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まさかまさかの3週連続更新

(;´д`)



ギリギリの均衡を保っていた一触即発の状況は既に過去のものとなり、殺し殺され命を奪い合う鉄火場へと変貌した監獄島の捕虜収用施設の運動場で双方の信仰心と矜持、そして命を賭けた戦いの火蓋が切って落とされた。


「行きなさい、ローウェン様の忠実なる僕達よ、清らかにして精強なる神兵達よ!!神の御名において愚かな男に誑かされ堕落した罪深き咎人達に神罰を与えるのです!!」


「「「「オオオオォォォォーーー!!」」」」


「……こうなれば致し方ない。色々と思うところはあるが、せめて我々の手でセリシアとアデルを討ち取るぞ!!皆、私に続け!!」


「「『了解!!』」」


「応!!」


「あいよ!!」


「わ、分かりましたっ!!」


大司教レベルクの号令で得物を構え気勢を上げて突っ込んで来る教会騎士団の騎士達と7聖女をセリシアは憤怒に燃える瞳で睨んでいた。


そう、心酔し神として崇拝しているカズヤを侮辱した憎むべき怨敵達を。


「殺しなさい」


セリシアの殺意の籠った小さな一言と同時に警備兵と看守達の一斉射撃が始まる。


「撃て撃て撃て!!撃ちまくれーー!!」


「奴等はそう簡単には死なん!!徹底的に殺れ!!」


初戦で敵の恐ろしさを身をもって体験した警備兵達の警告とも言える檄が飛び交う中、看守達は手に握る自動小銃の引き金を引き続ける。


彼らが持っているのはヘッケラー&コッホ社が開発しドイツ連邦軍等が採用したG36の改良型G36KA2である。


「弾を気にするな!!弾幕を張り続けろ!!1人でも多く削るんだ!!」


濃密な弾幕を維持するために兵士達は半透明式で残弾数が一目で分かるようになっているG36KA2の30発入り弾倉を使い果たすと、空になった弾倉の側面に連結された弾倉を新たに装填、射撃を継続し5.56x45mm NATO弾をバラまき続ける。


俗に『ジャングルスタイル』と呼ばれるソレを利用し湯水の如く弾薬を消費していく兵士達であるが彼らよりも盛大に銃弾――砲弾を放つ者がいた。


それは捕虜収用施設の屋上に幾つも設置されていて、本来であれば空の敵を殲滅する為の低空防空用牽引式対空機関砲であったが対地攻撃もこなせるため仰角を限界まで下げ、戦闘に参加していた。


その機関砲の名はZU-23-2。第二次世界大戦後にソビエト連邦が開発し現在までに世界各国で運用され、また世に蔓延るテロリスト達も軽車両で牽引したり、荷台に搭載しテクニカルとして積極的に運用しているマルチな名兵器である。


そのZU-23-2からは毎分400発の発射速度で23x152mmの砲弾――BZT曳光徹甲弾やOFZ曳光焼夷榴弾が次々と吐き出される。


その度に鼓膜を激しく打ち震わせる発砲音が唸り極大のマズルフラッシュが煌めき、ただひたすらに敵を撃ち据えていた。


「やはり……ダメですか」


目を細め激しい銃撃が加えられている先を見てセリシアが小さく呟いた。


「あぁ、俺達でやるしか無いようだ」


「では7聖女の相手は私がします。アデルは皆の援護と騎士団の相手を頼みます」


「……7対1だぞ?1人で大丈夫なのか、セリシア?」


「えぇ、多少は苦戦を強いられるでしょうが問題はありません。えぇ、そうですとも。カズヤ様を愚弄したあの者達に負けてなるものですか!!――……それに何だか、今の私ならあの者達を圧倒出来るような気がするのです」


「そ、そうか……それは頼もしいな。だが、くれぐれも気をつけてくれよ?俺もなるべく早く騎士達を片付けてセリシアの援護に向かうようにするから」


「フフッ、頼りにしてますよ。アデル」


黒い笑みを浮かべ紅蓮の闘志をメラメラと燃やすセリシアに若干怯えるアデル。


そんな2人の会話をよそに、止めとばかりに撃ち込まれたカールグスタフ(無反動砲)の84mm多目的榴弾やAG36擲弾発射器の40x46mm擲弾が炸裂、爆音が辺りを満たし爆風が吹き荒れる。


