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旅立ちの時なのです?

父様達が王都へ向かってから7日、なにやら王都での用事が思ったより長くなってしまったそうでようやく御帰宅されました・・・結婚許可証と出国許可証を片手に滂沱する父様をアラート先生とフェルスさんが引きずり、宥めながらの帰還だった模様です。

アラート先生はともかくフェルスさんには本当にご迷惑ばかりおかけしてますね・・・今度、何か滋養のつくものでも送りたいと思います。


父様は王都の魔術学院で暮らす兄様も領地に連れて帰る為に会いに行き私の結婚とユーテリアス国に嫁ぐ事を告げたそうです。

突然の事で兄様もビックリしていたそうですが学院の授業で重要な試験があるとの事で帰宅されませんでした。

娘の嫁入り前に家族で晩餐をしようという父様の目論見が脆くも崩れて余計に帰宅拒否が起こったようですね。


代わりに手紙を預かってきてくれました。

私が生まれた時にはすでに王都の学院に入学していたのであまり会う事がなかった兄様です。


夏と冬の長期休暇の時には私は高熱で自室のベットから出る事が出来ない状態が多く、兄様と顔を合わすのも数回程度という何とも寂しい兄妹関係だったような・・・


兄様からの手紙なんて初めてなものだからなんだかちょっと感動です。

どんな事を書いてくれたのだろうとワクワクしながら開いてみれば、上質な便せんに一言


“身体に気をつけて       シルグト”


と書いてあるだけでしたよ。


え?本当にコレだけ?

炙り出しとか透かし文字ですか?

どこかに暗号が紛れてるとかそんな事は無いのでしょうか?


他国へ嫁ぐ妹への手紙に8文字と名前だけって簡潔すぎませんか・・・兄様。

確かに生まれて5年、兄様と話す機会なんて本当に数えるほどでしたが・・・子供を溺愛する両親と違って一定の距離感で体調の良い日は本を読んでくれたりお菓子をくれたり、仲良しとは言い難かったですがそれなりに良い関係だったと思ってたのですが・・・この手紙は・・・


実は私かなり嫌われてたのでしょうか・・・

むうぅぅ・・・兄様はどちらかというと大人びた子供で明るく賑やかな両親と違って無口で静かな感じの人でした。

兄様がしっかりした性格だったおかげで私が年齢に合わない言動などがあっても『ああ、御兄妹ですねぇ』で、屋敷の人々には納得されていたのだと知ったのは最近の事なのです。


もしかすると病弱な妹に両親の関心が向かっていた事への嫉妬や諦めに似た感情が兄様にはあったのかもしれません。

大人びてたってまだ15歳の少年なんですよね、兄様は。

そんなことに思い至らなかった事に今更ながら反省です・・・

良好な関係だなんて思い上がってた過去の自分を叱ってやりたいですよ。


「ユリアナ?シルグトは何て書いてきたんだい?」


1枚の便せんを見つめ微動だにしない私が気になったのか父様が手紙の内容を聞いてきました。


「シルグトの奴。手紙を書くからと1日我々を待たせたんだ。きっと今後の生活の心配など事細かに書いてるんだろう」


無言で渡された便箋を受け取りながら父様はそんな事を言って笑ってますが・・・それ以前な様な・・・

ああ、父様の顔もびみょーなものに・・・


「これだけか?封筒に張り付いてるとか?」

「・・・無いです。炙り出しも透かしも暗号もなさそうです」

「・・・そうか」


・・・そうなですか。1日かけても書く事がなかったんですねぇ・・・

まあ、嫌われてしまっているのはもう仕方ないですよね・・・今後は今までの反省を踏まえて兄様に歩み寄るようにしましょう。

といっても、直接会う事は難しくなってしまうのでとりあえず手紙で兄妹関係を修復出来るように頑張りたいと思います。

まずは8文字以上の返事がもらえるように手紙をどんどん書いてみましょう。



*****



父様達が帰宅され、3日。旅の準備も終わりいよいよユーテリアス国への出発の日となりました。

たった3日なのか?!と父様は叫んでおられましたが・・・仕方ないですよね。

娘としてもう少し両親の元に居たいと思ってしまう・・・反面、早くこの地を立ち去らなければならないと強迫観念に駆られる。

もし、魔導師が現れたら・・・あの日の村のようにこの地が・・・人々が・・・どうなるか分からないのだから。

旅の人数も伯爵令嬢の輿入れとは思えない少人数。

伯爵家からの供はサイザンさんと侍女のカレンのみ。

本当はカレンだって連れて行く事に抵抗がある。道中だって何が起こるか分からないんだから、まだ若い彼女の身に何かあってからでは遅い・・・それでも「お供いたします」と真剣な顔で言われて甘えてしまったのも事実だ。


父様が用意してくれた少し大きめの馬車にサイザンさん達が必要な荷物を乗せている間に屋敷の人々や噂を聞き付け見送りに来てくれた領地の人々と別れのあいさつを交わしていきました。


その中には庭師のアンデリックさんの姿も・・・

・・・・・ああ、今日もアンデリックさんの周りにはハーレムが出来ております・・・

何故かって?・・・それはアンデリックさんが男前になったからであります。


いや、元々好青年のイケメンでしたよ!・・・帽子を被っていれば・・・それは絶対です!

ちょ~と頭が寂しいせいで年齢がかなり割り増しに見えただけで・・・うん、25歳にはみえなかった。

彼に会う時、どうしても目に入ってしまう金のウネウネ・・・・気になって仕方がなかったんですよ!

なので、本人に了承を得てからちょっと『癒し』を使ってみたら・・・あら、ビックリ!


年相応の顔に見えるどころかかなりのイケメンになってしまいました。

人って髪型一つで印象って変わるモノナノデスネ・・・


で、顔良し性格良しの好青年!植物の事しか頭にないのがたまにキズだが伯爵にも覚えめでたい専属庭師兼薬草園管理者。

こんな好物件を周りの女性がほっとかないって事で、今の状態になってしまったようです。


力は無闇に使うものではない・・・と、反省させられた一件でした。うん。


彼の将来も少し心配になってしまいましたが、こんなになる前からの幼馴染の彼女がいるようなのでまあ、きっと大丈夫だよね。

アンデリックさんの性格からいってこのハーレム状態もあまりいい気分ではないようだし、このまま幼馴染の彼女と一気に進展してもらいたいものです。


「お嬢、荷物もあらかた積み終わったから伯爵に最後の挨拶して出発するぞ」


サイザンさんの声で周りの人々への別れのあいさつを切り上げ、両親の元へ。


昨夜、屋敷の皆と内輪の晩餐会を行い、今まで良くしてくれた事へのお礼を言った。

使用人の皆は私の前世の事なんて何も知らないから幼くして他国へ嫁ぐ事に対し不安そうな顔や憤った様子で、とても心配してくれている事に申し訳なく思いつつも素直に嬉しかった。


就寝前、両親には改めてお礼と謝罪・・・・は受け入れられなかった。

母様は私が言葉にする前に抱きしめてくれた。

父様はいつでも帰ってくればいいと言ってくれた。


何処に居ても、私が何者であったとしても、『今』という時の『ユリアナ』は自分達の大切な娘なのだ---と。


今日改めて両親の前に立てば、再び抱きしめられ、祝福の言葉。

そして「いってらっしゃい」と微笑む両親に「いってきます」と告げる。


別れの挨拶ではなく旅立ちの挨拶。

いつでも戻れるように、きっと戻ってくると思いを込めて・・・





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