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13

デイルス基地にある司令部の一室でパラベラムと妖魔連合国の今後の協力体制について千歳とアミラが言葉を交わしていた。


「……ん?」


なんだ?この言い様のない妙な胸騒は……。


「どうかしたのかい?」


話し合いの途中、千歳が不意に視線を窓の外に移したことに気が付いたアミラが千歳に問い掛けた。


「……いや、何でもない話を続けよう。それでそちらの希望としては妖魔連合国内における我が軍の更なる増強を望むということだが、相違ないか?」


なんの前触れもなく胸をギュッと締め付けるような強烈な違和感を感じた千歳。

その言葉では言い表せない物を感じながらも千歳は話を元に戻した。


「あぁ、そうだよ。……チトセも知っているだろう、妖魔軍の状態を」


「……あぁ」


「チトセ達が来てくれたお陰で半滅状態に陥っていた妖魔軍は再編成出来たものの、その大半が新兵達で練度と士気も低い弱卒揃い……帝国軍の残党狩りですらやっとの状態。そんな状態で今また帝国軍の攻勢を受けたら今度こそあたし達は皆殺しにされる。だからこそ帝国軍に対する牽制として駐留軍を増やして欲しいんだよ」


「ふむ……。デイルス基地の軍備を増強することは可能だが……」


「本当かい?」


千歳の返答にアミラが安心したようにホッと安堵の息を漏らす。


「あぁ、基地の拡張が必要になるが歩兵が1〜2万。戦闘車両が1000両、航空機が500機程増強出来る、出来るが」


しかし千歳は意味ありげに言葉を区切る。


「我々にとっての利益がない」


「「「……」」」


千歳の言葉にアミラやアミラの家臣達が黙りこみ部屋の中に沈黙が流れる。


「ご主人様は心が広く慈悲深い方だ。だからこそ帝国軍を排除した後、同盟国である貴国の復興支援に無償で手を貸し難民達にも食糧を配給している。だがいくら同盟国だからと言ってもこれ以上の支援を無償で求められても困る」


……最もどこかのクソッタレな国は対価を支払う事もなく厚かましいことに更に支援をしろと喚いているがな。


とある国に対しての憎悪の炎を胸の内で燻らせながら千歳はそんな事を考えていた。


「もちろんこちらとしても対価は払うつもりさ、だけどねぇ……うちにあるものでチトセ達が欲しがりそうな物がないからねぇ。前に対価として提案した土地や鉱山、追加の燃える水――油田だったかい?油田も要らないんだろ?」


アミラががしがしと頭を掻きながら困ったように言う。


「あぁ、そうだ。土地は本国から離れすぎているし鉱山はカナリア王国にあるのを買い取ったからな。油田も既に譲渡された分で足りている」


「うーん他の対価ねぇ、対価……対価………………………………………………………………………………………………女?うん、そうだ。女がいいねカズヤに女を――」


「いらんっ!!」


腕を組み、悩んだ末にアミラが口にしようとした提案を最後まで言わせずに千歳は切り捨てた。


「……最後まで聞いてくれてもいいじゃないか……」


「ふんっ!!ご主人様にどこの馬の骨とも知れない雌豚――ゴホンッ!!女を近付けさせるなど言語道断だ!!それよりも軍の増強の対価が女では釣り合わんだろ!!」


「……それもそうだねぇ。さてどうしようか」


うーん、やっぱり今のうちにあの“計画”を進めないとマズイね……。


千歳の激昂する姿を横目にアミラは密かに進めていた計画の早期の実現が必要だと考えていた。


そうして駐留軍の増強を行ってもらう代わりに支払う対価のことでアミラ達が頭を悩ませている時だった。


「し、失礼します!!」


パラベラムの親衛隊所属のバンガス大佐が血相を変えて会談の行われている部屋に駆け込んで来た。


「大変です!!千歳副総統!!」


「何があった?落ち着いて報告しろ」


尋常ではないバンガス大佐の慌てぶりを見て千歳がバンガス大佐に落ち着くように言った。


「は、はいっ!!今から約30分程前に総統閣下の乗ったヘリが“羽”のような物をつけた魔導兵器の襲撃を受け、げ、撃墜されたとの報告がアーミー2から入りましたっ!!」


「……………………えっ?」


…………ご主人様の乗ったヘリが……墜ちた? ……こいつは……一体……何を言っているんだ?