それを最後に2〜3分程続いた銃声の協奏曲がピタリと止む。


「ど、どうだ?」


「あれだけ浴びせたんだ、多少は……」


武器を構えたまま兵士達はモウモウと舞い上がった土埃が晴れるのを緊張した面持ちで待っていた。


「先に私が仕掛けます」


「了解した」


しかし、元同僚達の力量を十二分に知っているセリシアや共に戦場を駆けた経験のあるアデルは土埃が晴れる前からその結果を知っていたため、次の行動の準備を進めていた。


「……化物か、奴等は」


「あの弾幕を凌いだだと!?」


『――ガーディアンバックラーはありとあらゆる攻撃を防ぐ聖具。この程度の攻撃は効かない』


驚く看守達の視線の先。


土埃が晴れ姿を現したのは聖具ガーディアンバックラーから障壁を展開し、仲間を弾幕から守った序列第4位のゼノヴィアであった。


『上からの弾は私が防ぐ。皆は突撃を続行!!』


「よし、ゼノヴィアの献身を無駄にするな!!皆、斬り込むぞ!!」


「「「「オ、オオオオォォォォーーー!!」」」」


雨あられと降り注いだ銃弾に足止めされていた騎士達がゼノヴィアの言葉に背中を押され再び歩を進める。


そして、集団の先頭に立ち宝剣バスターブレードを掲げたアレクシアに導かれ騎士や7聖女達が“何故か撃ってこない”敵の隙を突くべく再び駆け出した時だった。


「――死ね」


アレクシアの背筋をゾッとさせる声と共に、いつの間にか忍び寄っていたセリシアが聖具ウィッパーワンドを振りかぶりアレクシアに殴り込みをかける。


「グッ!?セ、セリシアだとっ!?」


なんなんだ!!セリシアのこの力はっ!!


咄嗟にバスターブレードで殴撃を防いだアレクシアだったが、奇襲攻撃よりも後衛タイプのセリシアが前衛タイプの自分に近接戦闘を挑んで来たことに一番驚き、また腕が一時的にとはいえ痺れてしまう程の威力が込められていた殴撃に肝を冷やす。


「ッ!?セイッ!!」


「このっ!!」


奇襲を受けたアレクシアを助けるべくゾーラがペネトレイトスピアーの鋭い一撃を放ち、ジルがミーティアボウで追い討ちをかけるが、セリシアは両方の攻撃を蝶が舞うようにヒラリと容易く避け、後方に引く。


「チッ、奇襲は失敗ですか……まぁいいです。さて、カズヤ様を侮辱した唾棄すべきゴミクズ達よ。貴女達には特別にカズヤ様が私に与えて下さった力の一端を見せて差し上げましょう。魔法を取り込んだ科学という恐るべき力を!!」


……先ずは足止めも兼ねてポーンクラス位でいいでしょう。


奇襲が失敗するや否や反撃と追撃をかわし後退したセリシアはそう宣言したのち、ブツブツと呪文を唱えつつウィッパーワンドを地面にポンとつき魔方陣を展開。


「――マウセ、キル、デルス!!さぁ、我が呼び掛けに応じ、その姿を現せ!!血と肉に飢えた雑兵達よ!!」


百単位の規模で召喚した“それら”の後ろでセリシアはニヤニヤと狂気的な笑みを浮かべていた。


「一切合切悉く――敵を殺せッ!!」


開戦の時よりも、更に禍々しい殺意の込められた命令が発せられたものの、その命令が下された相手は看守達では無い。


命令が下された相手。それはセリシアが召喚した魔物――ゴブリン。


それも、ただのゴブリンではないドラムマガジンを装備したMPS AA-12を2丁構えたゴブリン達である。


「「「「「ギィー!!」」」」」


現代兵器で武装し隙間のない戦列を組んだゴブリン達が耳障りな雄叫びと共に、片手でも射撃が可能な程の低反動を実現し、更にフルオート射撃が可能な散弾銃――AA-12の引き金を太く短い指で引く。


『無駄!!』


そして、まさに弾“幕”というべき苛烈で濃密な攻撃が始まる。


「「「「「ギッ、ギッ、ギッギー!!」」」」」


歌うように声を上げるゴブリン達の手にあるAA-12から吐き出される弾は12ゲージのスタンダードなバックショット弾を主としスラッグ弾や新開発された特殊弾薬FRAG-12――通常のショットシェルの中に榴弾(HE)や徹甲弾(HEAP)といった安定翼付の18.5mm弾頭が収められているものに加え破片弾頭(HEAB)、更には魔法の術式を組み込み特殊な加工が施された特別製も混じっていた。


