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サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦『サン・アントニオ』の艦内では第75レンジャー連隊、第1大隊所属の兵士達が豪華な朝食を楽しんでいた。


「よいしょっと……なぁ、おいフルス。あの話聞いたか?」


仕切りがあるだけの飾り気のないプレートに肉や野菜を山盛りに盛り付けた兵士が席に着き、隣にいた仲間に声を掛けた。


「うん?何の話だ?」


「ヴィットマン大尉の話だよ」


「ヴィットマン大尉……あぁ、あれだろ?バカみたいにデカイ魔導兵器の攻撃を食らって大破したM1A2エイブラムスの車内で瀕死の重症を負いながら漏れ出たオイルと戦死した部下の血にまみれて救出されるまでの間――28時間ずっと死の淵をさ迷っていたって話と、ようやく復帰したって話だろ?」


「あぁ、今回の作戦にそのヴィットマン大尉が参加しているから教えてやろうと思ったんだが……なんだ、お前知ってたのか」


「それぐらい知ってるよ……確か部下の仇を取ろうと復讐の鬼になってるとか聞いたが」


「それは本当らしいぞ。何でも閣下に直訴してまで今回の作戦に無理矢理参加したとか」


「そうなのか……まるで死に急いでいるみたいだな」


「……おい、あんまり他人の事情にズケズケと顔を突っ込むなよ?」


「「ッ、申し訳ありません。軍曹殿!!」」


ジーク・ブレッド軍曹は端正な顔立ちを少し歪め、睨みを効かせながらそう言って部下達の不躾な会話を遮った。


出撃前ぐらい大人しく飯を食えよ。


「まったく……」


「おいジーク、そうピリピリするなよ。喋るぐらいいいじゃないか」


「あぁ、分かってるよ。ただ喋るのは構わんが内容が不躾だと言っているんだ」


「……まぁ、確かにな」


同期のルーフェ・ワックス軍曹に宥められたジークがルーフェ軍曹に反論していると第1大隊長が険しい顔で食堂に入り、続いて大隊長に付き添い入ってきた副官が大声を出す。


「……」


「総員、気を付け!!」


その声で食堂で食事を取っていた全ての兵士が慌てて立ち上がる。


「大隊長に敬礼!!」


そして副官の号令で兵士達が一斉に大隊長へ敬礼を送った。


「休め」


大隊長の言葉で皆が手を下ろし、休めの体勢を取り大隊長を見つめながら次の言葉を静かに待つ。


「さて諸君、いいニュースと悪いニュースの2つがあるが、まずは悪いニュースからだ。――我々は15分以内に装備を纏め出撃する事になった。各部隊長はこのあと直ぐにブリーフィングルームに集合するように」


「「「「ハァー……」」」」


「おいおい、マジかよ……」


「最悪だ」


大隊長の残酷な知らせにザワザワと喧騒が広がり、兵士達からは勘弁してくれというような重苦しいため息と悪態が漏れる。


「次にいいニュースだが……我々がグローリア上陸の一番乗りだ。以上解散!!」


あまり嬉しくないニュースに兵士達は肩を落としたまま出撃の準備を整えるべく、食べ掛けの食事をその場に残し食堂から飛び出して行った。



『サン・アントニオ』の車両格納庫の片隅には昼に予定されていた上陸作戦に備えて既に武器、弾薬、装備品が山のように積まれていた。


そんな事前準備が功を奏し食堂から飛び出し車両格納庫にやって来た兵士達は自分に必要な装備品を手に取り、身に付けるとテキパキと手早く戦闘準備を整えていく。


「しっかし……突然、作戦予定を繰り上げるのは勘弁して欲しいな」


マルチカム迷彩が施されたIOTV――OTVの後継となるボディアーマーを身に付け、マガジンポーチに予備マガジンをいくつも差し込みながらルーフェ軍曹がぼやく。


「仕方ないだろ……最重要目標である渡り人をグローリアの城に潜入中の工作員が確保したんだから。それにお前も聞いたろ?渡り人がうちに亡命したいって言ってることや今現在、工作員と渡り人がグローリアの城の一室で身を潜めて敵の目を掻い潜っている危険な状態だってことも」