「な、なんだって!?それは本当なのかい!?」


「そんなまさか!?」


「誤報ではないのか!?」


バンガス大佐が言った言葉を聞いて千歳は、バンガス大佐が何を言っているのか理解出来ずにただ呆然とし、アミラは驚きのあまり思わず席から立ち上がりこの会談に参加していたパラベラムの側の人間は色めき立つ。


「本当のことですっ!!誤報などではありません!!本日14:30(ヒトヨンサンマル)時頃、油田の視察が終わった帰り道で帝国軍所属と思われる飛行型魔導兵器の待ち伏せを受け総統閣下の乗った機体と護衛機が3機の計4機がケルン丘陵地帯に墜落!!総統閣下の乗った機体は丘陵地帯の谷に墜ちた模様!!」


――ピクリ。


「っ!?」


……どういうことだ?


バンガス大佐兵の報告をただ呆然と聞いていた千歳が『総統閣下の乗った機体と護衛機が3機の計4機ケルン丘陵地帯に墜落』の部分に反応した。


「ケルン丘陵地帯だって!?マズイ、あそこは魔物の巣窟だよ!?ってそれよりカズヤは無事なのかい!?」


「HQとの連絡が取れず圧倒的劣勢に陥った護衛部隊が当該空域から離脱したため総統閣下の生死は不明!!また総統閣下と同じ機体に乗っていたパイロット2名とフィーネ・ローザングル殿、総統付きメイドのシェイルとキュロットの生死も確認出来ていません!!なお、撃墜された護衛機のパイロットについては機体からの脱出が確認されておらず戦死したものと思われます!!」


「フィ、フィーネもその場に……!?そんなっ!!」


っ……なんてことだい……。カズヤの側に置いて置くのが安全だと思ったのが裏目に出ちまったね……。


頼むから生きてておくれよフィーネ!!カズヤ!!


自分の娘が墜落したヘリに乗っていたと聞いてアミラはへなへなと力なく席に腰を落とし、自分にとって無くてはならない2人の生存を心から祈った。


「またアーミー2と護衛部隊が当該空域を離脱する際にアーミー2に搭乗していた総統付きメイドのレイラ、ライナ、エルの3名が独断でヘリから飛び降り総統の救援に向かった模様、その後の消息は不明です!!」


「「「「……」」」」


バンガス大佐の報告が終わると部屋の中は絶望感に包まれ誰も声を出さず、まるで世界から音が無くなってしまったように静かになった。


「アーミー2……ご主人様が乗っていなかったもう1機のプレジデントホークは無傷なのか……?」


沈黙を最初に破ったのは千歳だった。


「えっ?あ、は、はい!!アーミー2は無傷であります!!」


席を立ち、俯きながらゆらりゆらりと体を左右に揺らしゆっくりと近付いてくる千歳の様子に首を傾げながらバンガス大佐が答えた。


「なぜだ?」


「は?なぜと言い――ガッ!?」


「なぜご主人様が乗っている機体が敵にバレているのだっ!!」


千歳の質問の意味が分からずに聞き返そうとしたバンガス大佐の襟元を千歳が掴み空中に持ち上げた。


「ぐっ!?い゛、い゛ぎがでぎっ!!」


「千歳副総統!?お止めください!!」


千歳が突然、バンガス大佐を吊し上げたため周りにいたパラベラムの兵士達が慌て千歳を羽交い締めにする。


「ゲホッ、ゲホッ!!し、死ぬかと思った!!」


千歳の手から逃れたバンガス大佐は床に尻餅をつき目尻に涙を溜め咳き込む。


「えぇい放せ!!同型機だぞ!?アーミー1とアーミー2は内観も外観も全く同じの同型機だぞ!!アーミー2が無事に逃げおおせたということは!!ご主人様がアーミー1に乗っている確証が敵にあったということだ!!なぜ敵に情報が漏れているんだっ!!」


「っつ!?た、確かに……って、わ、分かりました!!分かりましたから千歳閣下!!落ち着いて下さい!!今は、今は総統閣下の救出を最優先に行わなければ!!」


アーミー2が無事だと聞いて千歳は最重要機密であるはずのカズヤの行動予定や乗っている機体が敵にバレていたことを悟り激怒していた。


「っ!!そうだ!!ご主人様!!デイルス基地の動ける部隊はすべて出せ!!直ちにご主人様の救助に向かう!!」


「了解し――」


「ダ、ダメです!!副総統!!」


――ギロッ!!


