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その勇者、虚ろにつき 作者:パイルバンカー串山

第二話 三流記者と殺人鬼のワルツ

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傀儡(クグツ)

「あ、んー、あー思ったより――早いな」

 路地裏を疾走しながら、カゲイ・ソウジは首を傾げる。
 刺客の死体をつなぎ合わせ、建材や鋼線で補強して作成した傀儡は計八体。
 本来は有効距離の近い死骸操術、それに視認困難なほど髪の毛に迫る超極細の鋼線を接続。そこから魔力を供給することにより有線式とし有効距離を延長した術式――開発したソウジはとりあえず鋼線接続死骸操術グー・グー・ドールズと命名――を用いてこれらを囮とし別方向へ逃走を計画。
 傀儡にはリアルタイムで監視操作する機能をつけるのが面倒だったため、一定以上の速度で動く存在を自動で追跡・攻撃するよう神経回路にセッティングをかけ、なおかつ機能停止すると魔力による自爆する仕掛けを施した。
 魔力による爆発が起これば警報結界が発動する。ソウジから離れた地点で起こってくれれば警察の介入により敵も引くだろうと考えた。

 が、手から伸びるワイヤーからの感触は、放った傀儡八体がすべて機能停止していることを知らせている。遥か後方で連続した爆発音と警報結界の耳を突き刺す金切り声が聞こえる。

――十五分程度しか持たなかった……もしかしてあの女騎士さんが全部始末しちゃったかな?

 予測より早すぎる。というか、あの女の手際が無駄に良すぎる。

――とりあえず逃走距離は確保できたから……

 走り抜けた先、急に現れる人影。中年の男が二人、それぞれ突き出した左手より魔術の発光。即座、爆発音と共に魔力で生成される無数の金属片=百五十以上のモリブデン鋼の散弾が目前に殺到。
 魔術警報結界が発動した以上、すでに街中で魔術使用を止める理由はなくなった。
 ソウジはとっさに腕を組み散弾をガード、頭部を防御し体を敵の方向に対し斜めにして心臓を防御。
 超反射の体勢制御、破壊の嵐が到達したのはそれと同時だった。
 たたき込まれる散弾に、ソウジの両腕が赤く砕けていく。両腕の手首から先が消え、鋭利な骨がむき出しになっていた。
 もうもうと吹く硝煙の中、男達は無言で散弾魔術を速射。火花を上げながらソウジへと着弾するも、間の空間に光る銀線が走った刹那、次々と弾かれていく。

「――できた、と思ったんですけどね」

 光の盾の正体は、高密度に編まれた鋼線だ。初弾はガード出来なかったが、次弾の一斉射撃の防御には間に合った。
 散弾ではしとめきれないと刺客達がナイフを抜く。高周波振動の異音。
 鋼線の盾を切り裂き、距離を詰めソウジへ飛び込む一人。ソウジは即座に反応して砕けた左腕を刺させナイフを受け止め、もう手首から先がない右腕を顔面に叩き込む。
 顔面に深々と刺さる腕の骨、勇者の膂力により刺客の首が二百九十度回転、鈍い音を立てへし折れる。

「おっと」

 ソウジの背面にもう一人が回り込んでいる。ナイフを構え突進、しようとした姿勢のまま、その全身が突然沸騰した。

「――――ッッ!!?」

 煙を上げ全身を沸騰させ、男の肉眼が白く白濁、肌がじりじりと焦げていく。声もなく焼け崩れる。人間を灼く匂いが充満。

「これね、マイクロ波ってやつなんです。物体の中の水分を振動させて発熱させるんですね。ほら、人間ってほとんど水分ですから」

 背後を向いたまま喋るソウジ。そのロングコートが両腕ごとズレ落ちる。
 シャツ姿の勇者、その左手・・が後方の刺客へ向けられていた。

「――――!?」

 ソウジの両腕には傷一つない。先ほど散弾の盾にしたのは余った死体の腕を肩口にくっつけて死骸操術で操っていたものだ。

「ほら、資源は無駄にせず使わないといけませんから」

 止まぬマイクロ波の放射についに刺客の体が発火し、炎を上げる。勇者はそれを一瞥すらせず、コートを拾い上げまた走り出した。

――また時間が無駄になった、コートの袖もボロボロになったし……ん?

 角を曲がった瞬間、今度は四人の集団に出くわす。しかしソウジが気になったのはそこではない。
 前方の集団は、倒れた一人の男を取り囲んでいた。背広の中年が血だまりの中倒れている。

「あの、その人どうしたんですか?」

 声を掛けた直後、四人が一斉にソウジを見る。同時に、一人が魔術を撃とうと構えた。

――やはりこれも刺客……!

 走るスピードを上げる。相手が撃つより早く、ソウジの魔術が発動。前へ掲げた右手より魔術の光が走る。
 先ほどの男達の放ったものの数倍の密度と範囲を持つ散弾魔術、鋼弾散発射撃術式メタリカが吹き荒れる。瞬く間に二人の上半身が血霧となって分解した。
 他の二人はすでに左右へ逃れ直撃を避けている。壁を蹴って跳躍。ソウジへと飛び込む、が、次の瞬間、一人が空中でバラバラに分解していく。
 空中に血で濡れて光る鋼線、ソウジのトラップはすでに張られていた。
 動きが止まる残り一人、退く意志を見せようとした直後、眼前に迫るソウジの回し蹴りが胴体に炸裂。
 胴体から分割され、内蔵を撒き散らしながら絶命した。


「あの、意識あります? ……もうだめかな、これ」

 中年の男には、すでに意識がなかった。特徴は太い体系と蓄えたヒゲ。

 カゲイ・ソウジは、その男がゼントリー・ダナと呼ばれた刑事だったことをまだ知らない。


 
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