「そりゃ聞いたけどよ。作戦の頭から予定が崩れたんだぞ?……こういうときは絶対何か起きる。嫌な予感がするんだ」


「確かに不吉な前兆かも知れないな。……おい、アパム。弾取ってくれ」


「っ!?あーもう、軍曹までェ……。勘弁して下さいよ俺の名前は“アカム”です。もう名前ネタで遊ぶのは止めてください!!」


「ハハハッ、悪いな。つい」


「まったくもう……」


ルーフェ軍曹と話をしている最中、側を通りかかった部下――アカム・クロイズ一等兵をからかったジークは悪びれた様子もなく笑いながら謝った。


「あのすいません、ジーク軍曹。俺達が上陸してからすぐあとに本隊の海兵隊が上陸するって話ですから、余分な装備品――水とか携帯食料、暗視ゴーグルとかは置いていってもいいですかね?」


「あぁ、そうだ――……いや、念のため装備一式は持て完全装備で行くんだ。それと……弾はいつもより余分に持て」


部下からの問い掛けに一瞬悩んだジークだったが、万が一の事態に備えて完全装備での出撃を命じる。


「ハッ、了解です」


「えっと……じゃあ軍曹、このクソ重いアーマープレートはどうします?」


ジークに装備についての質問をしに来た兵士とは別の兵士が恐る恐るといった感じでジークに問い掛ける。


「絶対に入れとけ、このバァカ!!」


「っ!!す、すいません……」


命を守るアーマープレートを抜いてもいいかという愚問をジークに投げ掛けた兵士にジークの雷が落ち、一喝された兵士はすごすごと引き下がっていった。


「ったく……バカな質問をするな」


「ハハッ、相変わらずお前さんは部下想いだねぇ」


「うるさい、そんなんじゃねぇよ」


ジークはルーフェ軍曹のからかうような言葉に真っ赤になった顔を背け、側に置いておいた相棒に手を伸ばした。


ジークの相棒は5.56x45mm NATO弾や7.62x51mm NATO弾、6.8×43mm SPC弾等を使用する様々なモデルがあるSCAR。


SCARは各モデルの相違点を少なくし共通性を持たせる事で維持コストを下げ、新しい口径の弾丸が開発されたとしても最小限の改良で対応できるようになっており、またストックによっては狙撃からCQBにも対応できる柔軟性を持つ。


ちなみにジークを含めた大多数の第75レンジャー連隊の兵士が持つSCAR-H、通称MK17は本来であれば7.62x51mm NATO弾仕様であるが、本作戦においてはモジュールが交換されているため全て6.8×43mm SPC弾を使用する仕様となっている。


「さて、そろそろ行く……か?」


戦闘準備を整えたジークが車両格納庫を後にしようとした時、とある部下の様子がおかしい事に気が付いた。


「おい、パーク。にやけた顔してどうした?」


「えっ?いや……何でも無いですよ軍曹。エヘヘヘ」


そう言いながらもジークに声を掛けられたパーク・ジャクソン一等兵は戦闘前だというのに緊張感の欠片もなく、紅潮した頬は吊り上がり反対に眉はだらしなく垂れ下がりニコニコと何が嬉しいのかは分からないが不気味な程に笑っていた。


「うん?その……写真は何だ?」


パーク一等兵がしきりに眺めているなにか――写真に気が付いたジークがパーク一等兵に質問する。


「エヘッ、エヘヘヘ。気になります?気になりますよね軍曹!!」


すると、よくぞ聞いてくれましたといわんばかりにパーク一等兵が身を乗り出しジークに迫る。


「な、なんだ気持ち悪い……」


「実はですね…………なんと!!ヴァーミリオン作戦が終わったら、俺この写真に写っている子と結婚することになってるんですよっ!!エヘヘヘッ!!」


笑顔が可愛いショートヘアーの女性とパーク一等兵のツーショット写真がジーク達の視線に晒される。


「「「「「……」」」」」


写真を見せびらかせて本当に嬉しそうに笑うパーク一等兵とは対照的にジークや周りにいた兵士は皆、凍り付き同じ事を考えていた。


(((((それ……死亡フラグ!!)))))


