表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/148

18

どこまでも続く荒涼としたジャール平原では、ネズミの大群のように地上を埋め尽くす数千の陸戦型魔導兵器と空をブンブンと蝿のように飛び回る飛行型魔導兵器、そして強力な魔法障壁を展開している全長50メートルの巨大な西洋甲冑――フルプレートアーマーの姿をした超大型魔導兵器の進撃を食い止める為に第1、第2機甲大隊やデイルス基地よりスクランブル発進した航空隊が激しい戦闘を繰り広げていた。


「目標、超大型魔導兵器!!てぇー!!」


ヴィットマン大尉の気迫のこもった指示の元、M1A2エイブラムスの44口径120mm滑腔砲から成形炸薬弾(HEAT)が轟音と共に放たれる。


同時に第1機甲大隊の他のM1A2戦車からも超大型魔導兵器に向け成形炸薬弾が発射された。


爆風と閃光を放ち撃ち出された数十発の成形炸薬弾は獲物を前にした猟犬の如く超大型魔導兵器に向かって飛んで行き命中――するかと思われた寸前、超大型魔導兵器が展開している魔法障壁に阻まれ目標の手前で一斉に爆発した。


そして一度は爆煙の中へと姿を消した超大型魔導兵器だったが、すぐに爆煙の中から何事も無かったかのように姿を現し進撃を続ける。


「目標健在!!効果なし!!」


「チィ、やっぱり駄目か!!」


砲手を務めるヴォルの報告にヴィットマン大尉は眉にシワを寄せ何度砲撃を繰り返しても倒すことの出来ない超大型魔導兵器を睨み付けた。


「っ!?ハンマーヘッド1よりHQへ!!空の連中が帰って行くぞ!!どうなっている!!」


迫り来る魔導兵器群と距離を保つため全速後進をかけながら砲撃を繰り返している最中、上空で飛行型魔導兵器を相手に戦っていたF-22ラプターとF-2戦闘機、計20機が翼を翻して飛び去って行くのに気が付いたヴィットマン大尉が無線機に向かって声を張り上げる。


『こちらHQ、当該空域に展開中の航空機は全機弾切れだ』


「なら他のやつをさっさと寄越してくれ!!」


『残念だが、それは無理だ』


「なっ!?無理ってどういう事だ!!基地にはまだ予備機を含め100機近く残っているはずだろうが!!」


『そちらで今さっきまで戦っていたのがデイルス基地の直掩機を含む予備機だ。デイルス基地所属の航空戦力はほとんどが総統閣下の救出作戦に参加していたため出撃が出来る状態ではない。現在再出撃の用意が進められているがまだ時間がかかる』


「クソッ、ならしょうがない。了解した!!だが、なるべく早く頼むぞ!!オーバー」


ということは制空権を奪われたのか!?不味いな……。


エアカバーを失い丸裸同然の状況に追い込まれたことにヴィットマン大尉は額から一筋の汗を流す。


そんな時、周辺警戒にあたっていた装填手のロンが悲鳴のような声を上げた。


「大尉!!3時方向より敵機来ます!!」


多勢に無勢の中、パイロットの技量と機体の性能の差で善戦していた航空隊が帰ったことで邪魔者が消え空を我が物顔で飛び回る事が出来るようになった飛行型魔導兵器が地を這うことしか出来ない戦車隊に襲い掛かる。


「全車、多目的榴弾装填!!目標、3時方向の飛行型魔導兵器群!!」


こちらの都合のいいことに編隊を組んだまま地上スレスレまで降りてきてすれ違い様に攻撃を仕掛けようとしている30機程の飛行型魔導兵器に向け第1機甲大隊のM1A2戦車50両がモーター音を鳴らしながら一斉に砲塔を回転させる。


「てぇー!!」


まだ技術的な問題があるのだろう、100キロから200キロ程度のゆっくりとした速力でしか飛行出来ない飛行型魔導兵器が射程圏内に入った瞬間ヴィットマン大尉の号令の元、飛行型魔導兵器に向け一斉射が行われた。