「何だと!?」


カズヤの救出に向かおうとした千歳の言葉をバンガス大佐が遮った。


「ヒッ!!そ、総統閣下の乗ったヘリの墜ちた空域は現在大嵐になっており、視界不良のため嵐が止むまで航空機は近付く事が出来ませんっ!!」


千歳の鋭い眼光を受けたバンガス大佐は怯えながらも何とか最後まで言いきった。


「そんなこと知ったことかっ!!」


「で、ですが今出撃しても視界不良で総統閣下の墜落した場所にまで辿り着けません!!下手をすれば無駄に戦力を失うだけです!!」


「構うものか!!いくら戦力を失おうが雨が降っていようが槍が降っていようが視界不良で何も見えなかろうが何としてもご主人様を助け出すっ!!出撃準備を急がせろ!!」


「「「了解!!」」」


カズヤが既に死んでいるかも知れないという可能性を一片足りとも考えずにバンガス大佐の説得を無視して千歳は出撃の強硬を指示した。


「あたしも連れていってもらうからね」


千歳の決断を聞いて今まで黙っていたアミラが言った。


「あぁ……、好きにしろ」


こうしてデイルス基地のひいてはパラベラムの全兵力を投入してのカズヤ達の救出作戦が始まろうとしていた。










――――――――――――




「っ……たす……かったのか?」


ゴツゴツした硬い岩の上に仰向けで倒れていたカズヤは降ってくる雨に頬を叩かれ目を覚ました。


……なんだ、これ……。


目を覚ました直後は、霧がかかったようにぼやけていた視界もカズヤの意識がはっきりとしていくのにつれて徐々に鮮明になっていく。


「っ!!ハ、ハハッ、そう、いう……こと、かよ……クソッタレ!!」




[神の試練・第二]

魔物達の棲まう谷底から生還せよ!!


※なお試練が終了するまでは[戦闘中]と見なし召喚能力は使えません。




はっきりと物が見えるようになり、目の前に勝手に出ていたウィンドウ画面の文字を読みカズヤはヘリの落下途中に突然向きが変わった理由を理解した。


クソ神め、やってくれるっ!!


そして神の介入により谷底に突き落とされたこと。更に召喚能力を封じられたことに対してカズヤは悪態を吐いていた。


っっっ!!とりあえず……今は……はぁ、はぁ、体を……足は動く。腕は、くっ!!イテェ!!左腕が折れてる……。後は……クソッタレ……。あばら骨が何本かと、脇腹に……刺さってるな、これ……。


「カハッ!!チクショウ、痛てぇ……」


ウィンドウ画面を消し、谷底に落下した衝撃でヘリから放り出され岩に叩き付けられた自分の体の異常を調べていたカズヤは折れている左腕とあばら骨。そしてプレジデントホークの機体の一部であろう細長い鉄片が突き刺さっている右脇腹を庇いながら岩の上からゆっくりと起き上がった。


「どれくらい意識を失っていたんだ俺は……いや、それよりみんなは……」


痛みを堪えながらカズヤは辺りを見渡す。


「っ!? クソッ!!」


自分が横たわっていた場所から20メートルほど離れた位置に横倒しになって転がっているボロボロのプレジデントホークを見つけたカズヤは覚束無い足取りでヘリに近付いた。


「シェイル、キュロット!!」


カズヤが身体中から発せられる痛みを堪えながらヘリに近付く途中に自分と同じ様に機内から放り出されのか地面に横たわっていたシェイルとキュロットを見つけた。


「…………っ……ごしゅ……じん、さま……?…………良か、った、ご無……事で……」


カズヤの呼び掛けにシェイルが、消え入るような掠れた声で答えた。


「大丈――ではないな……」


2人に大丈夫か?と問い掛けようとしたカズヤだったがシェイルは全身、特に下半身――蛇の体から夥しい量の血を流しキュロットは首があらぬ方向を向き糸の切れた操り人形のように横たわっているのを見て最後まで言葉を紡ぐことが出来なかった。