「だから俺、ヴァーミリオン作戦が終わるまでに出来るだけ功績を上げて昇進して金を稼がないといけないんですよ。だって作戦が終わったら軍を除隊して彼女と一緒に本土で小さなパン屋を開くんですから。エヘヘヘ」


頭を掻きながら照れ臭そうに笑うパーク一等兵を放置してジークは周りにいた兵士達と円陣を組んで、盛大に死亡フラグをおっ立ててしまったパーク一等兵について言葉を交わしていた。


「さっきの……死亡フラグだよな?」


「「「「えぇ、完全に」」」」


「このままじゃ不味いよな?」


「絶対不味いですよ、軍曹」


「どうします?このまま放っておいたらパークが死んじまいますよ」


「いい奴なのに……可哀想に……」


「あっ……よく考えたら……パーク・ジャクソンって略したら……………………PJ」


「「「「あっ」」」」


決定的なある事実に気が付いたジーク達は誰とはなしに頷き合うと、再び写真をニコニコと笑みを浮かべて眺めているパーク一等兵を取り囲んだ。


「うん?あれ……どうしたんですか?みんな怖い顔して――グフッ!!ッ…ゥ…ゥ…」


パーク一等兵がいつの間にか自分を取り囲んでいたジーク達の存在に気が付いた瞬間、パーク一等兵の顎にジークの右ストレートが炸裂した。


強烈な一撃を受け脳を揺らされたパーク一等兵は目を驚きに見開き、声にならない声を出しつつ床に崩れ落ち失神した。


「あぁっと!!パークが突然倒れたぞぉー。大変だー」


ジークが大声で周りにも聞こえるようにわざとらしく間延びを入れながら棒読みで言った。


「何てこったー。これは不味いー。酒の飲みすぎで内臓がやられてるぞー。最悪、本土の病院に送らなければいけないなー」


失神したパークの容態を確認しているフリをした衛生兵がジークに続く。


「「「「あぁ、大変だー。これは大変だー。一大事だー」」」」


棒読みのセリフを吐きながら御輿を担ぐようにパーク一等兵を担ぎ上げたジーク達は“合法的に偽造した”書類を手に『サン・アントニオ』の飛行甲板に出向くとパーク一等兵をパラベラム本土の病院まで移送する手続きを済ませたヘリに放り込んだ。


「……ぁ…ッ!?…ぐ、軍曹……これは……一体――むぐっ!?ンググググ!!」


飛行甲板に来るまでの間に医務室からちょろまかした拘束衣を着せられたパーク一等兵がヘリに放り込まれた衝撃で意識を取り戻しジークに事情の説明を求めようとするも口枷を嵌められ強制的に黙らされた。