轟音とともに計50発の多目的榴弾が空を駆け飛行型魔導兵器に接近した瞬間、多目的榴弾の近接信管が作動し爆発、空中に対空砲火の網を張る。


結果、6機の飛行型魔導兵器がその対空砲火の網に捕らわれ爆散または火を吹き地上に激突していった。


「ぜ、全機離脱せよ!!」


『りょ、了解!!』


地を這うことしか出来ない“獲物”から思いもよらない反撃を受け、驚いた帝国軍の指揮官が飛行型魔導兵器に搭載されている魔導通信機を通じ部下達に離脱を命じた。



だが残った24機の飛行型魔導兵器が離脱しようとした瞬間、第1機甲大隊の一斉射の後に行われた第2機甲大隊の一斉射により更に8機が叩き落とされた。


「く、くそ!!よくも仲間をっ!!…………なら……真上から殺ってやる!!」


仲間の仇を取るためにM1A2戦車をじっと観察している帝国のパイロットがいた。


そのパイロットは戦車が真上には攻撃出来ない事を見て取るとターゲットに定めた戦車の真上から急降下をかける。


「ゲッ!?ヤバい!!」


偶然にもターゲットにされた戦車――ハンマーヘッド2―5のバルクマン軍曹が砲塔にある車長用のハッチから体を乗り出した状態で目を見開き硬直する。


「やっぱり!!くた――」


パイロットは自分が考えた通り、真上から接近すれば反撃を受けずに済んだことにほくそ笑む。


そして彼の乗る機体が魔砲を構えM1A2戦車の比較的装甲の薄い砲塔上部に向け今まさに魔力弾を放とうとした瞬間、機体が突然爆発した。


「い、いてっ!?何が!?」


爆散した飛行型魔導兵器の小さな残骸を頭に食らい(ヘルメット越しだったが)バルクマン軍曹は目に涙を浮かべながら何が起きたのかと辺りに視線を送る。


『おぉーい、そこの戦車ぁ!!大丈夫か?』


キョロキョロと辺りを見渡していたバルクマン軍曹に無線を通じて語りかけて来たのはオルガの街の防衛戦でも一緒になった高射中隊の兵士だった。


「い、今のはお前らがやってくれたのか?」


第1、第2機甲大隊に合流し飛行型魔導兵器を追い払うため熾烈な対空砲火を開始した87式自走高射機関砲やアベンジャーシステムを搭載したM998ハンヴィーに視線を送りつつ、バルクマン軍曹が問う。


『いや、俺達じゃない。空を見てみろ』


「へっ!?な、なんじゃこりゃ!!」


言われて空を見上げたバルクマン軍曹はどこか楽しげに驚いていた。










――――――――――――




敵部隊接近の報を受けてデイルス基地では蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。


『総員第1種戦闘配置!!繰り返す総員第1種戦闘配置!!』


けたたましく鳴り響く警報と共に第1種戦闘配置の命令が繰り返され、基地内部ではほとんどの兵士が駆けずり回っている。


「第3歩兵小隊は基地の南の防衛だ!!ありったけの武器を持っていけ!!」


「いいか、こことここに対戦車兵器を配置させろ」


「各航空隊は再発進急げ!!」


「おい!!サイドワインダーが足りないぞ、さっさと弾薬庫から出してこい!!」


接近中の敵部隊に備える為に基地に駐屯している部隊はその全てが戦闘態勢に入り、飛行場の滑走路にはカズヤの救出作戦に参加し帰還してきた航空機が次々と滑り込み、再出撃ためにそこかしこで燃料及び弾薬の補給を行っていた。


「超大型魔導兵器に対し通常兵器の効果なし!!」


「ジャール平原で戦闘中の航空隊全機残弾ゼロ!!当該空域より離脱!!」


「第1、第2機甲大隊のエアカバー喪失、丸裸です!!」


「バインダーグより入電!!帝国軍がイル川の渡河を開始、これより戦闘を開始するとのことです!!」


「デイルス基地航空隊の燃料及び弾薬の補給、あと15分で完了!!」


デイルス基地の司令部にある作戦指令室では次々と舞い込んでくる報告が情報管制官によって読み上げられ、また各部隊の車両に搭載されているカメラを通してジャール平原での戦闘風景が作戦指令室の巨大なモニターに映し出されていた。


「……我々の……私の……ご主人様にあろうことか傷をつけ更に今回の件……帝国のゴミ屑共はそんなに死にたいのか……そうか……そうか……なら核で焼き払って希望通りに殺してやろうではないか……手始めにあの目障りな木偶の坊からだ」


カズヤを傷付けられたことだけでも赦せないというのにアデルとネルソンによる奇襲作戦が失敗したと見るや否や大部隊を投入し是が非でもカズヤの首を取ろうと目論む帝国に対し千歳がぶちギレた。


「い、いけません。副総統!!」


ブツブツと独り言のように「……殺す……殺す……絶対殺す……女子供も関係ない……皆殺しだ」と呪詛の言葉を漏らし黒いオーラを放つ千歳にビビりながらもミレイ少将が制止の声をあげた。


「……何か言ったか?ミレイ少将」


――ギロッ!!


