ってられないのは俺も同じだ」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おめェはこの戦で引退するんだったな。
じゃあ最後の一仕事をお願いするぜ」


挿絵(By みてみん)
凌操りょうそう
「息子も立派に育ってくれたから、跡継ぎの心配もいらん。
無事に仇を討ったら、故郷でのんびり余生を送るつもりだ……」


~~~江夏こうか~~~


挿絵(By みてみん)
呂公りょこう
「うぎゃああああ!!」


挿絵(By みてみん)
黄蓋こうがい
「呂公は討ち取ったぞ!」


挿絵(By みてみん)
凌操りょうそう
「やるな黄蓋! 俺も負けてはいられん。
孫堅艦長の仇は出てこい!」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「仇じゃなくて悪いけどよ、ジジイはすっこんでな!」


挿絵(By みてみん)
凌操りょうそう
「ぐわああっ! ふ、不覚……」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「凌操!」


挿絵(By みてみん)
凌操りょうそう
「さ、最後の最後に役に立てずすまぬ……。
殿に預けた、妻の形見の首飾りを、どうか息子に……」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「バカ野郎が! 仇を増やしやがって……」


挿絵(By みてみん)
蒋欽しょうきん
「ここは危険でごわす。早く後方に下がるでごわす」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「ザコどもが泡喰って逃げてんぜ! 逃がすかよ!」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「待て、敵は大軍だ。深追いはするな。いったん陣に引き上げるぞ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「あぁん? 退却命令だと? クソが!」


~~~江夏 黄祖軍~~~


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「蘇飛サンさー、なんで引き上げるんデスカ?
勝つ気がないんデスカ?」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「そう怒るな。さっきも言ったが敵は大軍だ。
調子に乗って攻めかかっても逆襲されるのがオチだ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「だからってさー、叩ける時に叩かないってのは意味わかんなくね?
兵が少ないってグチってるくせに、
城にこもらずに外に出てるのもわけわかんねーし。
籠城して援軍待つのがフツーじゃね?」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「どうせこの戦は……。いや、なんでもない。
次の出陣に備えて休んでおけ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「え? なんか言いかけたんじゃね? チョー気になんですけど」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「どうせこの戦は負け戦だ」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「し、将軍」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「あ、大将チョリース。――で、負け戦ってなんなんすか?」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「我々は孫権に差し出された生贄だ。
援軍は来ない。死ぬのが我々の仕事だ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「へ? なんなんすかそれ」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「将軍、そんなことを言われては――」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「甘寧は今までよく働いてくれた。知る権利がある。
我々は暗殺部隊として、汚れ仕事をしてきた。
だから劉表の裏の顔を知りすぎてしまい、切り捨てられたのだ」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「…………」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「……だからといって孫権に降伏することもできない。
我々は父と兄の仇なのだからな。私や蘇飛の首を差し出せば済むが、
江夏の守りを命じられたからそうもいかぬ。
我々にできることは、せいぜい兵に被害を出さないようにして、
死ぬことだけだ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「……なんつーか、黄祖サンさー」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「なんだ。同情ならいらぬぞ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「いや、意外とおしゃべりだったんすね。オレ驚いたわ」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「フン」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「……甘寧、お前は逃げろ。
お前はまだ若い。俺たちに付き合うことはない」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「はあ?
逃げろったって、さっき孫権んとこのジジイを殺しちまったぜ。
逃げても孫権に追われちまうじゃねーの」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「それなら孫権に降れ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「それこそ無理じゃね?」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「……ちゅの県令にしてやるから赴任しろ。
県令が寝返るとなれば受け入れてくれるだろう」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「……カッコつけるわけじゃないけどさー。
アンタらを残してオレだけいい目を見るのは嫌だな」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「考えが甘いな。
仇のままで孫権に降伏したほうが、ここで死ぬよりよほど辛いぞ」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「処刑を待つだけだった江賊のお前を拾ってやった、
我々の言うことが聞けんのか」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「それ言われると返す言葉がねーな……。
でもなんつーかさ。顔に似合わずお人好しだよなアンタら」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「お前に言われたくはない」