「パーク一等兵、貴官にはパラベラム本土での待機、いや療養を命ずる。これは大隊長も承認している命令である。以上、敬礼っ!!」


「「「「っ!!」」」


ジークの言葉にタイミングを合わせて、笑いを必死に堪えている兵士達がパーク一等兵に敬礼を送る。


「むー!!(軍曹ー!!)」


そして自分の置かれている状況が理解出来ず若干パニック状態になっているパーク一等兵を乗せたヘリはジーク達に見送られつつ、本土へ向かって飛び去って行ったのだった。


「…………さて行くか」


「ゲラゲラゲラ!!療養理由の欄が恋患いって、ヒィーヒィー笑いすぎて腹痛ぇ。っ……ふぅ、あー面白かった。じゃ、行きますか」


野暮用を終えたジークは見物に来ていたルーフェ軍曹や野次馬達と共に『サン・アントニオ』の船体後部にあるウェルドックに向かった。



戦艦群による砲撃で徹底的に破壊された海上防壁や大門の残骸の上を数十隻に及ぶ揚陸艇が難なく通過し、グローリアに殺到していく。


「グローリアに上陸する前にもう一度作戦内容を確認するぞ。変更点をしっかり頭に叩き込んでおけ」


乗り込んだLCAC-1級エア・クッション型揚陸艇――LCACの船内でジークは部下達に作戦内容の確認を行う。


「まず最初に俺達、第75レンジャー連隊がグローリアに上陸し橋頭堡を確保。そのあとデルタの連中がヘリボーンを行いグローリアの城を制圧。そして確保した渡り人をヘリで移送する。その際、俺達は橋頭堡を確保しつつ囮となって敵の注意を引き敵の増援部隊が城へ向かうのを妨害もしくは阻止する事が役目だ。だが何らかの問題が発生し渡り人をヘリで移送出来なかった場合は我々が市街地を突っ切り城に行き渡り人を回収、再度橋頭堡に戻り渡り人を海路で移送することが役目だ。分かったか!!」


「「「「サーイエッサー!!」」」」


「上陸1分前!!」


搭載しているガスタービンエンジンによって4翅の推進用シュラウド付大型プロペラを2つブン回し40ノットという快速で海面を滑るように航行するLCACが凄まじい波飛沫を上げながら砂浜に接近する。


「さぁ行くぞ!!気合いを入れろ!!」


「「「「サーイエッサー!!」」」」


ジーク達は気合いを入れて上陸の瞬間を待つ。


「着岸!!上陸用意!!」


数十隻のLCACが一斉にグローリアの砂浜に乗り上げ、搭載しているM2重機関銃やMk19自動擲弾銃で上陸部隊の援護射撃を開始。


辺り構わず撃ちまくり砂浜には発砲音と爆発音が響き、砂埃と硝煙に満たされる。


「撃ち方止め、撃ち方止め!!……上陸開始!!」


「GO、GO、GO、GO!!」


LCACのスカートから空気が抜かれ完全に接地すると援護射撃が止み、前部ランプが開き傾斜路から大勢の兵士や防御力を強化するためにキット式の追加装甲を取り付け、エンジンを強化し車体その物も大型化したM1151装甲強化型ハンヴィーが上陸を開始した。


「反撃どころか……敵の姿も無しか」


「楽に上陸出来たのは有難いですが……こうまで静かだと何だか不気味ですね」


「あぁ、まるで嵐の前の静けさだな……」


上陸に成功したジーク達は多少の反撃は受けるであろうと覚悟していたものの、予想に反し一切の攻撃を受けなかった。


そうして肩透かしを食らった形になった第75レンジャー連隊だったが本来の目的はキッチリと果たし、度重なる空襲や戦艦群による砲撃によってまるで月面のようにクレーターだらけになった海岸一帯を難なく制圧し無事、橋頭堡を確保したのであった。



 

 

 


 








 

 

 

――――――――――――




橋頭堡を確保した第75レンジャー連隊の頭上をバタバタバタバタとローター音を響かせつつ第160特殊作戦航空連隊、通称ナイトストーカーズのヘリが次々と通過して行く。


「レンジャー部隊は無事に橋頭堡を確保したようだな」


MH-6リトルバードの外装式ベンチに腰を下ろしたデルタフォース所属のグレアム・アンカレッジ少尉が、幾度となく繰り返された砲撃によって無惨なまでに掘り返されボコボコになっている砂浜を埋め尽くす第75レンジャー連隊の兵士達を見てそう溢した。


「……敵の姿がありませんね。どこへ行ったのでしょうか?」


「さぁな。砲撃で全部吹っ飛んだのか……それとも息を殺して虎視眈々と俺達を待っているのか。どっちかだな」


「お喋りはそこまでだ。降下用意!!」


あっという間に砂浜を通り越し白い建物が建ち並ぶ市街地の上空を通過している最中、敵の姿が見えない事に疑問を抱いた兵士の問いにグレアム少尉が返事を返しているとMH-6のパイロットが高度を落とし着陸態勢に入り、グレアム少尉達に降下態勢を取るよう促す。