「ヒッ!!あ、いや、そ、その!!同盟国の領土内で核の使用はいかがなものかと……。そ、それに――……こ、これを見てください!!今、核を使用すれば戦闘中の第1、第2機甲大隊やその他の部隊も甚大な被害を受けます!!」


千歳の光のない、どこまでも暗い瞳を向けられて思わず悲鳴を上げてしまったミレイ少将。


しかしすぐに気を取り直して妖魔連合国の全土図が映し出されている大きな3D卓上モニターを操作し超大型魔導兵器――敵部隊を示す赤い光点と味方部隊を示す青い光点、それに核を使用した際の加害範囲を表示して今、核を使用すれば味方部隊にも甚大な被害が生じることを明確にすることで千歳に核の使用を思い止まらせようとした。


「……退避命令は出す」


だが、千歳はミレイ少将の危惧や思惑を一言で切って捨てあくまで核を使い敵を焼き尽くそうとしていた。


「し、しかし……」


千歳の有無を言わさぬ鋭い眼光の前に何も言えなくなったミレイ少将は黙り込んだ。


そしてもはや千歳による核の使用は回避出来ないかと思われたそんな時、千歳とミレイ少将の背後にある扉がプシュと音をたて開き誰かが部屋の中に入ってきた。


それに気が付いた千歳やミレイ、他の将校達が後ろを振り返り驚きに目を剥く。


「ご、ご主人様!?なぜここに!!お身体は大丈夫なのですか!?」


「カ、カズヤ様!?」


「「「「総統閣下!?」」」」


部屋の中に入ってきたのはメイド衆や親衛隊の隊員、そして身の丈よりも大きな杖を持ち真っ黒なローブを着たセリシアとパラベラム本土にいるはずの伊吹を引き連れたカズヤだった。