「「「「「ギッ?ギー……ギッギッギー!!」」」」」


そして弾を撃ち尽くしたゴブリン達がAA-12を捨て、闘争本能に導かれるまま敵へと襲い掛かる。


「っつ、助かったゼノヴィア。魔物が来るから下がっていてくれ」


『そう……させてもらう……カハッ!!』


ゴブリン達の攻撃が始まる直前、仲間を守るために再び前に出て壁の役目を果たしていたゼノヴィアがアレクシアに声を掛けられた直後、突然血を吐き地面に倒れてしまう。


「ゼノヴィア!?」


倒れたゼノヴィアを慌てて抱き上げたアレクシアはゼノヴィアの纏うフルプレートアーマーに穿たれた幾つもの穴とそこから流れ出す赤い血、そして穴だらけになって地面に転がっている聖具ガーディアンバックラーを目の当たりにして息を飲んだ。


「あぁ、うっかり言い忘れていましたが先程の攻撃で使用した弾の中には、僅かですが特別製が混じっていたんです。それで、その特別製なら聖具程度の破壊は可能なんですよ。フフフッ」


「な、何だと!?そんなことが!?」


『ゲハッ!!…クッ…クソォ……』


「いや、そんな事よりも!!イルミナ!!ゼノヴィアに早く治癒魔法を!!」


「あっ、は、はい!!」


名を呼ばれたイルミナが駆け寄り負傷したゼノヴィアを救うべくリカバリースタッフで治癒魔法をかけているのを横目にアレクシアはスッと立ち上がり、ゼノヴィアの血で濡れた両手でバスターブレードの柄をギュッと握り締め、怒りに燃えた瞳でセリシアを睨み付ける。


「セリシア……この先、もはや情けはかけないぞ」


「それはこっちのセリフです」


「ならばよし。皆、やるぞッ!!」


「「応!!」」


「分かったわ!!」


「承知した」


AA-12の一斉射が終わった直後からアデルを筆頭にした長門教の信徒達と看守、そしてゴブリンが入り交じった一団と教会騎士団の騎士達が激しい乱戦を繰り広げ剣戟の旋律を奏でている中、その中心で元聖女と現聖女の激しい戦いが、今始まろうとしていた。




負傷したゼノヴィアと、その回復に努めるイルミナが戦えなくなり早々に戦線を離脱。


結果、5人となってしまった7聖女ではあるが『シールダー』と『メディック』が抜けただけで、『パラディン』『ランサー』『アーチャー』『アサシン』『ファイター』という戦闘に適した者達が健在な現状では、実質的な戦闘力の低下にはあまり繋がっていなかった。


しかし、本気のこの女達はちょっと厄介というか……かなりの厄介ですね。


気を引き締めないと。


その事実を正しく認識しているセリシアは表面的には余裕の態度を取り繕っていたものの、本当は余裕などこれっぽっちも無かった


……ですが、この状況はまたとないチャンスでもあります。


しかし、セリシアは7聖女に負ける事など端から考えてはおらず。


それどころか、敵を前にして勝った後の事ばかりを考えていた。


ここで7聖女を生け捕りにして私の手駒に加えることが出来ればカズヤ様を独占しているあの女(千歳)に対抗出来る戦力が揃う。


「一斉に仕掛けるぞ!!」


「「了解!!」」


「一斉に?フン、魔物を召喚するしか能がないセリシア程度に何を怯えているのですか……。キセル!!私が仕留めますから陽動と援護を!!」


「あいよ!!ティルダ!!」


「ま、待て!!2人とも!!勝手に突っ込むんじゃない!!今のセリシアの力は――」


セリシアの一撃を防いだ際、セリシアに秘められた力を何となく感じ取っていたアレクシアは念には念を入れ一斉攻撃を仕掛けようとしたのだが、その思いに反しティルダとキセルの2人が命令を無視して勝手に突っ込んでしまう。


