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16

「お出ましか」


腕を組み仁王立ちでカズヤが出てくるのを待っていた男は、姿を現したカズヤを見てニヤリと好戦的な笑みを浮かべ言った。


「さて……こうしてお前のご希望通り出てきてやった訳なんだが、お前は誰だ?」


男から5メートル程手前まで近付き何かあればすぐに動けるように警戒し身構えているカズヤが男に告げた。


「まぁ、そう急くなよ。慌てなくても俺の名前ぐらい教えてやるさ。俺の名はアデル・ザクセン。邪悪なる魔王を打ち倒すためにこの世界にやって来た勇者だ」


誇らしげな表情でアデルはカズヤに言い放った。


この世界にやって来た勇者ねぇ……。あぁ、アミラをボコボコにした奴か。妖魔連合国のどこにもいないからてっきり帝国に撤退したと思っていたんだが……こんな所に居たのか。


それにしてもこいつ……まさか……な。


「っ!!母様が邪悪だと!?ふざけるな!!」


アデルの言葉にいろいろな考えを巡らせているカズヤの隣でフィーネが怒りに肩を震わせて叫ぶ。


「……誰だ貴様は?そんなはしたない格好――……うん?母様?……ということは……貴様が魔王の娘か」


カズヤが現れた時からその隣に居たにも関わらず眼中に入って居なかったのか、ようやくフィーネの存在に気が付いたアデルはフィーネのボロボロだがどこか淫靡な雰囲気を漂わせる姿(下着がチラチラと見えるまで丈が失われ更に所々破れたチャイナドレス)に眉をしかめた後、フィーネの正体を悟り背後に控える人物に確認するように言った。


「えぇ、そうですアデル様。この女が魔王の娘フィーネ・ローザングルです」


「えっ………………?」


アデルの背後から現れた見覚えのある人物にフィーネは母親をアミラを侮辱された怒りすら忘れ言葉を失う。


「………………ネ、ネルソン?なぜ……貴方がそこに……いるの?」


アデルの背後から現れたのはフィーネが以前から慕っていたネルソンだった。


「……」


中性的でどちらかといえば女顔であるアデルに負けず劣らずの容姿を誇り、また種族的に容姿に優れていることもありまるで絵画の中から飛び出してきたような美形の男であるネルソンはフィーネの問い掛けに意味深に微笑むだけだった。


知り合いか?はぁ〜……。ややこしくなってきたな。


フィーネのネルソンの間に流れる空気を見てカズヤは厄介事が増えたな。と内心で溜め息を吐いていた。


「……ねぇ……ネルソン何故?何故貴方がそこに………………貴方、私達を裏切ったの?」


信じられない信じたくない事実を否定して欲しい一心でフィーネは懇願するようにネルソンに再度問い掛ける。


「あぁ、そうだよ」


「っ!!どうして………………貴方はエルフの次期族長なのよ!!そんな立場の貴方が何故!!」


だがフィーネの願いは届かずネルソンはあっさりと裏切りを認めフィーネに信じがたい事実を突きつけた。


「理由かい?理由は簡単だよ。美の化身とも言っても過言ではない美しい僕が死んでしまってはこの世界に取って多大なる損失となってしまう。だから死なないように先手を打ってもうすぐ滅んでしまう妖魔連合国から帝国に乗り換えたんだ」


「…………えっ?」


「「………………」」


予想だにしていなかったネルソンの裏切りの理由――ナルシスト発言に場が凍り付く。


「ちょうど良いことに僕達、エルフの外見はこの尖った長い耳以外人間と変わりないからね。寝返る事にもあまり支障はなかったよ」


「……」


ネルソンの裏切った理由が理解出来ずフィーネは石像のようにただ固まっていた。


「もっとも寝返るのならば帝国に対する忠誠の証として何らかの功績が必要って言われたんだけど……それにはフィーネ、君が役立ってくれたよ」


「……どういう……こと」


「そのブレスレットさ。君がその男の、ナガトの側にいることになったって僕に教えてくれただろ?あの時閃いたのさ君にそのブレスレットを渡しておけば役に立つと」


ネルソンは残酷な事実をさも楽しそうにフィーネに告げる。


「実はそのブレスレットには身に付けている人物の居場所が分かる魔法が掛かっていてね。ナガトの側にいることになった君にそれを渡しておけば必然的にナガトの居場所が分かるって訳さ。だから今回の待ち伏せは成功したしこうして君たちの元にやって来ることも出来た。あぁ、ついでに言うとそのブレスレットには魔物を引き寄せる特殊な匂いも付けておいてあるんだ」