「俺は大丈夫だ。それより今の状況は?」


先程まで手術を受けていたはずのカズヤがことなにげにそう言って千歳達に現状の報告を求める。


「俺は大丈夫、ではありません!!ご主人様!!お身体――」


「セリシアとメイド達の回復魔法で治した」


身を案じてくれている千歳の言葉を遮りカズヤは淡々と事実を言った。


「……セリシア?――なっ!?貴様が何故ここに!!」


カズヤの言葉でようやくセリシアが居ることに気が付いた千歳はセリシアに対し敵意の籠った視線を向け言った。


「私が連れて来たのです。万が一の事を考えて」


「なんだと?伊吹……貴様、分かっているのか?いくら我々に帰順の意を示したといってもコイツは捕虜だった女だぞ!!そんな女を――」


「分かっています。ですがセリシアの力の事を考えれば使わない手はありません。現にご主人様の体も治りました」


「ぐっ……だがコイツは信用出来ん!!それにコイツがご主人様に危害を加えないという保証はない!!」


「……聞き捨てなりませんね。私がカズヤ様に危害を加えるなどと言う戯言は。それと私は貴女方に帰順したのではありませんカズヤ様の雌奴隷になっただけです」


千歳と伊吹の会話に割り込み最後にフン。と鼻を鳴らし千歳を嘲笑うかのようにセリシアが言った。


「なんだと……貴様?」


「なにか?」


「ありがとうミレイ――2人共、そこまでだ。今は喧嘩をしている場合じゃないぞ」


セリシアの挑発するような態度に千歳が額に青筋を浮かべ掴み掛かろうとした時、ミレイ少将から現状の説明を受けていたカズヤが2人を黙らせた。


「は、ハッ、申し訳ありません。ご主人様」


「も、申し訳ありません。カズヤ様」


カズヤの言葉に苛立ちが交じっていることに気が付いた2人はビクッと身を震わせた後、すぐに大人しくなり頭を下げた。


「よし、じゃあまずあのデカブツを仕留めるぞ」


気合いを入れ周りに宣言するようにカズヤが言った。


「ハッ、了解しました。……ですがご主人様、奴は強力な魔法障壁を展開しており生半可な攻撃は通用しません」


「そうみたいだな」


超大型魔導兵器が第1、第2機甲大隊の砲撃を気にした様子もなく首都に向け進み続ける姿が映る巨大モニターを見ながらカズヤが頷く。


「なので……核を使用して一気に」


「いや、核を使うことも無いだろう」


「……と言うと?」


カズヤの言葉に千歳が首を傾げた。


「そろそろです」


千歳の疑問に被せるように伊吹が言った直後、作戦指令室にある報告が入った。


「南東より正体不明機多数接近!!IFFに……は、反応あり!!友軍機です!!数は……200以上!!」
















――――――――――――




「こりゃ……すごいな……航空機の大展示会だ」


バルクマン軍曹は自身の危機を救ってくれた友軍機の群れが空を飛び交うのを見て感心したような言葉を漏らした。


空を飛び交うのはパラベラム本土から(前哨基地を経由して)カズヤの救出作戦に参加するべく押っ取り刀で飛んできた機体達。


パラベラム陸軍及び空軍所属の戦闘機――F-15イーグル、F-15Eストライクイーグル、F-16ファイティングファルコン、F-22ラプター、Su-33、Su-35、ラファール、タイフーン、サーブ39グリペン、F-2。


パラベラム海軍及び海兵隊所属の戦闘機――F-14トムキャット、F/A-18E/Fスーパーホーネット、ハリアーII。


そしてパラベラムの技術者達が技術の粋を集めて完成させた最新鋭機のF-35ライトニングIIやPAK FA(T-50)更に研究用に召喚してあった概念実証機のSu-47までもが空を舞う。


「圧倒的だな。我が軍は」


パラベラムの国旗――白地の中央に緋色の丸い円――緋の丸を翼に刻印した200機近い戦闘機が空を乱舞し飛行型魔導兵器に各種空対空ミサイルや機銃弾を叩き込みバタバタと落としていくのを見てヴィットマン大尉が感慨深げに言った。


「しかし制空権を確保したはいいが……奴はどうやって倒せばいいんだ?砲弾も対地ミサイルも効かないようだし……重爆の到着を待つか?――っ!?おいおい!!本当かよ!?」


デイルス基地には配備されていなかったF-16、Su-33、Su-35、ラファール、タイフーン、グリペン、F/A-18E/F、ハリアーIIが放つ何百発という空対地ミサイルのAGM-65マーベリックやKh-29を撃ち込まれても展開している魔法障壁のお陰で傷ひとつ付かない超大型魔導兵器をどうやって倒せばいいのかと悩んでいたヴィットマン大尉があることに気が付いた。


そのあることとは数十機のC-5ギャラクシーが地上スレスレを飛行してこちらに向かって来る事だった。


「増援か!!」


超低空で編隊を組んだC-5ギャラクシーはヴィットマン大尉達がいる場所から5キロ程後方で後部の貨物用ハッチを開き積載していた物を投下し始めた。


「……今度は陸の展示会でも開くのか?」


ヴィットマン大尉は輸送機から次々と投下される戦車を見てそう呟く。


ヴィットマン大尉の視線の先で行われているのはLAPES(ラペス)という輸送機から物資を投下する方法の一種。


地上スレスレの低空で飛行する輸送機の後部ハッチから物資や戦車をパラシュートによって引き出しそのまま地上へ投下する方法で戦車のような重量物でも素早く下ろすことができるため、前線での戦術輸送に都合がいい手段である。


だがいくら低空からの投下と言っても落下時の衝撃や着地時の地面との摩擦が発生するため専用のパレットなどで戦車を保護しておく必要がある。


そして、そんな手法で戦場に投下されたのはパラベラム本土で親衛隊が運用しているチャレンジャー2、メルカバMk4、レオパルト2A6、ルクレール、T-90Aといった第3〜3.5世代の主力戦車達だった。


『ヴィットマン大尉、苦戦しているようだな手伝うぞ』


投下され完全に動きが止まったことを感知すると役目を終えた専用パレットの固定ボルトが自動で吹き飛ぶ。


拘束が解かれたことを確認すると同時にエンジンを唸らせ走り始めたレオパルト2A6からヴィットマン大尉に無線が入る


「その声……まさか、クルト少佐ですか!?」


ヴィットマン大尉に無線を介して声を掛けたのはクルト・クニスペル少佐。第二次世界大戦にドイツ軍の戦車長として従軍し大戦で世界最多の敵戦車撃破数168両を記録した英雄である。