「さてと……お仕事といきますか」


マルチカム迷彩が施された特殊部隊用のボディアーマーSPCS(サイラス)を着て、武骨な黒いヘルメットを被り直しH&K HK416のコッキングレバーを引き薬室に初弾を装填したグレアム少尉はグローリアの中心――小高い山の上にそびえる城を睨む。


「ッ!?城壁の上に弓兵4人!!排除してくれ!!」


城の中庭に着陸しようとしたパイロットが城壁の上でこちらに向かって矢を射ろうとしている弓兵の存在に気が付いた。


「「了解!!」」


MH-6の機体に乗っている6人の兵士の内、攻撃態勢と射角の取れたグレアム少尉ともう1名の兵士がパイロットの要請に答え、銃を構えて引き金を引く。


そして銃声と共にマズルフラッシュが迸り、銃弾が連続して放たれる。


その直後、敵兵の体が不意にバタバタバタっと跳ね回ったかと思うと、最後には糸の切れた操り人形のように力なく崩れ落ちた。


「ターゲットダウン!!」


「クリア!!」


銃弾をその身に受けて城壁の上で息絶えた兵士の体からはダラダラと夥しい量の鮮血が流れ出し、辺りを真っ赤に染め上げていた。


「よし!!着陸するぞ!!」


グレアム少尉達が敵兵を排除するとMH-6は城壁を通り越し城の中庭に滑り込んだ。


「行け、行け、行け!!」


MH-6のスキッド(着陸脚)が城の中庭に接地した瞬間、グレアム少尉達は安全のため一斉に機体から離れ城の敷地に降り立つ。


「じゃあな!!無事を祈ってる!!」


グレアム少尉達を無事に降ろし成すべきことを成したパイロットはグレアム少尉達に一声掛けると後続の機体に場所を譲るため、すぐさまMH-6を上昇させ空に飛び上がり母艦に帰って行った。


「散開しつつ前進!!」


「「「了解!!」」」


「っと!?敵さんのお出ましだ!!」


何機ものMH-6が次々と中庭に滑り込みデルタの隊員を降ろしていく最中、城を守る帝国の兵士達が続々と姿を現した。


「突撃ィー!!」


「「「「うおおおぉぉぉーーー!!」」」」


「矢をつがえろ!!撃ち方用意!!てェ!!」


「魔法も使えない劣等種共に我ら魔法騎士の力を見せつけてやれ!!詠唱開始!!」


「「応!!」」


そして剣や槍を構えた歩兵達が城に降り立ったばかりのデルタに向かって殺到し、城壁の上や城の窓からは弓兵、魔法使いが矢継ぎ早に攻撃を仕掛ける。


だが脅威度の高い弓兵や魔法使いは最優先で撃ち殺されてしまい結果、なんの援護もなくただ剣や槍を持ち突撃を敢行した歩兵達は射撃訓練の的のように蜂の巣され屍を晒すことになる。


そうしてデルタの隊員150名が城の中庭に降り立ってから、ものの30分で中庭周辺はデルタが完全に制圧し、また運の良いことに中庭の近くにある物置部屋に隠れていた工作員と渡り人の両名を無事に確保することに成功した。


「もう撤収か……思ったよりも楽に終わったな。敵も一撃お見舞したらすぐに引いて行ったし」


万事順調に進み後は渡り人をヘリで運びさえすれば、とりあえず任務完了という状態にグレアム少尉が拍子抜けした顔で言った。


最も、本来の作戦予定であればデルタが城を完全制圧し本隊の海兵隊が来るまで確保している手筈であったが、いかんせん城に籠る敵兵が多すぎ中庭を確保していることで精一杯だったため城の完全制圧は断念。


当初の作戦を変更しデルタは渡り人を移送した後、城から撤収することになっていた。


「まだですよ、グレアム少尉。渡り人をヘリに乗せるまで気は抜けません。それに今は静かにしていますが、城にいる敵が一斉に襲い掛かって来たらいくら俺達でも危ないんですから」