「っっ!?こんなものっ!!」


ネルソンの話を聞くや否やフィーネはずっと大事に付けていたはずのブレスレットを外し地面に叩き付けた。


「……私は……私は……利用されていたのかっ……私のせいでっ……こんなやつにっ!!」


事実を知ったフィーネは顔を伏せ悔しさのあまり両手を力一杯握り締めた。


余程の力を込めて手を握ったのか爪が肉に食い込みフィーネの手からは血が流れ出ていた。


その様子を見てネルソンがフィーネに追い討ちを掛けるようなことを小さな声で呟く。


「あーあ、凄い力だね。やっぱりさっきの攻撃で手傷を負わせて弱らせておきたかったな。これじゃ捕虜にして“楽しむ”のは無理かな?」


フィーネの事を敵としてしか見ていないネルソンの呟きが聞こえたのかフィーネの体が一際大きくビクッと震え直後にポタポタと雫が地面に落ちた。


そういう事か。これで分かったぞ。待ち伏せされていた理由もそれに魔物がフィーネを狙っていた理由も他のことも全部。


柄にでも無いことをしているなと自覚しつつカズヤは声を押し殺し涙を流すフィーネを優しく慰めるように抱き締めながらこれまでの不可解な出来事の真相を知り1人納得していた。


一方その頃カズヤの胸の中で咽び泣くフィーネの心中では異変が起きていた。


信頼し慕っていた男に手酷く裏切られたせいでひどく傷付き、そして冷たく凍えてしまった心にカズヤの優しさと温もりが甘美な毒のように染み渡る。


更に瀕死のフィーネを助けるためにカズヤが使った完全治癒能力の副作用、つまりフィーネの体内に残留しているカズヤの魔力がフィーネの想いに反応しより深くより広くフィーネの心を魂を侵食する。


いくつもの要素が複雑に絡み合った結果フィーネの心はカズヤに対する想いで埋め尽くされ、また魂にさえも干渉を受けたためその想いはもはや狂愛と呼ぶべきレベルにまで昇華され取り返しのつかないことになっていた。


……あぁ…温かい…もう、私は………私には……この温もりさえ……カズヤさえ私の側に居てくれれば……。


これ以降フィーネの心と魂は永遠にカズヤに囚われることになる。しかし本人がその事を自覚するのには今しばらく時間が必要であった。


「それにしても酷いなぁ。この美しい僕からの送り物を投げ捨て――」


「黙れナルシスト。お前の話はもういい」


ネルソンの言葉をバッサリと遮りカズヤが言った。


「……ナルシスト?」


この世界には存在していない単語を聞いてネルソンが首を傾げていた。


「俺が聞きたいのは2つ。お前らの目的と……アデルとか言ったな、お前地球って知ってるか?」


ネルソンの疑問を無視してカズヤがアデルに問い掛ける。


「俺達の目的?分かりきったことをわざわざ聞くなよ。“俺達の”目的はお前の命に決まっているだろうが、あと地球だったか?知りはしないが聞いたことはあるぞ。レンヤと後……確かショウイチも地球からやって来たと言っていたな」


ネルソンの物言いに眉をひそめ、密かに嫌悪感を抱いていたアデルが話を先に進めるためか素直に答えた。


少なくとも渡り人が3人、帝国に属していることが分かったな。しかし…………最悪の予想が的中したぞ。こいつ中二病とかじゃない“本物”の勇者だ。


アデルがうっかり口を滑らせたことでカズヤは帝国に付いている渡り人が少なくとも3人(レンヤ、アデル、ショウイチ)いることが確認出来たが目の前に居るアデルが地球ではないどこか異なる異世界からやって来た正真正銘の勇者だと気付き額から一筋の汗を流した。










――――――――――――




「さて、もう話もいいだろう。そろそろ“俺の”目的を果たさせてくれよ」


予想外に長い前置きを挟んだせいか少し苛ついた様子のアデルがカズヤに言った。


「“俺の”目的?」


「あぁ、そうだ。なんの為に俺がわざわざここにやって来たと思ってるんだ」


いや、お前らは俺を殺しに来たんだろ?お前がそう言ってたし。まぁそこのエルフ達は帝国に迎え入れられたいが為に俺の命を狙っているようだが。


最もな考えを抱きながらカズヤがアデルの言葉に耳を傾けていた。その時だった。


――ゾクッ!!