『あぁ、そうだ』


「クルト少佐が援軍とは心強い!!よしそれじゃあ反撃と行きま――」


『マズイ!!全車散開しろ!!』


援軍としてやって来たのがクルト少佐率いる腕利きの戦車隊だと分かったヴィットマン大尉は嬉しげな声を上げ視線を前に戻した。


瞬間、バルクマン軍曹の危険を知らせる声が響き、そして超大型魔導兵器が右手に持っている巨大な魔砲と左手に持っている盾を構えたのを見て思わず固まってしまったヴィットマン大尉の意識は光に包まれてしまった。














――――――――――――




増援部隊が戦場に到着しこれから反撃という所で超大型魔導兵器から想像以上の攻撃を食らい作戦指令室の中は静まり返っていた。


「「「「……」」」」


ようやく戦場に到着したMQ-9リーパーが送ってくる映像には超大型魔導兵器が放った魔砲の直撃を受け第1機甲大隊が閃光の中に飲み込まれ半滅した様子と核兵器を使用した直後のような巨大なキノコ雲がジャール平原に立ち上っているのが映っていた。


「だ、第1機甲……大隊……被害甚大」


超大型魔導兵器が撃った魔砲の威力に皆、絶句していた。


「……前言撤回、核を使う」


超大型魔導兵器の脅威度を見直したカズヤが険しい顔でポツリと呟く。


「お、お待ちくださいカズヤ様!!先程、副総統に説明したように今、核を使用すれば甚大な被害が出ます!!」


「そんなことは分かっている!!」


「でしたらどうかご再考を!!せめて部隊が撤退する時間を!!」


「部隊が撤退……?ミレイ何の話だ?」


「えっ……?」


カズヤとミレイはお互いに噛み合わない話に首を傾げた。


「……ご主人様。ミレイ少将は核の運用方法を決めた会議に出席しておりません」


「あぁ、それでか」


「?」


話に付いて行けてないミレイ少将は困惑した様子でカズヤと千歳の顔をしきりに確認していた。


「ミレイ、核は使うが直接じゃない」


「……ということは、まさか――!?」


「説明は後だ」


何かに気が付いたミレイ少将は驚いた顔をして口に手を当てていた。


「――長門だ。発射コード0995215――」


「っ!?ご、ご主人様……」


カズヤが作戦指令室に置かれていた電話を手に取り、パラベラムで唯一核を管理・運用している第666部隊――通称ダストバスターズに発射コードを伝えて核の発射を行おうとすると千歳があることを思いだし物凄く気まずそうに口を開きカズヤの言葉を遮った。


「――何なんだ千歳」


受話器を耳に当てたままカズヤが千歳に問い掛けた。


「あの……ぁ、そ、その発射コードは……もう使えません」


「……なんでだ?」


「……私が使用したからです」


「ちなみに……発射コードを使用した時の核ミサイルの目標は?」


こめかみをピクピクと痙攣させているカズヤが冷たい声を出す。


「帝国全土……特に人口密集地です」


「千歳……後で話がある」


「……ハッ、畏まりました」


数時間前にアデルや帝国軍相手に無双していた人物とは思えないほど弱々しい姿で千歳は力なく頷いた。


「フフッ、いいきみです」


「クッ!!」


カズヤに聞こえぬようにセリシアが小さく漏らした言葉に思わず声を出してしまいそうになった千歳だったが手をギリギリと握り締ることでなんとか防いだ。


「で、今の発射コードは00000000でよかったか?」


「……はい、発射コードは一度使用すると00000000にリセットされますので」


「待たせた。発射コード00000000。目標は超大型魔導兵器――」


セリシアのみに向け怒気を放つ千歳から今の発射コードを聞いたカズヤは改めてダストバスターズに発射コードを伝えた。


『――命令を受諾しました。ミサイルの発射準備完了。発射命令をどうぞ』


「……発射」


そして、カズヤの命令で遂にパラベラム本土にある地下のミサイルサイロよりW87核弾頭を搭載したLGM-30ミニットマンIII――大陸間弾道ミサイル(ICBM)が発射された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