挿絵(By みてみん)
黄祖こうそ
「フン……」


~~~江夏 数年後~~~


挿絵(By みてみん)
馮則ふうそく
「黄祖を討ち取ったぞ!」


挿絵(By みてみん)
董襲とうしゅう
「蘇飛も捕らえました!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「よし、ついにやったぜ!」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「やれやれ、ようやく江夏が落ちたか。
こう何年も掛かるのならばもっと強く反対していたものを……。
まったく、魯粛が提供してくれた軍資金が無ければ
どうなっていたことやら」


挿絵(By みてみん)
韓当かんとう
「さっそく蘇飛の首を孫堅艦長の墓の前で刎ねて、
黄祖の首と並べて供えてやるぞ!」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「こうなってはしかたない。さっさと殺せ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「どけどけどけどけ! 大将! 孫権の大将!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「おう、どうした甘寧」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「一生のお願いだ! 蘇飛を助けてくれ!
蘇飛はオレの恩人なんだ!」


挿絵(By みてみん)
虞翻ぐほん
「な、何を言うんでゲスか! 降将ふぜいがなんということを!」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「やめろ甘寧。
せっかく孫権に仕えるようになったお前の立場が悪くなるだけだ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「そうはいかねえし。
アンタ、死ぬより辛い目に遭えってオレに言ったし。
そう言う自分は楽な道を選ぼうなんてずりいし」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
「フン……しばらく会わないうちに口ばかり達者になったようだな」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「孫権の大将!
どうしても首が欲しいってんならさ、オレの首をやるから――」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「いらねェよ、んなモン。
オレは仇でもないヤツの首を集める趣味はねェぜ。
蘇飛はおめェに預けるから好きにしろ」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「あざーっす!」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「お……親の仇をそんなにあっさりと。
孫権殿! いいのですかそれで!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「いいっての。
甘寧が死んだり、逆ギレしてオレを殺そうとするよりマシだろ?」


挿絵(By みてみん)
甘寧かんねい
「…………いや、そんなことしねーし」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「こ、この男! その手があったかという顔をしましたぞ!」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「ははは。その前に蘇飛を釈放して助かったぜ。
んじゃあそろそろ帰るか」


挿絵(By みてみん)
朱治しゅち
「では殿、江夏は誰に守らせましょうか?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「へ? いや、守るも何も、別に江夏を占領する気はねェんだけど。
江夏を攻撃してたのは黄祖や蘇飛を殺すためだけだし」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「わ、我々はなんのために何年もかけて……ッ!?」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「だってまだオレたちにゃ、江夏まで領土を広げる余力はねェぜ?
まずは山越さんえつの連中とか、
揚州ようしゅうの賊どもをなんとかして、足場を固めるべきだろ。
おい、諸葛瑾」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「はいはい」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「劉表に江夏は返すからよォ、
停戦しようぜって交渉してきてくんな」


挿絵(By みてみん)
諸葛瑾しょかつきん
「はいはい。お任せください」


挿絵(By みてみん)
張昭ちょうしょう
「何年間も争っていた相手と、気軽に和睦を……。
こ、これだけ苦労して何も得られず、
せっかく捕らえた蘇飛も殺さず…………ッ!!
――うーん」


挿絵(By みてみん)
程普ていふ
「旦那様、張昭様が卒倒してしまいました」


挿絵(By みてみん)
孫権そんけん
「血管が切れてねェか医者に診せてやってくんな。
――オヤジや兄貴の仇をとらなきゃ、
前に進めねェってわけじゃねえけどよ。
まあ、これでオレなりのけじめは付いたぜ。
んじゃあ、別働隊の周瑜や呂範と合流して帰ろうぜ!」


挿絵(By みてみん)
蘇飛そひ
(これが孫権か……。
孫家は、孫策の頃よりもさらに繁栄するかもしれんな……)


~~~~~~~~~


かくして孫権は仇敵・黄祖の首をあげた。
時はさかのぼり、北方では袁紹が死の床についていた。
さらに失意の名族に追い討ちをかけるように、後継者争いがくり広げられようとしていた。

次回  〇三九   名族の落日
+注意+
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