カズヤの背に突然悪寒が走る。


なんだ!?


悪寒の原因を確かめようとしたカズヤの目に飛び込んで来たのは、整った顔立ちを憎悪で歪め射殺さんばかりにこちらを睨んでいるアデルだった。


「俺達の目的は貴様を殺すことだが、俺の目的はなぁ……貴様をこの手で殺しセリシアの仇を取ることだっ!!」


…………うん?セリシア?


アデルの言った人物の名に聞き覚えのあるカズヤは一瞬、戸惑った。


戸惑うカズヤをそのままにアデルは長剣――聖剣を鞘から抜く。アデルが抜刀した事で場が一気に緊張感を増した。


「だから、俺と戦えぇぇーー!!ナガトカズヤァァ!!」


凄まじい闘志を放ちながらアデルが野獣の咆哮のような大声をあげた。


「……っっ!?ちょ、ちょっと待て!!セリシアって――」


「っ、さっさと答えろ!!俺と戦うのか戦わないのかどっちだ!?」


カズヤがある事に気が付きアデルに静止の声を掛けるものの復讐心に囚われ頭に血がのぼってしまっているアデルはカズヤの声を聞き入れなかった。


「だから!!話を――」


「うるさい!!俺と戦わないというならば、戦わなければいけないようにするまでだ!!ネルソンあの3人を連れてこい!!」


「承知しました」


煮えたぎった油のような復讐心を心に宿しカズヤを直接自分の手で殺すことに拘るアデルは無理にでもカズヤをその気にさせ本気のカズヤを打ち倒すために奥の手を使うことにした。


話を聞けよこの野郎!!


話を聞かずに一方的に事を進めていくアデルにカズヤは半ばキレていた。


「いいか、セリシアは――」


額に青筋を浮かべながらもカズヤがアデルにある事実を伝えようとした時だった。


っ!?嘘……だろ。なんで……なんでここにいるっ!!


アデルに言われて引き連れている軍勢の中に消えて行ったネルソンが再び現れ引き摺るようにして運んで来た3人を見てカズヤが凍り付く。


「レイナっ!!ライナっ!!エルっ!!」


縄で縛られグッタリとした様子でピクリとも動かない3人を見てカズヤが悲痛な叫びを上げた。


「その様子を見るとやっぱりお前の部下達だったようだな。まぁメイド服を着てこの辺りを彷徨く冒険者なんていないだろうが」


やはり捕らえておいて正解だった。とアデルが小さく声を漏らす。


「貴様らあぁぁ!!3人に何をした!!」


話を聞かないアデルに対しての怒りとはまたベクトルが異なる怒りを露にしたカズヤが叫んだ。


「何をした?されたのはこちらの方だ!!コイツらがいきなり襲い掛かって来て僕の配下が半数死んだんだぞ!!」


怒りの声をあげるカズヤにネルソンが答えた。


「…………えっ?」


自分の預かり知らぬ所で自分のメイドが敵に大打撃を与えていたと聞かされたカズヤは一瞬怒りを忘れキョトンとした顔になった。


そして、アデル様の命とはいえどれだけ生け捕りにするのに苦労したと思っている!!とネルソンがやけくそ気味に言っているのを聞いて改めて縄で縛られ動かない3人を見てみると3人は魔法か何かでただ眠らされているだけのようだった。


そんな3人の様子に少しだけ胸を撫で下ろしたカズヤにアデルが言い放つ。


「さぁそれでどうする?今まではお前と戦うための交渉に使えるかと思って何もしていないが、お前が俺との一騎打ちを拒むというならこの3人は兵達のオモチャになるぞ?」


カズヤをその気にさせる為にアデルが言った言葉はカズヤの逆鱗に触れた。


――ブチブチブチッ!!