そうしてアレクシアの制止を振り切ったティルダとキセルが迫って来てもセリシアは未だに思考の海に溺れていた。


既に対抗するための組織(長門教の教団)はありますが、有力な戦力となる駒が無く苦慮していた状況ですから時期的にはちょうど良かったかもしれないですね。


それに……いかにゴミクズと言えど彼女達にも1度は救われる機会を与えてやらねばなりませんし、と言うよりカズヤ様の救済を“受けさせてあげないと”いけませんから。


真の神を知らぬ哀れな者達――紛い物の神を信じる道しかなかった憐れな者達には……ね。


後はまぁ。容姿だけは整っている彼女達ですからね。カズヤ様に献上し“召し上がって”頂きましょう……トイレ程度の利用価値はあるでしょうし。


「敵を目の前にして考え事とは!!」


「気を抜き過ぎだよ!!セリシアァァ!!」


「……っ、あ!?」


かなりゲスい考えを巡らせていたセリシアが肉薄していた2人の存在に気が付き、我に返った時には既に遅かった。


空高く跳び上がって拳を振りかざし攻撃モーションに入っていたキセルが、オクトナックルガードに魔力を流し具現化した6つの籠手と共に攻撃を敢行。


空中浮遊を可能としキセルの意思に応じて自由に動き回る事の出来る籠手達が、キセルに先んじてセリシアの退路を塞ぐように着弾、激しい土埃を巻き上げセリシアの視界を奪う。


そして止めとばかりにキセルの渾身の一撃を秘めた拳がセリシアに迫るが、セリシアは後ろに飛び下がりながら身を捻りギリギリこれを回避。


「クッ!?」


「チィ!!外したっ!!」


キセルの一撃は土が剥き出しになっている運動場の地面を陥没させクレーターを生成していた。


態勢を立て直さないとっ!!


先に地面を穿った籠手達や目標を捉え損なったキセルの拳が盛大に巻き上げた土埃を煙幕代わりに利用し、セリシアは口元を小さく歪めながら態勢を立て直すべく土埃の中へと逃げ込む。


そして、とある仕掛けを設置しつつ見事に土埃の中へと紛れ込み姿を隠したセリシアだったが、それこそがティルダとキセルが仕掛けた罠であった。


「――呆気ないけど、これでお仕舞い」


土埃の中に潜みながら油断なく全方位を警戒していたにも関わらず突如、背後から聞こえた声に目を剥いたセリシアが振り返り見たモノは、自身の喉を掻き切らんと迫る二振りの短刀。


更に言えば、光学迷彩のように姿を透明化し気配すら感知不能に出来るインビジブルコートをその身に纏った序列第5位のティルダの姿であった。


「し、しまっ――」


セリシアは驚きを露にし、どうにか逃げようとするが時既に遅し。


「さようなら」


インビジブルコートの効力により透明化しているティルダの手に握られ、唯一姿形があり鈍い光を放つ二振りの短刀が別れの言葉と同時にセリシアの首に食い込み血を吹き出――さなかった。


「なっ!?」


短刀は目標の首を切り裂く事無くすり抜け、セリシアの姿を“一瞬歪めた”だけだった。


「クッ!!」


予想外の出来事に慌てたティルダだったがすぐに我に返り、返す刃でセリシアの首を切り裂こうと再度短刀を振るう。


だが、その攻撃も手応えが無く先程と同じようにセリシアの姿を一瞬歪めることしか出来ない。


「ッ、なら――これでどうです!!」


2度の失敗に若干狼狽えつつもティルダは諦めずにセリシアに対し連撃を放つ。


しかし、その烈風のような連撃をもってしてもセリシアを傷付けることは出来ない。


何なんですか!?これは!!魔法が使われている様子が無いのに攻撃が当たらないッ!!


姿も気配もあるのにッ!!何故、何故実体が無いんですか!!


……クッ、一度引くべきですね、これは。


姿は確かにそこにあるのに攻撃が当たらないという異常事態に動揺していたティルダがようやく冷静な判断力を取り戻し、闇雲な攻撃を中止して味方の元へ後退しようとする。


が、それはティルダの無意味な斬撃をつまらなそうな顔で、なすがままに受けていたセリシアが許さない。


「――た。なんて言うとでも思いましたか?フフッ、私を罠に嵌めたつもりなんでしょうが実際の所、罠に嵌まったのは貴女なんですよティルダ」


「?――ギャッ!?」


不意にニヤリと不敵に笑ったセリシアの口から飛び出した不吉な言葉を聞いた直後、逃げようとしていたティルダがかろうじて認識出来たのは自身の四肢を一瞬で砕かれインビジブルコートを剥ぎ取られたという事だけだった。


「グッ!!ゥウッ!!」


透明化していた私にどうやって攻撃を当てた!?


