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その勇者、虚ろにつき 作者:パイルバンカー串山

第二話 三流記者と殺人鬼のワルツ

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混濁

「いい? 絶対にあの軍服の美人に尾行を悟られないで! 少しでも気づいてそうな素振りがあったら絶対逃げなさいね。どんな目に会うかわからないわよ!」

「はあ、尾行ですか」

 指を立てエクセルがソウジを指す。教え子に手伝いを命ずる教師のように助手に命令を下す。という風に本人はやっているつもりなのだろうか。

「昼食を取っていたから恐らくはもう少し後に出てく……あ、もう出てきた! 早っ! 食べるの早い!」

 慌てる新聞記者。喫茶店のドアが開き、白騎士が颯爽と街を歩き出す。スマートなシルエット。片手には婦人傘。優雅で、だが速い動作で人混みへ。

「ソウジ、早く! 早く行って!」

 潜んでいた建物の影からソウジを押し出す。細長い体が、よろめきながら雑踏へ。

「情報とってこなきゃ給料は無しだからね!」



 ▽ ▽ ▽

――と、言われましても。

 前方六十メートルまでの距離をキープ。白騎士の背後を歩きながら、ソウジは息を吐く。
 視点を周囲に分散し警戒、しかし一定の間隔でターゲットを追う。
 一応尾行はしているが、ターゲットは大通りを離れ路地側へ進路を取っている。徐々に人もまばらになってきた。

――あの人、どこかで見たような……?

 ソウジは兜により素顔を隠したウェイルーしか知らない。だが、背格好からあの白騎士とはどこかで面識があることに気づいていた。
 この人が居ない場所を歩いている状況。尾行に気づかれ、誘い込まれている可能性がある。

――とにかく。それなら、それでいいですね。

 ならば手っ取り早くこちらを抑えようとする所を確保して尋問しよう。情報さえ取れればそれでいい。
 白騎士が更に裏路地へ入る。街の更に最深部へ。

――これは気づいてますね

 美女の誘いに、殺人鬼が乗る。ソウジもまた後へ、行こうとした。

「なあ、兄ちゃん。新聞買わない? キャラメルとタバコも有るぜ!」

 小さな腕が袖を引っ張る。ソウジの足を止めた。
 視線を声の方へ落とす。十才ほどの少年が、快活な声で営業をかけてきた。
 カバンには新聞とタバコ、飴などの菓子が見える。

「新聞は最新だぜ! 朝の火事の記事だって乗ってるよ!」

「あぁ、あの、困りましたね……」

「キャラメルはウェデイ菓子店のさ! 混ぜ物なんかしてないぜ!」

 陽気な声を上げる少年。後ろを向いたまま、ゆっくりとソウジは左手を上げる。

「やめて下さい」

 斜めに振り下ろした裏拳。吸い込まれるように少年の顔面へ。

「っご!」

 鈍い声を上げ、少年の体が宙を回転。ビルの壁へぶつかる。路地へ散乱するキャラメル、タバコ。舞い散る新聞紙、砕けた歯の破片。
 そして、地面へ突き立つ細い形状のナイフ。急所刺しに特化した形態。

「っふ、!」

 血を振りまきながら、少年の体がバウンドした状態から更に壁を蹴る。空中へ飛翔。
 ソウジの頭上を取り、両袖内のナイフを取り出す。

「――ふぅぅぅおっっ!」

 煌めく刃。気合いと共に挑む。しかし、

「だから、――やめて下さいよ」

 正確な半円を描くソウジの右足。強化された脚力による真上への回し蹴りが、襲撃者の胴を緻密にかつ音速で捉える。
 鈍い破裂音が響く。はらわたと血をぶちまけ、両断された人体が舞う。地に落ちる。

「……キャアアアアアアッ!」

 何が起きたか理解が遅れ、一泊遅れた悲鳴が街を貫く。やや太めの婦人が子供――だった死体へ駆け寄る。
 ソウジの横を通り過ぎようとした刹那、女の丸い体が、倒れる。転がる体からは、頭部が消失。ワイン樽を割ったように血液が地面を奔流。

「――やめて下さいといったじゃないですか」

 ソウジの右手には婦人の首。左手には細身のナイフ。ただし柄ではなく刃の方を握っていた。
 変わらず無表情に、ソウジは自分を囲むギャラリーを睥睨する。
 しかし、群集にソウジへの怯えは無い。老人にも、青年にも、男にも、女にも、その目にはただ一つの意思しかない。殺すという、ただ一つの意思。

「まあ、止める気は無さそうですね」

 あきれ気味な勇者の言葉、同時に全ての老若男女が――隠し持った刃を抜いた。
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