……3人を……俺のメイドを“オモチャ”にする………………だと?…………ぶっ殺す!!


その場にいた全員が太い縄が引き千切れるような音を聞いた。


「……フィーネ、ミーシャの所に行け」


「えっ?」


全ての感情が抜け落ちたようなゾッとするカズヤの声を聞き今まで泣いていたフィーネは思わずカズヤの顔を見た。


「事情が変わった……時間稼ぎするつもりだったが……あいつらをぶっ殺して3人を助ける」


「っ!!わ、分かった」


出会ってからこれまで見たこともないカズヤの鬼の形相にフィーネは驚きながらもコクコクと頷いた。


……この表情もいいな。


以前のフィーネであれば今のカズヤの表情を見て恐怖しか感じなかっただろうが、カズヤに心を魂までも魅了されしかもただならぬ感情――狂愛を抱くようになったフィーネはカズヤの顔を眺めつつ自然とそんな事を考えていた。


さて、殺るか。


去り際にフィーネから片刃の剣を渡されたカズヤは殆ど使えない左腕の代わりに鞘を口で咥え抜刀した。


「やる気になったみたいだなネルソン、下がっていろ」


「ハッ」


カズヤが剣を構えるのを見てアデルは笑みを浮かべネルソンに下がるように言った。


「セリシアの仇、とらせてもらう!!」


「3人は返してもらうぞ、下衆野郎!!」


2人がそう叫ぶのと同時に一騎打ちの火蓋が切って落とされた。










――――――――――――




「ハハハッ!!どうしたどうした?動きが鈍って来たぞ!?」


「チィッ!!」


カズヤとアデルの一騎打ちは開始直後から一方的な流れになっていた。


クソッ、怒りに任せてああ言ったものの……こいつやっぱり強い!!それに左腕は使えないし脇腹の傷もヤバいことになってきた!!不利ってレベルじゃねぇぞ!?


怪我のせいでよたつく体を必死に動かしアデルの嬲るような斬撃を間一髪避け続けているカズヤ。


だが時が経つにつれてカズヤの動きに精彩がなくなっていき体には少しずつ傷が増えていく。


こいつ、予想外にしぶとい。それに……聖剣の効果が発動しない所を見ると身体強化の魔法も使っていない。……化物か?


一方、自身の(嬲るために少し手を抜いてはいるが)攻撃を避け続けるカズヤの予想外のしぶとさにアデルは驚いていた。

こいつとは万全の状態でやり合ってみたかった。


カズヤが左腕を使えない事は知っているが、それに加え重症に近い傷を負っているとは知らないアデルはカズヤの体に少しずつ傷を刻み込みながらそんなことを考え、同時に一方的な攻撃を浴び不様な姿を晒しながらもなんとしても3人を取り返そうと諦めないカズヤに対しある種の尊敬の念を胸に抱いていた。


「そこっ!!」


「あぶっ!?っと!!クッ……!!」


鋭い一太刀をかわしたカズヤがアデルから距離を取りついに膝をついた。


「ほらほらどうした。3人を取り返すんじゃ無かったのか?」


「はぁ、はぁ……クソッ」


このままだと……本当に……不味い。


様々な思いが渦巻く内心を隠し肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべカズヤを挑発するアデル。


余裕綽々のアデルに対し全身ズタボロ状態のカズヤは、もはや何かを言い返す元気もなく精一杯の抵抗としてアデルを睨み付けていた。


そんな時だった。突然カズヤの背後で銃声が鳴り響き次いで先程まで声援を送っていたはずのミーシャとフィーネの慌てたような声が聞こえてきた。


「カ、カズヤ様っ!!」


「カズヤ!!不味い!!」


「チッ、邪魔が入った」


アデルがそう言いつつ剣の構えを解いたのを見てカズヤは後ろを振り返った。


するとミーシャを背負いながらこちらに走ってくるフィーネの後を追い掛けるように無数の魔物が迫って来ていた。


……最悪だ。


「フン、遊びが過ぎたか。……まぁいい。嬲るのにももう飽きたし最後はお前らが魔物に食われて死んでいく様を見ているとしよう。ネルソン!!3人を返してやれ!!」


「ハッ、畏まりました」


一通りカズヤを嬲ったことで、また必死に他人を守ろうと救おうとするカズヤの姿に何かを感じたのかアデルは自身の手でカズヤを討つことを止め後始末を魔物に押し付けた。


更にアデルは迫りくる魔物を前にして愕然としているカズヤにそう言い捨てネルソンに捕らえていた3人を解放するように命じ聖剣を鞘に戻し踵を返すと颯爽と味方の元へと戻って行く。