手足を砕かれ地面に仰向けに倒れたティルダが激痛に呻きながら、幾つもの疑問を考え土埃に閉ざされた空を見上げていると先程まで攻撃を仕掛けていたセリシアの背後、何もない空間からもう一人の“セリシア”が姿を現した。


「ッ!?グフッ、あ、貴女は一体!?」


「随分とみすぼらしくなりましたね、ティルダ」


「私に何をしたっ!!ッ、答えなさい!!」


「……全く、手足を砕かれているというのに元気ですね貴女は。ま、いいでしょう。貴女の疑問に答えてあげますよ」


両手両足の複雑骨折という重傷を負い絶体絶命にも関わらず強気な口調で問い質してくるティルダに苦笑しつつセリシアは答えを口にする。


「貴女が先程まで攻撃を仕掛けていたのは立体映像を映す3D映写機が投影していた私の姿。つまりは偽物です。ほら、よく見て見なさい偽物の下に小さな箱が置いてあるでしょう」


「偽……物?グッ、そんなバカな。実体は無かったが貴女の気配は確かにそこにあったはず」


「えぇ、それはそうでしょう。だって投影されていた偽物の後ろに私が居たのですから、こうして……ね」


そう言ってセリシアがマントを取り出し頭から被るとセリシアの姿が消えた。


「……ま、さか……そんな……バカな……あり得ない……」


そう、まるでティルダが所有していた聖具インビジブルコートのように。


「予想していた通りの顔をしてくれますね、貴女は」


目を見開き体を小刻みに震わせるティルダの反応を見てセリシアはクスクスと小さく笑った後、話を続ける。


「これは『量子ステルス光学迷彩』と言ってカズヤ様が私に与えて下さったアイテムの1つです。それはそうと……ねぇ、ティルダ。今どんな気持ちですか?ねぇ、貴女の専売特許だったはずの透明化で敗れた気持ちは?神より与えられし聖具と同様――いえ、聖具をも超越した力を与えられた私に敗北した気持ちは?ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ!!」


「だっ、黙れッ!!」


量子ステルス光学迷彩のマントを脱ぎ愉しそうに敗者をいたぶる言葉を投下するセリシアをティルダは視線に憎しみを込めて睨む。


「まぁ怖い。……そうそう、オマケにもう1つ教えて差し上げましょう。透明化していた貴女の四肢を正確に砕いた理由を」


ティルダの自信と矜持、そして信仰心を粉砕するべくセリシアは止めを刺しにいく。


「理由はこれです。AN/PSQ-20。これは本来夜間に使用する暗視装置なのですが便利な機能がついているんです。それはサーマルイメージャ。物体から放射される熱を感知出来る機能です。この機能のお陰で貴女が何処にいるのか、何をしようとしているのかは丸わかりでしたよ。あ、それと貴女が信じる神が与えたインビジブルコートは熱感知に引っ掛かりますが、カズヤ様が私に下さったこの量子ステルス光学迷彩は熱感知にも引っ掛かりません。つまり、何が言いたいかというと――貴女の信じる神はやはりカズヤ様に劣るのですよ」


「ッ!?ぁ、あ、うっ、あ、そ、そんなはずはない!!……ローウェン様はこの世で一番の……他の……そんな……」


生まれた時からこの世で一番だと教え込まれてきた神より与えられた聖なる道具が敵の道具より劣っているという事実に混乱するティルダ。


「――ツェルベ、ナウ、クレミ、ファグ、セイラ。――続きは夢の中で致しましょう」


「うぁ……ぁ……あぁ……………………………………………………ち…違う……ローウェン教は……違う…信じていれば……救いの……主が……7聖女は……」


そしてその混乱の隙に乗じてティルダに魔法をかけ眠らせると、夢の中で執拗な精神攻撃を仕掛けティルダの信仰心を破壊していくセリシア。


現実では10秒も経過していないが、夢の中では永遠と精神攻撃を受け続けたティルダは最終的に信仰心を完膚なきまでに破壊しつくされてしまう。


「なんて脆い信仰心なのでしょう。少しつついただけでこうもあっさりと砕けるなんて……さて、あまり心を壊し過ぎて使い物にならなくなっても困りますからね。暫くこの中で大人しくしていて下さい」