「これ……し、きの…っ…傷っ、なんとも……あり、ませんっ…くっ…。ですが……キュ、ロットは…うっ…もうっ……」


「……言うな……分かっているっ……」



グッと下唇を噛みしめ沈痛な表情を浮かべたカズヤはまずキュロットの側に寄りキュロットの見開いたままだった目をソッと手で閉じてやり名残惜しそうに頭を優しく撫でて別れを告げた後、キュロットから2メートルほど離れた場所にいるシェイルの側に行きシェイルの体に手を翳した。


「まってろ、今傷を治してやるからな……」


大量の血を流し顔面蒼白になっているシェイル。


そんなシェイルを助けるには自分の持つ完全治癒能力を使うしかないと判断したカズヤは、傷のせいだろうかなかなか思うように使えない完全治癒能力でシェイルの傷を治そうとした時だった。


「お……待ち、下、さい……、ご主人、様……っ……私、は、いい……ですから、フィー…ネ様を……」


完全治癒能力を使おうとしたカズヤを押し留めシェイルが横たわるプレジデントホークの方を指差す。


「あぁ……そんな、嘘だろ……クソ」


シェイルの指し示した方を見たカズヤは思わずそんな言葉を漏らし顔を伏せた。


……どうしろってんだ。畜生!!


先程までは岩の影になっていて見えなかったがフィーネは横倒しになっているプレジデントホークの機体の下敷きになっていた。


太ももから下を完全に潰されているフィーネは潰れた両足から流れ出した血の海に沈んでいる。


その姿を見たカズヤはシェイルかフィーネどちらかの命を諦めなければならないことを悟った。


そして瞑目し数瞬、悩んだあとカズヤは苦渋の決断を下した。


「……シェイル……俺は今完全治癒能力がうまく使えないせいで多分……1人を救うので精一杯だ。だからっ………お前を……救う…ことが……」


「…そう…です、か……構い、ません……私……よりも、フィーネ……っ……様を、優先、し……てくださ……い」


「……すまないっ……」


悲痛な顔でカズヤは見殺しにしてしまうシェイルに謝った。


「お気……に、なさらず、に、ご主……人様……はぁ、はぁ、元より、この、命は、ご主人様…っ…に救って、頂い……た物、ここで、散……ろう、とも、構い、ま……せん」


「そうか……っ……今までありがとう」


「その、言葉を……頂け、た……だけで、私は…………………………………」


カズヤの言葉に感極まったように瞳からポロポロと涙を流し、嬉しそうな笑みを浮かべシェイルは息を引き取った。


「く……そっ!!……」


安らかな眠りについたシェイルの前で膝を着き拳を握り締め歯を食い縛りながら雨に打たれているカズヤの頬には次々と滴り落ちていく雨水に混じり流れの途切れることがない一筋の水流があった。


「――――――――ッ!!」


そして言葉にならない咆哮を上げたあとカズヤは目をゴシゴシと擦りシェイルの傍から離れシェイルの死を無駄にしないため急いでフィーネの元に向かった。




……温かい、溶けてしまいそう。


まるで胎児になって母親の胎内にいるかのような、ぽかぽかとした心地よい温かさに包まれていることに気が付きフィーネは意識を取り戻した。


「……ぁ」


「気が付いたか?」


フィーネがうっすらと目を開くと目の前にカズヤの顔があった。


「……カズヤ?私は……ぐっ!!」


カズヤに膝枕をされていたフィーネが起き上がろうとした瞬間、体がふらつき目の前が真っ暗になった。


「まだ動くな、血を流し過ぎてる」


「な……に?一体それは……どういう……っ!?」


フィーネがカズヤの言った言葉の意味を問い掛けながら視線を下に向けるとあることに気が付いた。


「なんで?……私……」


元々は丈が長く、胸元が大きく開いた大胆なチャイナドレスのような服を着ていたフィーネだったが、今は股の下ギリギリから引き千切ったようにチャイナドレスの丈が異常に短くなり(無くなり)白い下着が見え隠れしていた。


……なぜ、服が……こんなに……無くなって……いるの?