「そうそう、戦力比が100対1ぐらいだとか」


グレアム少尉の楽観的な言葉を訂正するように部下達が口を挟む。


「それぐらい分かってるよ。おっ、お迎えが来たぞ」


グレアム少尉がそう言って中庭にゆっくりと降下してくるMH-60Kナイトホークを指差す。


「――ッ!?マズイ、退避!!退避ー!!」


危険を察知したグレアム少尉が叫んだ時には遅かった。


暴風と騒音を撒き散らしながら慎重に機体を沈め、中庭に着陸しようとしたMH-60Kが雲を切り裂き急降下してきた竜騎士の鋭い一撃よって胴体からテールローターへ繋がる構造部分――テールブームをへし折られてしまう。


「ぬおっ、チクショウ!!メイデー、メイデー!!」


「グレンジャー02、被弾!!被弾した!!クソ、墜ちる……っ!!」


暴れ馬のように暴れるMH-60Kをパイロット達がなんとか制御しようと必死に操縦桿を握るものの、機体は既に制御不能な状態に陥っており、もはや手遅れだった。


テールブームごとテールローターを失った機体はメインローターから生み出される反トルクを打ち消せなくなり、グルグルと回転を始め終いには墜落。


そして墜落した衝撃で機体が跳ね、傾くと巨大なブレードが地面を抉り次いで折れ飛んだブレードや機体の破片がまるで鎌鼬のように辺りを襲う。


「ゴホッ……なんてこった……」


咄嗟に伏せたことで傷1つ負うことなく無事に済んだグレアム少尉がヘルメットを押さえながら顔を上げると、そこには悲惨な光景が広がっていた。


渡り人を迎えに来たMH-60Kは未だに舞い上がっている砂塵の中で横倒しになって全壊しており、また墜落時の衝撃で飛び散った機体の破片を食らったのかデルタの隊員が数名痛みの声を上げて地面に蹲り、そしてMH-60Kを撃墜し戦果を上げた当の竜騎士はといえば不運にも折れ飛んだブレードに身体をスッパリと両断されており、騎士も竜も同じ様にはらわたをぶちまけ無惨な姿で事切れていた。


「……そうだ……渡り人はっ!?」


悲惨な光景に目を取られていたグレアム少尉だったが、ハッと我に返り自分達がここに来た理由である渡り人の存在を思いだしキョロキョロと視線をさ迷わせる。


「うっ!?……クソ……」


目をカッと見開き驚いた顔のまま、無造作に転がっている渡り人の首を見つけたグレアム少尉は無理を押して進めた渡り人の回収作戦が最悪の結果に終わったことを悟った。


「最重要目標死亡!!繰り返す最重要目標が死亡した!!作戦は……失敗だ!!」


「竜騎士の出現によりヘリでの撤退は不可能と判断!!ただちに車輌部隊を送れ!!そうレンジャー連隊と本部に伝えろ!!」


渡り人の回収が失敗したことやヘリでの撤退が実質的に不可能になったことを受けて、レンジャー連隊による回収を求める要請が本部に送られた。


「早く負傷者を回収しろ!!」


「衛生兵ー!!衛生兵ー!!」


負傷者を回収するために衛生兵が駆け回り、あちらこちらから衛生兵を呼ぶ声が上がる。


「まだ空に竜騎士がウジャウジャいるぞ!!クソッタレ!!制空権はこっちが握っているんじゃなかったのかよ!!」


「敵が反撃に出たんだとよ!!そのせいでどこもかしこもてんやわんやだ!!」


「チィ!!ここの敵も息を吹き返しやがった!!来るぞ!!総員後ろの塔に一時退避しろ!!このまま中庭に居たら殺られるぞ!!」


墜落したMH-60Kから乗員を救出し負傷兵を回収したデルタは再度攻め寄せてきた敵から身を守るために中庭から一番近い塔に立て籠ることになった。


「こりゃあ……マズイことになった……いや、なるな」


負傷兵に肩を貸しながらポツリと呟いたグレアム少尉の言葉は予言となってパラベラムを襲うこととなる。

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