「さてと……見物だな」


味方に守られつつ高みの見物と洒落込んだアデルはカズヤ達の行く末を迷いの混じった眼差しで眺めていた。


「くっ、大丈夫か!!レイナ、ライナ、エル!!」


魔法で浮かび上がり空中を漂って運ばれて来た3人を抱き止めたカズヤはすぐに3人を縛っている縄を切って名を呼んだ。


「……んぅ、ご主……人様?」


「…ぅ…ご主人様?」


「ご主人……様?」


「良かった……っ!!」


大した外傷も乱暴された痕もなくすぐに目を覚ました3人をカズヤはボロボロの体で激痛が走ることも気にせず万感の思いでギュッと抱き締めた。


「カズヤ様っ!!今は――っ!!」


「カズヤっ!!もうすぐそこに魔物がっ!!」


前門の帝国軍、後門の魔物という危機的状況にも関わらず呑気に3人を抱き締めているカズヤをフィーネとミーシャが急かしたてる。


「来たか…………もう大丈夫だ」


「……カズヤ様?」


「カズヤ何を……」


カズヤの言った言葉の意味が理解出来ず戸惑う2人を余所に背後から迫る魔物達に異変が起こった。


「「えっ?」」


「なっ!?魔物が……止まった!?」


「っ!?何故だ。何故止まる!?」


魔物達が取る不可解な行動にフィーネやミーシャはもちろん、アデルやその部下である帝国軍の兵士やネルソンの配下であるエルフ達でさえ動揺を隠せなかった。


ちなみに魔物が取った不可解な行動とは獲物を前にした魔物達が突然脚を止め一斉に空を見上げ、ある一点に視線を集中し始めたことだ。


もっとも魔物達が獲物を目前にして立ち止まるという不可解な行動を取った理由の種を明かせば弱肉強食が当たり前のこのケルン丘陵地帯で生きている魔物なだけあって徐々に近付いてくるその存在に敏感に反応しているだけなのだろう。


そして数秒後、カズヤの言った言葉の意味や魔物達が突然止まった理由が分からず戸惑い混乱するフィーネやミーシャ、アデル達にもキーン。という重低音が小さく聞こえてきた。


その重低音が大きくなるにつれて魔物達が怯えたようにじりじりと後退を始め、ついには雪崩を打って逃げて行ってしまう。


「……えっ?」


「魔物が……」


「逃げ……た?」


先程まで捕食者であったはずの魔物達が脱兎の如く逃げていくのを皆、ポカンとした表情で見送った。


「ハハハハ、魔物が逃げた!?アハハハハ!!まったく運のいいやつだ、だがこれはお前との決着をつけろという神の思し召しに違いない」


魔物が何故逃げたのかは分からなかったが、アデルからしてみれば神様がカズヤとの決着をつけろと言っているように思えてならなかった。


「いや、もうここで俺を殺すのは無理だ」


再び前に出てきたアデルの顔を見詰めながらカズヤが言った。


「なに?」


「それより自分の身の心配をした方がいいぞ」


「おいおい、脅しのつもりか?何も怖く――」


アデルの言葉の途中で谷の割れ目の上を巨大な影――C-17グローブマスターIIIが掠めるように通過したかと思うと、それは、それらはカズヤとアデルの間を遮るように降ってきた。


ドガンと地面を陥没させる音が辺りにこだまし谷底に溜まっていた泥水が垂直に跳ね上がる。


「形勢逆転。俺達の勝ちだ」


満面の笑みを得意気に浮かべるカズヤの言葉と同時に舞い上がっていた泥水が重力に引かれ地面に落ち、何かが落下した地点からそれが――彼女達が姿を現した。

次回千歳無双……かも

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