思考がうまく働かない中でフィーネはそんな姿で自分が横たわっていたことを疑問に思った。


そして周りをゆっくりと見渡していたフィーネはあることに気付いてしまった。墜落したヘリの場所から大きな岩が積み重なって出来た、今自分がいる岩影の場所まで続く二筋の赤い血の痕の事に。


「カ、カズヤ……」


「……なんだ?」


「あ、あの血の痕はなんなの?」


「知らない方がいい……」


弱々しい声で問い掛けてくるフィーネの質問にカズヤが暗い顔で答えた。


「いい……から言って、薄々分かっているから貴方の口から……お願い……」


「……。ヘリの下敷きになっていたローザングルを助けるために足を切断してここまで引っ張った時に出来た血の痕だ。服の丈が短くなっているのもそのせいだよ」


「っ……やっぱりそう……でも今、足があるということはカズヤが……治してくれたの?」


「あぁ、そうだ――うん?っミーシャ大丈夫か!!」


「あっ……待っ……」


フィーネの問い掛けに答えていたカズヤはプレジデントホークのコックピットの窓から足を引き摺りながら這い出してきたパイロットのミーシャ・バラノフ大尉の姿に気が付きフィーネをその場に残してミーシャを迎えに行った。


行っ……ちゃった…………さ、むい……寒い…………あの……ぬくもりが…ないと……私は……カズヤが………居ないと………それに…私の…………足…………カズヤに…………お礼……しなきゃ……カズヤ…………カズヤに……カズヤ…カズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤカズヤ………………私の……命の…恩人………………大事な……人………………愛しい…………人…………私……だけの…………愛しい人…………ダレニモ……ワタサナイ。


カズヤの完全治癒能力の副作用の影響をまともに受けたフィーネは透き通った瞳の中に独占欲に満ちた仄暗い澱んだ光を灯していた。




「おっと!? ぐっ……だ、大丈夫かミーシャ?」


カズヤの姿を見るなり地面に崩れ落ちそうになったミーシャをカズヤは慌てて抱き止めたがその際の衝撃が脇腹の傷に響きカズヤは顔を苦痛に歪める。


「良かった……本当に……良かった、カズヤ様にもしものことがあったらと……」


カズヤが顔を苦痛に歪めたことには気が付かずにミーシャはカズヤにしがみつきながら安堵の涙を流していた。


「っ……しっかりしろミーシャ、泣くのは後だ。怪我はしていないか?高雄少佐はどうした?」


「グスッ……はい、すみません。私は右足が折れているみたいです。高雄少佐は……駄目でした」


「そうか……とりあえず応急処置をしよう」


「ズズッ……いえ、私の事などどうでもいいです。それよりカズヤ様こそお怪我などは?」


「俺か?俺は左腕とあばらをやられた」


ミーシャの問い掛けにカズヤは心配をかけまいとして脇腹の怪我のことを伏せて答えた。


「っ!?も、申し訳ありません!!」


カズヤの左腕とあばらが折れていると聞いてカズヤに寄り掛かっていたミーシャは慌てて離れた。


「いいから、黙って肩を貸せ1人じゃ歩けないだろうが」


「ひぅ!!わ、分かりました」


しかし、慌てて離れたミーシャをカズヤは強引に引き寄せ、どこか嬉しげに赤面しているミーシャに肩を貸してフィーネのいる岩影まで2人で歩いて行ったのだった。



その頃、パラベラム本土では薄暗い自室で武器や装備品を身に付け出撃準備を整えながら千歳がある場所に連絡を取っていた。


「私だ。今の状況は理解しているな?あぁ、そうだ。分かっているなら構わん。ICBM、SLBMの発射準備を直ちに行え弾頭は核、目標はエルザス魔法帝国全土、発射コード09952158。発射命令を待て」


受話器を叩き付けるようにして元に戻し怒りに震えながら鬼のような形相で千歳は吐き捨てた。


「ご主人様に……もしもの……ことが、あってみろ……全て……焼き尽くしてやる」

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