自身を支える最大の柱である信仰心を夢の中で否定され破壊されたせいで、夢から覚めても自失呆然でボーッとしているティルダを冷たい眼差しで見つめながら、セリシアは新たに召喚した魔物――カズヤから譲ってもらった食虫植物のウツボカズラとこの世界にいる食人植物を掛け合わせ誕生させた新種の魔物ヒトクイウツボカズラに命じティルダの体を蔦の触手で抱き上げさせると特徴的な捕人器の中へと放り込んだ。


「え……ブハッ!?な、なんですか!!こ……れは……ッ!!お、溺れッ!!ッ!?……えへっ、えへへ、あ……温かい……気持ち……いい」


捕人器の中に放り込まれたティルダは中に満ちていたピンク色の特別な溶液に沈んだ衝撃で一瞬正気を取り戻すも、溶液を飲み込んだ途端に恍惚とした表情を浮かべて大人しくなり、ズブズブと溶液の中に沈んでいった。


「まず、1人。フフッ」


こうして7聖女の内の1人、序列第5位のティルダ・ハギリがセリシアの手に落ちた。

長くなって分割したためセリシア無双が本格的に始まるのは次回ということで……。



以下、雑なおまけ。

(私が最近、夢で見た内容です)



別れと新たな旅立ちを控えた季節。


とある高校の校舎の一室では女子生徒達が会話に花を咲かせていた。


「あーもう卒業式かぁ……なんだか3年間早かったなぁ」


「そうだねぇー」


「ねぇねぇ、話は変わるけどさ。カズヤ先生って生徒にモテてるよね」


「うん、すごく」


「ってことはさ、今まで生徒に告白とかされたことあるのかな?」


「う〜ん。どうだろう……本人に聞いて見れば?」


「そうだね。じゃあ、そこで聞いてないフリしてるカズヤ先生、そこんとこどうなんですか?


――ギクリ。


スーツに身を包んだ男性教諭は女子生徒の問いに肩を跳ね上げる。


「な、なんの話かな〜?」


「露骨に狼狽えているってことはあるんだね」


「だね。じゃあ、カズヤ先生!!返事はどうしたんですか?」


いつの間にかクラス中の生徒の視線が集中していることに気が付いたカズヤは観念し頭をポリポリと掻きつつ口を開く。


「お前の気持ちは嬉しいが、その気持ちには答えられない。だけどもし成人してからも気持ちが変わらなかったら、その時は……って答えたよ」


「「「つ〜ま〜ら〜な〜い〜!!」」」


「お前らは何を期待しているんだ!!話は終わり!!さっさと体育館に移動するぞ!!」


「「「はぁ〜い」」」


照れ隠しに生徒達を体育館に急がせたカズヤは、そこでようやく一息ついた。


――ゾクッ。


「誰っだ……ってイリスとカレンか」


絡み付くようなへばり付くような得体のしれない視線を浴びせられたカズヤがバッと振り返るとそこには以前からとてもなついていた2人の女子生徒がいた。


「……精々、あとのことを楽しみにしておきなさい」


「3年待ったのに……また2年……」


2人はそうボソリと呟くとカズヤの側を通って体育館に向かった。


一体なんなんだ?


いつもとは態度が違う2人に首を捻りながらカズヤも教室をあとにした。



こういうことか……。


教師や生徒、父兄達の視線が突き刺さる中、カズヤは窮地に立たされていた。


「カズヤ、愛しているわ。私と付き合いなさい」


「カズヤ先生、大好きです。付き合って下さい!!」


卒業式が終わるなり、カレンとイリスに捕まり愛の告白を受けるカズヤ。


どうやって場を収めようかとカズヤが悩んでいた時だった。


一陣の風が吹く。


そしてカズヤ達の周りを取り囲んでいた野次馬の壁が割れる。


……そう言えば……もう成人だったね。


野次馬の壁を引き裂き現れた人物にカズヤは頬をひきつらせた。


「カズヤ先生、いえ、ご主人様。お約束通りお迎えに参りました」


別れた時よりも数段美しくなったカズヤの元教え子、片山千歳がそこにいた。



……こんな夢まで見るなんて、もう作者は末期ですね(笑)

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