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その勇者、虚ろにつき 作者:パイルバンカー串山

第二話 三流記者と殺人鬼のワルツ

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家族の風景

「ほら、ソウジさん、だったかしら? こちらもいかが、私の故郷の郷土料理なのよ」

「あ、はい、頂きます」

 素焼きの平皿に、マッシュポテトと羊肉のパイが豪快に取り分けられる。焼きたてらしく断面からほっくりと湯気が立ち、羊肉のミートソースに使われた香草の香りが鼻孔をくすぐる。
 山盛りのマッシュポテトとミートソースが交互に重なり、上面のチーズの焼き色が食欲を刺激した。リムシー・ブーンは笑いながら、ソウジへ皿を手渡す。

「もっと食べる? たくさんつくったから遠慮しないでね。ほら良い男にはサービス!」

「いえ、これで十分です……」

 茶髪、三十代後半ほどの女性、家庭的な雰囲気。恐らくは若い頃はそれなりの美人だったろう、けれど今は母となった貫禄のほうが勝っている風貌。リムシーがソウジに手渡した取り皿はズシリと重量を訴えている。

「どうした新人、若いんだろ、遠慮せずにもっと食えよ?」

 テーブルの反対側ではロエルゴが笑っている。リムシー=妻の手料理を頬張りながら温いエールを飲み干した。

「そーよソウジ、断ったら失礼だからどんどん食べなさい」

 ソウジの真横でもそもそとスコッチエッグ――挽き肉にゆで卵を包んで揚げた料理――を頬張りながら、エクセルが呟く。

 時刻は夕方。ここは中央区、居住地の一角。ロエルゴ・ブーン一家の家。
 その客間。


 新聞社で待つエクセルにソウジが一報を入れたのは別れてから約二時間ほど後であった。
 たった二時間で随分とボロボロな服装になったソウジに目を丸くするエクセルを無視して、ソウジは戦果の説明を始める。
 取り出された一枚の紙片。恐らくは切り取ったノートの一ページ。

「――これが、死にかけてた刑事が持ってたもの?」

「ええ、そうですエクセルさん。正確にはもう死んでしまった人ですが」

 ソウジ曰わく、死にかけてた刑事を助けようとしたら偶然見つけたものらしい。

「死んでしまった上にあの追いかけてた女の人に見つかってしまいまして、慌てて逃げてきた次第です」

「慌ててって……また中央区でこんな騒ぎが起こるなんて、しかも刑事まで殺されるとか」

 中央区で起きた事件の仔細までは知らないが、かなりの大事件らしいことは聞いている。もっとも自分にはまだ取材させて貰えず、新聞社で待つしかできない。

「どういう経緯かはわかりませんが、恐らくは事件自体はその刑事さんを狙ったものなんでしょうね。騒ぎは刑事さんが死んでからすぐに収まりましたから――そして襲撃者の目的はその刑事さん、ゼントリー・ダナでしたっけ? の知っている情報を消したかったから、でしょうね」

 目的は達成された、故にもう続ける意味はない。
 あの戦闘の目的は、ソウジでもなく、女騎士でもなく、刑事だけを集中して狙っていた。ソウジに向かってきた敵はあくまで時間稼ぎなど副次的な目的だっただけに過ぎない。

――ウェイルーさんがあの中央区にいった理由……多分、偶然なんかじゃない。この殺された刑事さんとなんらかのやりとりをするためにあの場所に行ったんだ……

 今持っているこの紙片は、本来はウェイルーの元へ行くはずだった情報だ。それも中央区連続殺人事件の核心へ続く情報。ひょっとしたら国一つ消した化け物へさえ繋がるかもしれない。
 喉を鳴らし、唾を飲み込む。決意を込めた瞳でエクセルが紙片を開く。
 高鳴る鼓動で輝く瞳は、やがて徐々に収まり、やがて死んでいく。

「ソウジこれって……」

「ええ、エクセルさん。それ――人名は一切入ってないんです」

 メモの内容はこうだ。
 ・アシュリー市には現在、違法薬物が蔓延している。
 ・違法薬物には何らかの大規模な組織が関わっているとしか思えない種類と複数の売買ルートがあり、中央区警察との組織的な癒着と隠蔽工作行っている。
 ・監視されている自分では中枢王都への連絡も難しく、特別捜査官殿に告発を願いたい。
 ・証人として、違法薬物による被害を現在受けている人間を同行させる。社会的に信頼できる地位の人物であり、その人間からも話を聞いてもらいたい。
 ・現在中央区で起きている商人街連続殺人の犯人の被害者は、この違法薬物売買をしていた商人が多数確認されている。恐らくはなんらかの関連があり、商人街連続殺人には薬物売買組織の手が絡んでいる可能性がある。
 ・二年前の吊るし切りケリーストレンジ・フルーツの事件と商人街連続殺人には関連があると思われる。両件とも組織の関与が疑われる。

「ほとんどウチらの知ってる情報と被ってる……」

 それはさすがに仕方ないかもしれない。

「しかし、この証人という部分が気になりますねエクセルさん。あの場所にそんな人間がいたとは」

 首を傾げるソウジ。近くに襲撃者以外で倒れていた人間は刑事以外いなかった。あるいは証人が襲撃者の偽装だったのか?

「そんなにすごい証人なら、どっかに逃げたか、下手すりゃ捕まって殺されてるかもね……ていうかその証人が誰か名前ぐらい書いてよぉ!」

「最悪、証人とその紙だけ引き渡せば情報のやりとりが完了するようにしたかったのですかね。証人がその薬物被害を受けていると周りに知られるとマズい立場の人物とか……信用できる社会的地位といいますとね」

「だったらなおさら名前がわからなきゃ証人を探しようがないじゃない! 社会的地位がある人間なんてそれこそ探りいれにくいし、今回の大騒ぎで余計ガード堅くしてるに決まってるし、それに下手したら生きてるかどうか」

「いえ、それはどうでしょうか」

 ソウジの反論に、エクセルが言葉を止めた。

「社会的地位があるというとこは、それだけ不審な死に方をすると騒ぎが大きくなります。隠蔽を目的とするならそれは愚策です。監禁するのもあまり良くない。ならば証人は逃げて、表面的には何事もなかったように振る舞っているという可能性も十分にあります。そして社会的地位のある人間、それも今日アリバイが無い人間はとても限られているはず」

「――生きてる可能性が十分あるなら、探せるってこと?」

 エクセルの問いに、静かに勇者は頷いた。

「そ、そうはいっても一体誰から当たれば……」

 またもや八方塞がり。状況の悪さはまだ変わらない。とりあえず、まずは殺された刑事の身辺を洗うしかないか。

「おぉい、いたいた。お前ら、何やってんだ? デート?」

 陽気な中年の声。簡易な仕切りを押しのけ、長身がのそりと顔を出した。

「よお、お二人さん。どう? 良かったらタダメシ食ってかないか? 家の嫁さんが作ったやつだけど」

 エクセルの師匠。アシュリー市の有名新聞記者。そして一児の父親。
 ロエルゴ・ブーンは、豪快に声を上げた。





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